トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。   作:袖野 霧亜

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由比ヶ浜、ハピバ ~③~

「由比ヶ浜さん、今日は家に帰れないと思うことね」

「雪ノ下さん、お願いだから言い方をもう少し考えてくれないかな」

 

 由比ヶ浜の誕生日当日の朝。ホームルームも終わった我らが2-Eに突如として現れた雪ノ下雪乃は、あろうことか大人のお持ち帰り宣言をかましやがった。ナイスツッコミだぞ葉山。お前がいなかったら大惨事だったぞ。

 ていうか、アイツ今雪ノ下のこと名字で呼んでたな。場所で気でも使ってんのかな? 何のかは知らんけど。

 

「えー……っと、私、どこに連れていかれるのかな……?」

「ちょ、雪ノ下さん! 結衣にナニしようとしてんだし!」

「あら、何故そんなに取り乱しているのかしら? ただのお誘いじゃない」

「お、お誘い……⁉」

 

 あらー、あんなにハデハデな……誰だっけ、まぁいいか。金髪縦ロールがめちゃくちゃ取り乱しちゃってるじゃん。見た目完全にビッチっぽいのに。

 

 

「は、隼人! まさか、隼人も雪ノ下さんのそれに……!」

「大丈夫、優美子、誤解しないでほしいんだけど、ただの誕生日パーティーの誘いだからな? 結衣、今日誕生日だろ?」

「えっ、う、うん。あー、なるほどね? ビックリしちゃったよ……ホントに」

「……それならそうと早く言うし! も、もちろん? あーしはわかってたけどね! もちろん!」

 

 そんな顔面真っ赤にして言われても説得力が皆無なんだよなぁ。なにあの子、もしかしてとんでもなく清純派ギャルだったの? ギャップ萌えが過ぎるんじゃないのか?

 

「それで、どうかしら由比ヶ浜さん。もし先約があるなら別の日にセッティングするけど」

「あー、えっと……」

「いいよ、結衣、行ってきな」

「え……、いいの?」

「いいから、あーしらとは明日にでも祝ったげるから。今日は雪ノ下さん達と楽しんできな」

 

 へー、意外といい人だな。人って見かけによらないってこういうことを言うんだろう。好感度高いですね、これは。なんで実況者みたいな立ち位置になってんだ、俺は。

 

「礼を言うわ、三浦さん。この借りは必ず返すわ」

「雪ノ下さんが言うとなんか違う意味に聞こえるんだけど……」

「気のせいよ。じゃあ、由比ヶ浜さん。また放課後に奉仕部でね」

「うん、またねゆきのん」

 

 長い黒髪を翻し、教室から出ていこうとする雪ノ下……だったが、なぜか急旋回して俺の席にスタスタと歩いてきた。

 何、どうしたの、なんかあった?

 

「比企谷君、おはよう」

「お、おう、おはよう」

「……じゃあ、また」

「おう、また部室でな」

 

 それだけのやりとりをするためにわざわざ来たのかコイツ。去り際に「よし、噛まずに話せた」って小さい声で呟きながらガッツポーズしてるのが見えたけど、知らないふりしといてあげよう。いったら絶対壊れるだろうしな。

 

「あれ、雪ノ下さんいたの?」

「おう、折本か。どこ行ってたんだ?」

「数学の教科書持ってくるの忘れたから刻に借りてきたんだ~」

「は? 忘れるなんて概念あるのか? 置き勉してないのか?」

「比企谷には関係ないかもしれないけど、今日までの宿題あったかんね?」

「ほーん、そうなんか」

「興味なさすぎでウケる!」

 

 高校受験までは頑張った数学だが、学年が上に行くたびに訳が分からなくなり、ついには刻にお手上げだと言われてしまう始末になった。みたか、これが俺の実力だ、エッヘン。

 

「じゃあ今日の宿題は」

「当然やってない」

「だよね、ウケる」

 

 緩い会話を朝のHRが始まるまで続けた。

 そして、午前の授業をすべて終わらせた後、気付いてしまった。

 

「……由比ヶ浜の誕プレが、無い」




 誕プレはちゃんと八幡の家にあります(公式からのネタバレ)

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