須賀京太郎が逆行するお話   作:通天閣スパイス

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予約投稿がうまくいかなかったので、時間が中途半端に。


四話

「――――京ちゃん。あのね、ネット麻雀のやり方、教えてほしいんだけど」

 

 

 

 放課後の、部活が終わった後の時間。

 俺と咲、二人並んで帰宅路を歩いていた際に、咲がそんなことを言った。

 

 

 

「……ネト麻?」

 

「うん。確か京ちゃん、ネットで麻雀やってたよね?

 

 私、合宿までの課題だって、部長に『ネット麻雀やってみなさい』って言われたじゃん。でも私、そういうの全然分からないから。……その、京ちゃんに教えてほしいなぁ、って」

 

 

 

 先日の入部騒動から色々あり、細部は違えども大筋は逆行前のものと変わらない経緯を辿って麻雀部に入部を決めた、咲。

 彼女が加入したことによって団体戦への出場が可能になり、部長、三年の竹井久先輩は夢であった全国優勝へと本気で動き始める。

 そんな逆行前の記憶と同じく張り切っていた久先輩の手によって、今日の部活の際、『麻雀部超強化合宿』の開催が告げられた。

 

 この合宿は逆行前でも行われたものであり、特に特筆すべきことはない。

 週末に校内の合宿棟に泊まり込み、麻雀を打つ。それによって各個人の力を仕上げ、大会までに出来るだけ万全のものにしようという、普通の合宿である。

 

 その合宿を行う前に、久先輩は麻雀部の面々それぞれの弱点を推察、その弱点の克服方法を教授して。

 逆行前、そして今回もまた同様に咲が言われた弱点は、『リアルで読み取れる情報に頼りすぎていること』。その対策として挙げられたのが、咲の言うネット麻雀であった。

 

 が。逆行前と今回で全く同じなのか、と言われるとそうではない。

 

 逆行前では、俺は初心者ということもあってほぼ雑用としてのみその合宿に参加し、久先輩からのアドバイスも特にはなかったが、今回は違う。

 他の面々と渡り合えている実力を持つ今の俺なら、ちゃんと久先輩のお眼鏡にかなったらしい。俺にも弱点、そしてそれに対する対策が、きちんと彼女から伝えられた。

 

 そしてもう一つ、相違点があって。

 俺の記憶が確かなら、逆行前の咲も確かにネット麻雀での特訓を行ったが、それは部室にあるパソコンを使っての話である。

 しかし今回は、どうやら彼女は違う場所での特訓をご所望のようで――――

 

 

 

「あ、でも、私パソコンとか持ってなくてさ。だから、えっと、これから数日くらい……その、きょ、京ちゃんの家に行っても、いい?」

 

 

 

 途中で何度か吃りながら、視線を四方八方にそらしつつ、俺にそう願ったのだ。

 

 

 

「え? ……俺の、家?」

 

「う、うん。京ちゃんの家なら結構私の家から近いし、夜遅くなっても平気だし。京ちゃんだったらお父さんも知ってるから、ひょっとしたらお泊まりだって許してくれるかもしれないし。

 そ、そしたら、ほら。いっぱいネットで麻雀、出来るじゃん」

 

「いや、まあ。それはそうだけどさぁ……」

 

「……それとも、京ちゃん。私が京ちゃん家に行くの、嫌?」

 

 

 

 きゅっ、と。咲は両手を胸の前で祈るようなポーズにさせながら、雨の日に捨てられた子犬のような目で、上目使いで俺を見上げる。

 

 待ったをかけようと口を開きかけていた俺は、そんな彼女の瞳を見ると、思わず言葉を詰まらせて。

 そのまま十数秒、二人でお互いを見つめ会った結果、気恥ずかしくなって先に目を逸らしたのは俺の方だった。

 

 ……いくら精神的にはそれなりの年とはいえ、俺だって男だ。男なんていくら年を取ろうが、根本的な部分は変わらない。変えられない。

 しかも今の俺は若い少年の身体で、どうにも若い肉体に精神も引きずられてしまって。可愛らしい少女の姿を見て、魅力的だと素直に感じられるくらいには、俺の精神は若返っている。

 

 まあ、つまり。ついグッときてしまうような彼女の姿を見て、何とも言えない気恥ずかしさを覚えてしまったのは、しょうがないことなのだ。

 

 

 

「……ったく、分かったよ。別にこれが初めてって訳じゃないし、な」

 

 

 

 結果として、彼女が俺の家に来ることをあっさりと承諾したことも、また。しょうがないこと、なのである。

 ……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シングルベッドと、大きな衣装棚と小さな本棚。シンプルな勉強机と、その隣のパソコンデスク。

 壁には有名なサッカー選手のポスターが貼ってあり、棚の上やデスクの隙間には、以前飲み物に付いてきたおまけのフィギュア等が飾られている。

 

 そんないかにも年頃の男子といった感じの、特別なところもないこの部屋こそ、俺の自室だ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 咲は、その俺の部屋に家族以外で入ったことのある、数少ない一人である。

 中学以来の付き合いである彼女とは、たまにお互いの家を訪れることもあって。彼女が俺の部屋にやって来たのは、逆行前と回数が同じであるならば、これで七回目くらいだったはずだ。

 

 とはいえ、さすがに他人の自室で簡単に寛げるほど、彼女の精神は図太くはなく。

 七回目とはいえ、まだ慣れたわけではないのだろう。彼女は多少緊張した様子で、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルの前に、そわそわと忙しなく部屋のあちこちを眺めながら座っていた。

 

 俺が飲み物とお菓子を取りに一階のリビングまで降り、そこから自室へと戻った時も、彼女は変わらず緊張していて。

 扉を開け、俺がテーブルに近づいてからやっと、俺が戻ったことに気づいたのか。彼女は驚いたように顔をこちらに向けて、誤魔化すように「えへへ」とはにかんだ。

 

 

 

「お、お帰り、京ちゃん。飲み物とお菓子、持ってきてくれたんだ」

 

「おう、お待たせ。アイスティーとアルフォード持ってきたから、好きに食べろよ。

 

 ……って言うか、お前さ。何でまだ緊張してんの?」

 

「えっ!? ……や、やだなぁ。緊張なんてしてないです、よ?」

 

「あー、はいはい、そういうのいいから。俺の部屋に来るの七回目だろ、いい加減そろそろ慣れろよ」

 

 

 

 俺がそう言うと、咲はうぐぅと言葉を詰まらせて。

 恥ずかしさをまぎらわせるためか、彼女は俺が持ってきたグラスの片方にアイスティーを注ぐと、それをちびちびと飲み始める。

 

 咲は恥ずかしがりやというか、メンタルが弱いというか、図々しさが足りないというか。

 逆行前では麻雀に関わり出してから大分改善されていたが、関わりだして間もない今現在では、彼女の精神はお世辞にも強いとは言えない。

 

 だからといって、俺がどうにか出来ることではなし。今の時点でどうにかしてやるメリットも、あまりない、というより彼女のインターハイ無双が一年早まるぐらいしか思い付かないこの現状では、実際に何かをするつもりもない。

 どうせ、時間が経てば勝手に解決するのだ。……俺が変に弄って咲のメンタルが悪化するのも嫌だし、からかうぐらいにして放っておくのが一番だろう。

 

 そんなことを考えながら、俺もアイスティーをグラスに注ぐと、それをグイと口にして。

 ほぅ、と一息ついた様子の咲に向けて、さっさと本題を切り出すことにした。

 

 

 

「で、ネト麻だったっけ。ネト麻って言っても色々あるけど、サイトはどれでもいいのか?」

 

「え? あ、うん。私はそういうの全然分からないし、部長からも特に指定はなかったし。とりあえず、ネット麻雀が出来れば何処でもいい、かな」

 

「おう、オッケー。じゃあ最大手の『天龍』にすっか、俺もやってるやつだし」

 

 

 

 咲に確認をとってから、俺はパソコンデスクの上のデスクトップパソコンの電源を点ける。

 一分も経たない内に立ち上げを終えたそれのマウスを動かし、デスクトップ上のアイコン――『天龍』というネット麻雀ゲームへのショートカットをクリックすると、数秒後に『天龍』のトップページが表示された。

 

 普段ならここでログインボタンをクリックするところなのだが、生憎と今回プレイするのは俺ではなく、咲。

 ログインボタンの上、『新規登録』と書かれたボタンをクリックすると、俺の作業を背後でポカンと見つめている咲へと振り返った。

 

 

 

「んじゃ、まずはこの画面で色々入力してくれ。IDは自動で配布されるから、決めるのはパスワードと登録するメルアドぐらいだから。

 色々な機能とか使いたいなら個人情報もいるんだけど、麻雀打つだけならこれだけでいいし。……出来るか?」

 

「えっ? ……え、えーと、ゴメン。そもそも出来るって、何を?」

 

「……いや、いい。何でもない。

 パスワードはとりあえず俺が決めといて、後で紙に書いて渡してやるよ。メルアドは『Yahhoo!』で捨てアド取っとくから」

 

 

 

 最初の入力画面くらいは、咲にやらせようとも思ったが。

 彼女の目が得体の知れないものを見つめるそれであるのを見て、パソコンのいろはを教えることを即座に諦める。

 

 まあ、彼女はネット麻雀が打てればいいわけで。マウス操作やネット麻雀の基礎、長考防止の時間制限や捨てる牌はクリックすること等だけを教えればいいだろう。

 その他のことについては、俺は知らない。めんどくさい。未来で出来る(かもしれない)彼氏にでも教えてもらえばいい。

 

 新しいタブを開いて某有名検索エンジンを開き、そこで新しくメルアドを作ってから前のタブの入力画面へと移動。

 手早く入力を済ませて『天龍』の新規アカウントの取得を終え、自動的に割り当てられたIDナンバーと適当に決めたパスワードをしっかりとメモに写し取ってから、その新規取得したアカウントでログインする。

 

 そうして画面が『天龍』のスタート画面に変わり、一回クリックして今度はメニュー画面へと変わったのを見ると、俺は席を立って。

 

 

 

「よし、咲、座れ。とりあえず、麻雀の打ち方だけ教えてやるよ」

 

 

 

 いつの間にか背後から画面を覗き込んでいた咲の肩を掴むと、彼女が何か言うよりも早く、俺と入れ替わりにパソコン前の席へと座らせた。

 

 

 

「え、ええっ!? ちょ、京ちゃん、いきなり!?」

 

「いやだって、実際にやらせながら教えた方が覚えるだろ、お前の場合。

 んじゃまずは、この『全国対戦』って書かれたとこをクリック――――あ、咲、クリックって分かるか? クリックってのはな、このマウスってやつの」

 

「いや、さすがにそれくらいは分かるから! 私だってそこまで機械音痴じゃないもん!」

 

「あ、そう? じゃあほら、ここをクリックして。そうすると次の画面に移るから、今度はこの『マッチング戦』を選んでみろ」

 

「……う、うん」

 

「そうすると、今のお前のレート――始めたばかりだから±0の初級者レベルか、それくらいの相手を自動的に選んでくれるから。あとは相手が決まるまで待って、同卓する相手が決まったら対局開始って訳だ」

 

 

 

 デスクの前の椅子に座る咲の右後ろに立ち、ネット麻雀についての簡単な基礎を教えていく。

 対局を始めるまでの流れから、対局中の操作まで。彼女がほぼPC初心者だということを考慮して、出来るだけ丁寧に教授を行った。

 

 最初は言われるままに俺の指示に従っていた咲も、最初の一局が終わった頃には操作方法を把握したようで。

 次の動作を俺が口にして伝えずとも、彼女は自分で対局を行えるようになっていた。

 

 

 

「……うし。んじゃ、もう一人で出来るな?」

 

「うん、大丈夫。とりあえず、一通りは分かったから」

 

「ん、そか。じゃあ俺は宿題やってるからさ、一段落ついたら声かけてくれ」

 

「うん。……ありがとね、京ちゃん」

 

 

 

 咲はそう言ってこちらに振り向き、えへへと俺に笑みを見せる。

 

 俺はそれにヒラヒラと手を振って、「気にすんな」と返して。

 パソコンへと向き直り、真剣な表情でネット麻雀の画面を見つめ出した彼女の背中を、一瞬だけ見つめて――――

 

 

 

(……うん。やっぱり、これが咲、だよなぁ)

 

 

 

 俺のよく知る、俺がいつも見ていた背中は、こんな感じだったと。目の前で麻雀に打ち込んでいる彼女の姿を、ふと昔の記憶と重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………きょう、ちゃん」

 

「ん? なんだ、どうし――――って、何涙ぐんでんのお前」

 

「だ、だって、この麻雀、おかしいんだもん。牌とか、全然、見えなくてっ……!」

 

「……あー、あー、うん。とりあえず泣き止め、ほら鼻かんでー」

 

「ちーんっ! ……それでね、カンしても全然嶺上開花出来ないし、ツモもバラバラになっちゃってね。

 何回もやってみたんだけど、私、全然……」

 

「…………あー、うん。見事に負けまくってるなー、これ」

 

「こんな麻雀、私、知らないよぉ。……これって、ホントに麻雀なのかな、京ちゃん」

 

「………………」

 

 

 

 その後、ネットではオカルトが一切通じないためにネット麻雀でボロ負けし、咲が俺に泣きついてきたのを見て。

 

 やっぱり、少しくらいはこいつのメンタルを今から鍛えた方がいいだろうか、と。

 咲の背中を優しく擦って宥めながら、そんなことをついつい考えた。

 

 

 

 




咲がネト麻やって涙ぐむのは原作通り。この時点の咲ってホントにメンタル弱いですよね、ぶっちゃけ。

Q.麻雀描写いらなくね?

A.やっぱり軽く入れたいなぁ、とは思ってます。細かく描写するのではなく、少年誌的な感じになるかもですが。

Q.番外編ならわた、衣もチャンスがあるな!

A.あります。ハッピーエンドかは知りませんが。

Q.やっぱ元妻はちゃちゃのんですよね!

A.そんなん考慮しとらんよ……。

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