無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十六話 氏真提督の誕生~提督に、「無能」がなるようです~

「…今まで何してたんですか!連絡も寄越さないで、今さら…」

 

 

そのオペレーター担当の士官は、大人しく冷静な性格にしては珍しく。

電話ごしに、混乱する頭の中で『パラオ泊地の提督だった男』に向かい怒鳴り付けていた。

怒りと困惑と、そして一種の安堵を滲ませながら。

 

それはそうだろう。                      

パラオ泊地の今の『責任者』はコイツであり、又聞きとは言えパラオ泊地で無茶な特攻を犯してMIA(行方不明扱いの軍人の認定をされた者)となり、大打撃を与えた無能でもある。

それに今まで自分を含めた大本営側からだけならず、海軍のいくつかの基地からも、それこそ何度も何度も連絡を取り次ごうとしたのに今の今まで影も形も表さず…

それが、今さら出てきたのだから、無理もないことだった。

 

その辺りを、半ば説教混じりに問い詰めていると、返ってくる返答はこのようなものだった。

 

 

曰く、その話というのは、簡単に纏めてみたら次のような具合であった。

 

あの特攻作戦の後、意識を失い大火傷を負った自分は海に投げ出されてしまう。

その瀕死の自分を、偶然通りがかった漁船らしき船に拾われて、そのまま現地の病院に運び込まれる。

その後、リハビリと回復に努めていたのだが、困ったことについ最近まで健忘…つまり、海に放り込まれ頭にダメージを受けた影響でここ数年の記憶が思い出せず、身分証明書もなかったので身動きが全くとれなかった。

だが、漸く三日ほど前に記憶が回復し、歯形や血液鑑定で軍事施設出身の身元の確認に成功。

それで、今の今になり鎮守府に帰参し、漸く謝罪と説明の為の連絡が取り次げたと言うことだった。

 

 

…確かに、筋は通ってるのだが

 

その通信役の士官は、肘を机にのせ手で額を抑えながら、内心考え込む。

 

…いくらなんでも『できすぎてる』話だ

…まるで、小説や漫画の世界のような話だぞ

…電話ごしに聞こえる声も、そう言えば数ヶ月ぶりとは言え、何か違う気がする

 

そう違和感を感じた時、その通信担当の士官は、ピンと来る推理が有った。

あり得なくはない、それでいて最悪の可能性が、である。

 

…もしかして、これはもしかするかも知れないだろう

…『誰か』が、『行方不明扱いのパラオ泊地の提督』に成り代わってるのか?

…有り得ない話ではない、鎮守府の技術が欲しい奴や艦娘そのものが欲しい奴など、幾らでも思い付く

…こちらに繋がるコードを知ってる艦娘なり何かがあれば、成り代わることは容易なハズだから

 

 

そう推理した士官は幾つか『本人確認』と言う形で、カマをかけることにした。

 

海軍の元帥の名前、この鎮守府の所在地、パラオ泊地での任期、自分の叔父にあたる陸軍中将の名前…

それらに対して、電話の主はスラスラと正確に答えていく。

声の違いに関しても自然に突っ込みを入れてみたが、火傷か何かのせいだろうと意に介さず受け流されてしまう。

そして、最後にこの通信士の男は、では最後に確認をと前置きしながら質問をした。

 

…じゃあ、通信役の『私』の名前は解るハズですよね、答えてください、と。

 

 

「…あ、あー…えーと、なんだったかな……ハハハ……」

 

予想外な方向からの質問に、つい電話の主は『誤魔化そう』としてしまう。

その反応に対し通信士の男はある確信を抱きながら、ため息一つ吐きながらこう応える。

 

…私の名前なんて今まで名乗ったことが無いのだから、答えられるハズは無いんです、と。

そして、こう付け加える。もし『本物』だったら「知らない」とか「わからない」と答えるハズなんです、と。

 

そして、そのまま怒気を込めた通信士は、その『電話の主』は吠えるのであった。

 

 

「……大方、艦娘の誰かから『聞いた』な貴様!!あの『パラオの無能』の個人情報を……そうか、ウチの出身の金剛か、恐らくは陸軍筋の中将殿の情報やウチの正確な地理を知ってそうなのはあの娘しかいないだろうからな…。言え、貴様は何が目的だ!!国の威信と諸外国の防衛の要…そして、艦娘達の大事な『家』を、賊に渡す訳にはいかんのだ!!」

 

そんな通信士の男の絶叫に対し、電話の主は…ただただ、ポカンとした間抜けな口調で返事を返す。

アレ?もしかして…パラオの泊地の艦娘達を、助けようとしたりしてたの?と。

 

それに対して、自分も何度もパラオ泊地の艦娘達の救出やパラオの奪還は上奏したし、上層部の方々も周辺の泊地の方々も助けようとしたが、通信手段が実質的に消滅して救出作戦が根本的に立てられず出来なかったんだ!と、その通信士は激情のまま口を滑らしてしまう。   

 

 

そして、お互いにお互い。 

電話の主は『大本営側の根本的な認識違い』について、通信士は『身元不明な電話の主に対して口を滑らしてしまったこと』について、アカン、とやらかしたことに対し沈黙するが。

 

先に、口を開いた電話の主はこう切り出した。

……すまない、失礼極まりなく本当にすまない。でも、僕の話を聞いて欲しい、艦娘達を助けるために、と。

 

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~同日、パラオ泊地鎮守府、提督執務室内~

 

 

「……大方、そちらの事情は把握しましたが……また、えらいアホなこと考えましたね、貴方」

 

その『提督に成り済ました』男…と言うか、氏真に向かい、通信士の男は呆れた様に語りだした。

 

 

そう、氏真がやろうとしたことは、『提督に一時的に成り済まし、鎮守府の権限の一部をジャックしよう』と言う、割りと無茶な作戦であった。

勿論、詳しく調べずとも成り代わりなどすぐさまバレる以上、長くそれを続けることは出来ないし、荷担した艦娘達にも当然責任が発生する為に全くの愚策である。

 

しかし、現実的に、艦娘達だけではブラックボックス状態の一部権限と鎮守府の施設が使用不可能な為、救出を待つにしろ逃げるにしろ、一旦は『責任者』と言う形で『提督』が存在しないといけない。

その穴埋めに、氏真は一手に責任を引き受けるべく、この様な策をうって出たのだ。

前の提督だった男の死体は既に海の藻屑と化して沈んでしまい、遺体が行方不明だったことも都合が良かったと言う。

 

それぐらいしないと、見捨てられ死んだ泊地であるパラオ泊地に対し、剣術以外で氏真が何もアクションがとれなかった。

…まあ一瞬でバレてしまったのだが。

 

 

だが、実際に氏真が連絡を取り次げた際に『大本営も本来は助けようとしていた』と言う誠実な対応を知り、パラオの艦娘だけに肩入れし過ぎていた氏真は心底反省する。

そして、本当の彼の事情、そして艦娘の為にやりたいことと言う相談を持ちかけることにした。 

 

それこそ、氏真が戦国武将と言うことは伏せていたが。

平たく言えば一時的に艦娘に拾われ、逆に資材提供から艦娘の一人を助けてあげたことが縁で、今泊地に居ること。

そして、艦娘と妖精さんと言う、人間以外のスタッフしか居ないので、艦娘達がブラックボックスを解除不可能になってしまって非常に困ったことになってしまったこと。

最後に、『次の提督』がパラオ泊地に来るにしろ、逆に『パラオ泊地の艦娘達が別な艦隊に移籍する』にしろ、それが決まるまでの間は最低限それを回せる一時的な責任者が居ない為、(特にメンバーから離れたがってない浜風に対し)その辺りの斡旋が出来ないから、最低限、提督の代理としてその権限を使いたいと言うことを。

 

 

それを聞いた士官はと言うと。

 

 

「海軍嘗めてんのか」

 

と一言で一蹴してた…が、何だか声のトーンを落として言う。

…なんて、言いたいんですが、と。 

そしてこう続けるのである。

 

「…そもそも急な採用だったとは言え、最低限の人間の補佐官すら付けなかったウチの全面的な失態と…ついでに、あの人が陸軍筋だったせいで、『同じ陸軍側の憲兵が抑止力に成らない』と言う理由から憲兵隊の方を貸し出せなかったと言う陸軍側の失態が根本的な原因な訳で…それを、関係ない民生の方に艦娘達を助けてもらって、しかもその恩人に対し、『提督』と言う形で責任背負わせろなんてその意味でも私一人の権限で無茶な話は言えませんし……とりあえず、上に『パラオの通信が復旧した』とだけ報告します、ハイ……」

  

こう言って、通信士官の男は、最後の方になると完全にクレーマーに困惑する公務員やサラリーマンみたいな口調になりつつ、電話をガチャンと切ったのである。

 

 

一方の氏真はと言うと。

 

「……ああ、やっぱ僕は『無能』だなぁ…裏目った挙げ句空回りしてたみたいだ……」

 

などと言いながら、受話器を戻すと、彼は珍しく力無い表情で執務室の机に突っ伏していた。

 

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…それから、三十分ほど過ぎた頃だろうか。

提督専用の受話器から電話が鳴り響く。

 

机に突っ伏していたままの氏真を加賀と加古が起こし、そのまま氏真が何気なくそれをとると、その電話の主はこう切り出した。

……面白い、行方不明になってしまった男の浮いた名義を利用して、鎮守府の権限を回せなどと実に面白いアイディアではないか、と。

 

そして、威厳たっぷりのその声の主は、ガハハと笑いながらそのまま氏真に向かいこう言ったのだ。

 

 

「名も知らぬ若人よ、かの無能に成り変わり提督になってくれたまえ!この海軍元帥たる私が許可しよう!!」

 

 

こう、氏真が最初に立てた作戦に、全面的に乗っかる形で、であった。


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