ハイスクール KIVA   作:寝坊助

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46話 ゲームスタート・渡のケジメ

待ちに待った決戦日。

渡達は魔法陣でジャンプしていく。

するとその場には見慣れた飲食店が連なっていた。

 

「学園近くのデパートが舞台とはね」

 

結菜もゲームの会場に関して驚いていた。

 

『皆様。今回、このゲームのアビター役を務めさせていただきますルシファー卷族、女王のアリーシェでございます』

 

店内アナウンスからアリーシェの声がショッピングモール全体に広がる。

 

『両者の本陣はそれぞれの転移先となります。渡様が二階東側。ソーナ様が一階西側となります。なお、今回は特殊ルールとしまして両陣営に、フェニックスの涙を一つずつ支給しております。陣営近くに置いてありますのでお確かめ下さい。そして、作戦を練る時間は三十分です。この間の両者の接触を禁じます。それでは作戦時間です』

 

渡は転送されてきた用紙に目を通す。

 

「特殊ルールとしてデパートは破壊しつくさない事。若干は許してくれるようだけどな」

 

つまり紫水やヘル、黒歌等の全力の攻撃は避けるべき。

しかし、

 

「完全に私達の不利な状況を作っているわね」

 

恐らく、『キバの鎧』欲しさに上層部がルールに細工したのだろう。

 

「それと、渡の『ブロンブースター』、『キャッスルドラン』使用禁止。フォームチェンジは最低2回まで。ふざけてるにも程があるわ」

 

結菜は怒りで手をついているテーブルに力を入れ、メキメキと鳴らす。

 

その後十五分程、作戦会議が行われ残りの十五分の内十分間、各々の自由時間に当てられた。

渡は、最初の本陣のフードコートでのんびりしている紫水、ヘル、黒歌に話しかける。

 

「3人共、ルール無視で思い切りやっていいぞ」

 

それを聞いて驚く3人。

 

「建物……壊して…いいの?」

 

「ダーリン、それは幾ら何でも…」

 

「会長さんはトコトン、ルールと俺達の弱点を利用してくる。正直、俺は作戦勝負で会長さんに勝てる気はない。だから、せめて相手の虚をつかなきゃいけないんだ。でも、必要最低限は建物を破壊しないで欲しい」

 

「メチャクチャで大穴だらけの作戦にゃん。でも、理にかなってるかも」

 

黒歌は呆れこそすれど、失望はしていなかった。

 

「私達が暴れまわる間に、渡はあいつ(・・・)とケジメをつけに行くって事?」

 

後ろから結菜が現れる。

 

「ああ、これは俺の問題だから」

 

「『王』が陣地を離れるのがどれ程危険か……理解してる筈よね」

 

結菜は渡の代わりに、匙と戦おうとしている。

幾ら修行したからといって、あの戦い方(・・・・・)は流石に反対だと全員が思った。

 

「分かってるさ。言っておくけど、負ける気は毛頭ない」

 

それでも渡は引き下がらない。

 

「………………」

 

「………………」

 

暫し互いに睨み合い、結菜は溜息をつく。

 

「やるからには勝ちなさいよ。私達は渡に人生の全てを賭けてるんだから」

 

「ああ、必ず勝つさ」

 

ふと、時計を見てみると定刻の数分前になっていた。

 

「時間だ。さあ、相手方に見せてやろうじゃないか。俺達の力を」

 

「ええ」

 

「もちろんにゃん」

 

「がん………ばる」

 

「ダーリンの為だもの」

 

渡達は立ち上がった。

数分後、全員が集合し、時計が試合開始時刻になった瞬間――――――

 

『それでは開始です』

 

ゲーム開始の合図が響いた。

 

 

**********

 

 

「………」

 

コッ、コッと、渡は1人でショッピングモールのある区画へと向かっている。

既に空は暗く、それに従ってモールの中も暗く、静かなものだった。

 

「1人で陣地を離れるとか、やっぱバカだなお前」

 

耳障りな声。

歩いていると目の前に人影が見え、立ち止った。

陰からでも分かる男、匙 元士郎。

 

「『お化け太郎』のクセに、何カッコつけてんだよ」

 

「ケジメをつけに来た」

 

「はぁ?ケジメ?何の?まさか今までの仕返しに来たのか?お前が?この俺に?弱いクセに?」

 

「ああ、短い期間…俺はずっとこの時を待ってた」

 

「あーはいはい。そういうのはいいわ」

 

匙はダルそうに言う。

 

「1つ提案があるんだけどさ、お前……負けてくれね?」

 

「何言ってんだ?」

 

やれやれと言った風に匙は首を振る。

 

「お前が俺に勝てる訳ないじゃん」

 

単刀直入に言い放つ。

 

「だからさ、いつもみたいにボコられたくなかったら、さっさと投了しな。もし、この試合に勝っても絶対優勝なんかできないし、誰もお前なんかを『キバ』と認めないさ」

 

「随分と言ってくれるな」

 

「人の優しさは素直に受け取るモンだぜ?安心しな。結菜ちゃん達はぜーんぶこの俺が手取り足取り面倒見てやるよ。テメェは昔みたいに根暗で孤独で1人の生活に戻ればいいんだよ!」

 

匙は途端に荒々しくなる。

 

「テメェが投了してくれれば俺は会長に褒められるし、『キバの鎧』も手に入る。会長の好感度アップに貢献しろって言ってんの!分かる!?『お化け太郎』!」

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

「っ………おい、いつまでスカした態度とってんだよ。分かってんの?お前今、1人なんだぞ?前まで守ってくれてた結菜ちゃんはいないんだぞ?等々、頭おかしくなったか?」

 

「いいから来いよ。無駄話は苦手なんだ」

 

その言葉が引き金になったのか、匙は拳を突き出す。

 

しかし、渡は自分の顔面に向けて思い切り放たれたパンチを何もせず受ける。

鼻から血を流し、2、3歩後退する。

 

「ぷっ、あははははは!何かと思えばやっぱ怖気付いで何もしねぇじゃねぇか!『お化け太郎』はいつまで経っても『お化け太郎』だなぁ!」

 

匙は渡を嘲笑うが、渡は怖気づいてなどいない。

 

「これが俺の覚悟だ」と自分に言い聞かせたのだ。

 

先程の拳で、眼鏡がヒビだらけになってしまった。

しかし、渡はこれを好都合と感じた。

 

(もう自分を隠すのは止めだ)

 

眼鏡を外し投げ捨て、戦闘に邪魔なウザい前髪をぐしゃぐしゃとかき上げる。

地べたに転がった最早、本来の役割を果たさないであろう眼鏡も踏み潰す。

 

「へ?お前…………………誰?」

 

驚愕している匙を無視して、口の中に広がる鉄の味を吐き出し、言い放つ。

 

「お前は、変身無しで倒す」

 

今までの自分を捨てる為に。

 

「これが俺のケジメだ」


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