「フォウウウウ、フォフォフォフォフォオオオウ!」
「あぁ、先輩、フォウさんが…」
あらぶってるね…
ここはカルデアトレーニング室。なぜかルームランナーで延々と走り始めたフォウさんを眺める、先輩と私。
なぜなのでしょうか、フォウさんはたまにこのルームランナーの前に来てはこのように、いつ終わるのかわからないランニングを始めるのだ。
「フォウ。フォウ!フォウ、フォウ!」
……最近となっては、何だか走り方に無駄がなくなってきていた。この前、足を触ったときはかなりがっちりして逞しく…。フォウさんは、一流のアスリートとして目覚めようとしている…?
「な、なに、あのケモノ?頭でも沸いてるの?」
「あ、ジャンヌ・オルタさん。そうでした、ジャンヌさんは初めて見るのでしたね。実は…フォウさんはたまにこうやって突然走り出し「フォオオオオオオオオウ!」…走りだ「フォウフォウフォオオオオオ」」
「耳障りね……それにしても、ここは何?汗臭い部屋ね」
「トレーニングルームですから」
当たりを見回すと、…圧制…圧制…とつぶやきながらベンチプレスを繰り返すスパルタクスさんに、隣でそれよりも、2倍くらい重いバーベルを軽々持ち上げるマルタさん。あ、こちらに気が付いたとたん、バーベルを放り投げました。そして、一番小さなバーベルをわざとらしくも重そうに持ち上げて……それより、マルタさんの放り投げたバーベルが通りかかったドクターに当たって大惨事なのですが……
「…まぁ私には不必要な部屋ね」
「そうですか?あ、そういえば、ここには温水プールもあるんですよ」
「温水…プール?」
「あの、先輩と一緒になんて、恥ずかしいです…」
水着も似合っていると先輩は褒めてくれたが、普段、水着なんてほとんど着る機会がないというのにこんな肌の露出した……え、普段の服も結構ヘソとか出てる?そ、そういうのとはちょっと違うんです!
「へぇ、これが温水プール?ちっちゃな水たまり」
「あ、ジャンヌさん」
お、大きい!?
彼女はセクシーな黒いビキニを身にまとい、ひたひたとプールサイドを歩いてこちらまでやってくる。その間も、揺れる、揺れる。
「くくく、水着姿の私にほの字なのかしら?」
うん、似合ってるよ。とマスターに笑顔で返されると、唇をかみながら目線を逸らすジャンヌさん。同性の私から見ても彼女のスタイルは羨ましい。しかし、ほの字は古いのでは…?
「ジャンヌさんよくお似合いです。あれ、でもその水着は誰が…」
私の用意した競泳用のものと違うようだが…
「当然ジルが用意しました。規則に則った水着なんて冗談でしょう?」
そういって指をさした方を見ると、ジャンヌウウウウと叫びながら応援旗を振るキャスターのジルさんの姿が目に映る。なんでこんなものを彼が?というのは野暮なのでしょうか。
「では、早速泳ぎましょうか。こう見えても、私もくさがめ並みには泳ぎが上手ですから」
「……全然ぴんとこないわ」
意外でした…。
「あぷ!く…」
「おお!?ジャンヌゥ!これを!」
「ジル!……ふん、なによその目。ええ、そうよ、私は泳いだことがない、当然、泳げないわよ。悪い!?」
ジャンヌ・オルタさんは泳ぎが、その、あまり上手ではなかったようです。ジルさんに放り込んでもらった浮き輪に縋りつき、濡れた髪の毛をぶるぶるふるってジト目で私たちの方へとにらんできます。
「そんな悪いなんて…」
「は、そういって内心優越感に浸っているのでしょう。見てなさい、すぐに泳ぎなんて…きゃ」
あ、すいーっとマスターがロープで引っ張って泳いでいます。
「……!!?な、なにを」
浮き輪にしがみついたジャンヌさんをひっぱるようにして、マスターがゆっくりとプールの中を泳いでいく。トナカイ生活の経験が活きていると言っているが、一体先輩に何があったのでしょう。
「…ハ、まぁ良いでしょう。そら、引っ張りなさい、そらそら!」
……まぁジャンヌさんが楽しそうで何よりです。
「ふぅ、プールというのはなかなか悪くないわね」
「はい、ジャンヌさん、水の上に浮かんで気持ちよさそうでしたから」
「何を言っているの、マスターが苦しそうに泳ぐ無様な姿が見られたからに決まっているでしょう」
口の端を釣り上げて、邪悪に笑うジャンヌさん。
しかし、あの程度の労、先輩にとっては朝飯前。
ジャンヌさんに喜んでもらえるならと、マスターも笑って気にしていない。しかし、その言葉を聞いて、ジャンヌさんはぴたりと笑うのをやめて、ふんと口を尖らせる。
「次は一緒に泳げるくらい……」
「え?何ですか?」
「何も言っていません……ではおさらばです」
彼女はトレーニングルームを後にして、その後ろに、ジルさんが続く。
ジャンヌさん…おさらばも、その、何だか古いです……