無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~   作:たんぺい

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十話 新参、加入、カオス枠

時刻は、既に明け方の6時を回った頃。

昨夜の十時に出立してた氏真と加古の二人が、そろそろ鎮守府に帰る頃合いである。

加古から、簡単に「鋼材ヲ中心ニ燃料等ヲ含メタ資材ヲ確保ス、幾度カ敵ト交戦ガ起キタガ全テ退ケタ、損害ハ無シ」と妖精さん経由から話を聞いた金剛以外の留守番組は、出迎えに湊に集合していた。

 

久しぶりの勝利報告に、というか戦術的な意味で言えばはじめての勝利報告を受けた一同は、大なり小なり歓喜していた事もあり、実に楽しそうな表情で今か今かと加古の帰りを湊で待つ。

 

そんな折り、天龍がふと何気なしにこんな事を言い出した。

…なんやかんや、無事でよかったぜ!実はすっげぇ心配だったけど、杞憂に終わったみたいだな、と。

睦月は苦笑いし、フラグ立てんなし、とそんな天龍に呆れ、浜風と龍田は顔を見合わせぷっと吹き出す。

そんな周囲の反応を受けてついムキに成る天龍だったが、そんな天龍が何気なく視線を海に向けると、その洋上に黒い小さな点が見えた。 

こちらに向かってくる「ソレ」は、何かを紐で繋いだ缶をくっつけている、

恐らく、アレが加古だろうと周囲には予想がついた。

 

「おーい!加古ぉ!氏真さん!お帰りぃ!」

 

そんな天龍は手を振り、その影に対して大声で声をかける。

その天龍に対して負けない様な声で、その影は天龍に返事をした。

 

 

「あの声の女が天龍、ね…私を無視するとは良い度胸ですね」

 

 

え…?と言う表情になる留守番組の面々。

氏真とも加古とも別な、今までまったく聞き覚えがない声が、パラオ泊地に響き渡る。

もしや深海棲艦!?と言う言葉が一瞬留守番してた全員の脳裏に浮かぶが、よく考えたら深海棲艦の様な嫌な空気は微塵も感じられない。

というか、深海棲艦特有の、カタコトさすら無い流麗な日本語だ。

 

そんな、訳のわからない声の主の正体に混乱する彼女らをよそに、その声の主は徐々に姿を現せた。

 

片結びにした長髪の、青と白のツートンカラー弓道着を着た長身で巨乳の美少女であるソレは、確かに氏真でも加古でもない。

そんな、弓を携え妙に格好つけた片足立ちの謎の姿のまま、水上スキーの様に水平に水上を平行移動する。

彼女の周囲には小さいプロペラ機がびゅんびゅんと飛び回り、そのプロペラ機からは、何故か演歌調のBGMが大音量で流れている。

そしてその表情は無表情ながらどこかドヤ顔であり、実にシュールだったという。

 

そんな謎の女は、留守番組を前に、こんな事をのたまった。

 

「…アレは今から 36分、否、1万と2秒前でしたか、まあ良いです。私には『艦隊の石川さゆり』『歌の青いお姉さん』『薄い本と演歌の女王』等と72通りの芸名が有りますから、何と名乗れば良いか…」

「エルシャ○イじゃないの!?古っ!微妙に古っ!!」

 

…自由すぎの自己紹介に、思わず龍田から雑な突っ込みを食らう破目に成ったとか。

 

そのまま、ふざけんならその口切り結ぶわよ~!とお怒りの龍田を止めた声が聞こえた。

氏真の、その謎の女の言葉すら頭からぶっ飛ぶ、爆弾発言だった。

 

 

「ああ、ふざけたこの子が悪いけど、すまないがあんまり邪険にするのは止めてくれ。なにせこの子は僕の娘っぽいし」

 

氏真の「娘」という言葉に、一同は完全に硬直する。

当のその謎の女の方も、呼び方は「パパ」が良いか「お父さん」が良いか…それともいっそ「父上」とでも呼ぶかしら、等と満更でも無さそうな反応を見せている。

そんな謎の女に対して、浜風はポツリと漏らした。

…艦娘って、妊娠させたら即建造出来ちゃうんですね、凄いです、と。

 

そんな浜風の反応に、顔を真っ赤にして、そんな訳有るか!と生娘全開の反応で返す一同であるが。

ついにこのカオス空間に我慢出来なくなったであろう、本来この凱旋の主役たる艦娘の加古が、ついに口を開いた。

 

「この子はぁぁぁぁぁ!ただのドロップ艦だからぁぁぁぁぁ!アタシが産んだ娘とかじゃないからぁぁぁぁ!?」

 

そんな、カオス空間を一瞬で鎮める加古の絶叫。

それに呼応するかのように、謎の女は遂に観念したように、自己紹介を改めて始めた。

 

 

「…ああ、すみません。やりました、ならぬ、やらかしました。私の名前は正規空母『加賀』、かつては一航戦に所属していた空母です。以後、お見知りおきを」

 

そう、正規空母と言われる大型空母の一人。

一航戦、加賀。その名を受け継ぐ艦娘で有った。

その加賀は、一同に向かって頭を下げつつ、更に続けて口を開いた。

 

「でも、彼…戦国武将の今川氏真、ですか。私がこの人の『娘』というのはそこまで間違ってはないです。私は父さんから産まれた様なものですし」

 

 

ええええええ!?という絶叫が龍田と天龍と睦月という常識人寄りトリオから響き。

浜風は興味津々という表情でドヤ顔の加賀とキョトンとしている氏真の顔を見比べて。

事情をある程度把握している加古は、頭を抱えるしかなかった。

 

そして、加古はポツリポツリと、深海棲艦と氏真の激闘の数々、そして加賀の誕生について語るので有った…

 

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…実は、戦艦棲姫を氏真が討伐したその後の事である。

 

首を落とされて死んだハズのその死体が、いきなりガクガクと動き出す。  

両手も両足も不規則にぶるぶると震え、首がないはずなのに常に体は氏真の方を向いている。

それどころか、タコの足のようにグニグニと蠢く手足を使い、氏真と加古に向けて、まるで赤ん坊がハイハイするかの如き動きから少しずつ接近してくる。

力尽きた氏真を回収した直後のそんなホラー現象に、その手の事がやや苦手な加古は、思わず腰を抜かし涙目で後ずさった。

 

そんな、急に動き出した深海棲艦の死体は突然動きを鈍らせて、加古の眼前で硬直する。

白い光を放ち出すと、ポロポロと砂のようにその死体の表皮が崩れ去っていく。

そして、二分もかからず砂のように粒子と完全に化したソレは、どろどろと海水を巻き上げ粘土の様になり、いつしか別の形になっていく。

 

その姿は徐々に徐々に、戦艦棲姫の姿とも異なる女性的な姿に変貌する。

深海棲艦から「恨み」が抜けただろうソレは、いつしか戦艦とは艦種すらちがう、「本来」の姿へと変化するのである。

ソレこそが、加賀、その姿で有った。

恨みが消えた、誇り高きその「戦う姫」の姿にふさわしい…

まさに一航戦の二枚看板のうちの一人として、その正体を顕していたので有った。

 

 

「加賀です、以後、お見知りおきを…って、あら?この臭い、貴女まさか…!…文字通り随分な『ご挨拶』ね、まったく…」

「うるさいうるさい!怖かったんだぞ!超怖かったんだぞ!お前のせいでアタシしばらく一人でトイレ行けなくなったじゃないか!うわぁぁあん!ばかぁぁ!!」

 

尚、こんなホラー現象に直面した加古の下半身については…名誉の為に、何も言うまい。

ちなみに、加賀も加古から自分が「産まれた」経緯を泣きわめきながら説明され、遠い目で同情するしかなかったとか。

 

 

さてさて。

こんな具合で、新たに加賀を仲間に加えた一行は、早速その航空能力に頼ることになる。

ソレは氏真や加古からしたら嬉しい誤算でもあるが、新入りな加賀を利用するのはある意味では当然の話になるのであるから。

 

何故なら、氏真の予想した敵の補給基地、その場所がすぐ近くに来てるからである。

とは言え、細かい部分は加古と氏真だけなら、ソレこそしらみ潰しでいかないとわからない。

最悪、燃料切れ寸前まで加古が予想した地域の数十海里をぐるぐると周って捜索する必要すらあり得た。

  

だが、偵察隊の出動…ソレも、飛行機という形で空から行けるなら、まるで話は異なる。

 

観測隊の指揮が取れる空母が居れば、その効率はまるでちがう話になるので有る。

その後、加賀の索敵の甲斐もあり小さな小島を発見する。

ソレこそがお目当ての補給基地、深海棲艦の資材庫代わりに利用されていた無人島で有った。

 

いままでノビていた氏真も、言い出しっぺのなんとやらとばかりに、資材庫に着くなりがばりと起きてキリキリと資材をドラム缶に積めていく。

そうして、積めるだけ積んだ資材を強奪し、護衛役の深海棲艦達に気づかれる前に今回の作戦は成功したので有った。

 

尚、冒頭の加古の入電は、その時のものである。

 

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「…まあ、何とか話は理解できたのだぞ」

 

睦月が加古の話を聞いて、なんだか微妙な表情を見せる。

そして、こう続けた。

 

「…その、加古さん…今回あんまり役に立たなかったみたいだけど、初陣お疲れ様!がんばってくれて有り難うにゃし!…だから、うん…とりあえずお風呂入って着替えよう?その、スカートがアレっぽいままはどうかと思うのだぞ…」

 

 

睦月のアホォ!という絶叫と共に、涙目の加古のパンチが睦月に飛んだ。

やれやれという表情で浜風と加賀が肩を竦め、あらゆる意味で加賀のせいだろ!という突っ込みが天龍姉妹から入る。 

 

氏真は珍しく、なんだかなぁ…という表情で、天を仰ぎ額に手をのせて艦娘たちを見ることしかできなかったとか。 

 

 

 


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