「さて、また血が出てきやがったね春亮くん」
ゾリショがピーヴィーに斬られた箇所をみて呟く
「このはが急所を外してくれたんだろ、ありがとう、このは」
「礼には及びませんが、心配ですし病院に行きましょう」
日本刀からこのはが元の体に戻り提案する
「そうだね、感染症とか怖いし」
このはの意見にゾリショも賛同する
しかし春亮は無言だった
「・・・・行く気はないと?」
「だったらどうする?」
「怒りますよ」
「・・・既成事実を」
「ゾリショ!お前は何言ってんの!?」
「そ、そうですよ!ゾリショさん!ふざけないでください!」
このはが真っ赤な顔でいう
「春亮くん、あの子が自分の意思で立ち去ったのんですからなにがあっても自己責任です、違いますか?それにあの片腕の人もあきらめた感じではないから今逃げるのは正しい判断です」
「ッ!・・・そうだけど、けどあいつ・・・『一人で眠ったほうがいいって』いってた」
「え?」
「逃げたんじゃない。もっとたちの悪い終わり方をしようとしてるんだ」
春亮は視界の隅で屋上から立ち去るゾリショの姿を認める
複数の禍具をもつ仲間同士、繋がるなにかがあったのだろうか?
「それでも・・・」
「頼むよ、この姉一生のお願い」
春亮の奥の手が発動した
「・・・卑怯です、その呼び方は」
「こうでもしないと、勝てそうにないし、それにぶつぶつ文句言いながらも最後には・・・いつも助けてくれた」
「ふん、知りませんよ」
拗ねたように後ろを向いてしいまうこのは、しかしその顔はにやけていた
「あー・・・実は、俺困ってるんだ」
「な、なんですかやっぱり痛みますか!?」
「あの・・その・・・服・・」
「服?」
「そろそろ・・・服着て・・・」
「早く言ってくっださいぃぃぃぃぃ!!」
このはが半泣きになりながら制服を取りに行く
人としての意思を持つ禍具は本来の形になると服は脱げた状態になるのだ
「この姉!新しい制服だよ!おりゃぁ!」
ゾリショが保健室から持ってきた制服をこのはがキャッチ、ピットインするF1のような感じで着替える
「フィアちゃんは、当たり前のことがわかってないだけだよ」
ゾリショがなにやらノートパソコンみたいな機材を取り出しながら呟いた
「当たり前?」
「そう、わたしも昔おんなじことしなかった?」
「ああ・・・」
まだ春亮が中学生だった頃の話だ
お祭りの出店のおもちゃの拳銃がゾリショの手により実銃に変貌し暴発、このはがいたので大事にはならなかったがゾリショは責任を感じて自殺しようとした事件だ
「だから、その時とおなじ考えでいいんだよー」
「同じ・・考え・・・」
「私は
「・・・・そうだな、どしゃ降りの中を走るなんて、若いころにしかできないからな。このはも一緒にどうだ?」
「・・・はぁー、思い出づくりなら、仕方ありませんね」
苦笑いしつつもこのはと春亮は走り出した
とある廃工場
薄気味悪い工場の中を一人の少女が駆けてる
背中には左腕が欠けた女性、ピーヴィー・バロヲイを背負って
素人目に見ても重傷のピーヴィーを毛布の上に横たえると羽織ったマントから何かが伸びる
「・・・・
ひとりでに伸び始めた包帯がピーヴィーの左肩に巻きつく
「う、ぐああぁぁ!がぁぁ!」
ピーヴィーが悲鳴を上げると体が魚のようにびくんとはねる
じゅるじゅると何かを啜るような音が部屋に不気味に響く
「ぅあ・・・な、なにを・・・」
想像を絶する痛みと共にピーヴィーの意識が覚醒する
「・・・もう満腹。のはず」
飛びかかろうとしたピーヴィーはあれほど痛んだ肩が痛まないのだ
「【怪物繃帯】はいかなる傷をも治療する。が最初に巻いた瞬間から激痛と共にこれは血を吸う。死に至る傷を防ぐために死に至る痛みを強いる。これがこの禍具のーーーー呪い」
「
「その状態ではホテルに運べなかった。故に隠れ家の一つであるここで処置した。説明が遅れたのを、謝罪する」
マントでかくれた顔をピクリとも動かさず淡々と事務的な説明をする
「・・・まあ、人材不足の騎士領ではしかたありませんね・・・あなた、名前は?」
「ん、
「ふふふ・・・そうですか、ちなみに嫌いなものはわかりますか?」
するとマミーメーカーは手帳を取り出しページをめくってく
「嫌いな物は禍具全般、特に・・・」
「細長い紐状の禍具は吐き気がするほど嫌いです」
ピーヴィーはそこでマミーメーカーの包帯を睨む
「・・・【怪物繃帯】の使用を、否定されてる?」
「そうではありません、この傷を治すためにやむなく。まあ、そこは譲歩しましょう、けど問題は、今」
「今?」
「それ、脱ぎなさい」
ピーヴィーが指さしたのはマミーメーカーのマント
「私は醜い。酷い火傷があって・・・」
「関係ありません。わたくしが見てない場所でならいざ知らず、目の前だと我慢なりません」
「・・・・必要とあらば」
マミーメーカーがフードを取る。すると包帯が自動でスルスル」とほどけ近くの廃材の裏に収納されていく
マミーメーカーの体は本人の言った通りうねるような火傷があり処置はされてるものその場所は黒ずんでる
「・・・醜いですって?充分きれいですわよ」
そんなマミーメーカーをピーヴィーは優しく頭を撫でた
「はぅ・・・」
するとマミーメーカーは顔を赤くしてうつむいてしまった
(あまり人と接したことがないのでしょうか・・・まあ、そこはそっとしときましょう)
騎士領の後方支援員や騎士は禍具に関わってしまった孤児や一般人で構成されており内々の事情を邪推するのは暗黙のタブーとされていた
「さて、わたくしは少し休みます。何かあったら起こしてください」
そういってピーヴィーは眠りについた
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