トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
「おーいお兄ちゃん、こっちこっち~」
「おう、待たせた……な?」
バイト先の喫茶店。そこの窓際の日当たりのいいところで小町ともう一人、小町と同じ学校の制服を着た男子学生が対面に座っていた。
「およ? 皆さんも一緒に来たの?」
「まぁな。あとお前に用事があるやつもいるからそのついでが大きいな。……で、そっちは誰だ? 小町の彼氏か?」
「そんなに殺気振り撒かないでよお兄ちゃん。顔面にも狂気がにじみ出ててより一層怖い」
しかしな小町よ。もし万が一かわいい小町が不埒な輩に騙されてたり小町の面倒見の良さを逆手にとって仲を深めようとかする輩だったら危ないじゃないか。だったら先手を取って何かしたらただじゃおかないことを認識させておかないとな。
「それに大丈夫だよ。大志君は友達未満でもし友達になったとしてもそれ以上になることはないから」
「そうか、それならいいが、友達ですらないやつとなんでいるんだ? てか、普通下の名前で呼んだりしないだろ。魔性かお前は」
「やだなぁ、処世術の一つだよお兄ちゃん?」
そんな処世術を自分の妹がしてるのは知りたくなかった。
「比企谷―。アタシ達はテキトーにくつろいでるから終わったら呼んでね~」
「わかった。さっさと終わらせるわ」
「もー、一応真面目な話だからちゃんと聞いてあげてよね」
「へいへい。んで、誰お前」
「は、はいっす! 自分は川崎大志って言います! よろしくお願いしますお兄さん!」
「誰がお義兄さんだぶっ殺すぞ」
「はいはい、話し進まないから余計な茶々入れないでね」
ちっ、仕方ない。小町に免じて少し真面目に話を聞いてやるか。
「んで、相談っていうのはなんだ」
「は、はい。実は俺の姉ちゃんのことなんですけど、帰りが遅くて……」
「帰りが? 何時くらいだ」
「えっと、朝の四時くらいっす」
「朝かよ。遅いとかそういう話じゃないだろ」
「そうなんです。それで、なんでそんな時間に帰ってくるのか問い詰めたことがあるんですけど、あんたには関係ないって言われて取り付く島もない状態になっちゃって……」
「ほーん……。んで、なんでそれが小町に相談することになってんだ?」
「あ、えっと……」
「大志君のお姉さん、お兄ちゃん達と同じ学校の人なんだって」
ほーん、そんなヤツがうちの学校にいるもんなんだな。ただでさえ今平塚先生からの依頼で厄介事を……はて、何かに繋がりそうな情報だな。
「なぁ、他にお前の姉ちゃんについて何か情報持ってないか? 出来ればもう少し詳しい情報が無いと手が打てないんだが」
「そうっすね……。とりあえず姉ちゃんの名前が沙希で二―Eに所属してるくらいですね。あとは……姉ちゃんあてに店から電話が来たことくらいっす」
「……ちょっと待て。二―Eっつたか? んで、店から電話か……」
なんでか都合がよすぎる考えが出てきたな。いや、そうだったらラッキーすぎる。
ちょっと俺だけだと都合よく曲解しそうだし、他のヤツら呼ぶか。
「折本達、ちょっと」
「あれ、もう終わったん?」
「あー、いや、そうじゃなくてな」
大志から得た情報を全員に共有をする。
そこでやはりというべきか、全員あー、といった反応を見せる。
え、何。知らないの俺だけ? そんなに有名人なの?
「川崎沙希さん、ね。確かに比企谷君達と同じクラスね。でも、私はあまり詳しくないのよね。由比ヶ浜さん達はどうかしら」
「えっと、川崎さん、だよね……。私もそこまで詳しくないんだよねー。ほら、川崎さんって近づきにくいオーラっていうのかな、なんかそんなの発してて」
「アタシも喋ったこと無いかも。いつも同じメンバーで話してるし」
「俺も無いな。彼女、寝ているか教室から出てるからね」
「ほーん、よく見てるんだな」
「比企谷が見ていないだけだよ」
ふむ、とりあえず川崎については誰も情報を持ってないってことか。そうなると面倒だな……。
「でも、これでこちらの依頼は一歩進んだわね」
「えっ、どういうことゆきのん?」
「平塚先生からの依頼にあった生徒がその川崎さんの可能性が高いってことよ」
「やっぱそうだよな。よかったわ、雪ノ下も同じ考えなら間違えなさそうだしな」
「……雪ノ下?」
ぴくっと小町が反応する。
う~んとうなったり、首をかしげながら腕を組んだりしているところ悪いが、今はそれは置いといてもらおう。
「とりあえずその川崎に接触してみるか。唯一の手掛かりだし」
「そうね……その前に川崎君、家にかかってきた電話の主は店名か何か言っていると思うのだけれど、覚えているかしら」
「えっと、たしかエンジェル……とかそんな名前だった気がします」
「わかったわ。ならそこから川崎さんが働いていそうな場所を探しましょう」
そう結論付けて次の作業に移ろうとしたその矢先、ここまで珍しく、本当に珍しく静かにしていた三木が左手にスマホを持ったまま静かに――これにも驚いたが――右手を挙げた。
「ごめん、それっぽいお店、もう見つけちゃったかも」
「なん……だと……!?」
右手を差し出され、皆してそれを覗くとそこにはかわいらしいフォントやあらゆるかわいらしさをあしらったサイトが映し出されていた。
端的に言えば、メイド喫茶のホームページだった。
「三木に期待した俺が馬鹿だった」
「ひっどーいなぁ。私マジメなのに~」
「比企谷。言葉を間違えるな。俺達が馬鹿だった、だ」
「刻? お姉ちゃん泣くよ? 容赦なく泣くよ?」
「そもそもなんでこれだと思ったんだよ。もっと他になかったのか?」
「そんなエッチそうな入りの店名なんて他にあるわけ……あったっぴ」
「あんのかよ」
こんどのサイトはさっきのメイド喫茶とは違い、落ち着いたなんとも敷居が高そうな印象を与えるバーだった。
「うん、こっちの方がありえそうだね」
「こんなカッチリしたところで未成年が働けると思うか?」
「年齢をごまかしちゃえば問題はなさそうかも。川崎さんって大人びてる雰囲気あるし」
ほーん、川崎ってそんな感じなのか。
しかし仮にホントに年齢を偽って働いてたりしたらかなりまずいだろ。ヘタしなくてもお店にも迷惑がかかるだろうし、早く手を打たないといけないかもな。
「ねぇお兄ちゃん。さっきからそっちで何の話をしてるの? 小町も混ぜてよ~」
「へいへい、実はな――」
注意:ここから少し長めの後書きです。本編だけ読みたかった人はブラウザバックするんやで。
新年あけましておめでとうございます。なので初投稿です。
新しいPCやらキーボードにうきうきして早く指になじませるためにメッチャ文字打ったりゲームしたりしてます。
さて皆さん、二〇二一年ですよ。あっという間に一年が終わった気がします。そのせいか去年この作品を投稿した話数、十も無い気がします。さすがにやばいわね。
というわけで頑張って終わらせるぞー、おー。的な感じでやっていきたいと思います。
ちなみに、言ったかどうかわからないので念のため言っておきますね。
この作品ではかなりの話が飛ばされます。
すでにあれ? あのシーンは? とかたくさんあると思います。なぜなら一生かかっても終わる気がしないからですね。終わらせなくていいならマジで閑話休題書きまくりますよ? 八折の煮え切らない距離感とかいろいろ書けること多いですし。
でもそれやってたらいずれ俺ガイル熱が冷めて完結までいかなさそうなので、それに関しては別に短編集の方が安全ですわね。
長々と失礼。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。