トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
「それで、なに頼むのか決めてくれない? さすがに、冷やかしは御免だから」
バーテンダーをしていた……名前なんだっけか、まぁいいや。今回の目的の人物が話しかけてきた。
確かにコイツの言う通り、何も頼まずただ談笑しているだけだと他のスタッフからもいい顔をされないだろう。
「私はペリエを。由比ヶ浜さんにも同じものをお願いするわ。比企谷君は何か好みのものはあるかしら?」
「いや、俺もこういうとこ来るの初めてだから何もわからん。マッ缶あるか?」
「あるわけないでしょこんなところに……。ジンジャーエールくらいならあるけど」
「じゃあそれで頼むわ」
はいよ、と軽く返事をした――名前わかんないとやりにくいな。仮称Kさんにしておくか。Kさんが手際よく、なんか、よくわからんけど、あっという間に俺達の前に注文したものが置かれていった。
「大したもんだな。素人目でもかっこよく映ったわ」
「そりゃどーも。で? あんたたち、なんでここにいるん? デー」
「デートなんて言ったら、抜くわよ、舌を」
「……なんかあたし、悪い事言った? なんでそこまで言われなきゃいけないわけ」
異常なまでに殺気だった雪ノ下と、そんな雪ノ下に怯むことなく睨みを利かせるKさん。
そして、その空気にひたすらに怯える俺と由比ヶ浜の図の完成だ。ダレカタスケテ。
「ま、まぁまぁ落ち着いてゆきのん。ごめんね、川崎さん。その手の話題、二度とゆきのんに振らないでね? すっごく地雷だから」
「あっそ、まぁ別にどーでもいいけど。それで、結局何しに来たの」
結露でできたボトルについている水を付近で丁寧に拭いていく。
そのちょっとした動作だけでもかなり様になっている。
――ここに勤めて、それなりに経ってるかもな。
「お前を探してたんだよ。あー、川崎、だっけか? お前の弟が心配してるからさっさと家におとなしく帰れ。そしたら依頼は解決。お前の弟が小町に引っ付かなくなる。皆ハッピーだ。だから早くこの仕事辞めるか他の、法に則ってちゃんとしたとこに行け」
それだけ言って少し乾いた口の中を潤すためにジンジャーエールを少し含む。
雪ノ下の代わりに説明したが、要件は概ねこんなところだろう。
ていうか、いつまで高ぶってんだ雪ノ下のヤツ。ホントに沸点が低いなこの手が絡むと。
「あー、なるほどね。大志がそんなこと言ってたんだ。わかった、あとで大志とは話付けて多くから帰っていいよ」
「辞めるつもりないだろソレ」
「当たり前でしょ。ま、辞めさせられたとしてもまた別の店でバイトするだけだけど」
「そうか。ま、大志に話をつけて依頼が無くなるならいい。帰るぞ、二人とも」
「「「えっ」」」
三人してこっちを凝視してくる。え、なにこの空気。少し重くないですか?
「どうかしたか? 何か……あぁ、そういやジンジャーエール飲むの忘れてたわ」
グラスを傾けて一息に飲み干し、勘定を終わらせようと財布を懐のポッケから財布を出そうとすると、そっと雪ノ下の左手が俺の服を掴む。
「何を言ってるの? 比企谷君」
「何、って。いやもう終わりだろこの依頼。終わったっつーか、無くなるってのが正しいけどな」
依頼主から依頼が取り下げられるならもはや俺達がやれることは無い。
なら帰るしかないだろ。いつまでもここにいても店に迷惑だし。
「ちょっ、ヒッキー!? 本気で言ってる!?」
「いや、本気もクソもないだろ。え、何、俺がおかしい?」
「まぁ、普通あの場面だったらもう少し食い下がってくると思ったよ」
「お前は儲けもんだろ。余計に引っ付かれなくて済むんだから」
「そうだね、じゃあ勘定、置いてって」
「――待ちなさい」
一瞬、気温が下がった気がした。
おそらく気のせいだ、そのはずだ。そんな超常現象なんか、涼〇ハルヒの憂鬱で間に合ってる。
じゃあ、これ、何?
雪ノ下を中心に、変なオーラ出てきてるんだけど!?
「比企谷君、まだ帰るには早いわ。おかわりを奢ってあげるから、まだいてくれないかしら?」
「え、いや、だから」
「いて、くれるわね?」
「ア、ハイ」
「川崎さん、彼用にジンジャーエールを」
「はいよ」
こっわ! え、ホントにこれ雪ノ下か!? いつもの雪ノ下とかテンパるか壊れるかポンになるかのどれかしかなかったのに、いきなり葉山によく向けてる、いやそれ以上の圧が来たんだけど!
頼む由比ヶ浜! ここはお前が……ダメだっ、由比ヶ浜も由比ヶ浜でめちゃくちゃ目をグルグルさせてる!
「はい、ジンジャーエール」
「あ、ありがとうございます……」
「なんでそんなかしこまってんの」
仕方ないだろ、まだ雪ノ下に対する恐怖感が抜けきってないんだよ。
「さて、川崎さん?」
俺のジンジャーエールが届いたところで
「一回目の警告よ。もし、このことが学校にバレた場合、最悪自宅謹慎を命じられるわ。それに加えて、進学にもマイナスの要素になるわ。主に、推薦関係とかね。もし関係ないというなら、これは切り捨てていいわ」
「あっそ。じゃあ普通に入試をするから、問題ないね」
川崎は、そう返した。
そして雪ノ下は、一回だけ頷いて続ける。
「では、二回目の警告よ。これはあまりしたくないけれど、仕方ないわ。今の私、そんなに気が長くないから」
「前置きはいいから早くしてくれない? あまり話し込んでると他のスタッフにいい顔されないからさ」
「なら、端的に言うわね」
こくっ、と自分が頼んだペリエに口をつけて、もはや詰みの言葉を言い放つ。
「労働基準法に違反しているお店があると、監督署に報告する。それだけよ」
「…………」
「本来、貴方はこんな時間に働いてはいけないの。それくらい、これくらいのお店なら承知しているはず。なら、なんで貴方は働けているのか? それは貴方が年齢を詐称しているから、ね。そうでなきゃ、明け方まで働かせるなんてあるはずがないわ。まぁ、どの道、このお店は大打撃でしょうね」
「…………」
川崎は、何も言えない。
そして、雪ノ下は、まだ続ける。
「最後の警告よ。まぁ、あまりこれは言いたくなかったのだけれども、貴方の態度が気に入らないから、言わせてもらうわね」
「……何を、言うつもり」
「貴方の家、かなり経済面がひっ迫しているそうね」
「――っ!」
川崎の目が見開かれる。明らかな動揺だ。
「理由としてはそうね、大志君の塾代と、貴方自身の進学費用、ってところかしら。貴方、さっき自分で入試を受けると言っていたものね。確かに、塾ってかなりお金がかかるものね。それに、塾代だけじゃなく、入試を受けるにしても、仮に受かっても入学費用もバカにならないわ。両親は共働き、それに妹ももう一人いるのよね? これ以上、負担をかけられないものね」
「…………」
「そして、二回目の警告を掘り返すけれど、もしこのお店が営業停止になった場合、どうなると思う? 貴方、のせいで大損失よ? 貴方程度に責任なんて取れないでしょうから、親にしわ寄せがいくわね。さて、経済面がひっ迫している貴方の家は、どうなってしまうのかしらね」
残ったペリエを飲み干し、由比ヶ浜と俺のおかわりの分の勘定を置き椅子から立ち上がる。
「以上よ。私からはもう何も言わないわ。行きましょう」
「え、あ、うん……。じゃあ、またね、川崎さん」
スタスタと歩き去っていく雪ノ下と、それに付いていく由比ヶ浜。
そして俺は、まだ椅子に座っていた。
「……アンタは、行かないの?」
「ん、まぁな。まだおかわりのジンジャーエール、飲み干してないし」
あと雪ノ下が怖い。
「ま、災難だったな。アイツに相対したのが運の尽き、ってことで」
「……そうだね。あー、上手くやれてたつもりなんだけどなぁ」
「弟に心配かけてる時点でアウトだろ。姉貴失格だぞ」
「うっさい、そんくらいわかってる」
「嘘つけ。わかってたらこんなマネしないだろ」
うぐっ、と言葉を詰まらせる。
さて、こっちはこっちで用意していたもん出しておくか。
「川崎」
「わ、いきなり物を投げないでよ……なにこれ」
「帰ったら中身見てみろ。頑張りゃ、まぁこんな綱渡りしなくても大丈夫だろ」
放り投げたのは何回か折り曲げた紙切れ。
別に金を稼ぐための情報は無いが、金をどうにかする方法は載ってる。
それ以上は何もしないぞ。
今回は、依頼だったから焼いたお節介だからな。
まっことに申し訳ない!!!!
マジで仕事に忙殺されてた! すんません!
最近寝るかYouTube観るかAPEXするかだったもんで……あれ? エペの時間削れば書けてた……? やめましょう、この話。
ま、まぁ次回はね? とにかくいっぱい書けるようタイピング早くしてきましたので頑張りますね(n回目の言葉)