暁邸では、渡はただ呆然とベッドに横になり天井を見つめていた。
渡の側には、ウトウトと今にでも寝てしまいそうなアーシアがいた。
「……なぁ、アーシア」
「はひゃ⁉︎な、何でしょう⁉︎」
目を覚まして、渡の声に耳を傾ける。
「あの曲を頼む」
「へ?」
「俺が暴走した時の……父さんの曲を」
「あ、はい」
アーシアは渡の言われた通り、機器を持ち込み、曲を流す。
その曲を聞き、渡は瞳を閉じる。
(父さん……教えてくれ…俺はどうすればいいんだ?)
**********
その頃、リビング。
「ん?………ほう」
屋敷がカタカタと、揺れ出す。
「リリス様…これはまさか……」
「ああ、タツロットが…渡の感情に反応している」
室内に響く、キャッスルドランとは違う竜の鳴き声に、リリスはある存在の覚醒を悟った
**********
戦場では、激戦が更に激しさを増していた。
強力な炎を放つタンニーン。
雄叫びを上げる二天龍
荒れ狂うミドガルズオルム。
駆け巡る3匹のフェルリル。
そんな中、サガは未だに動こうとしなかった。
(奴は一体、何が目的だ?)
タンニーンがそう思ったその時、
『頃合いか』
サガが動いた。
ジャコーダービュートを極限まで伸ばし、残った10匹のミドガルズオルムとフェルリル、スコル、ハティを捕らえる。
「な、何をするつもりだ⁉︎」
ミドガルズオルムとフェルリルは抜け出そうとするが戦いで弱っている為、ジャコーダービュートは解けない。
『こいつらは俺が貰う』
そう呟いた瞬間、別の空間への穴が開き、10匹のミドガルズオルムとフェルリル達と共に消えていった。
『あいつ。何か企んでやがったのか⁉︎』
「してやられちまったな、ヴァーリ」
『まさか奴もフェンリルを狙っていたとはな』
美猴とヴァーリは悔しそうな表情を浮かべた。
その時、北欧の魔術の雨が辺り一帯に降り注いだ。
「おのれおのれおのれぇ!フェンリルとミドガルズオルムを奪いおって!こうなったらもう、俺1人で貴様らを殺してやる!」
『あの野郎、ヤケになりやがった!』
バキキ!
「「「「「ッ⁉︎⁉︎」」」」」
突然、空間がヒビ割れる。
そこから出てきたのは、アーシアに支えてもらいながら弱々しく歩む渡だった。
「ハァ……ハァ」
『わ、渡⁉︎』
駆け寄ってくるイッセーをジェスチャーで「来るな」と言い、状況を把握するために周りを見渡す。
「あいつか………キバット!」
「おうよ!ガブッ!」
「変身!」
キバに変身して、ロキの方へ行く。
『うっ!ぐあぁぁぁ!』
最中、肩の鎧から血のように黒い魔皇力が全身を徐々に覆っていき、それに伴って意識が今にも消えようとしている。
『渡!無茶すんな!』
「渡さん!」
アーシアがキバを癒そうと駆け寄ってくる。
だが、それを遮るようにしてロキが高速で移動してきて、アーシアが通ろうとする通路を遮った。
「邪魔だ」
「きゃっ!」
ロキがアーシアを叩いた直後、キバの中に殺意というものが現れたのか先ほど以上の速度で、肩の鎧から血が流れるようにドバドバと黒い魔皇力が溢れ出てくる。
「渡、ダメだ!自分を保て!」
キバットが呼びかける。
「今代のキバよ。先代のキバに受けた屈辱を、貴様で晴らそう!」
先ほどの何倍も速い速度で血のような黒い魔皇力がキバの全身を覆っていく。
「渡さん!」
その時、アーシアの叫びが聞こえた。
「私、渡さんの気持ちが分かるなんて言えませんが…でも、手を伸ばす事は出来ると思います!」
『ヴ……うヴァ……グ……』
「渡さんが辛い時は、私が渡さんの手を掴みます!」
アーシアはキバを抱き締める。
溢れ出す魔皇力が、アーシアの肌を傷つけるが、アーシアは構う事なく叫び続ける。
「もう……もうあの姿にならないでください!私は大丈夫ですから!元に戻って………お願い‼︎‼︎‼︎」
ドクンッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎
**********
「来た!ついに来た!」
屋敷では今までより更に揺れが増していた。
そして、
ドオオオオオオオオオンッ!
「ジャッジャーン!テンショーン、フォルテッシモーーー!」
小型の金色のドラゴンが天井から現れる。
「【タツロット】!復活して悪いが、頼みがある!」
「ええ、分かってますよ!さぁ、今行きますよマイマスター!」
**********
「む!」
「タンニーンさん……どうしたんですか?」
タンニーンの表情が変わり、全員がタンニーンの方を向く。
「ふはは、懐かしい気配だ」
バリィィィンッ!
すると、空間を突き破りタツロットが現れた。
「矢張り!この気配、お前だったかタツロット!」
「ややや!タンニーンさんじゃあ〜りませんか!お久しぶりですね〜!」
「話は後だ、主人の下へ行け」
「びゅんびゅーん!皆様、お待たせいたしました‼︎」
「だ、誰⁉︎」
「私は、魔皇竜タツロットと申します。以後、お見知りおきを。さぁ、行きますよ。テンション、フォルテッシモ‼︎」
タツロットと名乗った龍は、『キバの鎧』の拘束カテナを全て噛み砕いた。
キバの鎧を拘束する封印の鎖・カテナを解き放ち、キバをファイナルウェイクアップさせる禁断のキー。
それが、魔皇竜・タツロット。
タツロットによって、封印されていた魔皇力が溢れだし、肩の部分が開いて前のドス黒い翼とは違い、大きな黄金の翼を広がった。
黄金の翼から現れた数え切れぬ程の光の蝙蝠が、キバに集約されていく。
掲げられた左腕に出現した、深紅の止まり木にタツロットが装着されると、高まった魔皇力によってキバットの目が虹色となる。
「変身!」
タツロットの言葉と共に、背中に炎が上がり、それを薙ぎ払うと、炎は深紅のマントとして顕現した。
光が収まった時、そこには『ブラッドエンペラーフォーム』に酷似した鎧を纏う、眩い光に包まれた金色の皇帝が立っていた。
『黄金のキバの鎧』
キングの真の証であり、究極覚醒したキバの真の姿。
黄金の皇帝『エンペラーフォーム』
「綺麗」
「美しい」
戦場にいる者は口々にそう言った。
その姿は、美しく、勇ましく、威風堂々と、正に皇帝。
一歩一歩踏み出す旅に敵にはプレッシャーを、味方には頼もしさを与える。
「そ、その……姿はぁ!」
忌々しい記憶が蘇り、ロキは特大の魔術をぶつける。
だが、その全ての一つ一つの魔術をそのまま受け止める。
「ふは、ふははははは!終わりだ!今のは俺の出せる最大の攻撃だ!オーディンとの闘いの為に取っておいた切り札だ!どうだキバよ!光栄に思いながら死ねぇ!」
『この程度か』
「かっーーーーーー」
無傷のキバを見て、ロキは息を飲む。
『この程度じゃ、あの爺さんは倒せやしないぞ』
魔術を全て一つ一つよけたり、手や足などで弾いたりしながらロキへと近づいていく。
「か、下等な人間と汚らわしい悪魔の混ざり物ががぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ロキは上空に上がり、巨大な魔法陣を展開させてそこへ膨大な量の魔力を集め始めた。
北欧魔術最強の魔法を全ての魔力を使ってまでこの俺を殺しに来る。
「渡さん!」
その時、背後からアーシアの声が聞こえる。
「私………信じてます!」
『…ああ、信じてくれ!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ロキは全ての魔力をつぎ込み、巨大な魔法陣から特大の魔術を放った。
『はぁぁぁぁ………』
片足に、黄金の魔皇力が集まる。
それを降ってくる魔術に向けて…放つ!
バァァァァァァァァァンッッッ‼︎‼︎‼︎
「な、何ぃぃぃぃぃぃい⁉︎⁉︎⁉︎」
魔術は消え、更に蹴りの勢いは止まらず上空のロキに直撃する。
あまりの威力にロキはそのまま地面に叩きつけられた。
『よう、悪神』
「お、のれぇぇぇえ!」
ロキが放った魔術を受けながら進み、懐に入ったキバは飛び蹴りを見舞い、怒涛の連続攻撃を繰り出す。
左右から横蹴りを数発うって、上段を蹴りぬく足刀。
足払いで敵の姿勢を崩したところで、膝蹴りから踵落とし、廻し蹴りに繋げ、ハイキックでロキを蹴り飛ばした。
「な、何故だ⁉︎神である俺がこんな、こんなぁ!」
『止めだ』
キバは間合いを取って、タツロットの頭部の角・ホーントリガーを引いた。
タツロットの背中に装備されている特殊な円盤が回転し、キバの紋章と同じ紅い図柄が出現した。
「Wake up・FEVER‼︎‼︎」
増幅して、全身からあふれる魔皇力を足に集約し、キバは大地を力強く蹴って跳躍した。
空中で反動をつけ、急降下するキバは、両足に紅いキバの紋章を模したエネルギーを纏って、強力なドロップキックをロキに叩き込んだ。
『エンペラームーンブレイク』。
「俺は神だぞ!神が薄汚い悪魔に…しかも下等な人間如きに負ける訳g」
滾る魔皇力を纏った両足での連続キックに、ロキは飲み込まれる。
「そんな。神の俺が!まだラグナロクを始めてもいないのに!こんな……ぎゃああああああっ‼︎‼︎」