サイタマが洞窟に住み始めてからおよそ550日。
サイタマは暇潰しに傍らに寝そべる豹にも似た魔獣の鼻先を指でかいてみる。
地球での豹の成獣ほどの大きさがあるが成獣には程遠いのだから驚きである。
鼻先をかかれた魔獣はつむっていた目をうっすらと開き、ちょっかいをかけてきた不届きものを不満そうに見つめた。
体長以上の長い尻尾でサイタマをバシバシたたく。普通の人間であれば重症にもなるような鋭く重い尻尾での攻撃だがサイタマには効かない。
サイタマは機嫌を損ねたかと感じ魔獣の喉元を撫でてみた。
そうすると魔獣はゴロゴロと猫のように喉を鳴らし始めた。
なんとも奇妙なやり取りだがこの一人と一匹にとってはいつものことである。
雪白と名付けた魔獣との邂逅は、サイタマがようやく洞窟の外に出てしばらくのことである。
生き残るため最強のヒーローになるため、洞窟内にてハードなトレーニングを続けていたサイタマは、その恩恵か、雪山の寒さに完全に馴れていた。
馴れたのかその程度の寒さでは肉体に影響が出ないのかと言えば後者であるが。
とはいえ猛吹雪の外に出るのはさすがに辛いものがあるため、吹雪が弱まる日にサイタマは食料探しに外に出ている。
サイタマが、外に出るとそこには大きな魔獣がいた。
いつもその魔獣はここに居るのだがサイタマは気づいていなかった。
そして魔獣も別段サイタマを襲う気も無かったからである。
現在サイタマは雪に埋もれ頭以外、埋もれてしまっていた。
それほど雪が積もっていたのだった。
作業着とはいえこんなに雪に埋もれればかなり寒いはずだが、サイタマの強靭な肉体の前には効果が無かった。
サイタマななんだか、雪国で雪に埋もた草のような気分になっていた。
そして不快な視線を感じサイタマは後ろを向いた。
その視線の主は件の魔獣であり、雪に埋まったサイタマを哀れむような視線を送っていた。主に頭皮に。
サイタマはイラッときたがまずは雪から脱出しようと雪をかいた。
バンと大きな音が発生し、サイタマの周りの雪は吹っ飛んだ。力を入れすぎたため、雪が弾け飛び雪崩となってしまった。
サイタマは下に誰もいないよなと内心焦りながら、哀れみと別の視線を送る魔獣に再度、顔を向けた。
件の魔獣が口をぽかーんと開けて見ていた。どう見ても貧弱で毛のない人間が大雪を弾き飛ばし雪崩を発生させたためだ。
異常な力である。どこからそんな力があるのか毛がないからか毛がないからそんな力を出せるのかと、サイタマが知れば激怒することを考えていたのだった。
とりあえずサイタマは魔獣は襲わず、まずこの雪山の地形を調べるため歩き出した。