無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十三話 工面、直面

「さて、困ったことに成りました」

 

 

金剛が復帰して1週間程経った頃のお話。

氏真は、パラオに居る艦娘7人を全員集め、話を始める。

上記の様な台詞を吐くなり、何とも、氏真は味わい深い表情で彼女らを見つめている。

 

たまらず天龍が聞く、困っていることってなんだ?と。

それに対して、氏真は額を左手で押さえつつ、苦しそうな声で、こう返したのだ。

…単刀直入に言うと金がない、と。

 

パラオの艦娘達は、おう…としか答えられなかった。

 

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実は氏真はと言うと。

パラオで金剛が治療を済ませた際、暫くして落ち着いたらこの艦隊を解散させるつもりで有った。

そして、艦娘達が退役して在野に下るにしろ艦隊として別な鎮守府で戦うにしろ、どちらにせよ何らかの形で仕事と仮の住まいでも斡旋してあげるつもりで有ったのだ。

 

 

艦隊とは「軍隊」であり鎮守府とは「軍事基地」である。

 

それはつまり、年間で回さねばならない予算が数億どころか数十億は必要な莫大なモノになり、資材の消費だって馬鹿にならない施設であることに等しい。

 

そう言うところは戦国時代も今の世の中も変わらない。

戦争における軍事基地の一番の相手は敵兵ではなくて、限られた予算と備蓄が必要な兵糧と老朽化対策と、維持の難しさであるのだから。

しかし、単なる異邦人Aでしかない氏真は、現時点でそんな莫大な規模のモノを動かせる知識も無いし、そんなモノに指揮をとれる立場ではなかった。

適当にモンハンして、金剛一人の修復分の資材かき集めるのとは、まるで難易度が違いすぎたのだ。

 

 

或いは頭を下げて国に予算を前借りする、他の泊地から無理言って資金や資材を借りると言う手も無くはないのだが、氏真からしたらそんなコネは無い。

そもそもが半ば見捨てられた泊地なのだ、事情を艦娘達が説明したところで門前払いされるのがオチだろう。

と言うか、後者に関してはそもそもどこの鎮守府も壊滅的な被害を受けた鎮守府をどうこうする予算など有るわけがなかっただろう。

 

そんな訳で、じゃあいっそ全部の施設のモノ売り払って艦隊を解散しよう、と言う結論に氏真は成ったのだが…ここで問題が一つ生じることになった。

ぶっちゃけて言えば、退職金も斡旋も無しに在野に艦娘を放り出したら路頭に迷うことが目に見えていたからだ。

 

加古がかつて懸念してた通り。

 

何も無しで生きなり住みかすら生い立てて、さあ何をしようと言ってもろくなことにならない。

まあ、加古の予想通り泥棒の真似をして犯罪者に身を落とすか、苦街の男相手に身を売るか、どちらにせよ幸せな将来にはならないだろう。

或いは根本的に船の精霊たる「艦娘」は皆、大なり小なり世間知らずなところが多々有り、それでいて気立てが良くお人好しの美少女揃いであるが故に、変な男に騙されかねない可能性だって0ではない。

…考えたら考えるだけ、氏真は頭が痛くなっていた。

 

本来、鎮守府から退役する艦娘は、その辺りのフォローは有り、軍事施設ならず公的施設の仕事の斡旋なり市営住宅の紹介が有ったりと言うケアが有るのだが。

そう言う方向に氏真のコネが無く、施設が死んでるパラオにおいて、そう言う方向のフォローが出来ないことはどうしようもなかったのだ。

 

 

或いは、ぶっちゃけて言えば氏真が艦娘全員を見捨てると言う手も無くはない。

 

と言うか、最悪の場合、氏真は直接拾った「娘」たる加賀以外の全員を見捨てる方向でもよかったと言うとよかったのだが。

どうにもお人好しな氏真は、それだけはしたくなかった。

氏真の生前に付き従っていたかつての家臣達も、最後まで付き合ってくれた者達を中心に家康の率いる徳川家臣団に移籍できるよう氏真は計らってあげたりしている。三つ子の魂はなんとやらと言うモノでもあった。

 

そんな訳で、氏真はパラオの艦隊を解散させるにも解散させられず。

しかし鎮守府の運営費を賄う手段も鎮守府を回す資材を確保することも出来ず。

内心で、竹千代ー!助けてくれー!と叫びながら、このパラオの状況の詰みっぷりに頭を抱えることになったのだ…

 

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「……うわぁ、マジチャケパねぇですね、父さん…」

 

氏真から状況を聞かされて、思わず一言でこんな感じで呆れたのは加賀である。

ぶっちゃけて言えば、加賀に関してはこの泊地の惨状において一切関与していない。

ただひたすらに巻き込まれただけなのであるから、まあ当たり前なリアクションでも有ったのだが。

 

それはそうと、と加賀は切り替えながら話を続ける。

とは言え、「金がない」とだけ言われてもこちとらどうしようもないでしょう、どうすれば良いの?と。

それに対して、氏真はと言うと、どうしよう…と、力無く答えるだけで有った。

そこで、艦娘達全員から話を聞き、何とかアイデアを募集することにしたのだが…

 

 

「戦果リザルトをあげて、船団護衛とかの報酬でお金を稼ぐデース!!」

 

まず、元気良く答えたのは金剛である。

正道を地で行く、正統派の答えかつ、もっとも穏当なやり口で有った。

しかし、そもそも弾薬と燃料がまるで足りないのに、そんなのんびりしたやり口ではまるで危機を脱せられない。

と言うか、根本的に一度壊滅した艦隊を昨日の今日ですぐ信用するヤツはいないだろう。

と言う訳で、金剛の意見はまず最初に却下される。

 

「…なら、いっそ海賊行為でもしろってのか?」

 

次に天龍が言うが、それは二重の意味でダメだ、と氏真が断る。

本来、官権側の人間が乱世でなく平時それをすれば発覚した時に「傷」になる。

それに、君達がそんな真似をしたら、それこそ逝った仲間が泣くだろう、と。

 

「…うーん、流石に責任者不在かつこの返済が見込めない状況で『借金させて』は道義に反しちゃうし…睦月、ちょっとこれはわかんないです、氏真さん…」

 

睦月にいたっては完全に匙を投げてしまっている。

 

「…仕方有りません、私が人肌脱ぎましょう。とりあえず使用済みのブラジャーとかは高く売れるでしょうか、自信無いですが…」

 

…確かに高く売れそうではあるが、浜風着用済み下着とか需要しか無い訳であるが。

流石にそれは駄目、と、全員から怒られる。

と言うか、本来は艦娘の存在は軍事施設の秘密事項の一つなのだ。

艦娘の私物を私的に売り渡すと言うのは、流石にそっちの意味でもアウトだった。

 

「氏真さん、『今川埋蔵金』とか無ぁい?」

 

…そんなん有ったらウチの家臣団の退職金に出してるよ、と、氏真はもうどうにかなれと言わんばかりの龍田のすがるような期待を一蹴する。

氏真の稼いだ小判の一枚も、それこそ、孫の代には使い果たしているのだからまあ已む無しである…が。

そんな龍田の反応に対して、意外な方向から龍田に声がかかる。

それは、加古からで有った。

 

「…うーん、埋蔵金とはちょっと違うんだけど……前の提督さんかな?それとももっと前の提督さんが隠してたモノだったと思うんだけど……多分、へそくり代わりの虎の子だったんだろうね。今は食料庫代わりにしてる倉庫の地下に、結構大きな中身入りの金庫が有ったんだよ。アレ、もしかして使えたりするのかな?」

 

 

それは先に言えこのメカクレねぼすけ重巡がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!と言うパラオの艦隊全員からの突っ込みが、泊地に響き渡ったと言う。

 

…いや、金庫の施錠の番号アタシ知らないし、誰も聞かなかったから氏真さんと加賀以外の皆は知ってるもんだと思ってた、と加古は答え、キレた艦隊全員から半殺しにされかけた、とさ。


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