無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十二話 金剛に向ける「罰」

自分を罰してくれ。

  

そう漏らした金剛の叫びに対し、最初に口を開いたのは氏真で有った。

死にたいとは穏やかではないが、と前置きして、話を始める。

 

 

「…まあ、龍田ちゃんとか睦月ちゃんからの又聞きになってるから細かい事は知らんのだが、責任を取りに行くその態度自体は気に入ったし僕は何も言わない。正直、僕と加賀の場合、単なる『部外者』だから君相手に僕ら二人は迂闊にああしろこうしろ何て下手な事は言えないからね、加賀もそれでもいいよね?」

 

はい、父さん。という加賀の抑揚の無い返事を確認しつつ、氏真は更に続きを口にする。

 

「だから、まあ…『裁き』は五人に任せる。そもそも、『敗戦の将』だの『失態を犯した参謀』を咎める理由何て、暗愚な僕の場合あらゆる意味で何処にもないからね…じゃあ、僕らはそう言う事で」

 

そう言うなり氏真は加賀を手招きすると、ドアから二人で無言で頭を下げて部屋から出ていった。

 

 

そうして、金剛が寝かされた入渠室に残された本来の6人のメンバーではあるが。

どうしよう、と全力でおろおろする龍田や加古、或いは「死にたい」という金剛の絶望に対し、何も言えず泣き出してしまう浜風や睦月という、阿鼻叫喚寸前の部屋の中で、最初に口を開いたのは天龍である。

 

曰く、てめえの態度は確かに気に入らねえし、今のてめえは殺してやりてえ、と。

そう前置きをしながらも、天龍は更にこう続きをのたまった、という。

 

 

「死んで終わり何て、楽はさせねえ!せめて俺達五人の言うことを、1個ずつ叶えてから…それぐらいの贖罪ぐらいしねえと、許さねえぞ!」

 

そう、金剛に『裁き』を与えたのである。

金剛は無表情ながらも、それを望むなら、と承諾したので有った。

 

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さてさて、それからどうしたと言えば。

 

 

…どーして、こうなるデース

 

金剛のそんなため息がついつい出てしまうぐらいの、妙なことになっていた。

 

 

さて、本当に金剛がため息が出てきた理由…その結論から先に言えば。

金剛はあれから二日も立たぬ内に、その全員からの裁きを受ける羽目になったからだ、という。

だが、彼女らの与えたそれは、金剛の予想した斜め上というか斜め下であり、別な意味で頭を抱える羽目になっていたということだった。

以下、それぞれ五人の『罰』について、列記することにしよう。

 

 

~睦月の場合~

 

「…え~、金剛さん。睦月はね、物凄くあんたに怒ってます」

 

金剛が最初に呼び出されたのは、睦月である。

 

元々執務室だった場所に呼びつけて、金剛を正座させている。

睦月の目はつり上がっており、額に青筋すら浮かんでいる。

本当に、睦月は全力でキレている、という風情である。

 

睦月が金剛に対し怒っている理由等、それこそ山ほど頭に浮かぶ金剛は流石に小さくなるが。

そんな金剛に向かい、睦月は一枚の紙を渡す。

それは、かつて執務室で自分も見たこと有るような無いような、と思い出せる書類で有った。

 

そんな書類を見せながら、睦月は更にこう続けるのである。

 

「過ぎたことだから仕方ないよ、私が今更何を言って代わらないってのは知ってる…でもね」

 

一旦、ここで区切りつつ、更にドスをきかせると、睦月はこう怒鳴ったので有った。

 

「めくら判は流石に人としてアウトなのだぞ!てか金剛さんの書いたと思わしき書類、字ぃ超きったないわ女子高生みたいな手書きの絵文字が散見されるは書き文字までルー語だわちょくちょく落書きっぽい跡があるわで解読超手間だったのだぞ!そこに直れ、説教にゃ!!!」

「デェス!!?」

 

 

…氏真と書類整理してた際の睦月、実は金剛に内心キレている場面が何度か有った。

 

金剛の書いたと思われる書類がさまざまな意味でアウト過ぎであり、あの情報収集を兼ねた書類整理の際に一番処理に手間取ったのもそれだったという。

そして、重ねて言うが、このにゃしい駆逐艦、理数系よりで数字を読むのが得意で事務能力もそれなりにある。

ガチの説教モードに移行するのは、まあ仕方ないと言えば仕方なかった。

 

そして、そのまま睦月は金剛を正座させて、まるまる四時間みっちりお説教モードで怒鳴り続けた、という。

なお、他のメンバーは、大の大人の戦艦が駆逐艦にガチ説教の図を見るのが耐えられず、徹頭徹尾睦月がド正論しか吐かない為にフォローもできなかった、とか。

 

解放された金剛は、正座の痺れと予想外な艦娘のド正論に別な意味で死にそうになっていた、と余談として書いておこう。

 

 

~龍田の場合~

 

「…まあ、『その腕切り落としてあげる』、ぐらい言うべきなんでしょうけど~」

 

次に、こんなことを言いながら、金剛に対し『罰』を与えたのは龍田である。

嘗めるように睨む龍田は、ふぅ、とため息一つつくとこう続けた。

 

「本当に『死にたがってる船』に、それはちょっと、ね…だから、てい!」

 

ベチっとしっぺを1発だけ、それも軽くだけ金剛の頬に龍田が打つと。

ヒラヒラと舞うような足取りで、金剛にこう捨て台詞を吐きながら退散していった、という。

 

「殴られたそうな人に本気でグーでいく趣味は無いのよぉ、じゃあね」

 

 

…相変わらず、言動の割にヘタレですよネ…龍田サン

 

金剛は、目線を天に向けながら、痛くもないしっぺ1発だけですます龍田に対し、呆れたように呟いた。

 

そう、今までこの話を読んできた諸兄には何となくわかる通り。

この龍田は、単に天龍以上に拗らせた重度な中二病なだけで、わりに平和主義で常識的な娘である。

余裕が有る時の攻撃的で厭世的とも取れる言動も、根本的には「できる軽巡」「大人の女」を演じてるに過ぎず、仮面が外れた時の彼女は天龍とあんまり変わらなかった。

というか、根っこが優しくて年頃の生娘でしかなく、それでいてどこか潔癖症気味なぶん、有る意味天龍より酷いかも知れない。

 

そんなわけで、実は案外昔から龍田を知る艦隊のメンバーから嘗められていることは、天龍ととうの龍田以外の共通認識だったりした。

 

 

~加古の場合~

 

「こうして、こう…」

 

加古は、自分の髪の毛を編み込みながら、姿見の前で格闘する。

そんな加古を何とも言えない表情で見つめながら、金剛は抑揚の無い声で、こう言った。

 

「次は束にした髪の毛をぐるっと回してデスネ、渦を作る様に髪の毛を奥に奥に編み込んデ、立体を作るデース…」

 

サンキューな、金剛さん!という、加古の元気な返事に対し、金剛は何とも言えない表情で加古を見つめるしかなかった。

 

 

そう、加古が金剛に求めたこと。

 

それは一言で言えば、髪のお団子の作り方教えてくれ、ということだった。

尚、その第一声が「金剛さんのフレンチクルーラーってなんなの?アタシにもできるかい?」等と、とんちきな切り出し方だった事は余談として書いておく。

 

そんな金剛によるお団子作成講座を受けながら、加古はこう続ける。

実は、アタシは金剛さんにちょっと嫉妬してた、と。

そして、こう言った。

 

「…アタシは、あんたと違って必要とされたこともあんまりなかったし、あんたみたく可愛くない。だから、本当はずっと金剛さんみたく成りたかったし、髪型からでも近付きたいってのが、本音なのさ」

 

そんな加古の独白に、そんな立派な女じゃないデス、と金剛は無表情に返す。

…そして、今の加古の方が本当は可愛い…という、金剛のこちらの本音は、なんだか女として癪で喉から出なかったが。

さてしかし、加古はそんな金剛を無視しつつ、独白を続けるのである。

 

「…立派な女じゃないのはお互い様だよ、アタシもあんたを見棄てかけてた悪い女さ。それに、戦いで役に立てる金剛さんのがアタシより立派なこともわかってる…っと!」

 

そしてそんな独白をしながらも、ようやっと髪の毛団子を完成させた加古は、ウサギのように飛び出すと、氏真さんに見せてくる!というなり飛び出していったという。

 

 

…ああ、そうデスカ

 

金剛は優しい表情で加古に苦笑いをしながらも、こう呟いた。

 

…今の私では叶わないぐらいニ、貴女は今可愛いデスネ

…だって、貴女はまだまだ無自覚デスガ

…恋、してるデショウ?あの人が居た頃の私みたいニ

…貴女ノ…いえ、私達それぞれの心にいる私達の英雄に、本当ハ…

 

そして金剛は、少しだけ前提督が居た頃の自分を思いだし、人知れず一筋の涙を流したという。

 

 

~天龍の場合~

 

「よっしゃぁ!これで『フォースバーナーライズブレイズレヴォリューションサテライトアルティメット天龍様』の完成だぜ!!」

 

…どこのレジスタンスの不審者デスカー…と、金剛はテンションが上がりまくっている天龍に対し、呆れつつ。

『本体』を貸してあげてるんだから大事にして下さいネー、とだけぼやいていた。

そして、なんだかなぁ…という表情で、確かにランクアップしている天龍を眺めていたという。

 

そう、言い出しっぺの天龍のターン、バニシング・レイニ○スを三体並べてエクシーズ召喚…ではなくて。

天龍は金剛に向かい、真っ直ぐな目でこう言った。

 

「俺、一度で良いんだ!金剛さんの艤装、いっぺん触ってみたくてさ!って訳で『命令』な!俺も触って良いよな!!」

 

こんな、新しいホビーをコロ○ロで見た小学生男子みたいな反応で有った。

 

はぁ、としか言えない金剛ではあるが、更に天龍は金剛の艤装について話をする。

金剛型の艤装は全体的に渋くてかっこいいだの、展開ギミックに燃えるだの、火力がやばいだの、艤装の細かいクオリティーが最高だの。

まるでガン○ラについて熱く語る名人サカ○チである。○ンプラは自由だ。

 

そんな天龍に、つい、金剛はなんならちょっと貸してあげる、と口を滑らしてしまう。

そのままの流れで、金剛の艤装装備な天龍ちゃんという、謎艦娘が誕生してたのだった。

 

…なお。

 

 

「ところで金剛さん?あの、俺ここから一歩も動けねえんだけど…その…助けて」

「…私と貴女では艤装の規格が合いませんシ、しょうがないデスネ。私の艤装か貴女の体に変な副作用が出ちゃう前に外してあげましょうかネー…」

 

フォースなんとか天龍ちゃんの顛末は、こんなオチだった、とか。

 

 

~浜風の場合~

 

「下着下さい、美味しく食べたあと家宝にしますので」

「デェェェェェェェェェェェェス!?」

 

単刀直入に、浜風は欲望を口にする。

 

「…『口は出さない』って言ったけど、流石に今回は手は出すよ、浜風ちゃん」

 

…そして浜風に向けてほとばしる氏真の「一の太刀(峰打ち)」、壁まで吹き飛ばされて岩盤に叩きつけられる王子みたいになっているが、仕方ないね。

 

浜風本人は、何故…と呻いていたが、当たり前である。

このお話は、R-18作品では、無い。

 

 

「デ、ディレクターカット版なら、ワ、ワンチャン…」

 

浜風よ、そんなものも、無い。

 

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…最後の二人が特に酷かったデス…

 

 

そんな『罰』を全て受けきった金剛は、実に微妙な表情を見せる。

 

そして、めくら判と書類上の不備に対してぶちきれていた睦月の説教は兎も角も。

『誰一人として、金剛に恨み節をぶつける者はいなかった』そのことを思い返すと、実に金剛は胸が苦しくなる。

何故なのだ、と金剛は思案する。

この艦隊を…ひいてはパラオ全てを壊滅させたハズの金剛は、本来なら蜂の巣にされてもおかしくないハズだった。

 

天龍の話を最初に聞いた時は、好きなだけ殴られた後そうなるつもりで居たぐらいだったのだから。

 

 

そんなおり、金剛はふと歩いている先に何かにぶつかる。

その相手とは…

 

「前ぐらい見なさいな、英国かぶれの…金剛、さん、だったかしら」

「…加賀サン…」

 

 

一航戦の青い方、だった。

 

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「…なるほど、事情は把握しました、話半分」

「話半分じゃ駄目デスヨ!?」

 

青いのが、いきなりボケながら。

しかし、急にシリアスな口調になると、加賀はこう続けた。

…この泊地に恥知らずな子は、何処にもいなかったみたいで良かったですね、金剛さん、と。

 

恥知らず?と怒ったようないぶかしむような表情で加賀に聞く金剛に対し、加賀は心底真面目な口調になり話を続けたので有った。

 

 

「…ふむ、金剛さんは思い上がっているようですが、極論から言えば『責任を負うべき人間』は本来なら亡くなった前の提督で有り、貴女ではありません。そもそもが、又聞きの又聞きで悪いのですが、件の作戦自体においてああもおかしな方向に進んだことと言い、前の提督殿が一番悪いとは言えパラオに関わる全ての人間に壊滅の責任が有る以上、貴女一人断罪してどうなるなんて話にはなりません」

 

でも…と、金剛は反論しようとするが、少しだけ怒った表情で加賀はそれを遮り語りだす。

 

「『組織』とは、ワンマン経営で部下すら雇わない、なんて無頼な探偵や個人商店の小さな古本屋でも有るまいに…起きた結果に対して一人だけに責任を背負わせることは出来ません。父さんが良い例でしょう、アレは父さんの父さんが一番の直接的な原因になったとは言え、『今川家壊滅』なんて結果を、父さん一人だけが招いたなんて訳がありません。そんなことを言い出すのは歴史を嘗めてます……失礼、話がそれました」

 

一旦ヒートアップした自分を落ち着かせつつ。

加賀は、更に自分の話を続けた。

 

「…でも、『同じこと』なんです、金剛さん。みんな責任を感じている、みんな自分の無力さを知っている。そして、足りないことを自覚して、足掻いて足掻いて、それでも届かなかった貴女の姿をみんな見てきてる。だから、貴女一人を責めて自己満足する真似だけはしたくはなかったのでしょうね。まあめくら判に関しては正直フォローしませんし、書類仕事ぐらい覚えろとは思いますが」

 

 

まあ、又聞きの又聞きですからこれ以上は何も言いませんが、と付け加えつつ。

 

そんな加賀に対して、金剛は絶叫する。

じゃあ、私はどうすれば良かったんデスカ!どう償えば良いんデスカ!と。

しかし、加賀は冷たく返す。

私は貴女のこともパラオのことも良くは知らないのに言えるわけ無い、知りませんよ、と。

 

そして、加賀は興味無さげにうちひしがれた金剛を無視し立ち去ろうとするが、去り際にこう言った。

 

「…私の父さんの部下は敵に降伏する時に、『城を枕に死ぬのは忠節では無い』と言って父さんもそれを承諾したそうです。そして…私もそう思います。ご恩が有るからと、『死ぬ』なんて軽々しく言わないで下さい。泥臭く生きて生きて生き延びて、一生懸命に生きて、『どうすれば良いか』を自分で想い続けながら、せめてこれからは誰にも恥じない生き方をして下さい」

 

 

では、無責任で悪いのですが…と加賀は立ち去る。

 

金剛は、そんな加賀の言葉を受けて、少しだけハッとする。

何の事はない、自分は逃げようとしてただけだったことに、自分で気がついたからだ。

だって、『生きよう』とすれば、自分と共に死地に向かい、自分より先に逝った者を思い出してしまうから。

そして、それは…何よりも、心優しい金剛には、苦しくなることだった。

 

だがしかし、加賀の言うとおりだった。

 

この状況で金剛が死んだところで、死体が一体増えるだけだ、何の意味もない。

今この場で死んだところで、状況が良くなる訳では無いのだ。

せめて、何かを為し遂げてから死なないと…それこそ、自分が本当にやりたかったことも欲しかった物も手に入らないから。

逝った者達にも、共に責任を感じてくれる仲間にも、今の捨て鉢な状況で死んだところで失礼なだけでしかなかった。

 

 

「…生き続けることガ、艦娘で有り続けることガ、私に皆から課せられた本当の『罰』デスカ…」

 

金剛は何とも言えない表情で天を見上げる。

そんな金剛の姿を、何処か嬉しそうな表情で、物陰から氏真やパラオの仲間達は覗いていたという。

 

…皆、金剛のことを心配していたので有ったから、いつ衝動的に何するかわからない金剛がほっとけずなんやかんや四六時中監視してたのだが。

もう、大丈夫かな、と…パラオの皆は安心するので有った。


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