無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十一話 金剛の「罪」

……そんな顔、しないで下さい、テートク

……そんな顔、しないでヨ、皆

……笑いながら逝かないデ

……せめて駄目な私を罵って下さイ、後生ですかラ

……辛いヨ、苦しいハズの皆の笑顔が、余計に苦しいヨ

……私の心に突き刺さるヨ、その笑顔ガ

……身体中の痛みは耐えれマスから、私は、私は…!

 

金剛が意識を失うその刹那、彼女はこんな思考の後、闇に沈む。

そうして、何もかもが焼け付くような感覚に襲われた後、金剛は意識を保てずばたんと倒れた。

そして、艤装が崩落する様なばらばらになる痛みに一瞬、金剛は体をびくっと震わせるものの。

彼女はソレ以上に動ける訳もなく、半ば幽鬼の如くふらふら海上を漂う漂流物と化す。

 

その死ぬ寸前の彼女をたまたま龍田が湊の近海まで流され浮いていたのを回収出来たのは、まるで奇跡としか言いようがなかっただろう……

 

だが、治す算段も無く、どうしようもないまま時は過ぎていた。

が、しかし、今は…………

 

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…何か、声が聞こえますネ

…ヴァルハラの天使…にしては私を迎える理由がありませン、コキュートスの番犬でしょうカ?

…地獄から来たにしては随分、その割には声がかわいらしいものですガ

…というカ…私、この声が聞き覚えガ?

…龍田…天龍…浜風…加古…睦月……!皆、皆のシャウトがしまス!

…何故か、知らないのが二名居ますがネ

…ああ、そうですカ、生き残った皆もこっちニ…

…皆まで地獄に行くリーズンが私には分かりませんガ、ちょっと嬉しいかモ…

…だって、私、寂しくないかラ…

 

「父さん、この人まるで起きる気配がないので、額に『肉』と『大往生』の落書きを油性マジックか何かで書いた後、水でもぶっかけましょう」

「油性まじっく…?とは良く分からないが、墨と硯なら有るよ?万年筆とか言う書き物も睦月ちゃんから預かってはいるが」

「流石です、父さん。気分が超高揚します!」

 

…待てヤ、知らん奴二名! 

 

 

「しんみりしたモノローグを自由自在に轟沈させないで下サァァァイ!!!つーか意識の無い人に落書きとかどんな教育受けてるんデスカァァァァァ!!?」

 

 

あ、起きました、と一航戦の青い方がポツリと呟く。

 

そう、今まで死にかけで意識の戻らなかった金剛が、主に氏真with加古feat加賀の深海棲艦相手の強奪劇や、氏真のモンスターハントによる弾薬漁りと鋼材剥ぎによりついに修復と復帰の目処が立ち。

永い永い眠りから、漸く覚ます次第になったということだった。

 

なお、加賀のせいで何もかもが台無しだわ!!と、残りのパラオのメンバーが一斉に突っ込みを入れざるを得なかった。

あの、浜風ですらである。

 

 

「やられました、痛いのですが、加古…」

「僕も悪のりし過ぎたな、今回は…」

 

…加古と龍田に思い切り拳骨を貰った馬鹿父娘組が仲良くデコにたんこぶを作りつつということは置いておき、話を進めよう。

 

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さてさて、入渠が済んで意識を取り戻してなおも、ベッドに寝かされたままの金剛であるが。

睦月から金剛が倒れてからの話を聞かされることになった。

 

 

パラオの前提督の死亡等の失態を含め半ば見捨てられ、壊滅的な状況のこと。

氏真の活躍により、ギリギリで何とか形になる様には回っているが、文字通り吹けば飛ぶ資材のこと。

生き残りも殆どが二流半の人材しか居ないこと。

そもそもが、氏真と加賀に至っては現状食客でしかなく、特に氏真に頼る形になって居るが、「部外者」である彼らに鎮守府を回す権限が無い以上この鎮守府自体いつどうなるかすら解らないこと。

 

そして… 

 

 

「…あの後も色々調べたんだけど、生存確認出来たのは金剛さんだけで、他は行方知れずか死体が確認されたのが全部で、1ヶ月も前の事なのに岩礁地帯とかに血と硝煙の跡が今も残ってて、ハッキリ言って地獄絵図だったのだぞ」

「…ジーザス……!やっぱり、私だけが生き恥ヲ……」

 

パラオの最終戦線、その生き残りのことを、であった。

 

そして、自分だけが生き残り帰還したことを知り、あの時のことを思い出した金剛は絶望に心が支配されていくので有った…

 

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~1ヶ月前、パラオ~

 

 

「…こんな作戦、我ながら無謀デス」

 

金剛は、頭を抱えながら、こんな事をぼやく。

 

「『敵深海棲艦がわんさか居る場所に特攻かけて大打撃』…隠れる所がメニーな森の中とか市街地のゲリラ戦じゃないデス、海なら敵から丸見えでス。戦果リザルトは、期待できませン…」

 

そんな泣き事を吐きながら、ポツポツと廊下を歩いていた。

しかし、執務室に着く金剛は、キッとした表情で顔を上げる。

 

「それでも、やるしかないんデス!私が、私一人の犠牲が有れバ…この鎮守府にも漸く『結果』が付いて来るハズ…!そしたら、きっとこの鎮守府もチェンジ出来るハズ…!」  

 

 

それは、金剛が自分の頭を一生懸命絞って出した結論で有った。

 

 

秘書艦として執務に携わる能力は、金剛には我ながら欠けていたと自負している。

書類を読めずめくら判を一度やらかして鎮守府の運営費に大打撃を与えてしまったり。

殲滅を重視し過ぎて弾薬を無駄に使うよう進言してしまったり。

お茶や食べ物を提督や書類に引っかけてしまったり等、日常茶飯事で有った。

…よくよく思い返したら、紅茶の味しか誉められたことがなかった気がする、と自分の秘書艦としての力の無さに泣きそうになる。

 

そして…「自分も畑違い過ぎて失敗だらけの無能だし、気にしなくて良いよ」と提督が慰めてくれる、その優しさも思い出すと涙が溢れそうになる。

そして、その言葉を聞く度に、どうしよう…と、金剛は苦しんでいた。

 

 

本来なら「他の子に秘書艦を代わってあげて」と金剛が提督に言えばある程度改善する話では有った。

 

根本的に向いてない仕事をやる理由は…極論、無い。他の得意な人に「投げる」事、これは意外に大事な仕事の一つである。

勿論、苦手な仕事の克服・上達というのは大事なことでは有るが…

この場合、屋台骨にヒビが入るレベルの大惨事になりかけてるなら、「やれません」と諦めることを進言し、後任を探し出すことが急務である。

しかし、金剛の場合、大本営というお偉いさん直々からの出向というまあ渡世の義理と、大本営直々の実質上の監査役でもあることも有り、「辞める」と言い出しにくく、「辞めろ」と言われにくい立場だったのが話をややこしくしてしまったのだ。

 

そんな訳で、金剛は慣れない事務仕事に奔走しては大なり小なり事態の悪化を招く、という悪循環に陥ってしまった。

 

しかも、提督が突撃狂かつお偉いさんのボンボンということで、あまりにも自分の予想したこと以上の対処が出来ない「駄目なお坊ちゃん提督」になってしまったことも、事態の悪化に拍車をかけてしまったという。

 

 

さて、そんな状況を覆すには、と金剛が悩んだ末に出した答えこそが「特攻」で有った。

 

 

我ながら悪手も悪手、末期戦の敗軍の最後の手の様だ、と金剛は自嘲する。

間違っている、と、頭の中の良心が何度もブレーキをかけようとする。

まるで、先の大戦の記憶・記録の片隅に有る、苦い痛みの記憶じゃないか、と。

 

しかし、この鎮守府を変えるには、それこそ提督か自分のどちらかが「消える」以外、なかった。

あるいは、大戦果をあげて、この鎮守府にピッタリの補佐なり補給なりをもらう事も考えられる。

金剛からしたら、一石二鳥の、この鎮守府を救える起死回生の一手で有った。

 

 

だがしかし、執務室に着いた金剛はというと。

 

そのことを提督に進言した金剛は、提督から平手打ちを食らう。

それだけは許さない、自分は駄目な無能だが、轟沈者を出さなかったことだけが唯一の自慢だ、と。

その誇りすら奪ってくれるな、と提督は泣きながら説得する。

 

だが、金剛も泣きながら、自分が間違っていることぐらいわかってる、と返す。

それでも、それでもこうしないと、自分はパラオに何も返せないじゃないか、と。

戦い以外能がない自分の最後のワガママ、聞いてくれ、と。

 

 

如何に提督が金剛を説得しようにも、その考えは変わることはなかった。

意固地になっている感も有るが…それこそ、装備なり戦力なりを補強せねば話にならないのに、それを回す物種がない現状を打破するには。

悔しいかな、その提督にも金剛にもそれを越えるアイデアは出なかったのだ。

 

ならばと、その提督が提案したのは以下の通りで有る。

 

一つ、自分も金剛と共に戦う事。

一つ、この作戦を公表し、艦隊から有志を募り金剛と共に戦いに出る仲間を呼ぶこと。

一つ、仲間から反対の声が半数以上上がるなら、その作戦は中止すること。

 

 

要するに、提督自身と艦隊の命をベットさせつつ、仲間を盾にすることで。

金剛の意思を揺らがせて、翻意させようとした、というのが本来のその提督の意図で有った。

 

だが、提督にとって誤算だったことが幾つか有った。

 

 

一つ、金剛の不器用ながらも優しい人間性が、あまりにも「艦隊の心を掴みすぎていた」こと。

一つ、よりによって「提督からの命令」ではなく「金剛からの提案」と発表してしまったせいで、艦隊からの忌避感がまるで上がらなかったこと。

一つ、そのせいで仲間からの反対の声が、それこそ浜風と睦月と龍田だけで、残りの十数名からは上がらなかったこと。

一つ、あるいは末期感を提督含め艦隊全員が感じていて、自身の命すらどうでも良くなっていたこと。

 

そのせいで、提督の意図を完全に越えて真逆の方向に、話は進む羽目になってしまったのだ。

そして、「足手纏い」は流石に提督の権限で除外させたが、それ以外はみな死地に向かいに行く、ということになったという。

 

 

不幸な偶然…とは言うまい。

そもそもの言い出しっぺたる金剛もさることながら、それを紛れもなく悪い方向に傷口を広げた提督は、客観的に見ても最低でしかない。

だがしかし、悪いことが悪い方に意図が暴走してしまい、結果的に採択されたこの集団特攻作戦。

彼らだけを責めるには、事情が複雑に絡みすぎて、少々ならず酷な話でも有った。

 

 

さてさて

結果的には、確かに深海棲艦の巣の一角は滅ぼされた訳でも有るが。

しかし、それ以上の犠牲を払い、金剛は文字通り「生き恥」を晒すことになったのだ。

 

よりによって、自分だけが生き残り、守りたかった全てを失うという形での、最悪の結末でというおまけ付きで有った。

 

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そんなことを把握した金剛は、泣きそうというのも生易しい、絶望に染まった表情でこう睦月に…というより、この場に居る全員に告げる。

 

…私ヲ……殺しテ……そして罰して下さイ、と。

 

 

だが、その金剛の叫びには、答える者は誰もいなかった…


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