トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
昔、と言っても俺が小学生の頃だった。
その時の俺はまぁまだ目は腐っていなく、純粋なヤツだった。特に変わらない、そこら辺にいる子供とだった。
平和で平穏で悪意も欺瞞も無い普通の日常を送っていたが、そんな日常は俺の知らないところで綻びを見せ始めていた。まぁ端的に言えばイジメだ。無論俺が受けているわけではない。俺ではなく、同じクラスにいた女の子だ。ソイツはとにかく男子からモテる。クラス外でも人気で更にイケメンで幼なじみの男子がいる。なんでも出来てしまい容姿端麗であるため俺も多少他の女子より気になっていた。仕方ないよね、男の子だもん。
まぁこんな女子がいるなら妬みや
最初はたいして酷くないものだった。しかし何もアクションを起こさない少女にイラついたのかだんだんイジメのレベルが上がっていった。それでも何もしない少女に味を占めたのか更にエスカレートしていく。
ついには幼なじみのイケメンな男の子も気づいて注意した。
しかしそれは逆効果に終わり、表面上終わっても裏ではドロドロとした物が女の子に絡みつく。
テレビで誰かが言っていた『イジメは無くならない』という言葉を思い出した。まさしく今の状況がそれだ。
ちなみにイケメン君はもうイジメが終わったものだと勘違いをしているため笑顔で友達と遊んでいる。
もうヤツには期待出来ない。
かと言って先生に言ったところで口頭注意がせいぜいだ。これもテレビで得た知識だが、下手に手を出しても悪化させるだけかもしれない。
ならば俺も見て見ぬ振りをしようと思った。
そう、思っていたんだ。
ある日、俺は教室に宿題を忘れてしまい帰り道を逆走していた。たしかその日の宿題は算数だった気がする。まぁ俺の苦手科目だったというのもあるが、この後に見た光景と一緒に覚えていた。何かを覚える時は他に印象強いものと一緒に覚えると良いというのもこの時に学んだ。やったね。
教室に入ろうと扉に手をかける寸前、中からすすり泣く音が聞こえた。
ゆっくりと扉を開けて除いてみる。そこにいたのはイジメにあっていた少女だ。
何かを探しているみたいだが、おそらく誰かにその何かを隠されたのだろう。
しかしその時の俺はそんなことはどうでもよかった。
俺が一番目がいったのはその女の子の泣いた顔だった。
俺は勘違いをしていた。
イジメをしているヤツらを決して気にしていないわけではなく、何も出来ずにいたのだと。
今思うとこの頃の俺って愚かすぎないか? この程度のことすらわからなかったわけだし。
教室から離れ階段の踊り場に移動する。そして俺はあの子が置かれているあの現状をなんとか出来ないか考えた。
しかし、考えたからといって俺に何が出来る? 恐らく俺には何も出来ない。
誰も傷つかずにイジメを終わらせるなんてことは不可能に近い。いや、近いではないな。不可能だ。俺は知っているはずだ。『イジメは無くならない』と。
それでも俺はあの子がもうこれ以上苦しまずに済む方法はないか一生懸命に考えた。
考え抜いた結果この時の俺には最高の一手、今の俺には最悪の一手となっているが一つだけアイディアが出てきた。
あぁそうだ。あの子に向いている悪意を代わりに俺が受ければいいんだ。