トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
折本を我が家に招き久々に小町以外の人と晩餐をすることになった今日。料理を担当するのは俺だ。
あれ、俺が作るのか? 折本に? ハードル高ぇなオイ。
「おじゃましまーす」
「それじゃあお兄ちゃん。腕によりをかけて作ってね! 小町はかおりさんとお部屋でお話してるから!」
リビングに入ってすぐに小町はお兄ちゃんを手伝わない宣言をし、それを涙目ながら引き受ける俺の図。まぁ別にいいんだけどね? でもせめて俺の目の届くところのいて欲しかったな。
「え、ひき───八幡が作るの?」
「まぁな。まだ小学生の小町に料理作らせて包丁で指とか切っちまったら俺は罪悪感に押し潰された後、親父にオーバーキルされた後で母ちゃんに死体撃ちされるからな」
「へー、そうなんだ」
無関心な返事ありがとう。おかげで俺の心へのダメージが増し増しになったよ。
「まぁその分小町には洗濯物を干してもらうという重労働をしてもらってるからおあいこなんだよ」
「つまりそれ以外はひ、じゃなくて八幡の仕事なの?」
「そうだな。ていうか、無理して下の名前で呼ばなくてもいいぞ」
呼びなれてない分俺も少し恥ずかしいし。
「えー、せっかく恋人同士なのにー?」
「とは言ってもな小町よ。もしお前に好きな人が出来てソイツと付き合うことが出来たとしてソイツを下の名前でいきなり呼ぶことできるか? まぁそれ以前に俺がソイツぶっ飛ばすけど」
「うーん、まぁそうかもしれないけど……。あと最後のはいらないよね?」
「最重要項目だ」
家の天使を誰があげるかってんだ。お兄ちゃん許しませんよ!
「比企谷ってシスコン?」
「断じて違う。ただ妹がかわいいだけだ」
「やだなぁお兄ちゃんってばそんなこと言われると小町照れるよ〜」
「やっぱり小町はかわいい」
「お兄ちゃん……」
「小町……」
あぁ、俺はなんて素晴らしい妹を持ってしまったんだろうか。俺はコイツのためだけに生きていける自信が──
「まぁ小町はそうでもないけどね」
「ぐはぁ」
小町の攻撃! クリティカルヒット! 八幡は8万のダメージを受けた!
い、今のは本当に心が折れかけた。普通に目の前が真っ暗になったよ? もう少しでショック死するか飛び降り自殺くらいはする可能性もありえないな。小町を残して逝く程俺はクズじゃない!
「……シスコン」
「待て折本。なんでそんな冷ややかな目で俺を見てくる」
「べっつにー? 何も無いし」
いや完全に怒ってるだろ。しかしなんでだ? 何故折本は怒っているんだ? よし、ここは八幡の八万あるうちの1つの特技、『状況整理』をしてみよう。
今は廊下のど真ん中。そして俺と小町がイチャついていた。なるほど、原因まるっきりそれじゃん。
「あー、悪かった。お客さんをもてなす前にこんな事されてたらイラつくわな」
「……別にそんなんじゃないし」
「あーあ、お兄ちゃんってば女心がわかってないなー」
いや、この状況だとそれぐらいしか思いつかないんだけど。え、何? 俺ってそんなに女心わかってない? いやいや、少女マンガも購読している俺にそんな死角があるわけない!
「じゃあ軽く飯作ってるから小町の部屋でくつろいでてくれ」
「ラジャー!」
「あ、私もなんか手伝った方が」
「いいんだよ。客人に手伝わせるわけにはいかん。暇なら小町の相手してやってくれ」
「んー、まぁそう言うなら……」
「じゃあ小町。後は任せた」
はーいと可愛らしい返事を背に台所へ向かう。さて、何を作ろうか。ぶっちゃけまだ時間は沢山あるからなー。あ、折本って好き嫌いあるのか聞くの忘れてた。くっ、八幡、一生の不覚! この程度が不覚になるほど他にやらかした事が無いだけなんだけど。ほら、俺、ぼっちだから。ぼっちだから!
まぁいいや。煮込む系の料理作ろ。材料は──あるな。よっし、愛しの小町と折本のために頑張っちゃうぞ☆ はぁい気持ち悪い。
「よっし、こんなもんか」
現在時刻は七時と少し過ぎ、エプロンをとってハンガーに掛ける。リビングに小町達が居ないことから自室にいるのだろうと思い目的地へ。階段を上っていると話し声が聞こえてきた。何故か俺の部屋から。
は? なんで俺の部屋にいるん? もしかして俺の見てはならない秘密のノートとか探し当てられてそれを肴に話してるのか? そんなことする子には晩御飯抜きだからね! まぁ最終的に小町の上目遣いで許しちゃうんだけど。
『へー、まさか比企谷にこんな趣味があったなんてねー』
『小町もよく借りに来るんですけど、なんで小町よりこんなに多く……』
中からこんな会話が聴こえてくる。おっと、勘違いしないでもらいたい。俺は決して盗み聞きしている訳では無い。ただ中の様子を探っているだけだ。ホントだよ? ハチマンウソツカナイ。
まぁいつまでもここに立っているわけにもいかない。せっかくのご飯が冷めてしまう。意を決して我が城塞へ侵入する!
「おーい、飯だぞ」
「あ、お兄ちゃん。随分長かったね」
「おう。てかなんで俺の部屋に?」
「いやー、暇だったからお兄ちゃんの漫画読もうってことになって」
せめて一言俺に確認しようね? 俺にもプライバシーがあるから。
「あ、比企谷ー! このシリーズ貸してくれない? 意外と面白くてさー」
「別に構わねぇけど、次からは勝手に部屋に入らないようにしろよ?」
「なんで?」
「いやなんでって……」
そりゃあ男の子の部屋って何があるか分かったもんじゃないじゃん? 女の子に見られたらヤバイやつとか。
「まぁいいじゃん。それよりご飯出来たんでしょ?」
「ん? あぁ。今日は小町も好きかもしれないやつだぞ」
「もし小町が好きじゃないものだったらどうする?」
「作り直す」
「食材がもったいないから止めてね? そもそもお兄ちゃんの作った料理で小町が好きじゃないものなんて無いから」
「こ、小町……」
「お兄ちゃん……」
「おーい、私が蚊帳の外で寂しいよー。全然ウケないんだけどー」
「「あ、ごめんなさい」」
「許す」
許しちゃうのかよ。さっきやったら不機嫌になったのにどういうことだってばさ。
「じゃあそれ片付けてから早く下に来いよ。せっかくの料理が冷めちゃうからな」
「「はーい」」
そう言い俺は部屋から出る。さてと、お米をよそったりして待ってるか。ふふふ、あまりの美味しさに悶絶するがいい! ふはははは!
あ、まだ中二病が治ってなかった☆ てへぺろっ☆