俺と彼女のハイスクールライフ   作:”アイゼロ”

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はい、どうも、アイゼロです。

4話目突入。

書き溜めてた分が無くなってきた。

男の娘登場。それではご覧ください。


4話:俺と彼女の庭球レインフォースメント

月が替わると体育の種目も変わる。

 

我が学校の体育は三クラス合同で、男子総勢60名を二つの種目に分けて行う。

 

この間まではバレーボールと陸上をやっていた。今月からはサッカーとテニスになる。

 

もちのろん俺と材木座はテニスを選んだ。だがテニス異様に人気だったのでじゃんけんで決めることになった。壮絶なじゃんけんの末、俺は見事にテニスを勝ち取った。可哀想なことに材木座はサッカーとなった。

 

義輝「ふぅ、八幡。我の『魔球』を披露してやれないのが残念でならん。お前がいないと一体我は誰とパス練習をすればいいのだ?」

 

知らねぇよそんなこと・・。

 

恨むんならてめぇの運命を恨むんだな・・。

 

俺は、某緑色の宇宙人の如く言葉を吐き捨てテニスコートへと向かった。

 

そしてテニスの授業が始まる。

 

適当に準備運動をこなした後、体育教師の厚木から一通りのレクチャーを受けた。

 

厚木「うし、じゃあお前ら打ってみろや。二人一組で端と端に散れ」

 

厚木がそう言うと、皆が三々五々めいめいにペアを組んでコートとコートの端と端へと移動した。

 

当然だが孤高の俺はペアを組む人がいないため、1人で壁打ちに専念した。普通何かしら教師にお咎めをもらうと思っているかもしれんが、俺は常時ステルスを発動してるため気づかれない。・・・壁打ちしてるのにね。

 

そういや、テニスなんて中学の時、風音と勝負した以来だな。結果は俺の勝ちだ。自覚なかったんだが、その時の試合がすごかったらしく、終わったらテニス部の勧誘ラッシュが凄まじかった。・・約四日間、俺と風音はともに逃げ隠れしたのを覚えている。

 

思い出に浸りながら、打球を追ってただ打ち返すだけのまるで作業のような時間が続く。

 

周囲では派手な打ち合いできゃっきゃっと騒ぐ男子の歓声が聞こえてきた。

 

「うらぁっ!おおっ!?今のよくね?ヤバくね?」

 

「今のやーばいわー、絶対とれないわー、激アツだわ~」

 

絶叫しながら実に楽しそうにラリーをしていた。

 

うっせーな、もうちょっと声抑えろよ。と思いながら振り返るとそこにはあいつの姿もあった。

 

俺のクラスの上位カースト集団のリーダーらしき人物だ。名前知らないから仮にイケメンとでも呼んでおこう。

 

そのイケメンはペア、というより四人組カルテットを形成している。

 

イケメンの打球を打ち損ねた金髪が「うおーっ!」と叫んだ。誰しもが何事かとそちらを向く。

 

「やっべー今の球、マジやべーって。曲がった?曲がったくね?今の」

 

「いや打球が偶然スライスしただけだよ。悪い、ミスった」

 

片手を挙げてそう謝るイケメンの声を掻き消すように金髪はオーバーリアクションで返す。

 

「スライスとかマジ『魔球』じゃん。マジぱないわ」

 

俺は騒がしい集団から目を離し、再び壁打ちに専念する。

 

「スラーイスッ!!」

 

あの金髪本当にうるさいな。しかも今打ったスライスもどきの打球、コートから大きくそれて俺の方に飛んできたし。・・・あれ?アホ毛センサーが反応してる。

 

ああ、このままじゃ俺の頭に当たるな・・。どう対処しようか・・。

 

「ヒキタニ君!危ない!?」

 

あのイケメンも俺が危険ということを察知したのか俺に向かって叫んでいた。ていうか誰だよヒキタニ君って。おーい、呼んでますよ、ヒキタニ君。

 

さて、どうしようか・・。今から構えをとって打ち返す余裕もないし・・。かと言って避けるのもビビってるみたいで若干気が引ける。けど痛いのは嫌だからな~・・。

 

・・・はぁ、仕方ねぇ。そう思い、俺は濁っている目を更に濁らせ・・

 

 

――――――バコン!!

 

 

後ろを振り返らず、ラケットを後方に振りかぶってボールを打ち返した。どこに行ったかはわからない。ガシャンという金属音が聞こえたってことは、誰にもあたっていないだろう。っつーか金網まで飛んだのか、結構力入ってたんだな・・・。

 

その後も、俺は何事も無かったように壁打ちに専念し続けた。

 

あの時、俺が注目されていたことを俺は知る由もない。

 

 

 

 

《昼休み》

 

 

いつもの俺の昼食スポットで飯を食う。特別棟の一階。保健室横、購買の斜め後ろが俺の定位置だ。位置関係でいえばちょうどテニスコートを眺める形となる。

 

風音に毎日作ってもらっている弁当をもぐもぐと食べる。やっぱり美味い。さすが風音、俺の好みを知り尽くしている。

 

昼食を平らげ飲み物を啜っていると、ひゅぅっと風が吹いた。

 

風向きが変わったのだ。

 

その日の天候によるが、臨海部に位置するこの学校はお昼を境に風の方向が変わる。朝方は海から吹き付ける潮風が、まるでもといた場所へ帰るように陸側から吹く。

 

この風を肌で感じながら一人で過ごす時間は俺は嫌いじゃない。

 

え?恋人いるんだからそいつと食えばいいじゃんだって?フッ・・風音は俺と違ってちゃんとクラスに友達がいる。邪魔するわけにはいかないだろう?

 

誰に向かって言ってるかわからないことをしていたら

 

風音「アレ?八くん?」

 

結衣「ん?あ、ヒッキー」

 

声のした方に振り返るとそこには、風音と由比ヶ浜がいた。

 

結衣「ヒッキー、ここで何してんの?」

 

八幡「みりゃわかるだろ。飯食ってたんだ」

 

結衣「へー、なんで?教室で食べればよくない?」

 

八幡「・・・ここの方が落ち着くからだ、教室は騒がしいし。俺は静かに食いたいんだよ」

 

結衣「ふーん」

 

どうやらどうでもいいらしいな。んじゃ聞くなよ。

 

八幡「あ、そうだ。風音、弁当ご馳走さん。今返しても大丈夫か?」

 

風音「うん、大丈夫だよ~。お粗末様」

 

八幡「いつもありがとな。美味かったぜ」

 

風音「ん~ん、私が八くんにしてあげたいことだからいいよ~。エへへ」

 

風音はそう言っているが、実際すごい助かっている。今度きちんとしたお礼をしよう。

 

八幡「それよかお前ら何しに来たの?」

 

結衣「それそれっ!私ゆきのんとジャン負けして罰ゲーム中なんだ」

 

え?罰ゲーム中ということは現在進行形で?それってつまり・・・・

 

八幡「俺と話すことがですか・・・」

 

何それ酷すぎる・・。あまりのつらさに風音に泣きつく。涙は流してないが・・。

 

風音「ち、違うよ八くん!ジュース買ってくるだけだよ。だから泣かないで」ナデナデ

 

なんだそうだったのか・・。危うく死にそうになったぜ。・・・普段頭撫でるのは俺なんだが、撫でられるのも悪くないな。

 

結衣「あはは・・・ハァ。・・あ、おーい!さいちゃーん」

 

知り合いに会ったのか由比ヶ浜はテニスコートに向かって手を振っている。

 

そのさいちゃんという人物は由比ヶ浜に気づくと、とててっとこちらに向かって走り寄ってくる。

 

結衣「よっす。練習?」

 

?「うん。うちの部、すっごい弱いからお昼も練習しないと。昼休みにテニスコート使っていいって最近OK出たんだ。新島さんと比企谷君と由比ヶ浜さんはここで何しているの?」

 

ほぅ、俺の名前を知っているとは珍しい奴だ。ちょっと興味沸いたぞ・・。

 

結衣「いやー、別になにも」

 

いや、俺ここで飯食ってたし、あんた罰ゲーム中だよね。鳥頭かよ。

 

八幡「ところで由比ヶ浜、こいつ誰だ?」

 

結衣「えぇぇ!おんなじクラスなのに知らないの!?」

 

八幡「この前言ったろ。俺はあんまり人の顔や名前を覚えないって」

 

?「あはは、じゃあ自己紹介ね。同じクラスの戸塚彩加です」

 

戸塚彩加と名乗った男子は、女子と遜色ない顔つきや容姿をしていた。

 

俺じゃなけりゃ、初見で男子と見破るのは不可能というくらいに。ちなみに見破れたのは、どことなく男子特有の雰囲気をしていたからだ。あと、俺の観察眼舐めんな。

 

彩加「ところで比企谷君ってテニス上手だよね?やったことあるの?」

 

八幡「ん?ああ、中学の時、風音と勝負したくらいだな。それ以降やってない」

 

彩加「へぇ!すごいね!・・・ところで比企谷君、授業の時のアレ、一体何?どうやったの!?」

 

ん?授業のアレ?・・・・・あっ、おそらくあれのこと言ってんだろうな。

 

風音「八くんが何かしたの?」

 

彩加「うん!戸部君が打った球が比企谷君に当たりそうだったの。・・でもね、比企谷君は後ろもボールも見ずに打ち返したんだ。球のスピードもかなり速かったし」

 

結衣「何それ!ヒッキー何者!?」

 

由比ヶ浜はかなり大きい声を出して驚いていた。まぁ人間業ではないことは確かだし。

 

彩加「アレ、どうやったの?」

 

ズイッと俺に顔を近づけて、興味津々に聞いてきた。結構近い。

 

・・・まずいな。何と答えよう・・。下手に教えたくないしな~。

 

八幡「ま、まぐれだよ・・。当たるのが嫌だったし、打ち返す構えをする余裕がなかったから、がむしゃらに振ったんだ・・。そしたら偶然当たっただけ」

 

そう言うと戸塚は、そんなうまくいくのかなぁ、と疑心暗鬼だった。

 

そんな授業での俺の武勇伝を聞いていた風音は俺に耳打ちをする。

 

風音「ねぇ八くん。もしかして『アレ』使っちゃったの?」ボソボソ

 

八幡「あ、ああ、ついな。一瞬だけ・・」ボソボソ

 

風音「も~、使いすぎると大変なんだから気を付けてね」ボソボソ

 

八幡「ああ、心配かけて悪かったな。お詫びに何か埋め合わせするから」ボソボソ

 

風音「ふふっ、ありがと~」ボソボソ

 

そんなやり取りをしていたら、昼休み終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

彩加「もどろっか」

 

風音に別れを告げ、俺達は教室へ向かう。あ、その前に一つ言っておかなきゃいけないことがあったな。

 

八幡「お前、ジュースのパシリはいいのか?」

 

結衣「え?・・・・・あぁっ!?」

 

 

 

 

 

数日の時を置いて、今再び体育である。

 

度重なる壁打ちの結果、俺は壁打ちをマスターしつつあった。いまや動かずともひたすら壁とラリーできるほどだ。

 

そして、明日の授業からはしばらく試合に入る。つまり、ラリー練習は今日が最後だ。

 

最後だから目いっぱい打ち込んでやろうと思ったところで肩をちょんちょんと叩かれた。

 

誰だ?俺に話しかけるやつとか皆無に等しいし・・・ハッ!もしや幽霊?俺のステルスがあまりにも強すぎて、周りの幽霊が仲間だと思い込んだのか!?すごい、この能力は幽霊が接触できる領域まで進化を遂げたんだな。

 

とバカげたことを思いながら振りむくと右頬に指が刺さった。

 

彩加「あはっ、引っかかった」

 

そう可愛く笑うのは戸塚彩加である。

 

こいつ、見た目は女子なんだけど、こういういたずら行動も女子に似ている。こういう行動が女子って勘違いされる理由の一つじゃないのか?

 

腕も腰も脚も細く、肌が抜けるように白い。ほんとに、見てくれは男子高校生に見えない。

 

これで、女子扱いを嫌がるんだから、少々理不尽だと思う。

 

八幡「どした?」

 

彩加「うん。今日さ、いつもペア組んでる子がお休みなんだ。だから・・・よかったらぼくと、やらない?」

 

それはいいんだが、頬を染めて上目遣いは男子のやることじゃないからやめた方がいいよ。

 

八幡「おう、いいぞ。俺も一人だからな」

 

すまんな、壁。今日は打ってやれない。今まで世話になったな・・。

 

俺は壁に向かって謝罪していると、戸塚は小さい声で「緊張したー」と息を吐いた。そんなこと言われるとこっちも緊張するから・・。

 

そして、俺と戸塚のラリー練習が始まった。

 

戸塚はテニス部だけあって相当上手い。

 

俺が壁を相手に会得した正確無比なサーブ上手に受けて、俺の正面にリターンしてくる。

 

それを何度も何度もやっていると、単調にでも感じたのか戸塚が話しかけてきた。

 

彩加「やっぱり比企谷君、上手だねー」

 

距離があるため、戸塚の声は間延びして聞こえる。

 

八幡「ずっと壁打ってたからなー。テニスは極めたー」

 

彩加「それはスカッシュだよー。テニスじゃないよー」

 

伸び伸びの声をお互いだしながら、俺と戸塚のラリーは続く。ほかの連中が打ちミス受けミスを出す中、俺達だけが長いこと続けていた。なにこの優越感、ちょっと気持ちいい。

 

彩加「少し、休憩しよっか」

 

八幡「ん、そうだな」

 

2人して座る。戸塚が横に座ってきた。いや、もう何も言うまい・・。

 

彩加「あのね、ちょっと比企谷君に相談があるんだけど・・。」

 

戸塚が真剣な様子で口を開いた。

 

八幡「ん、どうしたんだ?」

 

彩加「うん。うちのテニス部のことなんだけど、すっごく弱いでしょ?それに人数も少ないんだ。今度の大会で3年生が抜けたら、もっと弱くなると思う。1年生は高校から始めた人が多くてまだあまり慣れてないし・・・。それにぼくらが弱いせいでモチベーションが上がらないみたいなんだ。人が少ないと自然とレギュラーだし」

 

八幡「なるほどな」

 

弱小部活にはありそうなことだと思う。

 

弱い部活には人は集まらない。そして、人が少ない部活にはレギュラー争いというものが発生しない。

 

休もうがサボろうが大会には出られて、試合をすればそれなりに部活をしている気分にはなる。勝てなくてもそれで満足という奴はけっして少なくないだろう。

 

そんな連中が強くなれるはずがない。

 

彩加「それで・・・比企谷君さえよければテニス部に入ってくれないかな?」

 

八幡「・・・どうしてだ?」

 

俺がそう聞くと戸塚は体育座りの姿勢で体を縮こませながら、俺をちらちらと見る。

 

彩加「比企谷君、テニス上手だし・・。もっと上手になると思う。それにみんなの刺激にもなると思うんだ。あと・・・比企谷君と一緒だったら僕も頑張れるし・・」

 

なるほどな。まぁ自分が必要とされているのは嬉しいんだが、俺の答えは決まっている。

 

八幡「・・悪いがそれは無理だ。それに、俺はもう奉仕部に入っているからな」

 

俺は自分の性格をよく知っている。コミュ障ってわけじゃないが、集団行動を好まない。第一、毎日放課後スポーツに励むのは到底無理だ。

 

俺がそんな気持ちでテニス部に入ったって戸塚も嬉しくは思わないだろう。

 

彩加「そっか・・そうだよね。・・・ん?奉仕部?」

 

あれれ~?ご存じない?おかしいですね~、生徒の依頼を手助けする部活なのにこの知名度の低さ。八幡ビックリ!

 

八幡「知らないのか?生徒の願いを叶えるための手助けをする部活なんだ。俺はそこに入っている」

 

彩加「へぇ、そんな部活があったんだ!」

 

八幡「ああ、だから今相談してくれた事はこっちで考えとく。いいか?」

 

そう言うと戸塚はアイドル顔負けの笑顔を向けて

 

彩加「うん!ありがとう。少し気が楽になったよ」

 

 

 

 

≪部室≫

 

 

 

八幡「・・・・・・」

 

風音「どうしたの八くん?難しい顔して」

 

八幡「・・いや、ちょっと相談事をされてさ」

 

雪乃「あなたに相談事?・・・すごい人ね」

 

八幡「おい、それは俺と相談者どっちを指してんだ?」

 

雪乃「両方よ」

 

さらっと言いやがった。

 

八幡「お前らも知っていると思うが、俺と同じクラスの戸塚彩加って奴から相談を受けてな。そのことについて考えてる」

 

雪乃「ああ、あの可愛らしい男子ね」

 

八幡「おい、それあんま本人の前で言うなよ。気にしてるらしいから」

 

風音「それで、相談内容は?」

 

八幡「ああ、それなんだが・・」

 

俺が言いかけた瞬間ドアが勢いよく開いた。

 

結衣「やっはろー」

 

由比ヶ浜は相も変わらずアホアホしく抜けた微笑みを湛えて、悩みなどなさそうな顔をしていた。

 

だがその背後に、力なく深刻そうな顔をして入ってきた人がいる。

 

戸塚彩加だった。

 

彩加「あ・・・・比企谷君っ!」

 

俺と目が合った瞬間、暗くなっていた顔がまぶしい笑顔になった。え?俺と会えてそんな嬉しい?光栄ですね~。

 

八幡「おう、どうした戸塚?」

 

結衣「今日は依頼人を連れてきたの、ふふん」

 

お前には聞いていない。

 

結衣「やー、ほらなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思ったわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

 

雪乃「由比ヶ浜さん」

 

結衣「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことをしただけだから」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど」

 

結衣「違うんだ!?」

 

風音「違うんだ!いつもここにいるからてっきり自然に入部したパターンだと思ったよ」

 

雪乃「ええ、入部届ももらってないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」

 

雪ノ下は無駄にルールに厳格だった。ついで言っとくと風音はちゃーんと入部届を書いたぞ。

 

結衣「書くよ!入部届ぐらい何枚でも書くよっ!仲間に入れてよっ!」

 

ほとんど涙目になりながら由比ヶ浜はルーズリーフに丸っこい字で「にゅうぶとどけ」と書いた。・・それくらい漢字で書け。

 

雪乃「それで、戸塚彩加くんだったかしら?何か御用かしら?」

 

雪ノ下は戸塚に目を向けた。

 

冷たい視線に射抜かれて、戸塚がぴくっと一瞬身体を震わせた。

 

彩加「あ、あの・・・、比企谷君にも相談したんだけど、うちのテニス部は弱いんだ。だから、部活を活気づけるるために、強くなりたいんだ・・」

 

雪乃「なるほど・・。つまりはあなたのテニスの技術向上ね。言っておくけれど、私たちはあくまで手助けするだけよ。強くなれるかどうかはあなた次第」

 

彩加「うん、それで僕が頑張って、少しでも部員のみんなの刺激になれば、嬉しいんだ・・」

 

戸塚は拳を握って、答えた。

 

・・こいつは責任感が強いな。自分のため、部員のため、部活のため、この小さな身体で一人で頑張っている。

 

それだけじゃない・・。精神的にも十分な強さがある。戸塚彩加はそこらの男子よりよっぽど男子だ。

 

その心意気、買った!?

 

八幡「・・・いいぜ、その依頼引き受けた。雪ノ下も風音もいいよな?」

 

風音「うん、いいよ。頑張ろうね」

 

雪乃「そうね。・・それじゃあ、まず何をしようか考えましょう」

 

彩加「みんな・・ありがとう」

 

こうして、俺達の「戸塚彩加強化計画」が始動した。

 

ガラララ

 

結衣「書いて、先生にもOKもらったよー!これで私も部員だっ!」

 

お前空気読めよ・・。今いい感じに締めくくってたじゃん。

 

 

 

 

 

結衣「やっぱりテニスさせんのが一番なんじゃない?」

 

八幡「まぁ、それもあるが、戸塚は見た目的に筋力が劣ってるように見えるから、鍛えさせるのがいいんじゃねぇか?」

 

風音「そうだね。テニスって戦況に応じて全身の筋肉を使うから」

 

雪乃「そう、なら戸塚君に足りてない筋力を上げましょう。上腕二頭筋、三角筋、大胸筋、腹筋、腹斜筋、背筋、大腿筋、これらを総合的に鍛える腕立て伏せを・・・死ぬ一歩手前までやらせましょう」

 

結衣「うわぁ、ゆきのん頭よさげ・・・え、死ぬ一歩手前?」

 

八幡「おいおい、いくら何でもやりすぎだ」

 

雪乃「あら、超回復を知らないの?筋肉は傷めつけた分、より強化されるのよ?」

 

八幡「確かに超回復って案は悪くないが、明らかに限界を超えてんじゃねぇか。そんなことしたらボロボロになることが目に見えるぞ。それで怪我なんてしたら元も子もない」

 

雪乃「スポーツに怪我は付き物よ」

 

八幡「それじゃ怪我を負わせるっつー前提の考えじゃねぇか。怪我っていうのは思いもよらない事故の事を言うんだ。自発的に起こさせるのは間違ってる」

 

俺の反対意見に、雪ノ下は納得いっていないようだ。

 

雪乃「そこまで言うなら、あなたの考えを聞かせなさい。私が納得のいくような案を」

 

俺の考えは至って単純だが、雪ノ下の言った過剰なトレーニングを戸塚にやらせるわけにはいかない。

 

八幡「学校では、テニスだけをやる。筋トレは家でもできるからな。で、その筋トレだが、俺はあまり詳しくないから、自分なりにやってみろ。途中で少しでもこれ以上無理だと感じたらすぐにやめろ。・・これはついでだが、体を柔らかくしたけりゃ入浴後のストレッチをお勧めする。・・それと戸塚」

 

彩加「な、なに?」

 

八幡「部活の練習はランニングするのか?」

 

彩加「え、うん。最初にするよ」

 

八幡「なら、体力は問題ないだろう。・・・俺からは以上だ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

みんなポカーンとこちらを見ている。え?なんすか?

 

八幡「ん?ど、どうした?なんか変なこと言ったか?」

 

結衣「いや、なんというか、その・・」

 

彩加「すごいね、比企谷君」

 

風音「さすが八くんだね」

 

雪乃「ッ!・・悔しいけれどあなたの考えの方がよさそうね」

 

雪ノ下は心底悔しそうな顔をしている。

 

八幡「よしっ、明日の昼休みに始めるか」

 

 

 

 

《昼休み》

 

 

戸塚の特訓のため俺はジャージ姿でテニスコートへと向かう。

 

俺の学年のジャージは無駄に蛍光色の淡いブルーで非常に目立つ。その壮絶なまでにダサい色合いのおかげで、生徒には大不評で、体育や部活の時間以外にこれを好んで着る奴はいない。

 

みんながみんな制服の中、俺だけがやたら目立つジャージ姿だった。

 

義輝「ハーッハッハッハッ八幡」

 

なにやら高笑いしてる生徒がいるが、気にしないようにしよう。面倒ごとは御免だ。

 

そういや戸塚は学校では常時ジャージだったな。それほど気にしてはいないんだろうか。あいつの制服姿も見てみたいな・・。

 

義輝「あいや待たれよ八幡。こんなところで会うとは奇遇だな。今ちょうど新作のプロットを私に行こうと思っていたところだ。さぁ、括目してみよ!」

 

八幡「悪い。今忙しいんだ」

 

俺は材木座の脇を通り抜けると、材木座が肩を掴んできた。

 

義輝「・・・そんな悲しい嘘をつくな。お前に予定などあるわけないだろう?」

 

八幡「嘘じゃねぇよ。後、お前にだけは言われたくない」

 

義輝「ふっ、わかるぞ八幡。つい見栄を張りたくなってしまって小さな嘘をついてしまったんだよな。そして、その嘘がばれるのを防ぐ為にさらなる嘘をつく。あとはひたすらその繰り返し。悲しき「じゃあな」欺瞞の・・って話を最後まで聞け!」

 

八幡「だからほんとに予定が・・」

 

あ~、ウザったい。早くいかなきゃ遅刻する。

 

「八く~ん」

 

「比企谷君!」

 

お、ちょうどいいところに俺の救世主が・・。

 

風音「八く~ん♪一緒に行こ」ダキ

 

風音は俺を見つけた途端、抱き着いて頭を胸板にぐりぐりとしてきた。人がいる前でなんて大胆な子!くすぐったい。

 

彩加「比企谷君、ちょうどよかった。一緒に行こう」

 

戸塚は俺の腕を掴んできた。そして左肩にはテニスラケットを掛けていた。

 

八幡「ああ、そうだな。そんじゃな、材木座」

 

俺は材木座に別れを告げ、風音と戸塚と一緒にテニスコートへ向かった。・・が

 

義輝「待て!。比企谷八幡!」

 

呼び止められた。いい加減にしてくれ。

 

義輝「き、貴様っ!裏切っていたのかっ!?」

 

材木座は、俺達三人を交互に見て言い放った。

 

八幡「はぁっ・・裏切るってどういうことだよ」

 

義輝「黙れっ!半端イケメン!失敗美少年!ぼっちだからと憐れんでやっていれば・・・・美少女二人を囲んでハーレム気取りか!調子に乗りおって・・・」

 

八幡「半端と失敗は余計だ。・・・確かに風音は世界一可愛い彼女だが、そっちの戸塚は男だぞ」

 

風音「は、八くん//いきなりそんな、世界一なんて・・//」

 

材木座は鬼の形相のまま、グルルと唸りながら俺を睨む。目はジェラシーの炎で俺を射抜いていた。

 

義輝「絶対に許さない。・・お前に彼女だと。・・・それに、そんなかわいい子が男の子なはずがない!」

 

彩加「そんな・・・可愛いとか、ちょっと困る。・・・比企谷君の友達?」

 

八幡「いや、どうだろうな」

 

義輝「ふんっ。貴様のような輩がともであるはずがない」

 

こいつ完全に拗ねたな。めんどくせー奴。

 

他の人からしたら「何でこんな奴に」と思うところがあるのかもしれないな。

 

材木座の気持ちはわからなくもない。ぼっちでやっと気の合う人を見つけて、自分の趣味を全開させてくれる人が現れたのに、その人に彼女がいた。そりゃ裏切られたとも思ってしまうだろう。今まで言わなかった俺にも少し責任があるのかな?かな?

 

八幡「風音、戸塚、行こう」

 

彩加「あ、ちょっと待って。・・・材木座君だっけ?」

 

話しかけられた材木座は若干キョドりながらも、こくっと頷く。

 

彩加「比企谷君の友達なら、ぼくとも友達になれる、かな。そうだと嬉しいんだけど。ぼく、男子の友達少ないから」

 

そう言ってはにかむように戸塚は微笑んだ。

 

義輝「フッ、くっ、クゥーックックックッ。如何にも我と八幡は親友。否、兄弟。否否否、我が主であやつが僕。・・・そこまで言われては仕方あるまい。貴公の、そ、そのお、オトモダチ?になってやろう。なんなら恋人でもいい」

 

彩加「それは・・無理かな。友達ってことで」

 

義輝「ふむ、そうか。・・・おい、八幡。ひょっとして我のこと好きなんじゃないか?」

 

材木座は急速に俺に近寄って、小耳を打ってきた。

 

風音「すごいね。可愛い人と仲良くなれると知った途端、高速に掌返ししたよ」

 

風音は俺が思っていたことをそのまま口にした。こんなことする奴は友達でも、兄弟でも、僕でもない。

 

あと風音さん、いい加減に離れてくれませんか?・・。ちょっと恥ずかしくなってきた。すげぇいい匂いするし。

 

八幡「じゃ、そろそろ行こうぜ。遅れると雪ノ下がキレる」

 

義輝「む、それはいかんな。急ごうではないか。あの御仁、・・・・ほんと怖いからなぁ」

 

言うや、材木座は俺と戸塚と風音の後をついてきた。どうやら仲間になったらしい。頭の中でドラ〇エのBGMを流しながら俺達はテニスコートに行った。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

なんか八幡が部活に積極的なんだが・・。ま、いっか。


さぁ、八幡が球を見ずに当てた方法とは?風音の言った『アレ』は何なのか?

次の話で明らかになります!

また次回。

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