浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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修学旅行回最後です。


第15話 修学旅行の時間⑤

…妙だよな。このホテルは人気無いから此処に泊まろうと考える奴なんてよっぽどの物好きで無い限りいない。だからE組の貸し切りにも快く応じてくれたし見たところ中にそんなに人いなかったんだがなぁ。

 

しかも…何やら起こったらしくもめてやがる。その相手はE組の女子の1人、ポニーテールにした髪型と発育した胸が特徴の矢田 桃花だ。なんであいつも此処にいるんだ?

 

てまぁそんな事より何を言い争ってんだ?

 

「ご…ゴメンなさい。見えてなくて…」

「ゴメンで済むかよ!10万もしたコートだぞ!ボケッとして汚しやがって!」

 

…んだよコートかよ。いるよな、ちょっとでも汚れただけで損害賠償請求してくる奴。しかも大抵故意だから腹がたつ。

 

…しゃあねぇな。

 

 

◇三人称

 

E組が泊まる旅館の地下に、売店がポツンとある。雰囲気は良くないものの品揃えがかなり良い。矢田は、病弱で家にいる弟へのお土産を買いに寄った。

その時に周りを良く見てなかったせいなのか、人にぶつかってしまった。その時にコートが汚れてしまったようだ。何で汚れたのかは不明だが

 

「ご…ゴメンなさい。見えてなくて…」

「ゴメンで済むかよ!10万もしたコートだぞ!ボケッとして汚しやがって!」

 

謝ってもなかなか許してくれそうになかった。

 

「どうすんだ?言っとくがこいつとんでも無く強いぜ?」

 

相手は二人組だ。2人いっぺんに言い寄られてる。

 

「コートの弁償代20万払えよ!それで終わらせてやる!」

 

「そ…そんな、大金持ってないですよ」

 

 

 

 

「そうか…じゃあテメェの身体で払ってもらおうか!」

 

男らの手が矢田の身体を

 

 

《ドゴ!》

 

掴むことはなく彼らは転がってしまった。

 

「い!?なんだテメェ!」

 

「何だはコッチのセリフだ。そんな嘘の言いがかりでクラスメイトを困らせてんじゃねぇ」

 

現れたのは、E組に編入してきた学真だ。

 

「う…嘘だと!?疑ってんのか⁉︎」

「疑う余地もねぇだろ。何でぶつかってコートにシミがつくんだ。しかもアレだよな、コーヒー。此処にコーヒーは無いしテメェらも持ってないからぶつかったことで汚れるわけねぇんだよ。

 

どうせアレだろ。どっかで汚れてしまって金出すのが嫌だったんだろ。そんでたまたまぶつかって来たから矢田さんに払わせようとしたんだろ。

 

そういう性根が目に見えるから腹が立つんだ。今どきクリーニングがお手軽に出来るんだぜ。アレコレ言わずテメェらでキレイにするんだな」

 

淡々と語る。その姿は不良らを怒らせた。

 

「こ…のガキ!」

 

2人いっぺんに襲いかかる。その手を掴み投げとばす。そして、その手に力を入れた。

 

 

 

「グアア!!」

 

 

 

 

 

「何だったら…洗ってやろうか?テメェらごと」

 

 

 

 

 

学真の脅しに恐怖を感じた不良たちは、すでに意気消沈してた。

 

 

 

「ヒ…ヒィ!す…スミマセンでした!」

 

 

 

 

不良らはその場を離れていく。一件落着したようだ。

 

 

 

 

彼らが去るのを見た後、学真は呆然としている矢田に近づく。

 

 

 

「大丈夫か?面倒な奴に絡まれたな」

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

「大丈夫か?面倒な奴に絡まれたな」

 

 

不良らが立ち去ってしばし、俺は矢田に声をかける。矢田はちょっとビビってるようだ。こういうケンカごとは苦手なんだろうな。

 

 

「…矢田さん?」

「え…あ、うん。大丈夫。ゴメンね、迷惑かけて」

「迷惑かけられたのは俺じゃなくお前だろ。あんな奴に絡まれたんだ。嫌だっただろ」

 

 

とりあえず何とか気を取り戻したようだ。不良に絡まれるなんて滅多に無いことだ。寧ろ意識がしっかりしてる方が珍しい。ま、E組差別の方も大概だがな。

 

 

「……………」

 

 

まだ呆然としてやがる。コリャ暫く待った方が良いな。

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「う、うん。ちょっと驚いちゃって…」

 

暫く経って落ち着きを取り戻したようだ。矢田はやっとの事で立ち上がる。

 

「ホラ、とっとと買いたいもの買って戻ろうぜ。みんなに迷惑かけるかもしれねぇ」

「あ、うん…」

 

これ以上時間はかけられないな。神崎さん辺りが心配しそうだ。班全員分(カルマ除く。だっていなかったし)の飲み物を買う。矢田は…八ツ橋を買っていた。

 

「…お土産か?それ」

「うん、今弟が病気で寝込んじゃって…本当は側に居たかったんだけど、結局弟に気を遣わせちゃって。せめて、これだけでも一緒に食べれたらな、て思ったの」

 

へぇ…弟にね。そこまで大事に思ってくれるなんて、弟も嬉しい限りだろ。

それにしても…弟かぁ…。俺も弟になる筈なんだが、()()()に気遣って貰った事なんて無いんだよなぁ。結局親父に似てるし。

 

「良いじゃねぇか…羨ましいぜ」

「…学真くん?」

 

やべ、ついポロッと出てしまった。落ち着け、確かに優しい姉を持ってることは羨ましいかもしれねぇけど、そういう話じゃねぇ。いや、それ以前の話だ。

 

「あぁ〜…良いんじゃねぇか?矢田さんが弟の為に色々してくれて。弟さんも嬉しいだろ」

 

不謹慎かもしれないがそう思う。病気のせいでなかなか思うように過ごせない。けど…そんな悲しみに側にいてくれる人の存在は何よりも嬉しい。

 

「う…うん。でも、不安なんだ。弟が苦しんでるのに、私だけこんな楽しい思いしちゃって」

「だからそれはそれなんだよ。確かに罪悪感はあるかもしれねぇけど、それでも矢田さんは弟を1番に思ってくれる。孤独な中、差し伸べられた手の温もりは1番温かい」

 

孤独、てのは最も無力感に満ちる。自分の周りには何の意味も無いような人や物が唯置かれてるような感覚に陥ってしまう。そんな中、自分を支えてくれる人がいれば、励まされた感覚になる。それを、俺は経験したしな。

 

 

 

 

『煮こごりか!』

 

 

 

…何だ今の声。煮こごり?今日の夕食のメニューか?…ってあ!

 

 

「悪りぃ、買い物中だったの忘れてたわ。じゃあな」

 

考えてみればかなり時間が経ってる。急いで戻らねぇといけなかったわ。

 

「あ、うん。じゃあね」

 

会計をとっとと終わらせ、俺は班のメンバーが待ってるゲーセンに向かって歩く。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

飯食って風呂入った後、部屋に戻ると男子勢が妙な事をしてる。えーと…『気になる女子ランキング』?

因みに部屋は男女に大部屋が一部屋ずつだ。本校舎の奴らは個室のようだがな。

 

 

「なぁ、学真。気になる女子っているか?」

 

杉野が俺に振る。アレ?これ答えないと行けないパターン?

気になる女子…か。それって興味がある、て事か?恋愛的に。

 

 

恋愛…か。

 

 

 

『…!……な!……くれ!…!』

 

 

 

『俺を1人にしないでくれよ!』

 

 

 

 

 

やべ、嫌な事思い出した。顔が曇りそうなのを何とか堪える。えーと…取り敢えず…さっきの事があるし矢田にでも入れとくか。

 

 

 

「……………?」

 

…なんか渚が不思議そうな目で俺を見ている。

 

「…どした?」

「あ、いや…何でも無いよ」

 

…何でも無いのか?まさかと思うが、俺の感情の歪みに気付いたとか無いよな。

 

 

 

 

「お、面白そうな事やってんじゃん」

 

大部屋にカルマが入ってきた。

 

「カルマ、お前気になる女子とかいる?」

「みんな言ってんだ。逃げられねーぞ」

 

磯貝とか前原がカルマに聞く。一体誰だろうか。

 

「うー…ん。奥田さんかな」

 

へー…奥田さんか意外。カルマはキャラ的に中村辺りだと思ってたんだが…

 

「だって彼女、怪しい薬とかクロロホルムとか作れそうだし、俺の悪戯の幅も広がるじゃん」

 

…絶対くっつかせたく無い2人だな。

 

 

一応これで全員分の票は集まったか?

 

「俺は1人に決められないんだよ〜」

 

…いや岡島がいたわ。決めきれねぇらしい。

 

「みんな、これは男子だけの秘密な。女子や先生に知られたく無い人もいるだろうし…」

 

?何か磯貝の言葉が詰まったんだが。てゆーか視線が窓の方に…

 

 

「…フムフム、成る程」

 

…窓の方であのタコが張り付いてる。てゆーかまさかと思うが…あのアンケートの中身をメモしてる…?

 

 

 

《ドヒュン!》

 

 

 

……

………

…………

 

 

「メモして逃げやがった!殺せ!!」

 

男子総勢であのタコを追いかける。すげえ必死だな。え、俺?いやそんな恥ずかしいもんじゃねぇし部屋にいるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポツーーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暇だし様子見に行くか。

 

 

誰だ、ぼっち乙とか言ったやつ。

 

 

 

 

 

◇三人称視点

 

「好きな男子?」

「そーよ、こういう時はそういう話で盛り上がるものでしょ?」

 

女子の方も恋愛の話、いわば恋バナで盛り上がり始めてる。因みに中村が仕切っている。

 

「はいはーい、私は烏間先生」

「はいはい、そんなのはみんなそうでしょ。クラスの男子だと例えば、てコトよ」

「えー…」

 

倉橋はやはり烏間を出してきた。かなり好んでる様子。だがそれは却下された。

 

「ウチの男子でマシなのは磯貝と前原くらい?」

「そうかな?」

「そうだよ、前原はタラシだからまぁ残念だとして、クラス委員の磯貝は優良物見じゃない?」

「顔だけならカルマくんもカッコ良いよね」

「素行さえ良ければね」

「「「「そうだねぇ」」」」

 

出てきたのは磯貝、前原、そしてカルマだった。

 

 

「…学真くんはどうかな?」

 

茅野が学真の名前を出した。

 

「あ〜…そうねぇ…顔なら磯貝たちに負けてないわよね…」

 

中村はちょっと微妙な顔をしている。

 

「でも…ちょっと接しづらいよね。分かっては居るんだけど」

「話した感じは普通だったよ?」

「そうかもしれないけど、やっぱり近寄り難いのよ。理事長の息子、てことは」

 

中村が言ってるのはその通りだ。椚ヶ丘でE組制度を設けた張本人の息子、分かってはいても距離を開けたくなるだろう。

 

 

その時、矢田の顔が若干曇っていた。

 

 

 

 

「ガキども、もう直ぐ就寝時間だって事を一応言いに来たわよ」

 

ビッチ先生が女子に就寝時間のお知らせを言いに来た。

 

「一応、て…」

「どうせ夜通しお喋りすんでしょ。あんまり騒ぐんじゃないわよ」

「先生だけお酒飲んでズルーイ」

「当たり前でしょ大人なんだから」

 

ビッチ先生の言う通りである。お酒は二十歳になってから。

 

「そうだ、ビッチ先生の大人の話を聞かせてよ」

「ハァッ?」

「普段の授業よりタメになりそう」

「何ですって!?」

「良いから良いから」

 

矢田がビッチ先生の背中を押して部屋に入れる。

 

 

「え!ビッチ先生まだ二十歳⁉︎」

「経験豊富だからもっと上かと思ってた」

「毒蛾みたいなキャラのくせに」

 

女子たちはビッチ先生が二十歳である事に驚いてた

 

「そう、濃い人生が作る毒蛾のような色気が…って誰だ毒蛾、て言ったの!?」

「ツッコミ遅いよ」

 

ノリツッコミ、良いセンスだ。E組に居ればいるほどツッコミに磨きが掛かってるのは気のせいだと信じたい。

 

「いい?女の賞味期限は短いの。あんたたちは私と違って危険とは縁遠い国で生まれたのよ。感謝して全力で女を磨きなさい」

「……………」

 

顔を見合わせる女子たち。

 

「ビッチ先生がまともな事言ってる」

「なんか生意気」

「ナメんなガキども!」

 

マトモな事を言ってるビッチ先生が不気味に思えたようだ。

 

「じゃあさ、ビッチ先生が落としてきたオトコの話を聞かせてよ」

「あ、確かに興味ある〜」

 

「フッ…良いわよ。子供には刺激が強すぎるから覚悟なさい。例えばあれは17の時…」

 

ゴクリ、と音がする。プロの暗殺者、しかも色気を武器とする人の話。滅多に聞く事が無い話題に女子とタコは息を呑む。

 

 

 

「ってそこぉ!さりげなく紛れこむな女の園に!」

 

さり気なく入り込んでいた殺せんせーを指差す。それに女子たちも驚く。

 

「えぇ〜、良いじゃ無いですか。私もその色恋の話聞きたいですよ」

 

相変わらず欲望ダダ漏れなタコである。

 

「そういう殺せんせーはどうなのよ。自分のプライベートはちっとも見せないくせに」

「そーだよ、人のばっかズルい。殺せんせーは恋バナとか無いわけ?」

「そーよ、巨乳好きだし片思いぐらい絶対あるでしょ?」

 

いつの間にか殺せんせーに標的が移り変わってる。

 

 

「にゅや〜…」

 

 

 

 

 

 

 

《ドヒュン!》

 

「逃げやがった!」

「捕らえて吐かせて殺すのよ!」

 

その場から逃げ去る殺せんせー。女子たちは彼を追って部屋の外に出る。

 

 

 

「居たぞ、いたぞぉぉぉ!!」

 

逃げてる最中、男子たちに見つかってしまう。

 

 

「しまった、挟み討ち!?」

 

女子と男子に挟まれた構図になってしまうのであった。

 

 

 

◇学真視点

 

 

椚ヶ丘中学校3年E組の修学旅行、京都の旅館にて殺せんせーを殺そうとする生徒たちが殺せんせーを囲っている!稀にしか無い暗殺チャンス、生徒たちは上手く活用できるのでしょうか⁉︎

対先生BB弾が大量に打ち込まれる中ナイフで上位を誇る磯貝と前原が襲いかかる!彼ら2人がかりで烏間先生にナイフを当てれるが、殺せんせーは難なく躱す!

おっとここで岡野が舞い上がる!得意の身体技術で飛び上がりながら狙う。だが殺せんせーはそれすら躱し…

 

《ドガッシャァァァァン!!》

 

窓を破って外に出たーー!修理費はどうする気だあのタコはァァァァ!?

 

 

 

「…何してるの?」

「1度やって見たかった。後悔はしていない」

 

 

 

 

 

「結局は暗殺になったな」

「うん、そうだね」

 

渚と茅野と一緒に部屋で喋っている。他はあのタコを探しに行った。幾ら何でもホテルからそう遠くには行かないしどうせ戻るだろ。

 

「楽しかったね、修学旅行。みんなの色んな姿見れて」

「そうだね…」

「…どうしたの?」

 

茅野が心配するように渚は物思いに耽ってるようだ。

 

「うん、ちょっと考えたんだ。修学旅行ってさ、終わりが近づいた感じがするじゃん。この生活は始まったばかりだし、地球が来年終わるかどうか分からないけど…

 

このクラスは絶対に終わるんだよね。来年の3月で。

 

みんなの事もっと知ったり、先生を殺したり、やり残す事無いように過ごしたいな」

 

確かにな。当たり前のように終わりはある。暗殺が成功しようと失敗しようと、3年E組は絶対に終わる。

 

そういう時、悔いが残らない、なんて事になるかどうかはわからない。渚の言う通り、やり残しは無いようにしたいよな。

 

 

 

「そうだね。とりあえず、もう一回くらい行きたいね。修学旅行」

 

 

 

 

 

こうして、俺らの楽しい修学旅行は幕を閉じていく。明日からまた学校での生活が始まる。俺らの、暗殺教室が。

 




報告でーす。
まず、前々から隠していた情報ですが、ヒロインは矢田さんにします。タグも変更しました。
とは言っても…学真くんの場合、甘々な展開に持って行きづらいかもしれないです(あと文才的に)。

次回
『休日の時間』

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