ハイスクール KIVA   作:寝坊助

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35話 新たな鎧・変身の鍵は絆

「まさかこんな事になるなんてな」

 

「ああ、俺も同じ気持ちだよ」

 

レーティングゲーム様の巨大な闘技場。

そこで、渡とサイラオーグが対面していた。

 

「¬:∪%ш」

 

「こいつか」

 

一匹の小型モンスターが召喚され、サイラオーグの周りを回転しながら回る。

 

 

***********

 

 

ほんの一時間前に遡る。

 

「リリス様」

 

「何だ今度は」

 

渡に暴言を吐いた老人達を追い出し、さっさとやる事をやって帰ろうとしたリリスに、上級悪魔の1人が呼び止める。

 

「我々はもう、『キバの鎧』はいりません」

 

これを聞いた他の悪魔達が騒ぐ。

 

「待て!何を血迷った事を!」

 

「『キバの鎧』の価値がわからないのか⁉︎」

 

ギロッと、リリスが他の悪魔を睨みつけると、悪魔達は脂汗を流しながら黙る。

 

「さて、聞こうか?」

 

「はい。実は私は『キバの鎧』に代わる新たな鎧を造り上げる事に成功したのです!」

 

「何?」

 

「それはどういう事かな?」

 

サーゼクスが上級悪魔に質問する。

 

「出来れば早くお見せしたかったのですが、外見だけでは皆様は納得しないでしょう」

 

上級悪魔は渡の方を向く。

 

「私はこの時を待っていたのです」

 

その瞳は、欲望と自分のこれからの薔薇色の未来しか見ていなかった。

 

「私の造った鎧と、『キバの鎧』を戦わせる。そして私は造った鎧が勝て、新たな冥界の宝をその鎧にしては貰えませんか」

 

(成る程、そういう事か)

 

この男は、渡を自分の造った鎧の実験台・見せしめにしようとしているのだ。

 

『キバの鎧』は凄まじい。

その鎧が渡を選んだ事が気に入らないと感じる悪魔は大勢いる筈だ。

なら、新しい鎧を造ればいい。

その鎧が『キバの鎧』を倒し、冥界の宝となる。

そうすれば鎧を造ったあの上級悪魔は多大な功績を得る事となる。

リスクは大きいがその分、成功した際は正に一攫千金。

 

「ではお見せしましょう!これが私の造った鎧ーーー『サガの鎧』です!」

 

 

**********

 

 

「【サガーク】か」

 

サイラオーグは自分の周りを旋回するサガークを見つめる。

 

「若手ナンバーワンだからあんたが選ばれたって訳か」

 

「正直、俺は俺自身の…己の肉体だけで戦いたかったんだがな」

 

サイラオーグは闘技場に行く前に、上級悪魔に言われた言葉を思い出す。

 

『いいかサイラオーグ!この戦いには何としても勝利しろ!勝ちさえすれば私の人生は薔薇色だ!次第によってはお前の後押しもしてやる!いいな⁉︎』

 

(正直、あのような男には何1つ媚びる物はないのだがな)

 

「では両者、前へ!」

 

審判の声と共に、サイラオーグは気を引き締め、『戦士』の顔になる。

対する渡も隣にキバットをいさせて、いつでも変身できるようにする。

 

「行くぜ、渡!ガブッ!」

 

「変身」

 

早速、キバに変身する渡。

それを見た会場の悪魔達の声も上がる。

 

「……これか」

 

サイラオーグは変身キーであるリコーダー型汎用武器『ジャコーダー』を手にした。

「こちらもいざ変身」、といこうとしたが、サガークはサイラオーグの周りを回っているだけだった。

 

「何だ?まだ変身しないのか?」

 

「勿体ぶらずに早くしろ!」

 

「それとも鎧というのは嘘か⁉︎」

 

老人達がいつまでたっても変身しないサイラオーグに疑問を抱き、上級悪魔の方を向く。

 

「少々お待ちを。どうやらまだ不具合があるようです」

 

上級悪魔は手を翳し、魔法陣を展開する。

その魔法陣から発せられる光が、サガークを包む。

 

「Ю□£В、%×ш¢£@&!」

 

サガークはジタバタと嫌がるように暴れる。

 

道具(・・)の癖に生意気な。主人に対して図が高いぞ!」

 

上級悪魔が更に光を浴びせ、サガークは大人しくなる。

 

「……随分と手荒ないな」

 

リリスはそれを見て、不機嫌な顔立ちになる。

 

道具(・・)か……あのサガークは希少な蛇族だろう」

 

道具(・・)に心など不要なのですよ。心などがあるからキバット・バットの様な事が起きるのです。心をなくした完璧な道具(・・)が、冥界に必要なのです」

 

「Иош¨Юя」

 

サイラオーグの意思に導かれ、サガークがベルト状に変化してサイラオーグの腰に巻きつく。

 

「変身!」

 

「ヘンシン」

 

ジャコーダーをバックルに挿入して引き抜くと、バックルが回転して、青い波動がサイラオーグを包み込む。

魔皇力が高まったサイラオーグの顔に、ステンドグラス状の模様が現れ、青い波動が弾け飛ぶ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、白銀の鎧が装着された。

 

それを見た老人達は歓喜の声を上げる。

 

「おお!素晴らしい!」

 

「『白いキバ』か!美しいな」

 

「これはあの上級悪魔の家の評価を上げなければ!」

 

そんな中、上級悪魔だけが疑問を抱いていた。

 

「な、何だ…あの姿は?」

 

上級悪魔は直ぐに資料を取り出し、目を通す。

その資料には、本物のサガ(・・・・・)の鎧の写真が写っていた。

 

「あ、あんな形ではない!サガは…サガはもっと…!それにジャコーダーも消えるのでなく武器として使える様、設定した筈なのに!」

 

混乱している間に、試合開始の合図がなる。

 

『ハァッ!』

 

『フッ!』

 

先手はキバ。

拳の連打でサガを追い詰める。

サガはその拳を辛うじて受け流している。

 

『セァッ!』

 

『ハッ!』

 

サガの前蹴りがキバを襲うが、キバは跳躍してサガの背後に回る。

瞬間、キバとサガの振り返りざまの裏拳が同時に放たれ、互いの拳が重なり合う。

凄まじい戦い。

しかし、そんな中でサガの歩きはどこかぎこちなかった。

 

(何だ……体が重い!)

 

『サガの鎧』を纏ったサイラオーグは上手く動けなかった。

試合が始まる前の少しの時間でウォーミングアップをして体を温め、万全の状態で臨んだ。

しかし、体が言う事を聞かない。

いや、『サガの鎧』がーーーサガークが拒んでいるのだ。

 

『そ、そうか』

 

サイラオーグは察した。

 

(無理矢理変身させられて、抵抗しているのか)

 

最初、拒んでいたサガークの姿を思い出す。

他人の為に勝手に改造されて、その男の人生の為に道具として生きる。

正に、奴隷(・・)ではないか。

 

(キバット・バットIII世の気持ちが、今なら分かるな。確かに、これなら暁 渡を選んだのは頷ける)

 

 

「な、何だあのぎごちない戦いは⁉︎あの『サガの鎧』には『キバの鎧』よりも高価な魔皇石を使用しているというのに!」

 

上級悪魔がテーブルにバンバンと八つ当たりする。

 

「まだ分からないのか?」

 

リリスが上級悪魔に言う。

 

「無理矢理、命令されて「はい」と素直に答える奴がいるか?それと同じだ。サガークは嫌がっているんだ。見ろ」

 

キバを指差して、説明するリリス。

 

「『キバの鎧』は、キバットが魔皇力をコントロールして初めて着用され、戦える。つまり、『主とモンスターとの絆』が大切なんだ」

 

「『主とモンスターとの絆』だと?そんな下らないモノが何になるというのです!」

 

「それがお前の限界だ。見ろ、キバに比べてサガは魔皇力のコントロールが全くできていない。いや、していない(・・・・・)。これはサガークの嫌がらせ(・・・・)だな。無理矢理自分を改造したお前へのな」

 

 

そして、戦いはいつの間にか決着を迎えていた。

 

「Wake up!」

 

「Wake…………up……」

 

キャッスルの声に対して、サガークは気だるそうに、やる気のない音声を発する。

 

『ハァッ!』

 

『トウッ!』

 

キバとサガが同時にジャンプする。

 

キバの『ダークネスムーンブレイク』。

 

サガの青白いオーラを纏った飛び蹴り、『スネーキングクラッシュ』。

 

互いに打つあり合い、辺りに衝撃を生む。

 

「グァァァァア!」

 

負けたのはサガ。

変身が解けてサイラオーグに戻る。

 

「サイラオーグ様!」

 

サイラオーグの眷属達が、倒れたサイラオーグに向かって走る。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、こちらこそつまらない戦いをさせてしまった」

 

差し出された渡の手を掴み、起き上がるサイラオーグ。

 

「この戦いはなかった事にしよう。こんな決着、不満がありすぎるだろ?」

 

「その好意は感謝するが、結果は結果だ。俺の負けは変わりない」

 

今度は起き上がったサイラオーグが渡に手を差し伸べる。

 

「また戦ってくれ。今度は互いに本気で」

 

「ああ、受けて立つよ」

 

渡もその手を握り返した。

 

「クソォォォォオ‼︎クソォ!クソォ!クソォ!」

 

ダンッ!ダンッ!ダンッ!と、上級悪魔は至る所に八つ当たりする。

 

「バアル家の無能め!サガークの役立たずめ!何が心だ!道具(・・)のクセに!道具(・・)のクセに!」

 

止めようの無い怒りをなんとか抑え、サガークの方を向く。

 

「サガーク!帰って来い !改造で心も意思も無くして本物の道具(・・)にしてやる!」

 

「……………」

 

「おいどうしたサガーク!主人の言う事を聞け!」

 

「Юясф¶ЙÅ」

 

「ど、何処へ行くんだ⁉︎違う、そっちじゃない!」

 

サガークは上級悪魔の方は戻らず、別方向に飛んでいく。

 

「なぜ言う事を聞かない!なぁ、頼む帰ってきてくれ!お前を造る為にどれだけの金を注ぎ込んだと思ってる⁉︎」

 

「ЙA¬:∪%ш-」

 

それでもサガークは帰らず、ドンドン遠くへ行ってしまう。

 

「お前がいないと私は終わりだ!クソゥ、クソゥ!クソォォォォオオオ!」

 

「惨めだな。自分の造ったモノに離反されるとは」

 

リリスはさっさと渡の方に向かっていった。

 

 

 

「あの上級悪魔め。結局こうなるか」

 

「しかし、もう『キバの鎧』はいらないと言ってしまったぞ?」

 

「仕方ない、あの手段でいくか」

 

またしても老人達が何かを企んでいた。

 

 

**********

 

 

翌日。

 

ドオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

ネリネの家で凄まじい爆発が起きた。

 

「な、何だ⁉︎」

 

行ってみると、そこには怒り全開のリリスが立っていた。

 

「あ・ん・の老害共ぉぉお!死にたいんなら今殺してやる‼︎」

 

リリスがドス黒いオーラを辺りに撒き散らす。

 

「渡ちゃん渡ちゃん!どうにかして本当に!このままじゃこの家どころか冥界が滅びる!」

 

フォーベシイの訴えに、渡はため息をつきリリスに近づく。

 

「どうしたの?リリス」

 

「ん?ああ、これを見ろ」

 

リリスは上層部から送られてきた手紙を渡に渡す。

 

拝啓、暁 渡様。

 

貴方が『キバ』だというのは理解いたしました。

 

しかしそれを望まぬ者も大勢おり、不満を持つ者もいます。

 

そこで我々は、貴方に力を示す事を要求致します。

 

『若手悪魔のレーティングゲーム』に参加し優勝すれば、貴方を『キバ』の継承者と納得致しましょう。

 

但し、もし負ければその『キバの鎧』(当然、眷属達も)を、下した若手悪魔に渡す事を要求します。

 

以上』

 

「お、おお〜〜」

 

流石の渡も苦笑いを浮かべる。

 

「どういう意味ですか?」

 

アーシアが手紙に顔を覗き込む。

 

「つまりこういう事よ」

 

『キバの鎧』を返せ!

あ、やっぱり『サガの鎧』があるからいいや。

いらない。

『サガの鎧』がどっかいった!

やっぱり『キバの鎧』を返せ!

でも『いらない』と言ってしまった。

じゃあ『若手悪魔のレーティングゲーム』を利用しよう!

勝てば『キバ』と認める。

負ければ『キバの鎧』を眷属と一緒に我々に渡せ。

 

と、結菜が分かりやすく説明した。

 

「というか、何で私達まで⁉︎」

 

「私は渡君に忠誠を誓ったのに!」

 

「渡と…一緒にいられなくなる?………嫌」

 

「私のダーリンは暁 渡ただ1人よ!」

 

渡の眷属達もこの理不尽さに怒りを燃やす。

 

「よし!ついてこいお前達!共に上層部を滅ぼそうじゃないか!」

 

「「「「イエッサー!」」」」

 

「待て待て待て待て!」

 

暴走する渡ラバーズを渡が必死に抑える。

 

「俺はこの提案に乗ろうと思う」

 

それを聞いた渡ラバーズが驚愕する。

 

「本気なの渡!負ければ『キバの鎧』は…」

 

「だからこそだ。だからこそ、実力で分からせなきゃ。それにこれを断ったらまた変な難癖付けられるに決まってる」

 

渡の瞳に決意の炎が灯っていた。

 

「渡君…素敵……!」

 

「カッコイー」

 

「矢張り私のダーリンは君だけだ!」

 

「はぁ、変な所で頑固なんだから」

 

渡ラバーズも納得する。

 

「いいのか?私が殺…じゃなくて、一声かければいいだけの話だが…」

 

「一々、リリスに頼るのは止めだ。俺だってもう子供じゃない」

 

「渡様…!」

 

渡の成長に、グレイフィアは落涙する。

 

「それに……」

 

渡は一緒に送られてきた対戦表を見る。

 

「一度、ケジメ(・・・)をつけなきゃいけないのもいるから」

 

「ケジメ?………げっ」

 

結菜が対戦表に目を通し、不機嫌な顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

第1回戦、キバ眷属 VS シトリー眷属。

 

匙 元士郎(・・・・・)のいる眷属だった。




【仮面ライダーサガ・チルドフォーム】

パンチ力 : 1t
キック力 : 3t
ジャンプ力(ひと跳び) : 8m
走力(100m) : 10秒

オリジナルフォーム。
サガの不完全形態。
無理矢理変身させられたサガークが嫌がらせで、能力を極限まで弱体化させた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)フォーム。
外見はほぼ、キバフォームと同じ。
違う点は、メインカラーが白という事だけ。
変身した際に、『ジャコーダー』が消える為、攻撃方法は徒手空拳。
しかし嫌がらせの為、物凄く動きにくく変身前の方が断然いい。
必殺技は青白いオーラを纏った飛び蹴り、『スネーキングクラッシュ』。

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