トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
おっす! オラ八幡! ヤベェぞ、折本に抱きしめてたところを小町に見られちまった! これから何されっかわかったもんじゃねぇぞ☆
……なんだこれ。どこぞのスーパー野菜人だよ。動揺しすぎて口調変わりまくりじゃねぇか。小町の手に握られてる携帯が気にならないレベル。
「小町、いつから見てた?」
「えー? お兄ちゃんが学校から出てきたところくらいからかなー? たまにはお兄ちゃんと一緒に帰ろうと思って迎えに来たの!」
最初から見てたんだね小町ちゃんよ。ついでに写メ撮りながらつけてきたのか。ということは俺がひざ枕されてたところも撮ったって事だよな? 後で送ってくれねぇかな。
「比企谷、この娘って比企谷の妹なの?」
「ん? あぁ。まさしく俺のかわいい妹、天使だな」
「やだなーお兄ちゃん。かわいいなんて上手なんだからー」
事実だから仕方ないな。うちの家族は全員小町を愛してるからな。なんなら俺への愛も小町に注いでるくらいだ。親父とかマジでそれだ。この頃だと愛が重すぎて小町からウザがられてるからザマアミロとしか言いようがない。小町は俺の妹だ! 絶対嫁にはやらん!
「改めまして、比企谷小町です! 兄がお世話になっているようで」
「あ、折本かおりだよ。よろしくね小町ちゃん」
「はい! よろしくお願いしますかおりさん! ほっほう、あなたが話に聞いたかおりさんでしたか。時にかおりさん、お兄ちゃんとはどこまでいきましたか?」
「……へ?」
ちょっと小町ちゃん? いきなりどストレートすぎやしません? まだ付き合ってから3日目なのよ? 何かあるわけないジャマイカ。
「いえいえ、最近の子どもはこういうのは早いと聞いてますし。それで、どこまで行ったんですか?」
「小町、一応言っておくが俺らまだちゃんと話すようになったの二日前だぞ。何かあるわけないだろ」
「え、それなのにひざ枕とかハグしてたりしてたの?」
地味に痛いところ突いてくるな。確かにさっきのアレを見たらタダの友達とは思わねぇよな。俺だって爆発しろとか思うし。
「ところで比企谷、小町ちゃんに私達の事って」
「いや、まだ話してない。お前の存在を教えたのも昨日の夜だったし」
ヒソヒソと耳打ちをしてきた折本に対して俺も折本の耳に口を近づけて話す。くすぐったいのか吐息を漏らしていたのがエロいと思った俺は正常だと願いたい。
「それでお兄ちゃんとかおりさんはどんな間柄なんですか? まさか未来のお義姉ちゃん候補!?」
「あー、小町? 実はだな」
「私達、付き合っててさ」
「……へぁ!?」
なにその奇声。さすがのお兄ちゃんでも引いちゃうよ?
「ま、まさか冗談半分で言ったのに、お、おおおお兄ちゃんに彼女? 嘘、コレ現実?」
「ん、まぁ現実だと思うぞ」
「……お兄ちゃん、念のため小町のほっぺたつまんで」
「こうか?」
びよーんと小町のほっぺを左右に引っ張る。やーらけー。ずっとやってても飽きねぇ。もう持ち帰っていいか? あ、同じ家だったか。これは失念した。
「ふぅ、夢じゃないみたいだね。ところでどっちから告白したんですか? お兄ちゃんはアレなのでかおりさんからの方が可能性がありそうな感じが──」
「比企谷から告白されたよ」
「…………へ?」
「比企谷から告白されたよ」
「すみません小町の耳はお兄ちゃんの目くらい腐ってきたみたいで、もう一度お願いしてもいいですか?」
「比企谷から告白されたよ」
「…………へぁ!?」
はい本日2回目のへぁ!? いただきました。それより小町ちゃん、俺の目と同じくらい耳が腐ったってどういう事? 耳鼻科に行っても手遅れなレベルじゃないの。
「いやー、比企谷の告白男らしかったよー? ちゃんと面と向かって告白してきたし、そこらの男より遥かにいい男だと思うよ?」
まぁ告白の理由が酷いものなので絶対言わねぇけど。言ったら小町に嫌われる。それだけは絶対に回避したい。
「そ、そうなんですか。やるじゃんお兄ちゃん」
「まぁな」
言えない。この純粋な目の前ではどうして俺が告白したのか絶対に言えない。言ったら確実に侮蔑の目に変わってしまう。もしされたら何もかもを捨てて死ぬかもしれん。
「あ、お兄ちゃんはちょっとあっちに行っててくれない? ちょびっとだけかおりさんとお話したいから」
「えぇ? お兄ちゃんちょっと気分悪くて座ってたんだが……まぁいいか。ならついでに飲み物買ってくるが小町はオレンジジュースで折本は何がいい?」
「え、あ、いいよ別に」
「そうか? なら行ってくる」
折本達から離れてほんの数分。マッ缶を片手に自販機の前でボーッとする。いつもの俺じゃ考えられないシチュエーションだ。平日は寄り道せず直帰するし、土日祝日はよほどのことがない限り外に出るなんてありえないからな。こうやって外でぼんやりする日が来るとは予想もしてなかった。
ところでちょっと席を外してって言われたもののどれくらい待てばいいだろうか。まぁそろそろ行ってもいいだろ。とか適当な判断をして小町と折本用に飲み物を自販機からお金を対価にペットボトルと缶を生成した。これが錬金術だぜ! いや、違うか? 違うな。
「は、八幡!」
戻った俺を待ち受けていたのは真っ赤な顔をして俺の名前を呼ぶ折本の図だった。
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