俺と彼女のハイスクールライフ   作:”アイゼロ”

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はい、どうも。アイゼロです。

長く続いてしまったこのシリーズもついに完結です。長かった…。

約3年ぶりの更新となりました。もうとっくに俺は社会人です。

入籍の流れがありますが、軽く調べた程度なので、実際は違うのかもしれないです。その辺は目を瞑っていただければ。=独身。

それでは、ご覧ください。


最終話:俺と彼女の契約マリッジ

温泉旅行から1週間が経った。夏の暑さは依然と猛威を振るい続け、外に出るとじりじり肌が焼かれているように感じ、セミの大合唱は鳴くことが仕事と言わんばかりに人々の鼓膜を震わせる。2日に1回は熱中症、日射病患者を運ぶ救急車のサイレンが聴こえ、一層体調管理に身が引き締まる。受験生にとって勝負時である夏の中での体調不良は何よりの敵だ。

 

俺と風音含め、彩加達は日々受験勉強に追われ、予備校にも足を運び続けている。それぞれやるべきことをこなしながら、それでも一週間に一度は全員でグループ通話を行い、近況報告や勉強の教え合いなどを行ったりもしている。メリハリ大事。

 

そして俺と風音の誕生日を明日に控えた8月7日。今日は特に授業も無かったのだが、先日行われた模試の結果が今日発表されるため、こうして自習室で勉強しながら待機している。結果だけを貰いに来ているから午前中には終わるはずだ。結果の内容は点数や志望先への合格率等々、進路を決めるうえでの選択肢にもなる。

 

明日の予定としては午前中に婚姻届けを提出し、昼に彩加たちと学校で誕生日会が開かれる予定だ。

 

明日のことを考え胸が躍る中、俺は予備校の自習室で受験勉強に励んでいる。その隣には風音が座っており、俺と同じく胸とシャーペンを躍らせている。

 

しばらくするとお互い手が止まっていた。

 

「どうした?ボーっとして」

「八くんこそ。…ちょっと明日の事考えてて」

「俺も同じだ。どうもソワソワするなこれ」

 

明日の事を考えるとどうにも実感が湧かない。明日結婚するのに普段通り予備校で勉強なんて、もしかしたら世界中で俺達だけ?いや、世界の広さを侮るなかれ。もしかしたら、この予備校に同じような奴がいるかもしれない。絶対にいない。

 

「小さい頃からずっと隣にいたから、いざ結婚となってもあまり実感がないね」

「ああ、俺も同じこと考えてた」

「あんまり意識しなくてもいいのかな。あくまで一つの契約だし」

 

風音の結婚に対する考えが結構あっさりとしていることに少し驚いた。それも相手がずっと一緒にいる俺だからというのも理由の一つかもしれない。

 

「あ、私達の番号呼ばれたよ」

「おう」

 

俺達の受験番号が呼ばれ、結果が書かれた紙を受け取った。

 

「どう?」

「まぁ、こんなもんだろって所だ」

「同じく」

 

俺と風音の志望先である国立大学への合格率はA判定だった。油断大敵に変わりはないが結果自体は申し分ない。次に気になったのは順位だ。この予備校内での順位が書かれている。予備校生の正確な人数は分からないが、その中で俺が11位、風音が9位だった。学校では1位と2位を取っているが、外に出ればこんなものだろう。有名大学等の名門を目指している者がいる中でこれだったら上々である。

 

「引き続き油断せず、だな」

「そうだね。じゃあ、帰って明日の準備しようか」

「おう」

 

 

8月8日午前。

 

入籍の手続きは滞りなく行われ、特に何事もなく俺たちは夫婦となった。前準備を親父とお袋に相談しながら入念の行ったためか、あっさりと終わり、役所を出た俺と風音は未だに実感がなかった。

 

「思ったよりもあっさりだったね。逆に役所の人はびっくりしてたけど」

「態度にこそ出ていなかったけど、年齢見て目が泳いでたな。そりゃ高校生同士だし、結構珍しいんじゃないか?」

 

ちなみに高校生同士で結婚する割合は10%にも満たず、そのほとんどは破局の運命を辿っているらしい。一度未成年の結婚についてネットで調べていたが、大体がそんなことを言われていた。そりゃそうだ。ただでさえ高校から付き合った異性と結婚する確率すら低いのに、心身共に未熟なまま生涯のパートナーを決めてしまえばその後のトラブルなど容易に想像がつく。

 

さも他人事のように言っているが、俺と風音はその未熟の類に入る年齢である。この先なんて、現状大学進学しか見えていない。お互い大学卒業後の目標はあるけど、将来への道までは考えられずにいる。

 

「八くん」

「ん?」

「これからもよろしくね」

「お、おう。そうだな。どうしたいきなり」

「なんか、もっと楽しくなりそうって思って」

「大変なことのほうが多い気もするけど、それも含めて、ってことか?」

「そうそう」

 

風音は満面の笑みで俺に顔を向ける。それは一瞬にして俺の不安を消し去った。その笑顔はカンカンと照っている太陽よりも眩しいものだった。

 

その光は俺の中の不安の雲を振り払われてしまった。この先にある壁なんて余裕で飛び越えられると思わせられるほどに綺麗さっぱりと。

 

「そうだな。俺らなら大丈夫か」

「大丈夫!」

 

 

今日は忙しい日になる。市役所の次に来たのは総武高校。夏休みにも関わらず、校内校外では部活の賑わいを見せている。

 

学校の中は生徒が両手で数えられる程度の人が行き来している。普段多くの生徒が行き来する校内も、長期休暇によって閑散とするこの雰囲気は新鮮に感じられて俺は嫌いじゃない。

 

この後は生徒会室で凛達が誕生日と結婚を祝うために集まる予定がある。この日のために皆予定を空けてくれていた。ありがたい限りだ。

 

そのありがたみを楽しみにしながら、自販機で2つ買ったマッカンを出口から取り出す。もう一つは生徒会室で待っている風音の分だ。

 

「あれ?比企谷」

「ん?…なんだお前か」

「なんだとはご挨拶だな」

 

俺の返事に呆れ顔を見せる葉山。これはまた意外な人物が話しかけてきた。そもそも学校にいる事自体が意外だった。

 

葉山も飲み物を買った後、ちょっと話そうかと促され窓際に移動した。

 

「それにしても奇遇だな。今日はたまたまここに用があってきたんだけど、まさか会うとはね」

「こっちもそうだよ。何の用だ?」

「いや特に何も。友人を見かけたら普通声かけるだろ」

「用無かったら普通通り過ぎるだろ」

「君だって生徒会の友人を見かけたら声くらいかけるだろ?」

「…」

 

まずい、否定できない自分がいる…。確かに葉山とか戸部だったらまだしも、彩加を見かけたら話かける気がする。初めて葉山に言い負かされた気がした。

 

そんな俺の反応を察してか葉山は肩をすくめて笑みを浮かべた。

 

「だろ?」

「うっせー」

 

むかつくが友人を持った今、改めてこいつの言ってることも少しは分かってきた気もする。

 

一泊置いて葉山はもう一度口を開いた。

 

「君には感謝している」

「なんだ急に気持ち悪い」

「酷いな。この1年半のことだ。色々と君に助けられた」

「今更なんだよ。礼ならその時その時にもらってる。それに、結果的にそうなっただけで後はお前が色々動いたんだろ」

 

実際奉仕部に依頼が来たからであり、俺自身が面白そうと思って今まで受けてきたのだ。俺たちの仕事はそこまでで、後々の対処や人間関係の修復で動いたのは葉山だ。だから何度も礼をもらう必要はない。

 

「それでも、俺が変われたのは君がいたからだ」

「わかったって皆まで言うな。それ以上の礼は受け付けんぞ」

「そうか、ならもう言わない」

「そうしてくれ。それと、やっぱ俺の真似はしない方がいいな」

「ああ、もうやりたくないし、なんだったら文化祭以降そんなことしていない」

「そもそもあんな状況になること自体早々ないだろ」

 

文化祭で起きた相模実行委員長失踪事件は、葉山の機転によって事なきを得た。その方法というものが俺が小学生の林間学校で実施した、残酷な選択肢を迫り、恐怖を煽るという方法だった。あの時とは状況が違うのによく応用したものだと思ったが、何よりも葉山がそれを実行したことに驚いた。当時や今の様子を見るに不本意極まりないと言った様子である。あの時妙にすっきりした顔をしていたくせによく言うよ。

 

マッカンを一口飲みこみ、俺は口を開いた。

 

「まぁ、そうだな。俺も、お前には改めて礼を言いたいとは思っていた」

「…君がお礼?」

「おい」

 

何故か疑惑の目を向けられた。ちょっと失礼すぎやしませんかね?なんか前にもこんなやり取りがあったような気がする。

 

「俺が生徒会長になれたのはお前の力があってこそだった。それに、お前は俺に何度も助けられたと言ったが、実際お前の協力がなきゃ解消できない依頼もあった」

 

チラリと葉山を横目に見ると、ぽかんと放心状態のような表情をしていた。

 

「いやいや、それは君に助けられたお礼で手伝っただけだよ」

「それでもだ。お前が俺のおかげで変わったように、俺もお前がいたから変われたんだ。だから、サンキュ」

 

葉山は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。我ながららしくない事を言っていることは自覚している。前の俺ならこんなことを言った日にはきっと枕に顔をうずめて悶絶するだろう。…いや、ちょっと嘘だ。実は今結構恥ずかしい。なんだったらやっぱり言わなきゃよかったとすら思えてきた。うわ恥っず。

 

「らしくなかったな。忘れてくれ」

「そう言って忘れる人を俺は見たことないよ。それに、比企谷から意外な言葉を聞けたからな。忘れないよ」

「チッ、やっぱお前性格悪いわ」

「お互い様だ」

 

今までを振り返ると、こいつとは何かと奉仕部を通じて一緒に行動することが多かった。普段机に突っ伏していた俺と常に周りに人がいた人気者が、今となってはこういう小突き合いや冗談を言い合うような関係になった。

 

片手にもう一つ持っていたマッカンを思い出した。

 

「そろそろ行くわ」

「ああ、時間くれてありがとう。それと、誕生日おめでとう」

「……おう」

 

何で知ってんだよ。教えたことあったっけ?

 

 

『誕生日と結婚おめでとうー!』

 

3人の祝言とパンッと軽快なクラッカーの音が生徒会室に響いた。その次には拍手喝采。そのスポットライトに当たる俺と風音は、誕生日のほかに今回は結婚ということもあり妙な照れくささがあった。

 

乾杯をして皆一口ジュースを煽った後、凛が口を開いた。

 

「まさかこんなにも早く同級生に結婚おめでとうって言うとはね」

「しかも学校で」

「本当、おめでたいよね。僕の方は八幡と2人で話した時に聞いてたけど、未だに実感がないよ」

 

何故か俺らよりも感慨深げに溜息を吐いた。

 

「実感ないのは私たちも同じかなー。え?私本当に苗字変わったの?って」

「いやだってまだ結婚して全く時間経ってないじゃん」

「…確かに」

 

確かに実感がないと言えば、正直全くない。

 

そもそも人が結婚したと実感するときはどんな時なんだろうか。やはり結婚式や指輪なのだろうか。だとすると、まだまだ先だな…。一体何年後だっていう話だ。学生生活まだまだ続くぞ。

 

「じゃあ、ここでプレゼントターイム!はい、これ私たち3人から」

「え、マジで。おお、ありがとな」

「みんなありがとう!開けてもいい?」

「いいよいいよ。開けちゃって」

 

凛が一瞬その場を離れて持ってきたのはラッピングがされた箱だった。

 

開封の許諾を得た俺たちは、まずラッピングを丁寧に剥ぐ。次に姿を現したのは木箱だった。木箱=高級という発想のせいか、俺と風音はまさかと思い咄嗟に3人に顔を向けた。顔を向けられた3人は驚きつつも俺たちの表情で何を言おうとしたか察したのか、首を横に振った。

 

「な、なぁこれ」

「いやいやいや、そんな想像してるような高いやつじゃないから!最初から木箱に入ってただけ!」

「よかったー。高級品とかだったら逆に困ってたよ」

 

安堵の息を吐きつつ、木箱を開けるとそこには茶碗と箸が2セット入っていた。それぞれ黒と水色に分かれている、所謂ペアセットというものだ。

 

「これなら普段使いできるでしょ」

「ああ、ありがとうな3人とも。ありがたく使わせてもらう」

「うん、それと2人で暮らすときも使えるなーって思ってね」

「何で俺らより気が早いんだよ」

 

茶碗を一度木箱にしまう。

 

彩加がジュースを一口飲んだ後、俺たちに質問を投げた。

 

「2人はいつから同棲するとかって決めてるの?」

「特に決め手はないが、大学入ったらそのうち、とかか」

「でもねぇ、もはや同棲しても同棲って感じしなさそうなんだよね」

「そうなの?」

「そうだな…。お互いの家に行き来することがもう日常だから新鮮味がな…」

「あー、なるほど」

 

続けてお菓子を飲み込んだ飛鳥が話に入ってきた。

 

「んー、逆に近すぎるとそういう弊害があるんだね。やっぱりいいことだけじゃないんだ。」

「ううん、悪いことはないよ?八君と一緒にいられるだけでもう十分満たされるし」

「俺たちは寧ろその新鮮味を味わう時期が早かっただけだろ。中学から付き合ってるんだからな。だから、今じゃ一生隣にいてくれるだけでいい」

「新婚のくせになんかもう言ってることが熟年夫婦なんだよねこの2人」

 

凛が呆れたように溜息を吐く。はぁ~甘い甘いと言わんばかりにブラックコーヒーを飲む。そしてチョコ菓子を食べる。甘くしたり苦くしたり忙しい奴だ。前までは微糖すら飲めなかったはずなのだが、すっかり克服している。9割俺らが原因だ。

 

「あっ!そうだ!一つ気になったことがある!」

「どうしたの凛?急に大声出して」

「名前!今更だけどさ、風音ってなんで八君呼びなの?八幡は普通に風音って呼んでるけど」

「えー?うーん…」

 

凛の思い付きに風音は首を傾げて考え込んだ。

 

言われてみればそんな話は今までしたことがなかった。そもそも俺が八君呼びに対して最早当たり前すぎて疑問すら浮かぶことがなかった。

 

「あ」

「お?何か思い出した」

「いや、そもそも八君としか呼んだことがない気がする。多分初めて喋った日から…。だから何で呼んでるのかも、いつからなのかも理由はないかも」

「確かに最初から八君だったし、それが当たり前すぎて何とも思ってなかったな」

 

俺が風音と呼ぶのも同じ理由だ。今の今まで呼び名という事に関しては考えもしなかった。もちろん、交際相手には下の名前で呼ぶのが普通という事は知っているが、あだ名で呼び合うことも珍しくはない。別に今更変えたとしても意味がなさそうだ。

 

「じゃあさじゃあさ!八幡って呼んでみてよ」

「え?…別にいいけど…」

 

凛の思い付きにキョトンとしながらもうなずく風音。

 

別に今更名前で呼ばれたところでどうってことはないだろう。日ごろから凛達にはそう呼ばれているから、すっかり慣れてしまっている。いくら風音の口からだとしても今更ドキドキ照れるなんてことはない。

 

「…八幡」

 

……。

 

…ん?え?、良くね?今更名前呼びでときめいたんだけど。新鮮味感じちゃってる?このときめきピッチピチの中学生以来だ。そして何よりも俺の顔を覗き込むように上目遣いで呼んできた風音がくそ可愛い。しかも風音も恥ずかしかったのか頬が若干赤みを帯びていて、可愛さが何杯も増している。おいお前ら、俺の彼女可愛くない?

 

口角の上がる口を押えて自分でもわかるほど目が泳いでいる俺、赤くなった顔を俺から逸らす風音に、思わず3人が叫ぶ。

 

「いやいやいやいや何で恥ずかしがってるの!?今までそれ以上のことしてたでしょ!」

「今更そんなことで照れる!?さっきの熟年夫婦の雰囲気は?」

「急に中学生みたいになってるよ2人とも!」

 

いや、ね?まさかここまで破壊力があるとは思わないじゃん。ここでまた新しい風音が見れたのよ?やばいじゃん。もう語彙力死んでしまって戸部みたいなべぇべぇ状態だ。

 

「これを気に呼び方変えたりする?」

「いやぁ…。八君が一番いいかも。いずれは八幡って呼ぶと思うけど」

「まぁ、なんだ。良かったがいつも通りが落ち着くな」

 

 

用意していたお菓子やジュースもなくなりつつあり、誕生日会からただの雑談に切り替わり始める。

 

最後にいただくのは、誕生日ならではのケーキ。誕生日会を開く話をしているとき、俺と風音は金銭面を考えて遠慮していたところを、なんと理事長がケーキの差し入れを持ってきてくれていたのだ。流石に予想外が過ぎて驚きを隠せずにいた。

 

理事長が誕生日を知っていたのは俺たちが今日生徒会室を使う許諾を得るために説明したからだ。それがまさかサプライズで使われるとは思わなんだ。つくづくイベントごとが好きな人だと改めて実感した。

 

しかもホールではなく、一人分サイズで色々種類が豊富に揃っているものだった。気の利き方がもはや恐怖の域。理事長には一生頭が上がらん。

 

そんなありがたいケーキをいただきながら話は弾んでいく。

 

「ほんとにしつこいんだよね。毎回授業終わりに誘ってくるの!本当勘弁」

 

今の話題は凛と飛鳥が通っている予備校で、事あるごとにナンパみたいなことをしてくるという愚痴だ。

 

「てっきり予備校で友人作って遊ぶくらいはすると思ってたがそうでもないのか?」

「いやぁ、何人かとは話してるし昼ごはん一緒にいたりするけど、なんか2人でどっか行こうとか言ってきて。断ってもきりがなくてうっとおしかった…」

 

溜息を吐く凛の横に座っている飛鳥が変わって話をつづけた。

 

「だからね、凛と付き合ってるってことにしたの」

「……えぇ?」

「ぶふっ」

 

はい?え?付き合ってることにした?ほら、完全予想外の言葉に隣に座っている彩加が声を上げているし、風音なんかジュース飲んでたせいでちょっと噴き出している。

 

「いやそれがさ、私が絡まれてるときに飛鳥が咄嗟に『私たち付き合ってるので!』って言ってきてさ。本当びっくりした」

「しかも飛鳥からなんだ…」

「で、効果はいかほど?」

「誘われることはなくなった」

「どんな反応された?」

「凄い目泳いでた。『え、ああ、あ、そう、なんだ』って」

 

当然の反応である。だが、確かに考えてみればかなり効果的なやり方かもしれない。デリケートな問題でもあるから、下手に嘘だぁとか揶揄うことも躊躇われる。…何でこんな冷静に分析してるんだ俺は。

 

「おかげであっという間に噂が広がったよ…」

「ごめんって。だってああするしかなさそうだったんだから」

「別に気にしてないよ。もう絡まれることもなくなったし、夏休みしか行かないところだし」

 

手を合わせて謝る飛鳥に肩をすくめた凛。所詮は予備校での繋がりでしかないと割り切っている様子。効果的なやり方だが、お互い信頼している2人だからこそできる方法だ。

 

噴き出して口の周りについたジュースを拭きながら風音が口を開く。

 

「凛もよく反応できたね。そういう意図だって気付いたんでしょ?」

「付き合い長いから!中学からの大親友!」

「ちょ、ちょっと急に何!?」

 

凛が飛鳥の肩に頭を乗せてすりすりと擦る。この2人も何かとくっついていることが多い。

 

微笑ましい空気を余所に彩加が話しかけてきた。

 

「八幡と風音はそういうナンパとかあったの?」

「俺はなかったけど、一度風音が誘われているところを見た」

「……一応聞くけど、無事なんだよね?」

「おーい彩加?どういう意味だこら」

「ごめんごめん。冗談だよ」

「普通に追っ払ったよ。あの男は運が良かった。ロットアイが残ってたら両手の骨を粉砕してた」

「「「消えて本当に良かった…」」」

 

俺の発言に3人はドン引きして安堵の息を吐く。まるで化け物扱いである。

 

「そうだな。ロットアイが消えたのはお前らがいたおかげだ。こんな俺と友達になって、色々経験させてくれたから、呪いを手放すことができた。本当にありがとう」

「八幡……」

「八君……」

「何良い雰囲気に持っていこうとしてんの!八幡十分怖いよ!」

 

エモの空気に持っていこうとしたが凛の突っ込みによって制止された。

 

ともあれ3人が俺に対して化け物のような存在でもあるという認識について今度問い詰めておこう。

 

 

盛り上がった誕生日パーティもお開きとなった。

 

解散したときには既に日は半分沈んでおり、オレンジに染まった空の下帰路に就く。

 

「う~んっ、楽しかったね」

「そうだな」

 

お互い固まった体を伸ばす。今日は久しく一日中外にいたおかげで疲れも感じている。昼からこんな時間まで凛達との話に花が咲くとは思わなかった。お互い週一で話をしているにも関わらず話題が尽きないのは流石今時JKだと感心する。俺か?いくらコミュ障を克服したと言っても話題提供はまた別だぞ?途中から聞き手に変わったに決まっているだろう。徐々に空になっていく引き出しが四次元ポケットに勝てるとでも?

 

「今まで誕生日って家族とだったから、新鮮で楽しかったね」

「ああ、友人に祝ってもらうってこんなに嬉しいことなんだなって」

 

実は友人に誕生日を祝われるのは今回が初めてである。理由は察しろ。昔の俺だったら、俺のせいで友人に祝ってもらえなくてごめんと謝っていただろうけど、今では良い意味でそんな風に考えることはなくなった。

 

「風音」

「ん?」

「…ありがとな」

「わ、どうしたの急に」

 

家の前に着いた途端、俺は風音を抱き寄せた。風音は一瞬の困惑を見せたがすぐに応えるように俺の背に手を回した。

 

「今までのこと全部?」

「今までって、幼稚園まで遡っちゃうよ?」

「いや、主に去年だな。俺の背中を押してくれたから今がある」

「そのお礼ならもう何度も受け取ってる。これ以上もらうと溢れちゃうよ」

「…言わずにはいられなかった」

「ならしょうがない」

 

そのまま無言で夕陽を背景に互いを抱きしめ続ける。周囲に人はいないため視線を気にすることはないが、きっとそうでなくても抱きしめていたかもしれない。結婚という新たな節目に、今までの恩が溢れてきてしまったのだ。

 

「じゃ、また明日な」

「うん!」

 

そうして俺たちはお互いの家に帰る。

 

俺たちにとって、結婚をしたって特別変わることはない。

 

この1年半、俺自身や周囲の環境は変化し、また新たな人間関係を築くことができた。だがそれでも、俺と風音の生活が変わらない。

 

またいつものように、お互い用もないのに顔を合わせて過ごし、家で飯を食い、遊びに出かけたり、勉強に励む。俺と風音は、これからもいつも通りの平穏な日常を過ごしていく。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

まずはお待たせしてすみませんと、お気に入り登録や投票ありがとうございました。

長く続いた処女作も今回で完結です。

高校2年生になったと同時に始めたのですが、今では社会人3年目です。時の流れは残酷。

書かない日が長く、それこそ1年くらい続いたせいで、少々拙い文章になったり、なかなか案が浮かばなかったりありましたが、何とか書き切れてよかったです。

少なくとも俺は満足に書けた!!!自己満足!!!

何はともあれ、感想、お気に入り登録、投票ありがとうございました!本当支えでした。

これからも別の作品で縁があれば読んでもらえると嬉しいです。

また。

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