29話突入。
材木座が息していないという感想をいただきました。言えることは、材木座はちゃんと登場させます。ていうか出したいです。ただ、そのきっかけを考え中です。
それではご覧ください。
今日も一日がんばるぞい。
季節もすっかり冬真っ盛り。外へ出るや否や冷たい空気が肌を攻撃し、温かい息は白い息と化す。マフラーと手袋が恋しい季節となりました。教室は暖房が効いているため、廊下へ出ようとする生徒は数え切れる程度。
そんな俺は生徒会室に向かう途中。風音にもらったマフラーを巻き、片手には冬に愛飲しているホットでクールなMAXコーヒーだ。常温だそれは。
同じクラスだから凛と飛鳥と共に行くと思われていると思うが、今日はたまたま別行動だ。後に生徒会室で集合する。
「あ、八くん♪」
生徒会室に入ると、先に来ていた風音が嬉々として俺を迎え入れた。彼女の笑顔が温かい。なんだったら半そで半ズボンで雪の中を走れそうだ。嘘です。死んでしまいます。
「よう風音。あったけぇな」
「~♪」
来て早々にハグ。もうバカップルとでも何とでも呼べ。誰もいないからイチャイチャしていいんだよ。掟の意味がないな。
「八くん温かい♪」
風音も温かいな。主に俺の腹に直撃している、膨らんだ胸部が・・・。また大きくなったか?もうこれ以上大きくなると他の奴らに見られてしまうじゃないか。俺が1人1人八つ裂きにしなくてはいけない。重い?重いな。
「八くん、声、出てるよ・・・」
うわぁ、出ちゃったよ。自覚はあるのに無意識にやってしまう癖。その名も『声に出ちゃった。てへ』が。風音は少し困ったような表情で、頬を朱に染めながら、周りを見回した。
「今なら、誰もいないし。ちょっとなら、触ってみてもいいよ?」
風音ぇ!いつからそんな破廉恥な人になってしまったのですか!?そんな子に育てた覚えは・・・・・ないな、うん。成長を見届けたくらいだ。
いや、でも、いいのか?なんて考える前から、俺の手は風音の胸に向かって伸ばされていた。理性が強くとも、彼女の触ってみる?には勝てないらしい。
片手で風音の両肩を覆うように抱き、もう片方の手で胸部へと。そして掌に柔らかいものが触れ、一回だけ揉み、極上の感触を味わい、風音がんっ、と声を出した瞬間
「ヨーソロー!」
「八幡、風音来たよ~。・・・って、何やってるの!?」
「「あ・・・」」
現在、俺と風音は飛鳥に正座させられています。目の前の飛鳥は腕を組み、仁王立ちをしている。書記に正座させられる会長と副会長。・・・・面白い絵だろうなぁ。
「全く。掟を忘れたの?誰もいないからって、その、む、胸を、揉もうなんて!?」
「無理して言わなくていいぞ」
「うるさい!2人共分かった!?」
「「善処する(します)」」
「分・か・っ・た?」
「「はい・・・」」
怖いよ、飛鳥。
凛は自分の席でこの滑稽な光景を腹を抱えながら笑っていた。
◆
「さて、前言った通り、皆集まったな。というわけで、ネットで生徒会はどういうことをやるのか大体調べてきたから報告させてもらおう」
「それ、生徒会長としてどうなのよ?」
いいじゃないか。生徒会長が生徒会の仕事をネットで調べたって。ほら、総理大臣だって裏で『総理の仕事』ってヤフってるかもしれないじゃん。大臣失格だそいつ。
生徒会の仕事というのは、『行事の企画、運営』『アンケート実施』『ボランティア』などがある。
「へえ、行事の企画もできるんだね」
風音が感心したようにつぶやいた。確かに、学校側から色々運営を任されるのが主流だと思っていたが、自分たちから企画してもいいとは驚きだ。内容の審査はあると思うけど。
折角だからやってみよう、という事になり、企画を考える。まずは一からではなく、他の高校にあって、総武高にないものがテーマだ。
「そう言えば、ここって日本の行事でイベントとかやってないよね。七夕とかクリスマスとか、ハロウィンとか」
最初に口を開いたのは飛鳥だ。
「ここは進学校だからじゃないのか?あまりそういうのには手を出してないんだろう」
「じゃあ、何か考えて学校に申請しようよ。案外通るかもしれないよ」
「いいねそれ!楽しそう。八くん、どんなのがいいかな?」
「え?それ俺に聞いちゃう?一番無縁そうだろ?こういうのは女子が決めてくれ。得意だろ?」
「うわ、会長がそれ言っちゃう?仕事してないじゃん」
「そんなことねぇよ。お前らが企画を決めて、俺が教師陣に申請しに行く。そして無理矢理通させる」
「野蛮!」
暴挙に出るかどうかはあとにして、実際こういう割り振りの方が効率もいいし、いい案も思い浮かぶと思う。俺は流行に疎い。基本ニュースしか見ていなくて、ほとんど風音に教えてもらっている。あの、スノー?って撮影アプリなのか?風音にそれで撮られて笑われたのは覚えてる。いつかし返しする。げへへ。
そして、風音達による、女子の会議が始まった。ここから俺は傍観者であり暇人である。
『仕事をしない生徒会長』。俺にピッタリの称号だ。
・・・・寝ようかな。
◆
眠りから目覚めた。なんか、別の人の人生を体験した気がする。なんて事あるはずもなく、目を閉じたまま、意識を取り戻した。
耳には、近くで話し声が聞こえる。風音達だ。
「寝ちゃってるね」
「悪戯しちゃおうよぉ♪」
「いいねそれ」
「ええ!そんなのダメだよ・・」
「心配しなくても、落書きとかじゃないよ」
ははーん、さては俺が寝てることをいいことに何かするつもりなのだろう。落書きじゃないとなると一体何をする気なんだ?
すると、頭から何かを被せられた感じがした。そして、パシャっと撮影した音が聴こえた。
「これとか?」
「あ、八くん可愛い」
何を付けたのか物凄い気になるがまだ目は開けない。反撃のチャンスを窺っている。もちろん風音にな。さすがに彼女の前で他の女子に悪戯なんてするはずがない。
目の前には女子3人。左が風音。目を閉じても、居場所が分かる。風音がどんな動きをしているのかも、分かってしまう。色んな壁を越え過ぎて最早境地に達している。
「風音・・・」
「夢の中でも風音か。ラブラブだね~」
「聞いてるこっちが恥ずかしいよ・・・」
「嬉しいなぁ♪」
もちろん嘘の寝言だ。見事に引っかかってくれている。
「なーに?八くん♪」
今だ!
風音が一歩こちらに近づいた瞬間、腕を引っ張って抱きしめた。突然の出来事にわあ!っと可愛い声をあげて、俺の胸板に顔を押し当てた。俺は腕を掴んだ後、風音の腰に腕を回した。
「え?あ、は、八くん?」
「愛してる・・・」
「・・・・ふふ♪」
頭を撫でたが、まんざらでもない様子。これ悪戯というよりご褒美だな。
「八幡、起きてるでしょ?」
「寝てます。・・・・いてぇ!」
飛鳥をだますことができず、突然頭に衝撃が与えられ、頭をさする。目を開けると、片手には俺を叩いたであろうハリセンを持っていた。
「見せられる私たちの身にもなってよね!」
「さすがに私も恥ずかしかったな・・・」
「・・・はい」
◆
「はい。3人で考えた企画がこれ」
風音に一枚の紙を渡された。俺はいくつかのイベントを読み上げる。
『球技大会』『クリスマスイベント』『ハロウィン仮装大会』『バレンタインイベント』
うん、どう考えても通らなそうだ。球技大会は良しとして、日本の行事を取り入れるのは悪くないが、進学校で通じるかどうか・・・・。
でも、折角考えてくれたわけだし、俺は何もしなかったわけだから、取り敢えず申請しに行こう。
職員室へ行き、生徒会の顧問である鶴見先生に出した。やはり渋った表情。
「う~ん、どれもこれも悪くはないけど、ちょっと厳しいんじゃないかな?」
「やっぱり?」
「やる気があるのはこちらとしても嬉しいけど・・・。折角だし、理事長に出してみれば?」
「え?理事長いるの?」
「うん。ここの校長。理事長兼校長だよ」
万能というか、普通にすごいな。そんなすごい人だと、根っから真面目だからこの申請も通るか分からなくなってきた。一応説得するための言葉は頭の中で並べてる。
校長室の前に立ち、ドアをノック。すると、入りなさいと許可をいただき、失礼しますとその部屋へ入った。
「何か用かね?生徒会長殿」
「・・・・・」
まず言わせてほしい。何その口調。それにその待ち構え方。シンジの父親みたいにしちゃってさ。
「あの、いくつか企画を考えたので、見てもらおうと思って来ました」
「ふむ、こちらへ」
なんなんださっきっから。ていうか、その構え俺が入った時からやっていたし、俺らが来ることも知っていない。という事は、ずっとその構えをしていたという事になる。ちなみに俺以外は外で待機している。
「成程。面白そうだな。早速仕事をしてくれているとは、私も嬉しい」
「じゃあ」
「だが、ここは県内有数を誇る進学校、総武高校だ。イベント自体は悪いわけじゃないが、勉強の妨げになるのもまた事実」
やはり渋々とったところか。理事長の言ってる方が正しいのも事実だが、行事が少ないという意見が多いのもまた事実。
「しかし、進学校とってもやっぱり息抜きは大事だと思うんです」
「確かに」
「こういう楽しいイベントがあったら、喜ぶ生徒も大勢ですよ」
「確かに」
「受験生への息抜きにもなりますし、それに、ここを志望校にする中学生も増えると思いますよ」
「確かに」
「生徒が増えるというのは学校側としてもありがたいんじゃないですか?」
「確かに」
「だから、進学校でも一日だけという事で、こういうイベントをやった方がいいんじゃないかと思います」
「確かに」
「あんた反論する気あんのかぁ!?」
さっきっから聞いてりゃ、同意しかしてねぇじゃぇか。あの謎の威厳何だったんだよ。
「言われてみれば確かにそうだな!実にいい。気に入ったよ!」
この学校は一癖も二癖もある人が多いと思っていたが、まさか理事長もその1人とは。こんな愉快痛快なおじさんを初めて見た。千葉ランドのプリンスだ。意味わからん。
「ところでシンジ」
「比企谷八幡です!何いきなり息子扱いしてるんすか!」
「いやあ、声が似てるってよく言われるんだよ。自分でも面白くなってしまってな。はっはっは!」
確かに声は似ているな。雰囲気とかも似ている。きっと似ていると言われたときにそっちに寄せたのだろう。
「中々良いんじゃないか?私もイベントが少なくて、寂しいと感じたこともあるんだ」
「じゃあ・・・」
「前向きに検討しておくよ。こういうことをしてくれる生徒会がいて私も嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
失礼します、と言って理事長室を出た。何というか、随分と絡みやすい人だったなぁ。アニメの話とかも通用しそう・・・。あわよくば仲良くなれそうなまである。
「どうだった?」
緊張の趣で、外で待機していた風音、凛、飛鳥は前のめりで聞いてきた。
「上目遣いが可愛いなぁ」ナデナデ
「いや、違うでしょ八くん!」
「「どうだったの!?」」
「わ、悪い悪い。前向きに検討してくれるって。意外と絡みやすい理事長で助かった。面白い人だ」
「何それ会ってみたい・・・」
◆
後日、LHRの時間。クラスに報告があると、担任から言われた。全学年がそうらしい。
「急ではあるが、来月に球技大会をやらないかと理事長から申し出だ?皆はどうしたい?」
俺達生徒会が考えた企画だ。まさか、本当に通るとは・・・。担任からの急な問いかけにざわざわと賭博でも始まりそうな雰囲気に、喧騒し始めた。
しかし、その喧騒は、不満の声ではなく、どちらかというと、面白そうとプラス思考に皆が喋っている。
「先生。その球技の種目は何ですか?」
「男子はサッカーとバスケ。女子はテニスとバレーだ」
考えたのは誰なのかさておき、割といいチョイスだ。受けもそれなりに良いように見える。ここまで不満がないとなると、逆に不安なんだが・・・。運動苦手な奴にとっては嫌な行事になるんじゃないか?
「運動苦手な奴にとっては気乗りしない人もいるだろうが、安心してくれ。理事長が直々に配慮してくれている」
あの人どんだけ力入れてんだよ・・・。1つの行事にそこまでやるなんて、寂しいってレベルじゃないぞ。けど正直助かりました。そこらへんなんて考えていなかったもんで・・・。早速反省点が見つかってしまった。
「どうする?やるか?」
果たしてみんなの答えは・・・・・・。CMの後で!
◆
「いやあ、よかったねぇ。やることになって」
凛は椅子に背中を預けながら、だるそうな声で言った。
「そうだなぁ。まさか賛成が8割とはな」
「その内2割は反対されたけどね」
ここでナイツのネタはやめてくれよ・・・。初仕事なだけに気にしてるんだよ。あの碇ゲンドウ・・・じゃないや。理事長いなかったら危うかったしな。マジで理事長リスペクトっすわ。
「風音は球技何にするんだ?」
「テニス」
「同じくテニス」
「以下同文」
「バレー人気ねぇ・・・」
「八くんは?」
「バスケ」
「「意外」」
風音以外皆驚いている。
「はっ、舐めんなよ。俺の影の薄さは幻並みだ。シックスマンだ」
「八幡の場合、本当にできそうで怖いよ・・・」
いやいややらねぇから。ロットアイは力まで底上げされてしまうから、仮にもイグナイトパスしたら、壁にボールがめり込む。それかパスを受ける人の手首が折れる。
ちなみに彩加もバスケだ。足を使うスポーツがあまり得意ではないらしい。
球技大会まで1ヶ月。その間は体育の時間は球技大会の練習に費やすとのことだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
先週『君の名は。』を見てきました。それに影響されて、このシリーズで入れ替わりネタやろうかなぁ?なんて考えてたりします。
次回は久しぶりの、八幡と風音のいちゃこら回。
また次回。