浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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第52話 対決の時間

とりあえずいま黒崎と倉橋から聞いた話をまとめよう。

 

どうやらこの2人…会ったことがあるらしい。倉橋が言うには、人質として捕まっていた時に助けてもらったとか。

そういやなんかカッコいい男がいたとかの話をしていたな。やっぱり黒崎だったか、アレ。

 

「こんなところで会うとは思わなかった」

「俺もだ。まさか椚ヶ丘の生徒だったとはな」

 

いま俺たちは黒崎と一緒のテーブルにいる。俺とも知り合いで、倉橋とも会ったことがあるし。しかも…

 

「それにしても、溶け込んだみたいだな、霧宮。正直心配していたが」

「ああ。学真や先生のおかげだ」

 

霧宮とも知り合いだったわ。霧宮が言っていた『連絡を取ってくれた知り合い』ってのはどうやら黒崎みたいだ。

要するところ、矢田以外の生徒は全員黒崎を知っていたと言うことだ。

そして倉橋が一緒のテーブルで勉強しようと言った。コイツ、空気を作るのは凄い上手だからな。

 

「あの…黒崎くんって、勉強は得意なの?」

 

矢田が黒崎に聞いた。そういや黒崎は前回の中間考査で二位だったな。渚からはそんな話は聞いたことは無いけど、相当勉強ができるんじゃないか?

 

「いや…勉強は得意ではない」

 

だが本人から否定された。

 

「…え?だって中間テストのとき…」

「中間テストは、直前になって範囲が変更された。その為難易度が低くなっていた。後半の問題は、教科書の文章から抜き出したものしかない。そういうテストだったから、比較的良い成績になっただけの話だ」

 

 

…まぁ、理屈は分かる。幾ら何でも、たった2日間で習った内容を応用するのは無理があるし、だから問題も簡単なものだったんだろう。

だから良い点数取れたと言っているが、それだけで総合2位取れる訳ではない。応用問題が無かった訳でもねぇし、教科書を丸暗記するのも簡単じゃない。いや、俺みたいに見ただけで覚える能力があるなら別だけど…

尋常じゃない努力はしているはずだ。けどコイツは、それで満足しない。…だからこそ、日に日に成長するんだろうな。

 

「だが今回の期末は、そのような話はない。寧ろテストを難しく作っているという噂もある。前回と同じような勉強で満足していたら、50位以内にすら入らないだろう」

 

…今もそうだ。現状を見定めて、自分のやらないといけない事を認識している。そう考えながら動ける奴ってそういないだろうな…

 

「それにしても、霧宮まで勉強に取り掛かるとは。一体どうしたんだ?」

 

霧宮が一緒に勉強しようとしていたのが意外だったのか、俺らに聞いてきた。

 

「…クラスで掲げた目標があるんだ。各教科で、一位になるって」

 

矢田が話した。黒崎が殺せんせーの暗殺を知っている事を知らないからだろう。具体的な内容は伏せてある。

この時、矢田と倉橋は警戒していた。最底辺であるE組が、1位を取ると言ったら、馬鹿にするんじゃないかと。

 

「ほう…レベルの高い目標を立てたものだな。良いんじゃないか。目標は高く設定するに越した事はない」

 

けど俺は知っている。黒崎はそれで馬鹿にするような男ではないと。

 

「…え?アッサリ認めるんだね。てっきり『出来っこない』とか言って笑うんじゃないかって」

「他人の笑い方など知らん」

 

…うん、黒崎が言うと説得力が違うな。本校舎の生徒でE組の生徒をバカにしないで適切に話しかけてくれる数少ない生徒だし。

ていうか片岡の時も思ったけど、コイツは納得の行く正論を言うよな。他人の話や価値観に左右されず、正しいのは何かと言うのを自分なりに見定めて、それで測っている感じがある。

だからなのかもしれない。仲間ではないけど、信頼できると思ってしまうのは。D組からは嫌われているようだけど、俺からすると下手な先生より信頼できる。

 

「じゃあさ、黒崎くんも一緒に勉強しよう」

 

すると倉橋が黒崎を誘う。どうやら倉橋も黒崎を信頼したらしい。

 

「…良いが、教えれるほどではないぞ」

「良いよ良いよ。みんなで勉強した方が楽しいから」

 

どうやら黒崎も参加することになったな。

 

 

と、いう訳でこのグループが出来上がった。なんか出来上がる過程が凄かった気がするけど。

とりあえずこの5人で勉強をしていた。分からないところは聞いたり話し合ったりして。そのおかげで、1人でやるより多くの問題が解けたような気がする。

そんな感じで勉強を進めていくと、ラインの通知音が鳴った。しかもどうやら俺だけじゃなくて、E組の生徒全員に来たようだ。携帯を取り出してラインを開く。そして、磯貝から届いたラインを読んだ。

 

「…A組と期末テストの点数で対決することになった…?」

 

そう書いてあった。詳しくは明日話すとも書いてあるけど…何が起きているんだ…?

 

 

次の日

磯貝や渚に説明を受けて状況をなんとなく理解した。

 

磯貝が本校舎の図書室を利用できる権利を得て、磯貝と一緒に、渚、奥田さん、神崎さん、中村が図書室に行っていたところ、A組の、五英傑って奴らがからんできたらしい。

五英傑ってのは、A組が誇る5人の天才。放送部部長の荒木鉄平、生徒会書記の榊原蓮、生物部部長の小山夏彦、生徒会議長の瀬尾智也…そして、生徒会長の浅野学秀。

 

察した人はいるかもしれないけど…浅野学秀は俺のアニキだ。この学校でも学力一位で、全国の中でも一位というバケモノだ。

兄貴がどういう奴かを説明しようとすると…1番シックリ来るのが騎士だ。他人を納得させるだけの力があり、そのカリスマ性と口達者な話によって、例え兄貴の言っていることがキレイ事だと知っていても、ついて行きたくなるような性格の男だ。

そういう兄がいたからこそ…家に俺の居る場所がなかった。同じ双子なのに、どうしてこうも出来が違うのかと…色々な奴に言われた。そして兄貴も、俺に対して目をくれなかった。なんの干渉もせず。

 

「それで、五英傑と喧嘩になったというわけか」

「そうそう。宝の持ち腐れみたいな事を言い出してさ」

「それで…私が思わず、反論してしまったんです。そこから喧嘩に火がついてしまって…」

「奥田さんのせいじゃないよ。そう言ってしまうのもしょうがないから」

 

中村、奥田さん、神崎さんの話を聞いて、流れは漸く掴んだ。

聞いた話だと、その場にいたのは、兄貴を除いた4人の五英傑だ。なるほど、口が悪いやつしかいないな。

荒木鉄平は、放送部からなのか、基本的に喋る仕事はソイツがやってる。その喋り方は、明らかに俺らをバカにしているようにしか聞こえない。

榊原蓮は、詩人的な話し方が特徴の奴だ。しかも前原とかと同じようなタラシ属性の持ち主で、女子と喋っているところを聞くと虫酸が走る。

小山夏彦は、顔が特に怖い奴だ。その顔ゆえに虐められた事があるらしい。それが逆にE組に対する加虐心に火をつけたみたいだ。そして、『理科は暗記だ』でゴリ押しする。

瀬尾智也は…いや良いか、話したことあるし。

 

まぁ聞いての通り、兄貴以外の奴らは良い性格の奴はいない。E組を煽るだろうし、こちら側も負けじと反論する。

 

「その結果…期末の各教科のテストで勝負をする事になったというわけか」

 

そこで五英傑の奴らが勝負を持ちかけた。

ルールは、どちらのクラスがより多く5教科の一位をとったかと言うことだ。そして勝った方が負けたクラスに好きな事を要求する事ができるらしい。

 

「そしてさっき、要求する内容は1つだけと言うことになったのか」

 

磯貝がさっき、A組の奴らからルールを1つ追加するという連絡を受けた。

これは恐らく兄貴だな。勝負の場合はルールを公正明大にしないと後になって色々と面倒をつけられるのを避けるためにしたんだろう。悔しいけど、かなり頭が回る奴だからな。

 

「どーすんの?奴ら明らかに何か企んでいるよね。A組が出した条件って」

 

カルマの言う通りだろう。このルールを持ち出した以上、兄貴が出す要求は何か嫌な予感がする。処罰の境界線をシッカリ押さえているだろうから、違法ギリギリの要求を持ち出してくるような気がする。

 

「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うものはねぇよ」

 

うーん、そりゃそうなんだけど…失うものがあるとか無いとかの問題じゃねぇんだよな。

 

「勝ったら何でも1つかぁ…学食の使用権とか欲しいなぁ〜」

 

倉橋の話を聞いて思い出した。こちらも何か要求を考えないといけない。このE組は無いものばかりだから、要求できるものは幾らでもあるな…

 

「ヌルフフフフ、それについては先生に考えがあります」

 

すると殺せんせーが自信満々に話し始めた。殺せんせーの考え…聞いてみたいな。

 

「先ほどこの学校案内を読んでみたんですが…コレをよこせと命令してみてはどうでしょう」

 

そう言って殺せんせーは椚ヶ丘中学校の学校案内パンフレットのあるページを見せた。

 

「……!なるほど…」

 

確かに…()()は良いな。俺も思わず鳥肌が立った。そんな豪華な報酬を貰ったら、とてもやりがいを感じる。

 

「君たちは一度どん底を体験しました。だからこそ次はバチバチのトップ争いを経験して欲しいのです。

先生の触手に『コレ』…報酬は充分揃いました。後は目指すだけです。暗殺者なら、狙ってトップを取るのです」

 

殺せんせーは俺らに言った。自分の力でトップを狙えと。ここまで豪華な報酬が出た以上、狙わないという手はない。これからも頑張って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『情けないな。お前のレベルはこんなものか』

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

狙えるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの兄貴よりも高い点数を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうした?昨日に比べて問題を解くペースが落ちているようだが」

 

昨日と同じメンバーで勉強をしている時だった。問題を解くペースが落ちている事を黒崎に指摘される。

 

「…悪りぃ。調子が出ないみたいだ」

 

とりあえず謝っておく。矢田や倉橋、霧宮にも心配そうな目を向けられる。昨日の今日だしな…心配してしまうのも当然だ。何とか取り戻さねぇと。

 

「そういえば聞いたぞ。E組とA組で、期末テストで勝負をするんだってな」

 

すると黒崎から、例の勝負の話をされる。…やっぱり、本校舎中に広まっているようだ。

 

「うん。本校舎ではどういう風に広まっているの?」

「E組が無謀な勝負を仕掛けたと聞いた。どこまで本当だ?」

「…やっぱり、コッチが仕掛けたって話になっているか」

 

案の定、本校舎の中ではE組が悪いように言われている。勝負を持ち出したのはアッチなんだけど…まぁ、それを理解してくれる状況でもないか。

 

「…なるほど、勝負を持ち出したのは五英傑の方か。だとすれば納得が行く」

 

とりあえず黒崎に事の顛末を話した。黒崎もあの情報を正しいと思ってなかったようで、俺らの話を聞いて納得してくれたみたいだ。取り敢えずはこれでひと段落…

 

「それで?まさかとは思うが、兄と比べているとか言うんじゃないだろうな。お前は」

 

…うげ、バレたよ。コイツなんでこんな鋭いんだよ。こんな思いをしたのは多川にされて以来だ。

 

「…はい」

「認めるんだ」

 

倉橋から冷静なツッコミが入る。そうは言われても、強がれる気にはならなかった。

 

「…兄貴は、秀才だ。それは、小さい頃から分かっていた。勉強でも、スポーツでも、習い事でも、俺なんかとは比べられねぇぐらいの成績を残した。

だからよ…1位になるってことは、兄貴を超えなきゃ行けない。それは…可能なのかって思ってよ。少し…不安だ」

 

空気が重くなる。いかんな。気分が落ち込むとこうなってしまう。俺の悪い癖だよな。いざってなると腰が引けるのは。それの責任を負うのが俺だけなら良いけど、今回はクラスみんなで目指していることだ。これでへこたれていると、みんなに迷惑がかかる。

この空気を変えようと思い、この場で謝って空気を変えようかとした。

 

「目標は達成可能でないと行けないのか?」

 

その時、黒崎の台詞を聞いて動きを止めた。

 

「言ったはずだ。目標は高いに越した事は無いと。達成出来っこない目標を掲げても、お前が恥じる必要は無い」

 

たしかに、目標は達成可能である必要は無い。目標はあくまで目標だ。余裕で達成できるような軽い目標を立てる方が勿体無い。

 

「それに…上で余裕そうに居座っている奴らよりも、どん底から這い上がろうとするお前らの方が可能性があると思う」

 

…黒崎に言われて、スッキリしたような気がする。そうだな。達成できるかどうかは問題じゃ無い。いま求められているのは、達成したい目標に向けて努力する事だ。

 

…ゴチャゴチャ考えすぎたみたいだな。

 

「…悪りぃ、おかげでスッキリしたよ」

 

黒崎に礼を言った。テスト前になってこんな気持ちが解消できて良かったよ。

 

 

 

 

 

「…そうか。なら俺から一つ。

 

 

 

 

 

 

ひっくり返してこい。椚ヶ丘の常識を」

 

 

 

 

 

 

ここまで来たら、後は努力するしか無いだろう。俺たちは再び勉強を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間にその時は来た。期末テスト。この数日間、霧宮や黒崎、矢田に倉橋と一緒に勉強を一生懸命やるだけはやった。ここまで来た以上、後は信じるしかないだろう。いままでやって来た勉強を。

そう胸に刻みながら、自信満々に扉を開けた。

 

すると直ぐに、俺の勢いは崩れた。

 

 

なんか見たことない生徒が教室にいるんだけど…

 

 

 

 

「…だれ?」

「さぁ……」

 

 

俺と一緒にいた渚と中村も気になっていた。なんか…髪は律と同じな気がするけど…

 

「律役だ。さすがに人工知能の参加は認められず、律が教えた替え玉で落着した」

 

戸惑っている俺らに烏間先生が説明をしてくれた。…まぁ確かに、人工知能がテストに参加するとなると、全教科百点満点を出す恐れがあるだろう。それは流石に不正だな。だからあのような替え玉を要求したというわけか。

 

「交渉のとき理事長に『大変だなコイツも』と憐れみの視線を向けられた俺の気持ちが、君たちに分かるか」

「「「頭が下がります!」」」

 

…烏間先生、本当にご迷惑をおかけします。あのタコと理事長に挟まれて、ストレスは溜まっていく一方何だろうな。ストレスが原因でハゲたりしなければ良いけど。

 

「律からの伝言も併せて、俺からも。頑張れよ」

 

烏間先生からエールを送られる。殺せんせーに、黒崎に、烏間先生に、律に…色々な人が応援してくれる。ここまで多くの人に応援される事なんていままで無かった。嬉しさと同時にやる気が溢れてくる。こんなに応援してくれる奴がいるんだから、応えないと行けないだろう。

 

 

 

 

 

テストは個人戦だ。テストが始まれば、仲間もいない。自分に立ち向かってくるのは、問題という難関だけ。

けどこの舞台に、色々な人がいると感じる。一緒になって戦う者。敵となって戦う者。野次と声援を飛ばすギャラリー。

 

 

 

 

ここはまさに、闘技場だ。試験会場という舞台で、問題と戦うグラディエーター。

 

 

 

 

戦闘開始を告げるゴングの合図が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いま、鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テスト開始。果たして学真の結果はどうなる!?

次回『テストの時間』

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