トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。   作:袖野 霧亜

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デートがデートぽくないっていうのは言わないお約束。

 休日。

 それは学生だけでなく社会人でも持てる権利の一つである。国民の義務の一つ、労働から解放される唯一無二の日でもあり、言ってしまえば砂漠の中のオアシスのような存在なのだ。誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。なんのネタだったか。このセリフの共感性が強すぎてタイトルとそこのシーンだけだけが抜け落ちてる。

 それはともかく、俺が言いたいのは休日とは家でゴロゴロして、飯食って、趣味だのなんだのをして、夜には寝る。これこそが休日の模範であるはずだ。決して、働く日などではないんだぞ母ちゃんと親父よ。ホントに最後顔合わせたのいつだよ。俺が遅くに起きるのがいけないのかもしれんがもっと休んでくれ。ん? そしたらその分給料減るから小町の小遣い無くなる? いや、それでもいいよ俺が減った小町の小遣い分出すから。

 

「比企谷ー。そこの漫画とってー」

「ほいよ」

 

 俺のベッドの上を占拠している彼女、折本かおりに言われた通りのものを手渡す。

 おや? 少し待てよ。先程の高説とは違うことをしているじゃないかと感じるがそれは違うぞ。コイツは邪魔じゃないし寧ろ必要だ。

 ……うるせぇいいんだよ。これ以上の議論はいらねぇよ。

 

「さんきゅー」

「ていうかお前最近ウチに来すぎじゃねぇの?」

「ダメ?」

「そんなわけ無い。いつでも来いな状態だけど」

「ひひっ、ならいいじゃーん」

 

 やだ可愛いこの子。食べちゃいたいくらい。まぁ手を出した事一回もないけどね。なんならまだキスとかした覚えがない。

 はいそこ、ヘタレだのなんだの言うんじゃありません。確かに付き合ってから三年は経っている。

 よく考えてみろ。俺と折本が他のカップルのようにめちゃくちゃイチャイチャチュッチュしてる所を想像出来るか? 俺には無理だ。そもそもそういうのが目的で付き合ってるわけじゃないし、折本もそれ目的で付き合おうとしてくる男が嫌いだしな。

 だから俺は折本が望まない事やして欲しくないことはしない。いや、してって言われても出来る自信ないけど……。だからヘタレとか言うなよ。自覚してるからそれくらい!

 

「んー、っはぁ。でもやっぱりずっと家の中にいるのもアタシらしくないし、ちょっと外行かない?」

「別に構わんが、サイクリングでもするのか?」

「それもいいけど、今日はまた違うことしよーよ」

「違うこと? サイクリング以外で身体動かすのってバイトか体育くらいだろ」

「ウケる! もっとあるっしょ色々」

 

 そう言われても特に何も無い気が──。

 

 

 と、言うわけで来ましたららぽ。

 違うんだ。あまりにも他に行く場所がなくて結局ららぽになったとかそんな理由じゃないんだ。僕はそんな理由でここに来たんじゃない信じてくれよォ!

 

「いっやー、やっぱり大きいよね〜」

「だな。どうする? 帰るか?」

「来てすぐ帰るとかまじウケないわ比企谷」

「冗談だから。冗談だからその眼差しを俺に向けるな」

 

 中学時代の俺より酷いぞその目付き。軽く人を数人殺ってる目だよ。俺はそんな子に育てた覚えはありませんよ! いやまぁ俺のせいなのは認めるけど。だからと言ってこうなるとは思わないじゃん? っていう認識がダメなのか。

 するつもりはなかったはあらゆる面で言えるけど、こっちはそのつもりがなくても相手からしたら十分に影響があるんだから。雪ノ下と葉山、そして折本が俺にとってはいい例になる。俺は将来に渡りこれが教訓になるだろう。

 よし決めた。もう二度とそんな目をさせない、というかやり方を忘れるレベルにまで落とし込めるよう努力しよう。その力が俺に備わっているはずだ! 頑張れ俺!

 

 

 

「──いいかしら折本さん。比企谷君は捻くれているからこそ輝いているのよ。そこを間違えてはいけないわ。個性として認めて、受け入れるのが大事なの」

「えー、でもアタシにはそーゆーの見せてくれないんだもん。中学の時に物事は素直に言うように頼んじゃってるし」

「あら、貴女はまだ気づいていないようだけれど彼は貴女といる時でもたまに捻くれているわ。それに気づけたら貴女、更に比企谷くんにのめり込めるわ」

「雪ノ下さん彼女のアタシより比企谷のこと理解してるのウケるんだけど!」

 

 どうしてこうなった。

 おかしい、俺と折本でデートをしていたはずだ。それなのに何故カフェに入って雪ノ下が折本と俺の話をし始めているんだ。止めろお前ら。無駄に俺の事で盛り上がるな。

 

「相変わらず人気だな比企谷」

「一部にはな。てか葉山、お前も止めろよ」

 

 雪ノ下はお前の連れだろうが。何こっちの連れと会話に花を咲かせてるんだ。はよ連れてけ。

 

「いいじゃないか。二人ともなんだかんだ楽しんでるみたいだしね」

 

 そういう問題か? まぁそういう事にしとこう。

 

「ところで比企谷。かなり踏み入った事を聞いてもいいかな?」

「……んだよ」

 

 砂糖マシマシにしたコーヒーを軽く飲みながら答える。うん、美味しい。たまに飲むマッ缶以外のコーヒーも悪くないな。一番はMAXコーヒーの一択だけども。

 

「折本さんとはどこまで進んでるんだい?」

「んごひゅっ」

「うわっ! どうしたんだ比企谷」

 

 どうしたもこうしたもあるかよこの野郎……。踏み入りすぎだわもうちょい引いた話かと思ったのにそこ突いてくるか。

 

「……なんでもない。んで、どこまでって何の話だよ」

「わかっているくせにとぼけるのは良くなと思うぞ比企谷」

 

 はいそうですよね。わかってました。

 

「私も気になるわ折本さん。比企谷君とはどこまで進んでいるのかしら?」

「あ、あー。その話題はちょーっと待って欲しいっていうかなんというか……」

「? 歯切れが悪いわね。……まさか行けるところまで!?」

「ッ!? ゴホッ、ケホッ!?」

「飲み物だ、飲め」

 

 雪ノ下め……。まさかそこまで聞いてくるとは予想外だ。

 そもそもこの二人結構グイグイ来るな。何? 意外とこういう話お好きなの?

 

「……ふぅ、あのさぁ雪ノ下さん。アタシと比企谷がそこまで行くと思う?」

「ごめんなさい。私が悪かったわ」

 

 謝罪が早すぎやしませんか雪ノ下さん。そして謝罪には何が含まれてる。違うぞ、俺がヘタレだからとかそういうんじゃないぞ! 断じて!

 嘘です結構そんな所ありますでもしょうがないじゃん! なんなの、いつもイチャついてるところ見せてるリア充! 出来る気しないんだけど!

 

「そうか……。君はまだ経験が無いんだね……」

「何安心した顔してんだお前。マウント取れるポジションが見つけれてよかったってか?」

「そんなわけないだろ。俺だって経験ないんだから。」

「さいですか」

 

 そういえばコイツらなんで二人でここにいたんだ? もしかしてデー、あれ、なんだろ? 身体が震えてきたよ? これは……恐怖? 

 得体の知れない感情から逃げるように葉山達と他愛もない話を少ししてから二人と別れる。

 俺と折本はデートを再開させるが、その間俺と折本の間にすっごーく気まずーい空気が漂う。

 やっぱりさっきの話を思い出してるからだな。今までそういう事を考えてなかった、いや考えようともしてなかった。それで余計な思考がそっちに向きまくって意識がいってしまう。

 

「…………」

「…………」

 

 帰り道も言葉が少なくなっております。あかん、このままだとこの空気に押されて天照大神みたいに家に引きこもっちゃう!

 冗談はさておき、ホントにどうしてくれんのこの空気。原因葉山だろ何とかしてくれよ葉山ぁ!

 

「…………」

「……折本」

「……何?」

「葉山の言ってた事、気にしてるか?」

 

 馬鹿じゃないの! 沈黙が嫌だからってその話題をここで振るのか俺ぇ!

 で、でも今出せる話題がこれしかないんだからしょうがないじゃん。うん、俺は悪くない。

 

「あー、うん、ま〜、ね? そりゃあ気にするところもあるよ。比企谷のこと下の名前ですら呼べれるようになってないし」

「それは俺もだ。なんやかんやでズルズル来ちまったし」

「だよねウケる」

 

 ウケるポイントがあったようでよかったよ。

 

「でもさ、やっぱりこんな感じでもアタシ達付き合ってるわけじゃん? 良く言えば健全なお付き合いってやつだし、悪く言うと」

「──別にいいだろ。悪く言わなくても」

 

 折本のネガティブな発言を遮るように言う。

 何でもかんでも悪い方に考えを持っていくのは良くない。いや、少し言い過ぎた。正しくは全てを悪いように言い換えるのは良くない。

 折本は、いや俺もか。俺達は今の状態が良いものか悪いものかわからなくなっているだけだ。

 それでも、

 

「それでも、今の状態が良くないって言うなら待っててくれ。急に変わると俺も怖い」

 

 これが俺の答えだ。もちろん折本が拒否するなら俺も覚悟を決めよう。

 

「……ん、そっか。だよねー! いやー、やっぱそう言うと思ったし! ウケる!」

「そりゃよかったよ」

 

 折本かおりにあんな顔は似合わない。もしもそんな折本をそのままにしているようなら俺はめちゃくちゃにされるだろう。主に三木とかに。

 ……違う。そんなことは関係無い。俺は折本の彼氏なんだ。それで、折本のいつもの姿が好きなんだ。

 だから、俺に出来る事ならそれを守りたい。それだけなんだ。

 こんな事ですら誤魔化す程に捻くれていたのか俺は。ちょっと、いやかなり酷い。気をつけておかないといけないな……。多分無理だろうけどな。

 

「それじゃ比企谷。また学校でね」

「おう、またな」

 

 いつの間にか折本の家の前に着いてしまった。気まず過ぎて道とかその他もろもろが気にならなすぎてしまっていたらしい。家に着く前に解決できてよかった、と思おう。

 さて、俺も帰るとすっか。

 

「あ、ちょっと待って」

「ん? なん──」

 

 ちゅっ、と可愛らし音がした。俺の頬から……ッ!?

 

「おっ、おま!」

「ひひっ、じゃーねー!」

 

 折本を呼び止める前にさっさと家の中にはいられる。

 ……えっ、今俺キスされた? 折本に?

 自覚すると徐々に顔に熱が溜まっていくのがわかる。うわっ、ここまでなるの初めてか?

 ……帰ろ。もうこれ以上考えてたら遅くなる。

 

 

 

 

「…………」

 

 ぼふっと自室のベッドに着替えもせずにダイブ。

 そして枕を抱き寄せ(うずくま)る。

 …………。

 

「う、ううあぁぁぁぁぁぁあああああ……」

 

 ヤバイヤバイヤバイ! 何やってんのアタシ! あんな事やるつもり無かったのに!

 じたばたとのたうち回る。疲れては休憩し、思い出して脚をばたつかせる。

 くぅ、恥ずかしい。なんであんなことをしちゃったのさ……。

 もういいや。これに関してはまた別の日のアタシがどうにかしてる!




うるせぇ、折本かおりと比企谷八幡のイチャイチャとか思いつくわけねぇだろ。

どうも。格上の物書きさんに揉まれ頑張って教えられたことを身につけようとしている霧亜さんです。

今回は八折イチャコラ回でした。前回そういう風に後書きで書いたはずなんだけど忘れててそのまま物語を進めようとしていました(笑)。

とりあえず今後は書き出し祭りが終わったら出してるものを連載するようになった(自ら嵌められた)と替わりばんこで更新する予定になります。それまではこちらをメインで書いていきます。面白そうだお、書き出し祭り。プロも紛れ込んでるからヤヴァイ祭りなので今のうちに調べておいてください。

そんな訳で後書きもここら辺で終わらせます。次回も首を長くして待っててお。

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