無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十五話 パラオの提督のようです ~大本営の事情~

「……『ぱそこん』だのなんだの、その辺の使い方、まだまだ僕も覚えなきゃならないが…」

 

 

氏真達はと言うと、あれから。

 

執務室に有る提督の通信連絡用のブラックボックスを開けるパスワードを解錠するついでに、

氏真にパソコンを中心とした機械の使い方を、龍田と睦月を中心としたメンバーからレクチャーをしていた。

それこそ、ローマ字すら知らない氏真は、相当にパソコンに対し興味深そうにしながらも。

そんな情報の極致たる文明の利器の一端に触れて、それを使うのに珍しく四苦八苦していたと言う。

 

ただでさえ戦国武将の青年たる氏真は、文字通り初めて触れる代物なのだ。

その上、肉体は若返っているモノの、本人は実年齢が77歳の喜寿を迎えた超絶お爺ちゃんである。

パソコンならず機械類の何もかもに慣れず、驚くことばかりだったと言う。

 

途中、近くの字になんだか焦点が合わなくなってきた、等と疲労か老眼かわからないことを言い出した辺り…

筋肉や骨は兎も角も、内臓や目や鼻の様な気管は享年の頃の感覚と余り変わってもいないらしかった、とか。

 

 

それはそうと、脱線から話を戻して。

 

氏真は、もう一つ大事なことが有ると前置きし、一つ聞く。

…正直、最後の最後で一つ聞く。逃げたいなら引き止めはしないし、むしろ、その補助は全力でする。本当にこの方向で良いのかい?と。

下手したら君らは、君らの大元にケンカ売る形になることに巻き込んじゃうよ、と付け加えつつ。

 

しかし、とうのパラオの艦娘達からと言うと…

 

 

「まあ、今更行くあてなんて俺達はねえし、こうなりゃ一蓮托生よ!」

 

まず口火を切った、楽しそうな天龍が。

 

「私は~、天龍ちゃんとどこまでも、って感じかしらぁ…だから、大丈夫よぉ」

 

次にそんな天龍に苦笑しながらも、龍田が。

 

「睦月的には、氏真さん嫌いじゃないし、別に良いのだぞ!」

 

その次は、ふんすふんす、と若干鼻息を荒くしながらも睦月が。    

 

「私は、拾ってくれたこの泊地と最期まで共に有りたいのです。お気遣いは嬉しいですが、私もかまいません」

 

珍しく真面目な顔で、その次に浜風が。

 

「まだまだ、私はこの泊地に何も成してまセン!!好きなやり口じゃありまセンガ、他にこの泊地にくさびを打つ手段が無いナラ、私は貴方のやりたい様にやらせマス!」

 

更にそして、複雑な表情を見せながら、金剛が。

 

「私は、最初から貴方の『娘』でこの艦隊からしたら末妹のようなものですので、親離れする迄は父さん達と一緒に居たいです…ところで、何べんやっても地雷踏むのですが、どうしたら良いでしょう?」

 

そして、平然とすました顔でマインスイーパーを片手間にやりつつ、加賀が。

 

「…アタシは、色々逃げることも考えた不埒ものだけどさ。やっぱりこの艦隊もこの泊地も、それに…あんたも、昼寝と同じぐらい、嫌いじゃないみたいだ。だから、『皆でこの艦隊をもう一度建て直したい』!そして、見たいんだ。あんたがアタシ達にどんな活躍をしてくれるのか!」

 

そして、ニカっと歯を見せながら笑みを浮かべつつ、最後に加古が宣言する。

 

氏真は、ならもうみんな後戻りは出来ないぞ…!と釘を刺しながら。

そんなこの泊地を建て直す『一手』を打つことにしたので有った…

 

 

…後、真面目な時に提督のPCで遊んでいた加賀は、無言の腹パンを天龍にもらっていた。

 

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……同時刻、日本、帝都東京湾。

そこに位置する日本海軍の基地の統括地の海軍本部の基地、通称「大本営」。

話をここに、一度飛ばすことにしよう。

 

 

この「大本営」と言う組織、通常の「鎮守府」…と言うか、根本的に通常の軍隊とは若干ならず毛色が異なる組織でもある。

 

海軍最高峰の指導者たる元帥、そしてそれに連なる大将格を筆頭とした海軍のブレインをはじめとして。

階級の大小問わず、海軍士官学校出身者中心のエリートが集まっている組織である。

また、軍務上、陸・空軍の幹部や政治家達も出入りする他、皇族の方々も様々な公務において謁見する箇所の一角としてしられる、一種の海軍の「顔」である。 

 

軍事施設としては、それであるが故に一般公開も許可制でされている珍しい箇所でも有りながら、ブラックボックスたる秘密の研究や最高峰の機密文書たる海軍の秘密も集まる箇所。

云わば、「海軍のるつぼ」と言える、最大最高峰の組織でもあるが、非常に特殊な仕事も多い箇所でもある。

 

それであるが故、一言では語れない非常に奥深い組織である大本営の館塔のその一角。

平たく言えば、「海外泊地用の窓口役」の部屋に、カメラを回すとしよう…

 

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「……やるせない、な」

 

グアム・ミクロネシア方面担当の、その泊地担当の士官…仮に、彼をAとする。

Aは、上にあるような溜め息を吐きながら、そのパラオ泊地の担当で有ったが故に、前任の提督が犯した失態も聞いており、その顛末に胃を痛めていた。

 

 

今まで、「大本営がパラオを見捨てた」「大本営がパラオを放棄した」と散々書いてきて、大本営が冷酷な組織の様に思われている読者も多いだろうし、実際にパラオ視点からしたら間違っては居ないのだが、実状はと言えばまるで正反対だった。

 

そう、睦月が言っていた「パラオ泊地の提督用のコードが解けず、連絡用の通信手段が実質的に完全にブラックボックスと化していた」と言うこと。

これが、大本営視点からしたらとんでもないことになっていたからだ。

 

 

結論から先に言おう。

パラオ奪還自体は諦められていたが、艦娘達を含む生き残りの戦力の救出作戦は実は何度も会議にあがっていた。

が、それが出来ない理由が有った。

 

艦娘達が使えるリミットがかかった状態の通信手段では、直接大本営の泊地対応の窓口や将校格の直接の通信に行かず、一般業務用の窓口の方に行きそこで完全に処理される。

その後で、数日から下手したら3週間ほど行かないと連絡が回らないで上に行かない。

そのため直接の戦況や泊地そのものの情報が得られずに、軍を動かせるお偉い方の対応が実質的に不可能になってしまったのだ。

 

逆に、大本営からパラオに連絡しようにもそちらにかかる電話なりメールは提督用の特殊なコードを利用した専用回線から繋がるもの。

パスワードが特殊なPCは勿論、電話にしても艦娘が取ってしまうと艦娘達の艤装のデータに反応してロックがかかる様にプログラムされている特殊使用の電話につながってしまい、誰も大本営からの緊急通信の電話をとれなくなってしまったと言う。

 

…何してんの、と思われるかたも居るかと思われるが、そもそも「艦娘が生き残り、大本営に何も相談せず真っ先に提督が死ぬ」と言う状況が大本営からは想定外中の想定外。 

深海棲艦に匹敵する対艦娘の為の提督の安全面と、精神的に幼い駆逐艦を中心としたイタズラ対策を考えて、逆のパターンを完全に想定していたことが、裏目中の裏目に出ていた、と言う。

 

 

そんなわけで、大本営からしたら、本音としてはパラオの復旧に目処を立てたいし艦娘達だって助けてあげたかったのだが。

根本的に指揮をどうすべきか、と言う「パラオ泊地周辺の情報源と、パラオ泊地内における提督がすべきロックの解除方法」が完全に死んでおり、結果的に「『死んだ』泊地を実質的に捨てて放棄せざるを得ない」と言う、ある種のテンプレートな軍隊らしい冷酷な対応を取らざるを得なかった。

 

仮に、その辺りがわからずに艦隊を適当に突っ込ませてパラオを取り返しにいったところで、予算も人員も失うことの方が多すぎるのは、目に見えていたのだから。

 

 

とは言うものの、だ。

こういう事情があるとは言え、一介の通信連絡担当の士官からしたらそちらの事情もまた変わる。

 

所詮、他人事とは言うが、Aからしたら実際にパラオの艦娘達の『助けて!』と言う声を無下にして、しかしパラオに対してどうしようもなく。

自分は快適な冷暖房が利いたオフィス内で電話番の仕事をしてるのに等しい訳でもある。

なんだか、その辺りを想像したら、胃が痛くなるのは仕方ないことだった。

 

 

そんな、最近二人目の娘が幼稚園に行きだし四捨五入したら40代になる、こんな事も含めて…

買い換えたプリウスのローンや母方の義父母の同居問題や上の娘が中学受験を控えて受験代や習い事代の急増で、胃潰瘍になっているAさんの、そんな彼の目の前にある電話がプルル、と鳴る。

トラック泊地から何か連絡が有るのかな、と何気なくそれを取り次いだAは、心底驚くことになった。

 

 

「---だ、僕だよ、漸く連絡が取り次げたみたいだね」

「ちょ…ま…嘘だろ……じゃなかった、本当なんですか!?」

 

パラオ泊地提督、貴方が生きているなんて!!?と言う絶叫が、オペレーター室の隅で小さく響くことになったのだ……


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