トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
「──貴女、うちの部員じゃないわよ?」
折本とのデートを終えた数日後、奉仕部部長こと雪ノ下雪乃は依頼者を連れてきた由比ヶ浜結衣にそう告げた。
えっ? コイツ部員じゃなかったの? てっきりもう入部してるもんだと思ってた。
雪ノ下に確認するようにアイコンタクトをすると呆れるように首を縦に振る。うっそだろお前。テンプレ的にもう部員として認められてるものだと思ってたわ。
「私部員じゃないの!?」
「えぇ、だって入部届け貰ってないもの」
「あぁ、そういえば貰ってないな」
なんということでしょう。由比ヶ浜は由比ヶ浜で入部の手続きすらせずこの部室にいたらしい。いや出せよ。部活したことないのかお前。
これに由比ヶ浜はノートを破って可愛らしく「にゅうぶとどけ」と名前を書いて雪ノ下に渡し、晴れて奉仕部の部員となった。
頼む由比ヶ浜、せめて入部届けくらい漢字で書いてくれ。うち一応学力的にはかなり高い方なんだから。どれ位かって言うと俺が数学と文系からみたら複雑な計算をしてる物理の問題を諦めて他の科目で点数取らないといけないレベル。なんか余裕そうに聞こえるって? ははっ、ミキーズブートキャンプの弟版を舐めるなよ? 数学とかを諦めるかわりに他の教科を強化しまくってたからな。どれくらいやるかっていうとあらゆる教材を初見で満点レベルにまで押し上げられるくらいにはやらされるぞ。
それでも取れない点数があるのは教師の好みがテストに反映されているからであって、もし俺達生徒が点数を取れないのだとしたらそれは教師の問題の出し方が悪い。ただし、由比ヶ浜を除く。
「……確かに受け取ったわ。由比ヶ浜さん、貴女を奉仕部に歓迎するわ」
「結衣、とりあえず小学生の勉強から頑張ろう、な?」
「隼人くん酷いしー!」
葉山が正しい。少なくとも「入部届」は小学生でも習う漢字だ。
思ったのだが、由比ヶ浜はもしかして九九の七の段も言えない可能性が……。無いよね? いやでも最近だとたまに言えてない人とかいるし。
近いうちに刻に頼んで勉強会開いてもらおう。
「あの、比企谷くん、だよね?」
由比ヶ浜に軽くひいていると、由比ヶ浜が連れてきた依頼者で俺と同じクラスの男子生徒、戸塚彩加が話しかけてきた。
今知ったが、戸塚はこんなにも可愛らしい見た目と仕草をしているが、男だ。同じクラスでもいつも折本達とずっといたし、体育も基本材木座としか組んでなかったから知らなかった。こらそこ、クラスメイトの事くらい覚えておけとか言わない。あまり話さないやつの名前とかだいたい覚えてないだろ? つまりそういうことだ。
……いや、まぁ性別間違えてたは流石に悪いと一瞬思ったけど、この容姿を見たら誰もが間違えるに決まっている。新しい性別として認められてもいいくらい。
「あぁ、すまん。折角来たのに放置は良くないな。とりあえずここに座っててくれ」
戸塚用に椅子を用意してのんびりしてもらう。まったく、由比ヶ浜には困ったものだなぁ。自分で連れてきておいてほったらかすなんてな。まぁそれ以前の問題ではあったが。
「ごめんなさい戸塚君。それで依頼とは何かしら?」
「あ、うん。実は──」
次の日の昼休み、葉山を除く俺達奉仕部と折本達がテニスコートに集まっていた。
というのも、戸塚からの依頼はテニス部を強くして欲しい、との事だった。
しかしそれは奉仕部の領分では無いし、そもそもそんな事同じ学生の俺達に頼むようなことでは無い。
なので妥協案として戸塚のみを強化し、他の部員達のカンフル剤になる事で戸塚も納得した。
ちなみにその妥協案を導き出したきっかけを作ったのは由比ヶ浜だ。あれは怖かった。本当なら受けようともしなかった雪ノ下に対して挑発とも取れる発言をしてこの状況に仕立てあげたのだ。結果オーライもいいところだけどな。怪我の功名ともいう。
ついでに奉仕部メンバーと三木ブラザーズを抜いたいつものメンツが戸塚と一緒にトレーニングする事になった。一人でやるよりかはモチベーションが上がっていいらしい。
「それでは戸塚君の強化訓練を始めるわ。安心なさい、死ぬ一歩手前を常に攻めるだけよ。死にはしないわ」
「死にはしないけど死ぬほど苦しいってなんだよ。新手の拷問だろ」
「平気よ。皆でやれば怖くないわ」
残念だったな雪ノ下。三途の川を渡るのは皆がいても怖いぞ。
「ふっふっふ! その程度の拷問で我がどうこうなると思うなよ! 一時期三木殿に死ぬまでしばかれたのだ……うっ、頭が……」
「おい姉貴。材木座に何を施した」
「つーん」
本当に材木座の身に何があったのか凄い気になる。
「えっと、雪ノ下さん? それって私達もやらないといけないかな?」
おずおずと仲町さんが聞く。いや、さすがに女子もそんなキツいメニューこなせとか鬼畜じゃないか。
雪ノ下もそう思ったのか、筋肉痛にならないギリギリのメニューを作り提示していた。そして上手いこと口車に乗せ、一緒にトレーニングする事になった。由比ヶ浜がめちゃくちゃやる気に満ちていたが、何言われたんだ?
ちなみに折本だけは戸塚と同じトレーニングをするようだ。日頃趣味のサイクリングで体力があるので出来なくは無さそうだが……。
「ペースが遅れてるわ。常に一定のペースを意識して走りなさい。全てのスポーツに言えるけれど、序盤に飛ばしすぎて終盤バテて動けなくなるなんていうのは愚かしいわ」
「う、うん!」
「比企谷君もよ。もっと姿勢を起こしなさい。肺が潰れて息がしにくくなるし、足を地面につく時に余計な体力を使うわ。短距離走やシャトルランでやるならいいけれど、今は長距離走をしているの。まだメニューが残ってるのだからもっと効率良く動きなさい。すぐにバテても知らないわよ」
「お、おう」
「ざい、さいつ……? 財津君は流石ね。死ぬまで扱かれてただけあるわ」
「そろそろ我の名前覚えぬか! 我の名は材木座義輝である!」
男子勢と折本は雪ノ下に後ろから追いかけられながら走り続けている。つくづく思うが、折本の趣味に付き合っててよかった。あれが無かったら最初から運動部のメニューに付いていくとか無理に決まってるからな。
「ねー比企谷。これいつまでやるの?」
「確か、コート外を十周、だったか。まぁ、昼休みだから、そこまで長くやれんだろ」
息たえだえで話すのがキツいのに対して折本はピンピンしている。俺より体力のある彼女。とんでもねぇな。
俺ももっと鍛えた方がいいのかしら? いやでも最近男より男らしい女とか、そんな感じの漫画も需要あるしそれもいいかもしれないわけないか。俺の場合は誰得な状態になってしまう。しばらくしっかり鍛えておくか。
「……しかし刻と三木はどこ行った。さすがに顔くらい出すと思ったけど姿が見えねぇな」
「雪ノ下さんに見つかったらやらされる決まってるって言ってしばらく姿隠すらしいよ。どんだけやりたくないんだしウケる!」
「こんな時でもウケるお前すげぇよ……」
若干疲れててもう話したくねぇぞ。十周だからって甘くみてたら痛い目見るぞ。死ぬギリギリを攻められてるんだから余裕綽々としてられるわけが無い。しかもこれ終わったら筋トレとかあるんだぞ。明日動けれたらいいな……。
「さぁ、覚悟なさい。トレーニングは始まったばかりよ。一日二日だけで終わらせたりなんかせず、長期間で行うものだと思っておきなさい」
……誰か助けてー!
どうも皆さん、最近の投稿スピードを考えると結構早いんじゃないかと思ったけどそうでもなかった、主です。
実は書き出し祭りの原稿に書き直し箇所が大量発生して書き直してたりなんなりしてたら意外と手間取ってしまったり八幡達のキャラを忘れたりしてヤバい状態になってました。
でもまぁここから更に大きく改稿する所は無いはずなのでこっちメインにしばらく戻ります、と言いたいところだったのですが! 一次創作を一から作ろうとしていまして、そちらも書くのでどうなるんでしょ? まぁあまりこちらの更新が遅くならないように頑張ります。
次はとうとうあの回です。ご存知の方はもうおわかりですね? そしてついでにサブタイでなんかしらやるのはわかりますね? はいそうですね。さすが私の読者達。わかってらっしゃる(話を聞かないスタイル)。
ところで前回投稿した分から総合評価見たんですけど、100近く上がってるんですよね。やっぱり皆さん八折のイチャイチャ見たいんですね! 俺も見たい!
さて、これくらいでとりあえず終わりにしておきますか。また、感想やお気に入りに追加、投票等などどしどし募集しておりますので! してくれると嬉しいなっ!
というわけでここまでお付き合いありがとうございます。次回まで首を長くしてお待ちください。