浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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始まってしまった。これ以外にいまの気持ちを表す言葉が分からない。




第37話 新任教師の時間

「視線を切らすな!次に標的がどのように変化するかを予想しろ!全員が予測すれば、それだけ奴の逃げ道を塞ぐことになる!」

 

椚ヶ丘中学校の校庭で、我らが体育教師、烏間先生の声が響く。今の時間はそう、暗殺技術の訓練が授業内容である体育だ。

体育の授業のスタイルはシンプルだ。特に、対殺せんせーナイフを烏間先生に当てるという内容は分かりやすい。だがそう簡単に当てることはできない。防衛省でもかなり腕利きの方が相手なので、見事に捌かれる。

ナイフを一回当てる毎に一点貰える形式で、何回もこの実習をやるからチャレンジ回数は数えきれないほどある。けど当たった回数なんて片手で数えれるレベルだ。俺の今の得点は1点だ。ま、当ててるだけマシとのことだ。

殺せんせーといい、本当に俺らはとんでもないバケモノ先生から教えられているんだな。

 

もう1人いるだろって?忘れた。

 

「ふざけんなクソガキ!」

 

 

◇烏間視点

 

4ヶ月目に入る当たり、『可能性』がある生徒が増えてきた。

磯貝 悠馬と前原 陽斗、運動神経が良く仲も良い2人のコンビネーションなら、俺にナイフを当てるケースが増えてきた。

赤羽 業、一見のらりくらりしているが、その目には強い悪戯心が宿っている。どこかで俺に決定的な一撃を加え、赤っ恥をかかそうと考えているが、そう簡単にいかさない。

浅野 学真、持久力では劣っているものの、観察力や戦いのセンスが高く、様々な工夫を凝らしてナイフを当ててくる。最近では反射神経がかなり上達してきた。

女子は体操部出身で意表を突いた動きができる岡野 ひなたと、男子並みの体格と運動量を持つ片岡 メグ、このあたりが近接攻撃として非常に優秀だ。

そして殺せんせー、彼こそ正に俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない」

 

「人の思考を捏造するな。失せろターゲット」

 

寺坂 竜馬、吉田 大成、村松 拓哉の悪ガキ3人組、こちらは未だに訓練に対して積極性を欠く。3人とも体格が良いだけに、彼らが本気を出せば大きな戦力になるのだが…

 

全体を見れば、生徒たちの暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいないものの…

 

 

ーーゾク…

 

「…!!」

 

 

 

◇学真視点

 

あ、吹き飛んだ。いま烏間先生に攻撃を仕掛けた渚が反撃を食らって吹き飛ばされた。流石烏間先生、素晴らしい力だな。

それにしても…烏間先生があそこまで近づくまで気づかれないとは。前々から感じていたことだが、渚にはなんかあるよな。時々コッチを驚かす何かを。

 

「いった…」

「すまない。強く防ぎすぎた。大丈夫か?」

「あ、へ、へーきです」

「バッカでー、ちゃんと見てないからだ」

「う…」

 

烏間先生が心配そうに駆け寄っている。大丈夫と言っている渚に、杉野は笑いながら言った。まぁ…不注意にも見えるよな。

 

 

 

 

 

「それまで!今日の体育は終了!」

 

体育の授業が終わった。今日は当たりませんでした。哀れみの視線を向けるな。傷つくから。

これから次の時間に移る。次は確か…小テストか。体動かした後のテストはマジ鬼だろ。

 

「せんせー!放課後みんなでお茶してこーよ!」

 

倉橋が烏間を誘う。ホント、烏間のこと気に入ってるんだな。…なんかカッコいい男に出会ったとか言ってなかったか?

 

「ああ、誘いは嬉しいが、この後は防衛省からの連絡待ちでな」

 

…律儀に断ったな。って言うか、ああいう系統の誘いは基本断ってるよな。

 

「私生活でもスキがねーな」

「というより、私たちの間にカベっていうか一定の距離を保っているような…」

 

三村、矢田が言うのも納得できる。烏間先生は何処か俺らに距離を置いている。

…距離を置くって言葉を使った時、2年ぐらい前の自分のことを思い出す。まぁ、俺は単に見られたくなかったという理由なんだが。

 

「厳しくて優しくて、私たちのこと大切にしてくれているけど、それってやっぱり、ただ任務だからに過ぎないのかな」

 

倉橋が心配そうに言う。あくまで任務のためだけに俺たちと接しているんじゃないかと。凄い淋しそうだ。

だが違う気がする。人と関わらないっていうより…俺らの世界に入って来ないっていうようにしている感じだ。多分、烏間先生なりのスタイルなんだと思う。

 

「そんな事ありません。確かにあの人は…先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」

 

相変わらずいつの間にか現れる殺せんせーが言った。まぁ殺せんせーがそういうぐらいだし、そう気にしなくて良いんじゃないかと思う。

 

 

◆烏間視点

 

 

「烏間。君をこの任務につけたのは・・・その能力を買っての事だ。空挺部隊ではトップの成績鬼教官としても才能を発揮し、軍服を脱いだ後の諜報活動も目覚ましかった。

だが現状はどうだ。秘密兵器の転校生暗殺者も活かし切る事ができなかった。暗殺者の手引きと生徒の訓練。いくら君でもひとりではこなせないようだな。今のところ暗殺の糸口もつかめていない」

 

直属の上司から部屋で話を聞いている。いつまで経っても成果が現れない現状に呆れられているようだ。転校生暗殺者として送られてきた自律思考固定砲台と堀部 イトナを活かしきれず、度々のチャンスを逃してしまっている。転校生暗殺者があと1人いるものの、この調子では活かしきれるかどうかも怪しいとされていた。

 

「今もこうして平然と窓の手入れをされている。ナメられとるんだよ我々は!!」

 

言われた通り、ターゲットがこの部屋の窓の掃除をしている。その様子と顔の模様から、俺らを完全にナメていることが明確に分かる。

 

「状況を打破するためもう1名人員を増やす。適任の男がひとりいるんだ」

 

 

 

上司から聞いた話が本当なら、今日にその新たな人員が来るという事だ。俺はその男を待っている。これからどのように動くのかを聞くために。

 

すると、校舎の扉が開いて、1人の男が現れた。その男は大量の荷物を抱えている。

 

「よ!烏間」

 

鷹岡 明、防衛省特務部の男だ。俺が少し前にいた時の同期で、教官としては俺より遥かに優れていたと聞いている。新たな人員とは、この男のことだったのか。

鷹岡は、生徒たちがいる校庭に歩き始めた。

 

 

◇学真視点

 

…?校舎から1人の男がこっちに歩いて来る。なんか、すげぇデカい。腹も出てるけど、体格もデカイな。

 

「や!俺の名前は鷹岡 明!今日から烏間を補佐してここで働く!宜しくな、E組の皆!」

 

とても明るそうに話しかけてきた。鷹岡って人はそう自己紹介を終えると持っていた荷物を降ろした。そこにあるのは、ケーキや飲み物だ。しかも…

 

「!これ『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん!こっちは『モンチチ』のロールケーキ!」

 

…茅野が言った通りだ。流石、甘いものはよく知ってるな。

さっき茅野が言った店は、かなり高級なケーキ店だ。俺もたまに利用している。こないだ渚たちにケーキをご馳走しただろ?あれなんかは『モンチチ』のケーキだ。

 

「良いんですか!?こんなに高いのを!」

「おう食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな!モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。お前らと早く仲良くなりたいんだ。それには…皆んなで囲んでメシ食うのが1番だろ!」

「でも、えーと鷹岡先生、よくこんな甘い物ブランド知ってますね」

「ま、ぶっちゃけラブなんだ。砂糖がよ」

「デカい図体して可愛いな」

 

結構俺らに話しかけて来る。フレンドリーにかつ元気ハツラツと。その雰囲気からか鷹岡…先生はE組の生徒と仲良くなっている。

 

「…!」

「お〜殺せんせーも食え食え。まぁいずれ殺すけどなハッハッハ」

 

…殺せんせーが餌付けされた。甘いものを使った暗殺とか効くんじゃねぇのか?

 

「同僚なのに烏間先生と随分違うスね」

「なんか近所の父ちゃんみたいですね」

「ははは、良いじゃねぇか父ちゃんで。同じ教室にいるからには…もう俺ら家族みたいなもんだろ?」

 

鷹岡先生は笑いながら生徒と肩を組む。なんか生徒の輪に溶け込んだみたいだ。

俺はその様子を、少し離れたところで見ていた。ケーキを食べるのが嫌なわけじゃねぇ。

なんて言うか…鷹岡先生は苦手なタイプ…というより、()()()()()()()()()()タイプな気がする。グイグイコッチに来ながら仲良くしようとする姿勢…一見フレンドリーなように見えるが、違う気がする。

 

俺は鷹岡先生になんとなく似ている奴を知っている。

 

ああして仲良く接しようとしているけど、それはあくまできっかけをつくるだけに過ぎなくて、いざ仲良くなると手のひらひっくり返してかなり卑劣な事をしてくる奴を、一度見たことがある。ソイツと同じとまでは言わないけど、そんな気がしてならない。

さっきケーキを『モノで釣ってるなんて思わないでくれよ』みたいなこと言ってたが、実際そうじゃねぇかと思う。決めつけは良くないとはいうが…そんな気がしてならない。

 

◇烏間視点

 

校庭で鷹岡が生徒と仲良く話しているようだ。あっという間に仲良くなっていた。

 

「…烏間さん本部長から通達です。あなたには外部からの暗殺者の手引きに専念して欲しいと。生徒の訓練は…今後全て鷹岡さんが行うそうです」

 

鷹岡の様子を見ている俺に、部下の園川が話した。訓練の方を鷹岡にさせると言うことか。

 

「同じ防衛省の者としては生徒達が心配です。あの人は極めて危険な異常者ですから」

 

 

◇学真視点

 

 

「明日から体育は鷹岡先生が?」

 

鷹岡先生から話を聞くと、体育の先生が交代になるらしい。政府からそう指令が出たそうだ。

 

「ああ、烏間の負担を減らすための分業さ。あいつには事務作業に専念してもらう。大丈夫!さっきも言ったが俺たちは家族だ!父親の俺を信じて任せてくれ!」

 

鷹岡先生が活気よく話す。なんつーか、烏間先生とは逆だよな。烏間先生はあまり表情を変えないけど、この人はかなり明るそうな表情に変わる。

鷹岡先生からその話を聞いて俺たちは校舎に戻る。

 

「どう思う?」

「えー、私烏間先生の方が良いなー」

 

戻りながら体育の担当の先生が変わる事について話し合っていた。やっぱり倉橋は面白くなさそうだ。

 

「でもよ、実際何考えているか分からないとこあるよな。いつも厳しい顔するし、メシや軽い遊びも…誘えばたまに付き合ってくれる程度で。

その点あの鷹岡先生って根っからフレンドリーじゃん。案外ずっと楽しい訓練かもよ」

 

すると岡島が話した。確かに烏間先生は何考えているか俺も分からない。常に壁を貼られているみたいだし。でも俺はそれで良いと思っている。なんつーか、そういう堅物らしいのが烏間先生って感じがする。

逆に鷹岡先生は微妙なんだけどな。さっき言った通り、なんかわざとらしすぎる。俺はかなり不安になっていた。

 

 

◇烏間視点

 

「さっきお前の訓練風景を見てたがな、烏間。3ヶ月であれじゃ遅すぎる。軍隊なら1ヶ月であのレベルになってるぞ」

 

教員室で、鷹岡がE組について話して来た。鷹岡の言う通り、軍隊に比べれば遅いかもしれないが、彼らは学生なのだ。寧ろ、勉学に励みながらここまで技術を高めてくれた事は評価されるところではないかと思う。

 

「職業軍人と一緒にするな。あくまで彼らの本職は中学生だ。あれ以上は学業に支障が出る」

「かぁ〜!地球の未来がかかってるのに呑気だな」

 

俺の言葉を聞いた鷹岡は手を顔に当てて呆れたように話す。すると、鷹岡は一枚の写真を取り出した。その写真には鷹岡と、鷹岡の指導を受けた訓練生らが仲よさそうにしているのが写っている。

 

「いいか烏間、必要なのは熱意なんだ。教官自らが体当たりで生徒に熱く接する!多少過酷な訓練でも…その熱意に生徒は応えてくれるものさ」

 

…鷹岡の言う事は、確かにそうだ。熱意…それは恐らく俺が欠けているもの。あくまで彼らと素っ気なく接しているだけだ。鷹岡のように、熱意があればこのように生徒と仲良く出来るのだろうか。

 

「首洗って待っとけよ殺せんせー!烏間より全然早く…生徒たちを一流の殺し屋に仕上げるぜ」

 

鷹岡はターゲットに菓子を渡して教員室を出た。菓子をもらった方はホコホコとして菓子を食べている。

 

「ヌルフフフフ、考えの甘い先生ですねぇ」

「甘いもので餌付けされているお前が言うな」

 

…相変わらず呑気なターゲットだ。どうしてこうもチョロい奴を未だに殺さないのか。すると奴は窓を開けた。

 

「体育に関してはあなた方が譲らないので任せています。ですから担当の交代にとやかくは言いませんが…E組の体育教師は烏間先生、あなたしかいないと思うんですがねぇ」

 

そう言って奴はどこか遠くに飛んで行った。恐らくどこかの国に移動したのだろう。

それにしても…奴が言っていたことは微妙に気になる。E組の体育教師は俺しかいないと言っていたが、その意味が分からない。俺に何があるということだろうか。

 

 

 

 

後日、教員室で運動場の方を見る。本格的に担当が鷹岡になった体育の授業が始まった。

鷹岡の様子を見ているが、見事に生徒の心を掴んでいる。あれなら訓練もはかどるだろう。

 

俺のやり方が間違っていたんだろうか。プロとして一線を引いて接するのではなく、あいつのように家族の如く接した方が…

そんな事を考えながら、昨日鷹岡に渡された写真を見ていた。

すると、ひらりと一枚の写真が落ちてきた。それを拾ってみると…

 

それには、恐ろしいものが写っていた。

 

その写真には、鷹岡の教え子の後ろ姿が写っていた。しかも普通の背中ではなく、かなり傷ついている。

まさかと思い、俺は運動場をもう一度見た。

 

 

 

◇学真視点

 

「よーしみんな集まったな!では今日から新しい体育を始めよう!ちょっと厳しくなると思うが、終わったらまたウマいモン食わしてやるからな!」

「そんな事言って自分が食いたいだけじゃないの?」

「まーな おかげ様でこの横幅だ。

あと気合入れのかけ声も決めようぜ。俺が『1・2・3』と言ったらおまえら皆でピース作って『ビクトリー!!』だ」

「うわ パクリだし古いぞそれ」

「やかましい!!パクリじゃなくてオマージュだ!!」

 

担当が本格的に鷹岡先生に変わり、今日から新しい体育が始まった。昨日のように相変わらずのテンションで振舞っている。俺から見ればうるさいだけにしか見えないが、他の生徒にはかなりウケが良い。まぁ…なんてゆーか、パワフルってゆーか凄い熱が入ってるように見えるから、何となくついてこれるって事だろうな。俺は相変わらず鷹岡先生を警戒しているが…

 

「さて!訓練内容の一新に伴ってE組の時間割も変更になった。これをみんなに回してくれ」

 

すると鷹岡先生は何やらプリントを配ってきた。新しい時間割ということか?それを貰い、その新しい時間割を確かめ…て……

 

 

 

…オイ

 

 

 

 

何だよこれ…

 

 

 

 

10時間目…つまり21時まで時間割が組み込まれていて、しかも4時間目からずっと訓練!?

 

何だこの時間割は!!?

 

 

 

「このぐらいは当然さ。理事長にも話して承諾してもらった。『地球の危機ならしょうがない』と言っていたぜ。この時間割についてこれれば、お前らの能力は飛躍的に上がる。では早速…」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!無理だぜこんなの!」

「ん?」

「勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!理事長も分かって承諾したんだ!遊ぶ時間もねーし!できねーよこんなの!」

 

 

そのまま訓練に入ろうとする鷹岡先生に、前原が訴えた。そりゃそうだ。こんな三時間程度の授業じゃ学力はつかない。しかも9時間ぐらい訓練する事になるから帰っても疲れ切ってしまって勉強できない。完全に、学力が上がらないスケジュールだ。親父のヤロウ…これを知ってて認めやがって…!

すると鷹岡先生は前原に近づく。一体何をするのかと思いきや…

 

前原の腹を思いっきり蹴り上げた。

 

「がはっ…!」

「『できない』じゃない。『やる』んだよ」

 

…コイツ!何してやがる!明らかに暴力行為だぞ!

 

「言ったろ?俺たちは『家族』で俺は『父親』だ。世の中に…父親の言う事を聞かない家族がどこにいる?」

 

正気かよ。あのヤロウ…!

どこが家族だ!こんなクソみたいな家族を誰が望む!

コイツの言ってる事は酷すぎる。こんな独裁的な奴が体育の先生だと…!

 

「さぁ まずはスクワット100回かける3セットだ。抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人もいる。1人や2人入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい」

 

コイツの言っている事にはかなり怒っている。だが無闇に噛みつけば痛い目見るだけだ。烏間先生と同じように防衛省で勤務しているなら、俺程度の奴が噛み付いても返り討ちにされるオチだ。だからこいつに従った方が得策なんだろう。

 

 

 

 

けど…

 

 

 

「ふざけんな」

 

相手が誰であろうと、絶対に許してはいけないものがある。たとえ相手が強くて、この先に勝機が無くても、それだけは許せなかった。

俺の声が聞こえた鷹岡は『ん?』と俺に声をかける。睨まれているが、退く気は無かった。

 

「抜けたい奴は抜けろだと…!?テメェはオレらを何だと思ってやがる!」

 

ハッキリと言った俺に、鷹岡は手で俺の首を絞めるように掴んだ。そして少し俺を恐喝するように俺を睨みつけた。

 

「…っ!」

「随分気が強いな。けど父ちゃんに対して言う言葉じゃないだろ。いますぐに謝れば大目に見てやってもいいぜ?」

「…!学真くん!」

 

掴む手に力を入れながら、俺に謝罪を要求してくる。いまの少しの掛け合いで俺がかなり意地っ張りなのが分かったんだろう。だから俺が折れるところを見たいんだろう。その様子を見て生徒の誰かが心配そうに声をかけた。ここで謝っとかなきゃ痛い目に遭うだろう。だから謝った方が得策なのは分かってる。けどコイツには、何があっても謝る気は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェみてぇな奴が父親なわけねぇだろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バン!と大きな音が鳴った。俺の返事を聞いて、鷹岡が俺の顔を殴ったんだろう。強烈な顔の痛みと吹き飛ばされている俺の体の浮遊感がそれを証明している。

鷹岡の力はかなり強く、かなり遠くの所まで飛ばされた。頰もかなり痛い。痛む頰の上に手を被せると、口から血が出てる事が分かった。ってか…

 

「…!ぷっ!」

 

口の中に違和感を感じ、中に何か入っていたものを吐き出した。あ、これ歯だわ。

 

って歯!?うわ…どんだけ強烈なやつ受けたんだよ…

 

「生意気なその口調とその髪の色…おまえが、理事長の息子だな」

 

すると鷹岡が俺に聞いてきた。…おそらく親父に聞いたんじゃ無いのか?E組に息子がいるとか。それを確認して何だと言うんだ、と思ってると鷹岡は続けた。

 

「この時間割はな…お前の為でもあるんだぜ?いつまで経っても弱者なままの浅野くん」

「…!」

「今の今までお前は落ちこぼれだったんだろ?どうしようもなく弱くて何の取り柄もない。そしてお前は家でも孤立している。

だからお前を強者にさせるためのカリキュラムになってるんだよ。これを乗り越えられればお前は強者になれる。そうすれば、お前に居場所ができる」

 

…だから俺の言う通りにしろ、と言う事か。従えば強者になれるから…

ふざけんな、テメェ如きが軽々しく言うんじゃねぇ。いい気になるな。俺は…お前についてきて強者になるつもりはない…!

 

「特訓についてこれたらの話だろ…!さっき平然と見捨てるみたいなこと言って何言ってんだ…!」

 

さっき『抜けたい奴は抜けろ』って平然と言ったやつを信用は出来ない。

それを言った瞬間、鷹岡は今度は俺を蹴り飛ばした。

 

「さっきはあくまで脅しとして言ったんだよ。俺はみんなの家族なんだから、父親として1人も欠けて欲しくないんだ。だからお前ら全員で地球を救ってほしい」

 

鷹岡は平然と言うが、こいつは俺らのことを自分の手柄の為の手駒としか思ってない。そう思ってることは明確だ。

鷹岡は生徒のところに行き、神崎さんの頭をなでている。

 

「な?お前は父ちゃんについて来てくれるよな?」

 

神崎さんに話している姿が、脅しにしか見えない。神崎さん震えてるんじゃねぇか、クソ野郎…

 

「あ、あの…私」

「神崎さん…?」

 

すると神崎さんが何か言おうとしていた。他の生徒が、神崎さんが何を言おうとしているのか、と言う風に彼女の名前を言っている。

 

 

 

「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」

 

 

神崎さんは、ハッキリと否定した。怖がってたはずなのに…見事に自分の意見を言った。

鷹岡は拒絶した神崎さんの頰を殴った。

 

…女子にも容赦がなく暴力を振るうのか…!何なんだよコイツ…!

 

 

「お前らまだ分かってないようだな。『はい』以外は無いんだよ」

 

 

…このクソ野郎…!

 

 

「なんなら拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得意だぞ」

 

 

よりにもよって…

 

 

 

 

 

俺の大っ嫌いなタイプだ…!

 

 

 

 

 

 

「上等じゃねぇか…!」

 

 

 

俺は怒りを隠しきれず…いや、隠さないで言った。

 

 

 

 

コイツは絶対、許す事が出来ない。

 

 




鷹岡のやる事は学真くんの逆鱗に触れる事なので、学真くんはぶちキレます。って言うか私でも怒ります。行動に起こせるかどうかは別にして。
取り敢えず学真くんが鷹岡に全力で挑みます。まぁ…活躍するのは『あの子』になるけど。

次回 『考え方の時間』

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