ハイスクール KIVA   作:寝坊助

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39話 キャットアンドホーリー・白猫の正体&彼女の恋は恵まれない

「うみゃい!うみゃいよぉぉぉおおおっ!」

 

イッセーはリアス、朱乃の2人が作った差し入れのおにぎりを涙を流しながら食べる。

 

「しかし、ハハハハ。数日見ない間に多少は良いツラになったな」

 

「ふざけんな!死ぬよ!俺死んじゃうよ!このドラゴンのおっさんメチャクチャ強いよ!ドラゴンの戦いを教えてくれるって言っても実力が開き過ぎてて話にならねぇぇぇぇっ!」

 

ご飯粒を飛ばしながら号泣する一誠。

レーティングゲームに向けて、グレモリー眷属達は修行をする事になった。

それぞれに課題を与えられ、そしてイッセーは元六大龍王で、現在最上級悪魔タンニーンと修行もとい、イジメにあっていた。

 

「殴ったら逆にこっちがダメージ受けるし!炎は隕石みたいだし!これ以上耐えられねぇよ!俺、ドラゴンのおっさんに殺されちゃいますって!童貞のまま死にたくないっス!」

 

「アホか一誠。タンニーンが本気出してたら、お前は今頃灰になってる」

 

「あれのどこが死なない程度だよ⁉︎連続で撃ったり!超デケェブレスを撃ったり!明らかに殺す気満々でやってるじゃねぇかぁっ!」

 

ゴクゴクと泣き喚きながら水筒のお茶を飲む。

お茶を飲み干した後、ある事をアザゼルに訊き始める。

 

「グスッ、なぁアザゼル先生。あの時、ヴァーリが何か呪文みたいなものを唱えようとしていたんだが、あれは何だったんだ?」

 

「あぁ、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の事か」

 

「『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』?もしかして、禁手の更に上とか?」

 

「いや、禁手の上は存在しない。神器の究極は禁手だ。だがな、魔物の類を封印して神器にしたものがいくつかあってな。それらには独自の制御が施されている。お前の『赤龍帝の籠手』とヴァーリの『白龍皇の光翼』もその例だ」

 

「独自の制御……平たく言えば、暴走みたいなもんか?」

 

イッセーの問いにアザゼルは頷く。

 

「あぁ、酷いぐらいのな。本来、神器は強力に制御されていて、その状態から力を取り出して宿主が使えるようにしている。だが、赤龍帝と白龍皇の神器の場合はそれを強制的に一時解除し、封じられているパワーを解放する……それが『覇龍』だ。一時的に神に匹敵する力を得られるが、リスクも大きい。寿命を大きく削り、理性を失う……。言うなれば、力の亡者と化した者だけが使う呪われた戦い方だ。イッセー、お前は絶対に真似するな」

 

アザゼルは真剣かつ憂いを含んだ目でイッセーに忠告を出した。

イッセーは今後の修行に耐えられるかどうか不安になる。

 

「まぁそこはお前のお得意の根性で何とかなるだろ」

 

「なりませんよ!」

 

「それよりも――――問題は小猫か」

 

「小猫ちゃん?小猫ちゃんがどうかしたんですか?」

 

「どうにも焦っている、と言うよりも自分の力に疑問を感じているようだ。俺が与えたトレーニングを過剰に取り組んでてな、今朝倒れた」

 

「はぁっ⁉︎倒れた⁉︎」

 

悪い報せにイッセーは声を荒らげた。

 

「怪我はグレモリー家の特別医師に治療してもらえるが、体力だけはそうはいかん。特にオーバーワークは確実に筋力などを痛めて逆効果だ。ゲームまでの期間が限られているのだから、それは危険だ」

 

「そんな………」

 

 

**********

 

 

ある一室。

そこで小猫はベッドで横になっていた。

その頭部には”猫耳”が生えていた。

この猫耳は普段は隠していて、体力がなくなると出てきてしまうらしい。

 

「……なりたい」

 

小猫が小さく呟く。

その瞳には涙が溜まっていた。

「強くなりたい。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん、イッセー先輩のように心と体を強くしていきたい。ギャーくんも強くなってきる……このままでは私は役立たずになってしまいます……『戦車』なのに、私が1番……弱いから……お役に立てないのはイヤ……」

 

小猫は今まで自分の弱さを気にしていた。

確かに小猫を除いた全員は強くなってきている。

 

木場は禁手で聖魔剣を手に入れ、ゼノヴィアはデュランダルを使える。

 

朱乃は最強の駒『女王』で、ギャスパーは時間停止の神器を有している

 

イッセーは伝説のドラゴンを身に宿している。

 

更に自分の周りには、『キバの鎧』に選ばれた渡。

 

絶滅種の戦闘民族、人狼族の結菜。

 

水の魔力に秀でた人魚、リーヤ。

 

物理攻撃しか効かないフランケンの紫水。

 

そして自分達が束になっても敵わなかったマザーケルベロスのヘル。

 

小猫は溜まった涙をボロボロ溢す。

 

「……けれど、うちに眠る力を……猫又の力は使いたくない……使えば私は……姉さまのように……もうイヤです……もうあんなのはイヤ……」

 

姉妹の猫はいつも一緒だった。

 

寝る時も食べる時も遊ぶ時も。

 

親と死別し、帰る家もなく、頼る者もなく、2匹の猫はお互いを頼りに懸命に一日一日を生きていった。

 

2匹はある日、とある悪魔に拾われた。

 

姉の方が眷属になる事で妹も一緒に住めるようになった。

 

やっとまともな生活を手に入れた2匹は、それはそれは幸せな時を過ごせると信じていた。

 

ところが、異変は起こる。

 

姉猫は、力を得てから急速なまでに成長を遂げた。

 

隠れていた才能が転生悪魔となった事で一気に溢れ出たのだ。

 

その猫は元々妖術の類に秀でた種族だった。

 

その上、魔力の才能にも開花し、挙げ句仙人のみが使えると言う『仙術』まで発動した。

 

短期間で主をも超えてしまった姉猫は力に呑み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌していった。

 

力の増大が止まらない姉猫は遂に主である悪魔を殺害し、『はぐれ』と成り果てた。

 

しかも追撃部隊を悉く壊滅する程、『はぐれ』の中でも最大級に危険なものと化した。

 

悪魔達はその姉猫の追撃を一旦取りやめた。

 

悪魔達は残った妹猫に責任を追及した。

 

『この猫もいずれ暴走するかもしれない。今の内に始末した方が良い』と。

 

処分される予定だったその猫を助けたのがサーゼクスだった。

 

サーゼクスは妹猫にまで罪は無いと上級悪魔の面々を説得した。

 

結局、サーゼクスが監視する事で事態は収拾された。

 

しかし、信頼していた姉に裏切られ、他の悪魔達に責め立てられた小さな妹猫の精神は崩壊寸前だった。

 

サーゼクスは、笑顔と生きる意志を失った妹猫をリアスに預けた。

 

妹猫はリアスと出会い、少しずつ少しずつ感情を取り戻していった。

 

そして、リアスはその猫に『小猫』という名前を与えた。

 

塔城 小猫は元妖怪。

 

猫の妖怪、猫又。

 

その中でも最も強い種族、猫魈の生き残り。

 

妖術だけではなく、仙術をも使いこなす上級妖怪の一種。

 

そんな凄まじい血統だが、自分に主をも殺せる力が眠っていると知ったからこそ、怖くて使いたくない。

 

しかし、これからの事情を考えると力が欲しい。

 

「……あいつ(・・・)のような」

 

小猫は会談の時に襲撃してきたルークを思い出す。

 

『戦車』の名に相応しい、あの肉体。

どんな攻撃も物ともせず、渡達を悉く追い詰めた強敵。

 

悪魔に転生し『戦車』の称号を与えられた悪魔は沢山いるが、断言する。

ルークこそが『最強の戦車』だ。

 

「あのルークのような…力が「それはダメだ」ッ⁉︎」

 

聞き覚えのある声が背後から聞こえ、振り向くとそこにはリリスが立っていた。

 

「リリス……様」

 

冥界のトップのリリスが目の前にいる為、直ぐに膝を付こうとするが、

 

「そのままでいい、楽にしろ」

 

リリスは優しく、小猫の両肩に手を置き、ゆっくりと寝かせた。

 

「さっきの言葉だが、ルークの力を欲したな?」

 

「はい、私もあんな凄い力が欲しいんです」

 

「ルークの使命は何だか分かるか?」

 

「?」

 

リリスの突然の言葉に、小猫は横に首を振る。

 

「『邪魔な種族の全滅』だ」

 

「な…………⁉︎」

 

それを聞いた小猫は顔を青ざめた。

 

「あいつの力は数々の屍の上(・・・・・・)に成り立っている。そんな奴の力は絶対に欲してはいけない」

 

「………」

 

小猫は更にうずくまり、体を震わせる。

 

「じゃあ…私はどうすれば……!私は渡先輩のような強い力が欲しいんです。もう……もう……!」

 

「……来い」

 

「え?」

 

リリスは小猫を抱き抱え、部屋を出た。

 

「ちょ、リリス様⁉︎」

 

「ちょっとこいつ借りるぞ」

 

途中、リアスやイッセーに出会うが今の一言で済ませる。

 

 

 

「ここは?」

 

「見ろ」

 

一室の前に立たされ、リリスがドアを少し開ける。

小猫はその隙間から目を通す、

 

 

ゴシャッ!

 

「グハッ!」

 

「ッ⁉︎」

 

その一室では、変身していない生身の渡が中華服を着た女性と相対していた。

 

「はぁ、はぁ…もう一本!」

 

「いいわよ渡キュン!そのガッツ素晴らしいわ!今夜どう?」

 

中華服の女性の言葉は置いといて、渡は立ち上がり相対する。

女性は渡の攻撃を美しく去なしいつの間にか渡は床に落ちていた。

そして渡はまた立ち上がる。

 

「あれは?」

 

「『八極拳』、中国の武術だ。あの女はその達人の転生悪魔で、お前と同じ『戦車』だ」

 

「あれが…私と同じ…⁉︎」

 

本来、『戦車』は頑丈とパワーを用いた捨身の戦法が殆ど。

しかし、あの女性は殆ど力ゼロで渡を退けている。

しかもそのスピードは『騎士』と見間違える程。

 

「分かるか?こういう『戦車』もいるのさ」

 

「それは分かりましたが……」

 

小猫は次に渡に視線を向ける。

 

「何で変身しないんですか?」

 

「渡が『生身も鍛えたい』って言うからな。最初の試合、渡は思う所があるんだろう。しかし、あいつが弱い(・・)のは知ってるだろう?」

 

「あ………はい」

 

小猫は申し訳なさそうに言う。

小猫から見ても、渡はかなり弱い(・・)

半分悪魔の血が流れているにも関わらず、少し戦い慣れした人間でも簡単に倒せる位に。

 

「正直でよろしい」

 

しかし、それを聞いたリリスは小猫の頭を撫でた。

 

「怒らないんですか?」

 

「事実だから」

 

「本題に入るぞ」と、話を戻すリリス。

 

「今の渡が限られた期間で強くなるのは無理だ。お前と同じでな」

 

「………」

 

「筋肉も余り付かない。だったら、柔術や合気道、八極拳といった筋力が少なくても戦える技術を習う事で補う。そうすればある程度は戦える」

 

渡が訓練の最初の指導でお願いしたのが所謂カウンターや見切りを中心とした戦術の訓練だった。

なんせ渡の筋力はイッセーより少ない。

故に相手の攻撃を利用する格闘技を中心に学んだのだ。

 

「こういうのを、効率がいい(・・・・・)という。お前の場合は効率が悪い(・・・・・)。だからオーバーワークになる」

 

小猫の表情が暗くなる。

しかし、幾ら倒されても諦めず喰らい付く渡の姿を見て、段々と顔を上げる。

 

「リリス様、ありがとうございました」

 

「ああ、心配をかけさせた皆に謝るんだぞ」

 

「はい」

 

小猫は先程よりも軽い足取りで帰っていった。

 

「いいの?敵を立ち直らせて」

 

物陰から結菜が出てくる。

 

「いいんだよ。その方が渡の成長に繋がる」

 

リリスは結菜に背を向けて、歩を進める。

 

「私は色々と仕事がある。渡は任せたぞ」

 

「はぁ〜い」

 

 

**********

 

 

「さて…と」

 

残された結菜は扉をパタンと閉めて、物陰を睨む。

 

「出てきなさいよ」

 

「あ、バレちゃった………」

 

物陰からイリナがぎこちなく現れる。

 

「何?」

 

「え?」

 

「要件は何って聞いてるの。さっさと答えてよ」

 

「いや…あの……」

 

「渡を見に来たの?」

 

「ッ!」

 

「当たりね」と呟く結菜。

 

「そういえば貴女、キバが好きだったのよね。どう?感想は」

 

「………」

 

「正体は貴女が昔イジメていた渡よ」

 

「うん……そう、だね」

 

「それとも何?貴女、渡がキバと知ってまさか渡の事が好きになったの?」

 

「え…あ……の…「ふざけないでよ」ッ」

 

結菜の鋭い眼光にイリナは怯む。

 

「虫が良すぎるのも大概にしてね。私は許さないんだから」

 

「………はい」

 

イリナがその場を去ろうとしたその時、

 

「ふぃ〜、あれ?お前ら何でここにいるんだ?」

 

渡が部屋から出てきた。

 

「結菜、それにーーー紫藤(・・)も」

 

(苗字………)

 

イリナの表情が暗くなっていく。

 

「あ、あの…わた……暁…君」

 

名前で呼ぼうとしたが、罪悪感が自分の胸を締め付け、苗字で呼ぶ。

 

「何だ?」

 

渡は平然とした表情で振り返る。

 

「昔は……ゴメンね…」

 

誠心誠意の謝罪。

それに対して渡は、

 

「いいよ。気にしてないし」

 

平然と答えた。

紛れもない真実。

渡はもう何も気にしていなかった。

 

「じゃあ、俺まだトーニングしなきゃいけないから」

 

そう言って、渡は結菜と共に去っていった。

 

 

**********

 

 

イリナside

 

「はぁ」

 

私、紫藤 イリナは外へ出る。

紫色の空を見上げて、ため息をついた。

 

「私ってバカだなぁ」

 

皆がやっていたから、私も()君をイジメていた。

最初は何も感じなかった。

 

でも、今は渡君の顔を見ると罪悪感で胸が痛む。

 

最初は渡君のイメージは、根暗で、頭が悪くて、愚鈍で、弱い虐められっ子の印象だった。

だけど渡君がキバだと知った時から、私は渡君を観察した。

 

渡君は、実は眼鏡を外すとカッコよくて、寛大で、バイオリンの天才でーーーーーそして強い。

身も心も、とても強い。

 

気づいた時から、私は渡君を好きになってた。

 

人を好きになる事は素晴らしいと思う。

だけど、私の場合は違う。

 

渡君は「気にしていない」と言った。

本来は喜ぶべきだけど、どうせなら一層の事、私を罵倒してくれた方がよかった。

それで私は自分の愚かさを改めて認められるから。

 

渡君は私の事は嫌いではない。

 

だが、好きでもない。

 

好きでも嫌いでもない。

 

これからも、それ以上にも以下にもならない。

 

私に対する感情は『中立』。

 

困ってたら、『仲間だから』相談に乗る。

 

危険が及んだら『仲間だから』助けてくれる。

 

『仲間だから』語り合う。

 

『恋愛』という感情は、おそらく私には抱いてくれない。

 

私はすうっ、と息を吸い、

 

「私は暁 渡が大好きです!!!」

 

空に向かって叫んだ。

自分の心にあるモノを声にして吐き出す。

 

だがその恋は叶わない。

 

「私は暁 渡を愛してます!!!」

 

だがその愛は報われない。

 

自分の想いを吐き出した私は、意外と清々しい感じだった。

 

「私は渡君に許せない事をした」

 

そんな私が今更、渡君に恋する資格はない。

 

「でも……恋するだけ(・・)ならいいよね」

 

渡君の周りには素敵な女性が大勢いる。

その枠に、私が入るなんて言語道断だ。

 

「恋い焦がれるだけ(・・)でいいよね」

 

その想いを心の中に仕舞い、それを明かさず彼を見守る。

 

「私は暁 渡が大好きです」

 

もう一度あの言葉を言う。

 

しかし、それでも(紫藤 イリナ)の恋は恵まれない。


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