浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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第81話 必殺の時間

ヘリポートの上で渚と鷹岡が向かい合っている。今から鷹岡との勝負が始まるから当然といえば当然だ。

 

そして渚の足元にはさっき寺坂が投げたスタンガンがある。投げたショックでスタンガンが壊れるなんて事は無さそうだ。ああいう武器は頑丈だろうし。

 

渚はそのスタンガンを拾う。それを渚は腰につけた。それはスタンガンは使わないと言うことなのか、それとも何か考えがあるのか…どちらかは分からないけど。

 

 

「ナイフ使う気満々だな。友だちに免じてスタンガンは拾ったってところか。言っとくが、予備の治療薬ならここにある。もしテメェが殺す気で来なかったり、他のやつがなんかしてきたら速攻割る。作るのに数日かかるそうだ。全員分ねぇがこれが最後の希望だぜ」

 

 

鷹岡が小さなビンを取り出した。あの中に治療薬が僅かに入っているらしい。…あのケースが木っ端微塵になった以上はアレを手に入れるしか方法は無いみたいだ。それでも全員分はないけど…

 

 

「…烏間先生、もし危険だと判断したら鷹岡の腕を狙撃して下さい。責任は私が取ります」

 

 

殺せんせーが銃を鷹岡に向けている烏間先生に話した。…殺せんせーから見ても今の状態は危ないようだ。多分烏間先生から見ても同じだと思う。何しろ鷹岡は腐ってても戦闘のプロ。その相手と障害物のないところで一対一で戦うなんてかなり難関な試練だ。

 

 

「うっ…!」

 

「…フン、どうした?殺すんじゃ無かったのか?」

 

 

前回と同じように不意をつこうとしても鷹岡はそれを許さない。一定の距離に近づいた瞬間に鷹岡の攻撃が繰り出され、渚はそれをくらい続けている。

 

戦闘の技術では明らかに鷹岡の方に分がある。あのクソ野郎も一応軍人、中学生が太刀打ちできる訳がない。あの状況じゃ渚が有利な暗殺の形式に持っていく事が出来ない。一方的に殴られてばかりだ。

 

 

《ヒュン…》

 

「…ふん」

 

《ドゴ!》

 

「…ッ!!」

 

 

渚がナイフを突き出そうとしたところ難なく躱されて鷹岡のカウンターが入る。それもモロに顔面だった。鷹岡の力なら…結構ヤバいダメージを受けた気がする。

 

 

 

「…無理だ」

 

「どうやって戦えば良いんだよあんな怪物!!」

 

 

 

ヤバいと感じているのは俺だけじゃない。俺と一緒にその戦いを見ている生徒もそう思った。あんな状態でどうやって倒せば良いのか、全く良い考えが思いつかない。

 

 

 

「さて、俺もコイツを使わせて貰うぜ。手足を斬り落として標本にしてやる。永遠に愛でてやるよ」

 

 

鷹岡がとうとうナイフを持った。さっきまではナイフを使っていなかった。ここから更にヤバい事になりそうな気がする。

 

 

「…!烏間先生、早く狙撃して!ホントに渚が死んじゃう!!」

 

 

見ていられなくなった茅野が烏間先生に言った。俺から見てもかなり危機的状況だ。速くあの状況をなんとかした方がいい。

 

 

 

 

 

 

「…待てよ。余計な事をするんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

かなり焦っている茅野に向かって声を出したのは、ウィルスに感染している寺坂だった。まだ何もするな、寺坂の言っている事はそういう事だ。

 

 

「まだ見ていろって?そろそろ俺も加勢したいんだけど」

 

「カルマ…テメェはサボリ魔で知らねぇだろうがな…渚にはまだ奥の手があるんだよ」

 

 

 

…奥の手……?

 

 

 

そういえば、あの日…ロヴロ先生が校舎に来ていた日に、渚はロヴロ先生に何か教えられていたな。烏間先生のところに質問しに行っていたからその内容は知らないが…

 

その奥の手が、この事態を打破する策という事なのか。

 

俺が烏間先生に教えられたような技術は意味がない。アクロの時は道具が沢山あったからそれを使う時間を稼ぐために使ったんだけど、ヘリポートの上という何も場外物がない狭いところでは、立ち位置が変わるだけで終わる。

 

今の渚の状態で有力な技は、相手を動けなくする技でないと意味がない。それも暗殺稼業の人が戦闘の手練れに。そんな技なんてあるんだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーゾク…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…!?

 

 

 

この寒気…

 

 

 

 

あの時…渚と始めてあった時と同じ…!?

 

 

 

 

 

 

「な…渚、笑ってる…?」

 

 

 

 

 

ヘリポートの上では渚の様子が変わっている。そう、渚は笑っているのだ。前に鷹岡と戦っていた時と同じように。

 

 

 

けど若干違う。あの時よりも…威圧感がある。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

渚が鷹岡に向かって歩き始める。その様子はなんというか…ユックリに見える。歩くスピードは変わっていない。けど鷹岡との距離がジックリと縮んでいる。

 

 

「…!クソ…ガキ………!」

 

 

同じ違和感を持ったんだろう。鷹岡は渚を警戒していた。前みたいな展開は避けるために決して油断はしていない様子だ。あの状態じゃ不意打ちは通じない。

 

 

そうこうしているうちに2人の距離が近くなっていた。あの距離ならナイフを当てる事が出来る距離だ。鷹岡がナイフを振らないのは、恐らく渚の動きを警戒しているからだ。

 

 

渚の動きを見ているのは、俺らもだ。今から渚は何をしようとしているのか。あの鷹岡をどうやって倒すのか。その気持ちのまま見ていた。

 

 

 

 

更に渚が前に進もうとする。

 

 

 

 

 

 

その時の渚の動きに意表をつかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

「ナイフを……離した………?」

 

 

 

 

 

一歩足を進めようとした瞬間、渚が手に持っていたナイフを離した。手から離れたナイフはそのまま地面に向かって落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

《パン!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな破裂音が鳴った。落ちて行くナイフに気を取られていたせいかその音にかなり驚いた。渚の目の前にいる鷹岡なんかは仰天して体制が崩れそうになっている。

 

 

さっきの音は、渚が手を鳴らした音だ。相手の目の前で大きな音を立てるように手を叩く。いわゆる猫騙しだ。

 

 

 

俺は渚の攻撃の仕組みが全て分かった。アレは恐らく驚かせて隙を作るための技だ。

 

 

自分に向かって敵が近づいてくるとき、手練れであればその凶器に目が行ってしまう。視線が集まったナイフを空中に放る事で視線を晒させる。

 

 

 

その瞬間に手を鳴らし、強い音で相手を驚かせる。緊張感が高まっているこの状態で唐突に大きな音が出たら誰だって驚く。

 

 

 

その驚いた事で生じる瞬間的な隙を、暗殺者は逃さない。

 

 

 

 

渚は流れるように、腰につけていたスタンガンを手にとって鷹岡に当てる。

 

 

 

 

 

「ぐあああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

強力な電流が体中に流れ、鷹岡が大声を出しながら苦しんでいた。見張りの人間を気絶させたあの威力だ。鷹岡だって無事でいられる筈がない。

 

 

鷹岡は床に膝をついた。意識はあるが恐らく身体は動けないんだろう。さっきから立ち上がる様子すらない。

 

 

俺たちはその様子を下から見ながら呆然としている。素人でもあの技は簡単ではないと分かる。ノーモーションから最速で大きな音を鳴らすなんて難しすぎる。上手にならなくて変な音が鳴る事だってある。それを渚は難なくこなした。しかもロヴロにあの技を教わったのはあの訓練の時だから、僅か一週間であのレベルまでに達した事になる。

 

 

 

渚の奴……とんでもない力を手に入れてるんじゃねぇか…?

 

 

 

「トドメを刺せ渚。クビにタップリ流せば気絶する」

 

 

 

 

呆気に取られている中、寺坂が渚に声をかける。渚はそれに従って鷹岡のクビにスタンガンを当てた。スタンガンを当てられている鷹岡はかなり怯えている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………鷹岡先生。ありがとうございました」

 

 

「ーーーっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

感謝の言葉を伝えて、渚はスタンガンのスイッチを入れた。なぜその言葉を言ったのかは分からない。鷹岡はそのままバタリと倒れた。

 

 

 

 

 

 

「よっしゃああ!!ラスボス撃破ァァ!!」

 

 

 

 

 

 

暫く茫然としていたが、そのあと全員で一斉に叫んだ。俺も喜びを隠しきれないな。なんというか…ほっとした。

 

 

 

「無事で良かったです。今回ばかりはヒヤヒヤしましたよ」

 

 

 

渚のところまで行ったところで殺せんせーが言った。戦いを見ている間も結構焦っていたのが分かったし、いまホッとしているんだろうな…

 

 

 

 

「うん…僕は大丈夫だけど……どうしよう。鷹岡先生が持っていた薬だけじゃあとても足りない」

 

 

 

 

けど喜んでばかりもいられない。渚の言う通り肝心の治療薬が少ないんだ。さっき鷹岡が予備の治療薬を持っていたけど、いま感染しているみんなの分はありそうにない。

 

 

 

 

「…とりあえず君らは待機だ。俺が毒使いの男に問い詰める」

 

 

 

 

烏間先生が電話を操作しながら話している。恐らく救出用のヘリかなにかを呼んでいるんだ。俺たちはそれに乗ってここから離れ、烏間先生はあの毒使いの男…鷹岡の話によるとスモッグだったか。ソイツから治療薬をもらうつもりなんだろう。

 

 

これ以上ここには用はない。正確にはここで出来ることがない。おれたちがいたところで烏間先生の邪魔にならないとは言いきれない。

 

 

けど、ここで何もしないでいるのは……

 

 

 

 

 

 

 

「そんな手間はいらねぇよ。テメェらに薬なんぞ必要ねぇ」

 

 

 

 

 

 

…!この声って……!

 

 

 

 

 

 

 

「ガキども…このまま生きて帰れるとでも思ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

…暗殺者たちだ。下の階で戦った4人の暗殺者たちが俺たちの前に現れている。拘束したはずだが、多分脱出したんだろう。……気のせいかカルマに酷いことをされた暗殺者は物凄い怒っているように見える。

 

 

 

 

 

 

「お前たちの依頼人は倒れた。もう戦う理由はないはずだ。俺はもう回復している。生徒たちも充分強い。互いに被害が出ることはもう止めにしないか」

 

 

「ん、いーよ」

 

 

 

 

 

烏間先生が俺たちの前に立って話しかける。殺し屋たちとの戦いを止めるために。けどそんなスンナリと終わるはずもなく。

 

 

 

 

 

 

 

アレ?いーよ、て…良いの?

 

 

 

 

 

 

「ボスの仇打ちは俺らの依頼には無いしな。それに言ったろ。お前らに薬は必要ねぇって」

 

 

 

 

 

…な、なんか突然の事態に頭が追いついてない。自分たちを破った相手にやり返したりしないのか?それに、必要ないってどう言うことだよ。いま俺たちはそれを手に入れるために必死で……

 

 

 

 

…ん?ちょっと待てよ。

 

 

 

そういえば、少し前から気になっていた事があった。なんでアクロが鷹岡の言うことに従っていたのかと。アクロは若者を好んで殺すような奴じゃない。それこそ無駄な殺人は好まないとも言っていたし。

 

 

 

いや、それを説明出来る理由はある。例えばアクロは仕事に私情は挟まない人間であるとか、そもそもその理屈事態が嘘であるとか。

 

 

けど高いところから飛び降りようとする俺を助ける事には説明がつかない。少しだけ違和感はあった。

 

 

 

 

アクロに対して感じていた違和感と、銃を持った暗殺者が言った言葉の意味を考えた時…1つの予想がついた。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか…みんながかかっている奴と、鷹岡の言っていたウィルスは別物だった……?」

 

 

 

 

 

俺の思いついた考えを言った。周りのみんなは少し戸惑っているみたいだったが、殺し屋たちが笑っているのが見えた。

 

 

 

 

 

「その通りだよ、学真くん。この計画はそもそも最初から破綻していた」

 

「お前たちに盛ったのは食中毒を改良したものだ。あと1時間は猛威を振るうが暫くするとおとなしくなっていつも通りになる。ボスが使えと言っていたのはコッチ。これが使われていたらお前らマジでヤバかったかもな」

 

「この4人で話し合ったぬ。ボスが指定した時間は1時間。ならば殺すウィルスじゃなくても交渉はできると」

 

「お前たちが命の危険を感じるには充分だっただろ?」

 

 

 

 

………マジかよ。

 

 

つまり最初から鷹岡の計画は成立していなかったということか。

 

 

なんか、物凄く脱力感がある。これだけ苦労した意味は何だったんだよって感じだ。もしそれが分かっていたらこんな苦労する事なかったのに。まぁそれが鷹岡にバレるとこの殺し屋たちの方が危なかったんだろうけど…

 

 

 

「アイツの命令に逆らったってこと?お金貰っているのにそんな事して良いの?」

 

 

岡野が殺し屋たちに尋ねる。たしかにコイツらがやったのは命令無視という奴だ。お金を貰って依頼人を裏切ると言うのはかなりいけない事のように感じる。

 

 

「アホか。プロが何でもお金で動くと思ったら大間違いだ。勿論クライアントの期待には出来る限り応じるがな」

 

 

 

 

銃を持っている殺し屋が言った。プロはお金で動くとは限らないと。

 

 

 

 

「ボスはハナから薬を渡す気なんてなかった。もしウィルスを盛ったら確実にお前らは殺されていた。

 

 

カタギの中学生を大量に殺した実行犯にされるか、契約を無視した事がバレる事でプロの評価が下がるか…どちらが俺らの今後に支障が出るか、冷静に秤にかけただけよ」

 

 

 

……殺し屋にもこういう奴らがいるんだな。自分の考えをシッカリと持っていて、冷静にするべき事を考える。正直コイツらの事を見くびっていたのかもしれない。

 

 

 

「哀れだよね。今回の依頼人は俺たちを上手く使える器じゃなかった」

 

 

アクロは床にバッタリと倒れている鷹岡を見下ろしている。コイツひょっとして、鷹岡の事を良く思ってなかったのかもしれない。

 

 

「やはりあなたから見ても、この男は力不足だったようですね」

 

「そりゃね。人選から間違っているんだし」

 

「人選、ですか…」

 

「生徒数人をウィルスに感染させて、交渉として100億の賞金首を要求する。ここまでは良い。

 

けど相手はその交渉に応じるとは限らない。奇襲を仕掛けてくる可能性は充分にあった。

 

その対応としてオジサンたちに防衛を命じたけど、暗殺者に戦闘なんて向いてない。オジサンなんて戦闘になったら直ぐに負けてしまうよ」

 

 

説明してるところ悪いけど、説得力が全くない。下の階で俺と戦った時なんかは物凄く手強かったんだ。そんな奴が『戦闘になったらすぐに負ける』なんて言われても信じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし防衛を命じるんなら、オジサンたちよりも適任な殺し屋はいた」

 

 

 

 

 

……なんだ?

 

 

アクロや…他の3人よりも適任な殺し屋…?

 

 

 

 

 

 

「ソイツは一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は聞いたことない?『タンク』という殺し屋だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

………!タンク……!

 

 

 

 

 

 

そのコードネームは聞いた事がある。ロヴロ先生から説明された殺し屋の1人…!

 

 

 

 

「けど、暗殺のスキルは1番無いと聞いたんだが……」

 

「はは。何しろ正面から堂々と殺しに行くような奴だからね。任務終了のときはボロボロになってたとも聞いているよ」

 

 

 

アクロが面白そうにしている。同業者から見ると傑作にしか見えないのか?

 

 

 

 

 

「けどもしタンクがボスに依頼されていたら…多分君たちは無事じゃ済まなかったよ。少なくともホテルに乗り込んだメンバーの全滅は免れなかったと思う。恐らく死んでいただろうね」

 

 

 

寒気を感じた。まさか、本当に俺らを殺しかねないような奴がいるとは…

 

 

 

 

「バカな…それはつまり、中学生大量殺人の実行犯になると言うことだぞ……」

 

「烏間先生とやら。殺し屋全員が俺たちみたいな奴じゃない。中には容赦なく命を取る殺し屋だっている。

 

特にタンクは『容赦』という言葉自体を知らない。依頼された通りに動く。正に『兵器』。あそこまでの域に達している殺し屋はもはや居ないと言っていい」

 

 

 

兵器、か……。ロヴロ先生も言っていたな。

 

 

「ボスは周りの評価だけを聞いて依頼したみたいだったから、タンクには依頼しなかった。判断力の甘さが、今回の結果を生み出してしまったと言うことだよ」

 

 

……皮肉にも、鷹岡の判断力の甘さに救われたみたいだ。アクロみたいに最初から俺らを殺す気が無い連中だったから殺される事はなかったと言うことか。

 

 

けど、安心してもいられないよな。これから先殺せんせーをねらう奴も出てくるだろうし、その時にタンクと言う殺し屋が動く可能性もある。

 

 

 

 

浮かれている場合じゃないと言うことだな。

 

 

 

 

「ま、そんなわけで残念ながらお前たちは誰も死なねぇ。その栄養剤、患者に飲ませときな。殺す前より元気になってたって感謝の手紙が来るほどだ」

 

 

毒使いの男が栄養剤を渡した。アフターケアもバッチリみたいだな。殺す前より元気になったってどう言うことだ?

 

 

 

「…信じるかどうかは、生徒の回復が確認出来てからだ。聞きたいこともあるし、しばらくは拘束させてもらうぞ」

 

「しゃーねーな。来週には次の仕事があるから、それまでにな」

 

 

 

 

烏間先生が呼んだヘリコプターが空から降りてきた。殺し屋たちは烏間先生に同行する事になるみたいだ。この状況で嘘をつくとは考えにくいけど、そう簡単に信じるわけにも行かないってところだな。

 

 

 

 

「おじさんぬリベンジマッチしないんだ。俺のこと死ぬほど恨んでるんじゃないの?」

 

 

 

カルマが握力の殺し屋を挑発する。ホント、嫌な性格してる奴だな。

 

 

 

「俺は私怨で人を殺した事はないぬ。誰かがお前を殺す依頼が来るまで待つ、そうなるぐらいに偉くなれぬ」

 

 

カルマの肩を叩いて、殺し屋はヘリコプターに乗った。…すごいサッパリしているな。アレが、公私の区別という奴か。

 

 

 

 

「そういう事だガキども!本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!そん時ゃプロの殺し屋のフルコースを教えてやるよ!」

 

 

殺し屋たちを乗せたヘリは上空を飛んだ。銃弾が落ちているのは銃使いの殺し屋が空中に向かって発砲しているからだろう。

 

 

 

「…なんか、あの4人には勝った気がしないね」

 

「あれじゃ俺たちがあやされたみたいだよ」

 

 

 

 

まぁ、そうだな。

 

 

 

あの殺し屋たちには頭が上がらない。自分たちの先を考えて適切な行動を選択する。恨みしか考えていなかった奴とは大違いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺たちは飛行船に乗ってホテルから離れる。後のことは政府関係者がやってくれるみたいだ。殺せんせーの処分も、今回の件も。

 

飛行船の中では、みんなグッタリしている。俺もそうだ。いつもの体育以上にキツかったし。

 

ホテルに着いたら俺は真っ先に治療をしないといけない。国から医者がこちらに向かっているみたいだ。

 

 

「寺坂くん、ありがとう。僕、間違えるところだった」

 

「ケッ、別にテメーのためにやったわけじゃねぇ。1人でも減ったら殺す確率が減るだろうが」

 

「…うん、そうだね」

 

 

…寺坂の奴、なんでそんなツンデレ口調なんだ?

 

 

「やかましいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行船がホテルの近くに到着する。到着するときの衝撃が身体に響く。怪我しているから余計に感じるのかもしれない。

 

一斉に飛行船を降りる。もちろんウィルスに苦しんでいるみんなのところに行くためだ。いま竹林と奥田がみんなの治療をしているはず。一刻も早く現状を伝えるために俺たちは足を進めた。

 

 

「……ッ!」

 

 

立とうとした瞬間に、身体が倒れかける。床に倒れそうなところを誰かに支えてもらった。

 

 

「大丈夫か、学真…?」

 

 

俺を支えてくれたのは磯貝だった。そういえばコイツはずっと俺を支えていたな。ひょっとすると、俺が倒れる事も予測していたのかもしれない。

 

よく見ると矢田も俺の様子を見ている。俺の事を心配してくれているみたいだ。まぁ…あんな派手に怪我をしている奴を心配するなという方が難しいな。

 

 

「わり、大丈夫だ」

 

「無理はするなよ…」

 

 

 

磯貝に支えられながら、俺は飛行船を出る。矢田も俺の後ろについて行っていた。

 

 

とっくに飛行船を出たみんなは宿の中に行って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?どうした、お前ら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出入り口から外を覗くと、先に出ていたみんなが立ち止まっていた。ウィルスに苦しんでいる生徒のところに行く様子もない。そこに立ち止まっているだけだった。

 

 

 

嫌な予感がする。今はふざけるような時じゃない。何かあったのは明らかだ。

 

 

みんなはいったい何を見たんだろうか。俺と磯貝と矢田はみんなの隣に進んで、その先にある光景を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…な………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず声を出した。異常事態が起きているとは思っていたけど、いま俺が見ている光景を見たらそう言わざるを得なかった。

 

 

 

 

俺たちが止まっている宿には、E組とホテルの従業員、もしくは政府の人以外にはいない。何しろ今日はホテルを貸し切った。ほかの宿泊客なんていなかったし、ここ付近に誰か来るはずもない。

 

 

 

 

 

けど俺たちの目の前には、俺たちの知らない人が沢山いた。

 

 

 

黒いフードで身体を隠している、不気味な格好をした人たちが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フン、帰ってきたみたいだな」

 

 

 

 

 

 

 

1人の男がこちらを見ている。俺たち…つまりE組の生徒が来たことに反応があったみたいだ。

 

よく見るとそいつらは何かを中心に周りを囲んでいる。この状態は、包囲という奴だ。誰か1人を囲んで戦っている状態になっている。

 

 

 

 

 

そして奴らが包囲しているのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?霧宮………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロの身体で刀を持っている霧宮だった。あの薬の効果が切れていないため、結構苦しそうだ

 

よく見ると霧宮の周りには、取り囲んでいる人と同じ格好をしている奴らが倒れている。状況的に考えれば霧宮が倒したという事だろう。

 

 

 

つまり霧宮は、コイツらと戦っていたというのか……?

 

 

 

 

 

それも、あんな状態で…?

 

 

 

 

「……合流されたのなら仕方あるまい。ここは退くとしよう。だが忘れるな。俺たちはあの生物を諦めたりしない」

 

 

 

 

 

不気味な格好をしていた連中はその場から逃げるように離れていった。人数が増えたからなのか、それともとても強い烏間先生が来たからなのか…どちらにしてもこれ以上戦っても意味がないと思ったのだろう。

 

 

 

 

 

「…ッ!なんとか、耐えたようだな…」

 

 

奴らの姿が見えなくなった瞬間に、霧宮は安堵しながら倒れる。俺たちは霧宮の近くに集まった。

 

 

 

「霧宮!!」

 

「大丈夫か、おい!」

 

「何があったの…!?」

 

 

 

 

意識があるかを尋ねたり、ここで何が起こったかを尋ねたりはしたけど、霧宮はそれに答えずにいる。多分…体力的な負担が大きすぎるんだろう。

 

 

 

 

「霧宮、お前……!」

 

 

 

 

混乱している。

 

 

 

 

 

俺たちは、霧宮を含めたみんながここで治療を受けているものと思っていた。

 

 

 

なのにここにいたのは謎の集団と、それと戦っていた霧宮の姿。

 

 

 

疲れているせいかなかなか考えがまとまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体ここで、何が起こった…?

 

 




ここで終わりと思っていた?残念、まだ続いております。


霧宮と戦っていた集団は一体何者なのか、彼らの目的とは、次回をお楽しみにしていてください。

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