トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。   作:袖野 霧亜

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たまにラブコメの神様は余計な事をする〜終〜

 昼休みのテニスコート。そこで二人の女学生のよる長いラリーが続く。

 現在、戸塚の練習を俺がメインでしつつ隣のコートで審判を葉山、雪ノ下と三浦の二人がテニスで試合をしている。

 何故こうなったか? 昨日拉致られた時にこの状況を作ってくれって三浦と葉山に依頼されたからだ。理由は知らん。教えて貰えなかった。

 しかしその代わり面倒臭い先生からの許可は自分達で無理矢理勝ち取ったから何も言わない聞かないの方向でいこう。奉仕部として依頼を受ける、そんだけだ。

 

「凄いねー二人とも。最初は雪ノ下さんが勝ってたと思ったのに」

「そうだな。縦ロールなだけあるわ」

「縦ロールって! ウケる!」

 

 ボール出しをしながら折本は気持ち良く笑う。最近昼休みは俺もトレーニングしてるから折本と話すのは久しぶりな気がするな。

 

「あれ、ゆるふわウェーブだけどね。それに優美子だって中学の時女テニで県選抜だし」

「ほー……それを相手にする雪ノ下も雪ノ下でやべぇな。もう雪ノ下雪乃って書いて完璧超人にしようぜ」

「確かにあってそうだけど、ゆきのんって実は方向音痴だからそうでも無いよ?」

 

 雪ノ下雪乃が、方向音痴。

 なんだそのワードは。

 方向音痴ってアレだろ? 地図とか見ても違う道に行っちゃうアレだろ?

 そうか、流石に神様も一人の人間にあれよこれよと才を入れ過ぎないようにしたか。

 

「って、いやいやいやいや。えっ、は? マジ?」

「うん、前にお出かけした時もヤバかったんだから。ケータイ持っててよかったってあの時ほど思ったことないよ」

「なんか意外だね。てか比企谷。これってもしかしてギャップ萌えの一つだったりする?」

 

 そうだと言いたいところだが果たしてどうだろうか。萌えるのは人によって違ってくるし、少なくとも俺はそれで萌えを感じたりはしないのだが。

 

「それにしてもなんでいきなりこんな事になってるんだろうね、比企谷?」

「あたかも俺が全てを知り尽くしているのを理解しながらそういう聞き方をするのはズルいぞ。まぁ知ってるから何も言えないけど」

「昨日拉致られておいて何言ってんの? 全員知ってるっての」

 

 昨日のあれが拉致だってわかってたんなら助けてくれてもよかったのよ? 折本さん? 

 そんなこんなでしばらくすると試合が終わったのか三人がこちらにやってきた。

 その中でも雪ノ下は息を乱している。それに対して三浦はまだまだ余裕がありそうだ。

 

「はぁ……、まったく、なぜ私は三浦さんと試合を……」

「しょ、しょーがないっしょ! あーしも不本意なとこがあるんだから!」

 

 なーにがしょうがないのか小一時間程晒しあげたい。昨日の出来事そのままここで大暴露パーティーをしてやろうか? 由比ヶ浜はちょっと席を外してもらって。

 

「まぁいいわ。それで、結局貴方は私に何をしたかったのかしら? 突然勝負仕掛けてくるなんて。それに比企谷くんにも協力を仰いでいるわね? 狡いわね、貴方達。許さないわ、隼人くん」

「もしかして全ての罪を俺に擦り付けられたのか? 酷いな、ただこの状態を作っただけなのに」

「元凶以外の何物でもないじゃない。それで、目的は何?」

「う、えっと……」

「三浦は由比ヶ浜と戸塚の練習を付き合いたいんだとよ。ずーっとこっちの手伝いで由比ヶ浜をぼはぁっ!?」

「だ、黙ってろし! 勝手に言うなし!」

 

 み、みぞおちがっ! 三浦の肘鉄が綺麗に決まった!

 

「三浦さん?」

 

 ぞわっと辺り一帯に冷たい空気が流れる。

 あ、あの雪ノ下さん? 如何なされたのですかそのように殺意の波動を(あらわ)にして。 

 

「ひっ」

 

 ちょっとご覧なさいよ。あの三浦が捕食者に狙われる小動物のように怯えて震えておるわ。

 そんなこと知ったことではないと言わんばかりに雪ノ下はくいっと「体育館裏に来いや」と言わんばかりのジェスチャーを交えながらこう告げた。

 

「ちょっとお話、しましょう?」

 

 葉山に助けを求める三浦の声が遠ざかっていく。が、当の本人は薄い笑みを浮かべながら手を振っていた。

 ……雪ノ下、怒りすぎだろ。本気でやられたわけじゃなくて入ったところが悪すぎて痛がってただけなのに。

 

「まぁいいか。練習するか戸塚」

「う、うん。なんかすごかったね。でも雪ノ下ってすごいね。誰かのためにあんなに怒れるなんて」

「戸塚、雪乃ちゃんの場合は少し強すぎる質があるからあまり参考にしない方がいいよ」

「さすがにあそこまでは無理だけど、僕もあれくらい」

「安心しろ戸塚。その前に俺がどうにかしてやるからな。お前はお前のままでいてくれ」

「比企谷くん……」

「比企谷……」

 

 おい、二人してなんでそんな目で俺を見るんだ。まるで「そこは折本に言えよ」と言わんばかりではないか。いや、実際そんな視線なんだろうけど、多分俺より折本の方が強いからなぁ。言うに言えない。

 もちろん、アイツに何かあれば俺はあらゆる手段を用いて折本に危害を加えた奴を処断するつもりではある。

 

「さて、比企谷の残念さの弄りはこれくらいにして練習しようか。それとも俺と比企谷で試合してみるか?」

「やめとく。それより雪ノ下はなんであんなテニス出来るんだ? 由比ヶ浜も言ってただろ。県選抜だったんだろ、三浦」

「ん? あぁ、彼女は負けず嫌いだからね。負けは認めるけど負けることを許さないって感じかな」

「あ、わかる! ゆきのんとジャン負けで飲み物買いに行くのやろうとしたら一回拒絶されたけど、『自信ないんだ?』って言ったら乗ってくれて!」

「結衣……お前……」

「それでゆきのんが勝ったら無言でガッツポーズしてて! あれ可愛かったなー!」

 

 めっちゃいい顔で言ってるけど、雪ノ下に聞かれたら怖いな。

 

「ま、まぁそんな事でだいたいの事なら雪乃ちゃんに出来ないことはないよ」

「ほーん、それで県選抜の三浦とテニスでギリギリで勝ったのか?」

「雪乃ちゃんは三日でなんでも出来るからね。でもその分長続きしないからスタミナが無くてね。勝ったのも負けず嫌いが出てきて無理矢理身体を動かしてたものさ。それでも今の体型を維持するためのランニングだけはしてるからそのお陰である程度粘れたかな?」

 

「負けず嫌いが無かったら負けてたってわけか」

「そうなるね」

 

 

 そんな会話をしてながら戸塚の練習をしばらくした後、スッキリした顔の雪ノ下が暗い顔をした三浦が連れてこられ、しばらくしてその日の練習は終わった。

 ……のだが、着替えから中々戻ってこない折本に痺れを切らして折本がいるであろう奉仕部に向かった。

 

「おい折本。そろそろ行かないと授業に遅れる──」

「──へっ?」

 

 そこで見たのは折本のお着替え姿。

 出るところはしっかりあるのにウエストは締まっている。いいプロポーションをしていると誰に対しても言えるだろう。

 しばらく時間を忘れその姿に目を奪われているといち早く正気に戻った折本が言った。

 

「ひ、比企谷の変態! まだそういうの早いでしょ!」

 

 なぜ持っているのかわからないがテニスのラケットがガスっと頭にクリーンヒットした。

 その衝撃に耐えきれず俺はぐふっと声を漏らし肢体を廊下に付ける。

 それと同時に急いで扉を閉めに来た折本を最後に、俺は気を失った。

 

 ……なんだよラブコメの神様。たまにはやる時はやるじゃないか。




八幡お誕生日おめでとう!!!!(二日遅れ)
はいどーも、主の霧亜です。八幡の誕生日、間に合いませんでした( ºωº )ツラヒ
とは言え頑張って今日書ききった俺偉いってことで許してくだちい!


感想とか高評価とかよろしくお願いします☆

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