俺と彼女のハイスクールライフ   作:”アイゼロ”

45 / 46
はい、どうも、アイゼロです。

新年あけましておめでとうございます。高校二年生から書き始めてから、今年で私は社会人になります。

2019年は就活だったり、病気が見つかったりとか色々ありましたけど、無事笑って新年を迎えられて良かったです。唯一の心残りは、復活宣言したのにも関わらず、一話も投稿できなかった事。

それでは、ご覧ください。


44話:俺と彼女の消滅カース

呪いが消えつつある。

 

夜風が枝葉を揺らす音が鮮明に響く。コンビニ袋を片手に、もう片方の握り拳を見つめる。傷は一つもないが、殴った木もあまり傷がつくどころか、少し揺らいだ程度だった。拳から目を離し、再び目の前に広がる森林に目を移した。

 

忌々しい呪いの力。それを使っているのにも関わらず、モノクロ世界に少しずつ彩が戻り始めていた。いや、気のせいだ。夜だからきっとそう見えるだけだ。明るくなれば、また白黒の世界が広がる。

 

では何故木は倒れなかった?今までだったら容易に折ることができた。それができなかった。けど、少し色が見える。凛と飛鳥、彩加にロットアイを使った時も違和感を感じた。消えるはずがなく、一生付き合っていくと思っていた力が無くなりつつある現状に、困惑と疑念がループする。

 

夜風によって、ガサっとビニールが音を立てた。

 

「やべ、ぬるくなっちまうな」

 

パシりにされていた事を思い出し、早足で宿舎に戻る。

 

分からないことを、ましてやにわかには信じられないモノに時間を割いても仕方がない。取り敢えず任務を完了させてしまおう。

 

 

遅いと文句を言われながらも、各々注文した飲み物を配る。朝から電車移動やこの宿舎まで歩いたり、ここでも遊んだというのに四人は疲れは感じさせないぞと言わんばかりに元気に談笑している。

 

「何でお前らそんな元気なんだよ…」

「えー?八幡が体力ないだけじゃない?」

「夜はこれからだよ八くん」

「明日は観光だから、ほどほどにしとけよ」

「はーい、先生」

「はいは伸ばさない」

 

この場合だともうしばらく続きそうだ。風音達から少し離れ、背もたれに身体を預けて四人を見守る。先程凛が言ったように、俺は体力はあるわけではない。確かに疲れてはいるが、ここまで体が重いと体調不良を疑ってしまう。こんな時に風邪とか絶対嫌なんだけど。マジちょーありえないんですけどー。どんだけ~。

 

ショックを受けそうになったが、このだるさの正体はすぐに思い立った。ここに戻ってくるまでにしていた事を思い出す。

 

ロットアイ使い過ぎたー。

 

この力は使った時間の分身体への負担がのしかかり、限界まで使おうものなら身体が鉛のようになって一歩も動けなくなってしまう。外で違和感を持ったせいで5分程使ってしまい、今のように体が重くなって動けない。ロットアイ消えそうなら、このだるさも軽減してくれよ。何で都合悪いものは残しとくの?俺に恨みでもあるの?ちょうどいい、俺もお前の事大嫌いだからな。決着つけるか?お?

 

見えない力と喧嘩腰になりながらも、疲れは睡眠欲へと変わり、瞼が重くなる。せめて、ベッドに……。

 

 

 

 

「…あ、八くん寝ちゃった」

「本当だ。いつの間に…。ってもうこんな時間か。さすがに寝よ」

「そうだね。八幡どうするの?」

「重いからこのままでいいよ。じゃ、おやすみー」

 

意外と塩対応の風音に苦笑をもらした三人は、言った通りに各々の布団へ潜った。

 

 

『もう、必要ないな。こんな呪い(もの)

 

 

「…ッ、ってぇ」

 

目を開けてまず襲ってきたのは、節々の痛み。座ったまま寝ていたせいで、首から腰に掛けて鈍い痛みが走る。視界がはっきりとすると、陽の光がカーテンで遮断され薄暗い空間が広がり、四人は気持ちよさそうに布団で寝ている。起こしてくれても良かったじゃん。四人いて何で放置を選択したの?

 

軋む体でしばらく立ちすくむ。何だか不思議な気分だ。一年前はただの友人だったのに、今はこうして一緒に生徒会として活動し、旅行に来ている。ましてや寝ている姿を晒すなど、実は今でも考えられない。前だったら絶対に反対していたし今でもどうなのかと考えているが、今回は押しに押されて了承した感じだ。風音と付き合ってから、こういったものには堅い考えを持つようになったけど、それも少しは寛容的になった気がする。…いや本当にスヤスヤだなこいつら。凛が寝相悪いのは容易に想像できるけど、飛鳥と彩加が動いた形跡が全く見えなくて逆に怖い。

 

時間を確認すると7時ちょい過ぎだ。この後は観光するために10時には出るからまだ時間はある。こいつらはまだ起こさなくていいだろう。それまでは、朝の温泉でも堪能しようか。椅子に座りながら寝たせいで、バキバキになった身体を癒そう。

 

 

「ああ~」

 

思わず声が漏れる程気持ちがいい。やはり温泉とはいいものだ。

 

「……必要ない」

 

ふと夢で聞いたかもしれない言葉を呟く。それは所詮夢であって起きたらすぐに忘れるもの。実際ほとんど覚えていないが、何故かこの言葉だけは鮮明に頭に残っている。これが何を指しているのか分からない。心当たりもない。ましてや何故こうして気になっているのかも分からない。

 

まぁ、どうせ夢だ。嫌でもすぐに忘れる。

 

「八幡」

「ん?」

「あ、やっと反応した。もー、三回目」

 

声がした方を見ると、そこには彩加が立っていた。頬を膨らませ、指を三本立てている。可愛い。温泉から立ち込める湯気が所々彩加の体を隠し、中々にセンシティブな光景が広がっていた。煩悩退散。

 

「あー、すまん。ぼーっとしてた」

「のぼせてない?」

「大丈夫だ」

 

そっか、と短く返事した彩加は俺の隣に座って肩まで浸かった。

 

「よくここにいるって分かったな」

「朝早く部屋から出るとしたら、ここかなって。それに座ったまま寝てたから、身体痛めてるんじゃないかって風音が」

「いや起こせよ。何で放置したの?」

「僕もてっきり起こすと思ったから意外だった」

 

彩加から風音の冷たい対応を聞き、呆れたと同時に驚いた。

 

俺の変化に伴い、風音も少しずつ変わったのかもしれない。物心がつく前から俺の隣にいた風音は、今まで優しすぎた。その元凶は俺にあり、風音にトラウマを植え付けたのも俺だ。だから下手に言及できずに、いや、甘えていた。心配させたくない思いで甘えてしまっていたのだ。冗談を言い合う事を避ける程に。

 

「ど、どうした?」

「八幡」

「え?…え、え、何」

 

何をしたかと思えばいきなり俺の頬を両手で包み、目を覗いてきた。その美女顔負けの美少年と鼻の先が付くか付かないかの距離に俺の心臓は鼓動の速さを倍にした。……待て待て待て、こいつは男こいつは男。風音以外で興奮してはいけない。

 

その時間は長く続かなく、すぐに終わった。

 

「ごめんね、何でもない」

「え?いや、すげえ気になんだけど」

「昨日色がついたって言ってたから、何か変わったかなぁって。でも濁ったままだね」

「うっせ。俺はこの目好きだ」

「うん。八幡らしくて好き」

 

万が一にもこの目が輝きを取り戻したら、俺のアイデンティティ無くなってしまうのか…。

 

 

その日、俺達は観光を目一杯楽しんだ。

 

受験という現実から離れ、またいつ訪れるか分からないこの安らぎと楽しい時間を共有した。予め計画を立てていた観光地巡り、グルメを堪能した俺達はまるで旅番組をしているように感じた。

 

その時間は本当にあっという間に過ぎ去って行き、気付けば宿舎に戻って夕飯や入浴を終えて就寝前になっていた。

 

皆一日中歩き回ってさすがに疲れているのか会話があまり広がらず、重い瞼を必死に持ち上げ布団を敷き始めている。そんなに疲れるまで観光できたのなら、非常に充実した日になったに違いない。かく言う俺も久しぶりの観光で気分が上がっていたから、横になったらすぐに眠れそうなくらいフラフラだ。

 

「もう寝るのか?」

「うん。もう喋る気力もない」

「寝よ」

「僕限界」

「八くん電気消して」

 

どうやらさっさと寝たいらしい。

 

俺は電気を消して布団に入った。皆は既に寝静まったのか布団が擦れる音すらせず、静寂な空間が生まれている。

 

この旅行で分かったことがある。おそらくきっかけはこいつらに色がついていると気づいた時。

 

 

 

呪い、ロットアイが消えた。

 

昨日の夜に消滅の兆しはあったが、今日で完全になくなったらしい。

 

眼をドロドロに濁すことができない。力が出ない。身体に負担がかかる感覚がない。

 

発動条件は無く、思いのままに操っていた力が突然消えるのはどういう感じなんだろう。厳密に隠していたわけではないから、村人になりすました英雄とはまた違う。寧ろ役に立つことが多かったから、本当に呪いだったのだろうか。

 

正直喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない。忌々しいと思っていたけど、役に立っていたし便利だとも思っていた。それと同時にイジメによって生まれた力に頼ってていいのかと苦悩する時もあった。

 

様々な思いが体中に駆け巡る。それでも俺は、心から良かったと思っている。これで俺も、普通の人になったと。

 

まだ風音には言っていない。この事を知ったらなんて言うんだろうな。多分喜んでくれるんじゃないだろうか。風音も小町も頼るときはあったがこの力は好きじゃなかったからな。

 

色々考えてももう疲れて頭が回らないからさっさと寝てしまおう。明日皆と別れた後に風音に話すことにした。

 

 

充分な睡眠から目を覚ます。時間は7時ちょい過ぎと何とも健康的な時間に起きたもんだ。

 

チェックアウトまで時間もあるため風音達は起こさず、静かに外出着に着替え宿舎の外に出た。どの季節も基本朝は涼しいが、夏となればすぐに猛暑になってしまう。全く、嫌になるな。

 

自然に囲まれた宿舎なだけあって空気は美味いし、風も心地がよい。寝起きだった意識が一気に覚醒し始めた。ここで冷えたマッカンでもあればさらに気分が良くなるんだが、生憎宿舎の自販機には無かった。コンビニに行くのも面倒だった俺は冷えたココアを飲んでいる。朝ココアも悪くないし、実は健康にも良いのだ。作るの面倒くさいから家ではやらないけど。

 

「随分早起きだね」

「ん?風音か。おはよ」

「おはよー。部屋から出るところ見たから、どこ行くんだろーって思ってね」

「こうして自然を体に取り込んでたところだ」

「確かに気持ちいい」

 

風音も先程の俺と同様に身体を伸ばしながら深呼吸をした。

 

今言ってしまおうか。毎日会っているからいつでもいいんだが、別に先延ばしにする理由も必要もない。

 

「なあ。もし俺からロットアイが消えたらどうする?」

「何急に?まぁ役に立つことはあったけど、消えたら消えたでそりゃ嬉しいに決まってるよ」

 

使う度にぶっ倒れそうな程疲れるのはうんざりだったけど、風音の言う通り結構役に立つ場面はあった。

 

「そうか」

「何でそんなこと聞いたの?もしかして、消えたの?」

「…みたいなんだ。力も入らないし、白黒にもならない」

 

そう言うと風音は両手で俺の顔面を掴んだ。勢いよく眼鏡をぶん取られたせいで結構痛かった。おいそのまま掴んどけよ。落とすな落とすな。

 

「…いつも通り濁ってるね」

「そりゃどうも」

「何で突然消えたの?」

「さぁな。何はともあれ、無くなってよかったと思ってる」

「うん。私も」

 

結局最後まで分からずじまいの力だった。今まで気にすることを止めていたけどこうも突然だと却って気になる。

 

パァン!

 

風音が俺の顔の前でねこだましをした。

 

「うぉっ!」

「はい、もうロットアイは忘れる!まだ旅行中だよ。考えるのは後!」

「…そうだな。おし、一旦忘れる。もう忘れた」

「それでよし」

 

後はチェックアウトして帰るだけなんだけどな。

 

 

チェックアウトを済ませ、後は帰るだけとなったが時間に余裕があるため観光地付近のレストランで昼食を取ることにした。

 

料理が来る前にドリンクを口に含みながら談笑が始まる。

 

「はぁ、楽しかったね」

「また遊びたいなぁ。次は卒業旅行だね」

「全員無事に進学できたらの話だけどな」

「八くんそういうこと言わないの!そう言う人に限って落ちるんだよ!どうせ一位と二位しか取ってないから楽勝だと思ってるんでしょ!」

「よくお分かりで」

「もう!」

「あはは、まぁでも皆なら大丈夫だよ。僕も……………多分」

 

笑って楽しむ雑談ムードから、どんよりと俺の目のように濁った微妙な空気が生まれてしまった。皆顔を下に向けている。

 

「で、生徒会の話なんだが」

「その清々しい話題転換に驚きなんだけど」

「冗談だ。…ま、ここにいる全員受かんだろ」

「うっわー、てきと~」

「適当じゃねえよ。俺が保証する」

「八くん?……」

 

風音は不思議そうな面持ちで俺の方を向いて呟く。こんな根拠もへったくれもない暴論を言う俺に違和感を持ったのだろう。何しろ俺はこういうのが嫌いだからだ。確証の無い、現実性皆無、後先考えずに理想を掲げる。今の俺の発言は下手したら人の人生に大きく影響を与えてしまうかもしれないものだ。無責任にもほどがある。

 

じゃあ何故嫌いなのに言ったのか。その問いに対する答えは酷く単純だ。ただ言いたかったからだ。こいつらと学校を卒業したい、進学しても遊んだり馬鹿なことをしたい。全ては俺の勝手なエゴ。小学生のようなガキくさい我儘だ。

 

だけど俺がこいつらを信じているのは本当だ。ぶっちゃけるが凛も飛鳥も彩加も頭は結構良い。志望先にもよるが落ちる確率の方が低い。

 

俺の発言を不思議に思ったのは風音だけではなく、全員が俺の方へ顔を向けている。あらやだ恥ずかしい。

 

「どした?」

「いや、八幡もそんなこと言うんだなぁって」

「そうそう。なんか意外。結構な現実主義だから」

「でも八幡に言われて少し自信がついたよ」

「お、おう…」

 

なんかプラスに捉えてくれたみたいで助かった。今回は思わず口にせずにはいられなかったが、今後は気を付けなければいけない。こういう発言は不安な人ほど効果覿面だからな。

 

「話を戻して生徒会だ。理事長から立候補者が揃ったと連絡が来た。二年の修学旅行が終わったらすぐに選挙が始まる。そこで俺らは終わりだ。以上」

 

「はーい」

「はい風音」

「もうやることは無いの?」

「ほぼ無い。立候補者の書類を確認するくらいだろ」

 

砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲んで一息挟む。

 

生徒会の話は終わり、これから夏休みに予定があるのは彩加だけになった。二週間後に大会が控えていて、勝てば続き、負ければ引退の大事な試合。その日は俺らも応援しに現地へ赴くことになっている。これに関しては飛鳥が妙に熱が入ってて楽しみにしている様子だ。

 

それが終わったら夏休みは当分会うことも無いだろう。それぞれ予備校なり塾に本格的に受験に集中しなきゃいけない。余裕で受かると言ったがもちろん半分は冗談だ。俺と風音も予備校に集中するつもりだ。

 

というかそもそも何故俺はここまでこいつらに会えるか会えないかで頭を使っている。なんだかんだ言って俺が一番寂しがっているのか。いつの間にか随分と侵食されてしまったみたいだ。そりゃロットアイも消えるだろうよ。

 

そんな考えに辿り着いた俺は変に恥ずかしくなってしまい、考えるのを止めた。

 

 

自分達の最寄り駅に到着し、その場で解散にした。

 

帰宅したときにはカマクラしかいなかった。両親と小町は朝から出掛けていると連絡があったから、まだその真っ最中だろうお。部屋に荷物を置いてベッドに横になった。まだ昼の2時だけど疲れが溜まっていて眠気もある。

 

寝るか。

 

 

自宅に荷物を置いてシャワーを浴びた後、八くんの部屋に入ると外着のままベッドで不格好に寝ている姿が目に入った。荷物も無造作に倒れている。

 

「だらしないなぁもう」

 

溜息をつきながら寝ている八くんの横に座る。八くんの方に向くと見慣れた寝顔、その中で私は目を注視した。

 

ロットアイが消えた、か。これほど喜ばしい事実があったというのに、あまり実感が湧かない。それもそうだ。自分が持っていたわけでもないし。ただこうもあっさり消えたと言われたら気になってしょうがない。

 

目をドロドロに濁して白黒の世界を創り、力を上げる。その代償に歩くことが難しくなるほどの疲労が襲う呪いの力。腐っている目がさらに酷くなることから、私は安直にロットアイと名付けた。

 

発現した当初は私も八くんも嫌っていた。こういう症状がずっと続くなら何かの精神的な病だと思って気が楽になるんだろうけど、意のままに操れるから余計に怖かった。私以上に八くんはしばらく悩み続けていて、私は慰めたり元気づけたりすることしかできなかった。医者に相談も考えたけど、こんな話を信じてくれるとは思えなかった。だから、私は自分で調べることにした。この事は八くんには言っていない。

 

気になったキーワードは【防衛機制】。受け入れがたい状況、または潜在的な危険な状況に晒された時に、それによる不安を軽減しようとする無意識的な心理的メカニズムの事を指す。防衛機制にもいくつか分類されているけど、八くんは精神的防衛に当てはまると考えている。

 

原因はイジメだと分かりきっている。受け入れがたい状況が防衛機制として機能した。それがロットアイ。白黒はおそらく八くんの心理状態を表していて、過剰過ぎる自己防衛によって力が働いたんだと思う。

 

発現してから何週間か経って力を使わない限り体には異常がないと分かった私達は次第に気にしなくなった。そして徐々に八くんは使い方を学び、高校入学時にはしっかり使いこなせていた。最初は私も使い度に怒ったり注意していたけど、呪いと向き合って笑ったり楽しんだりしている姿を見て、怒るに怒れなくなった。普通じゃないものを受け入れて前向きになっている八くんを見て、私はそれを支えようと決めた。

 

そっと八くんの頭を撫でた。

 

「……風音?」

「そんな体勢で寝てるとまた体痛めちゃうよ。それと、せめてシャワー浴びてから寝てね」

「そうするか」

「一緒に浴びる?」

「いい」

「はっ!ついに私の身体に飽きちゃったの?これがマンネリ化か…」

「ち、ちげえよ。普通に疲れてんだ」

「冗談だよ~。寧ろ私が飽きさせないから」

「そんなこと考えなくても飽きないから」

「え~そんなに魅力的?恥ずかしいなぁ~」

「お前どうした?頭でも打ったか?」

「多分どっちかというと八くんが私に対して態度が変わった気がする」

「そうか?」

「うん。甘えん坊じゃなくなった」

「まるで今までは甘えん坊だったみたいな言い方だな」

「比較的控えめになった気がする」

 

私がそう言うと八くんはそうか?と首を捻った。

 

「じゃあ、私はここで裸で待ってるから」

「何でそうなる?」

 

 

「本気だったのかよ…」

 

シャワーを浴び終え、部屋に戻ると宣言通り裸になっていた。着ていた服や下着が床に無造作に置かれている。当の風音は裸なんだろうけど、掛布団で首から下を覆っていて全貌は見えていない。

 

「しかも絶対に寝たふりだろ」

 

こんな笑顔で寝てる人見たことがない。まだかな~ってオーラが見えてしょうがない。何これ?Yesって認識でOK?

 

欲には忠実に生きていきたいと考えているから、ここは従ってしまおう。俺は着たばっかのパジャマを脱いだ。なんか恥ずかしいから下着は脱いでいない。

 

ベッドに入ろうとすると、風音の身体がはっきりと見える。うん、綺麗だ。今すぐにでも触りにいきたいが、風音と少し話したいことがあるため我慢する。

 

「風音」

「ん?」

「ありがとな」

「…ん?何が?」

「ロットアイが消えて、昔の事を思い出してな。ロットアイで悩んだり苦しんだりしたときに、気遣ってくれたり支えたりしてくれただろ」

「当たり前だよ。八くんが苦しんでると私も辛いし」

「それに消えたのも風音のおかげだ。一歩踏み出す勇気をくれたから、俺は今こうして充実した学校生活が送れている。だから、ありがとう」

「なんだかむず痒いなぁ…。八くんが幸せなら私も幸せになれるから」

 

この言葉が一番幸せかもしれない。

 

…。

 

沈黙が続く。このまま寝てしまうのもありだったが、こういう状況になったのならもう最後までやってしまった方がいい。

 

掛布団を勢いよく剥がし、風音の上に覆いかぶさる。

 

「は、八く、ッ!」

 

強引に唇と唇を合わせる。

 

「……いいか?」

「…うん」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

めちゃくちゃ長く続いちゃったこのシリーズも次回で完結させます。

このシリーズについて色々語りたくてたまりませんが、次回に一気に話したいと思います。

一応今回でずっと謎だったロットアイの種明かし?をしたつもりです。そこまで厳密な設定じゃありませんけどね。
必要か必要じゃないか聞かれたら、私は必要だと答えます。物語を進めて展開させるには必要な力でした。

それではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。