「今、何て言ったの?」
その頃、エリカと対峙していたコカビエルはある真実を口走った。
「神が死んだとは……一体どういう事だ⁉︎」
ゼノヴィアが、まるで縋るようにコカビエルへ問う。
問われたコカビエルは、まるでゼノヴィアとイリナを嘲笑うかのような笑みを浮かべる。
「そうか、どうやらまだ知らないようだな。ならば冥土の土産に教えてやろう、先の大戦で死んだのは魔王だけではない、聖書の神……奴も先代の四大魔王同様死んだのさ‼︎‼︎」
「「「「「ッ!?」」」」」
衝撃の事実に、全員が驚愕する。
その中、ゼノヴィアとイリナは糸が切れた人形のように膝を着いた。
今まで信仰して、毎日欠かさず祈りを捧げて来た神が、既に死んでいるという事実に、まるで現実を認められないとでも言わんばかりに錯乱しそうになっている。
「うそ、うそよ!そんな、主がお亡くなりになっているなんて‼︎そんな、デタラメよ‼︎」
「ミカエルは良くやっているよ。神の代行として、神が使っていたシステムで奇跡も愛も悪魔祓いもある程度は作用しているしな」
「そんな……じゃあ、私達が今までしてきた事って」
「そう、そうやって信徒が絶望しないように隠して来たのさ。あの戦争で悪魔も堕天使も天使も、幹部の大半を失ったからこそ、人間に頼らざるを得なかった。少なくとも神の死は隠さねば信徒共を纏め上げるのはミカエルとて難しかっただろうからな。天使にとって人間の信仰は必要不可欠、その信仰を得るには、神の死は隠さねばならない事だったのさ」
神の死、それは教会の信徒を絶望させるには十分過ぎる程の事実でありらゼノヴィアとイリナも当然、絶望の表情を浮かべている。
「本来交わる事の無い聖と魔の融合、そんなイレギュラーが起こった事自体、神の死を証明する確固たる証拠なのだからな‼︎」
「ふぅ〜ん、そう」
「「「「「ッ⁉︎」」」」」
そんな中エリカだけが驚きこそすれど、平静を保っていた。
「神が死んだ?数百年前に?もうこの世に居ない?ハッ、そうなの。バカバカしい」
「な、何だと?」
少し気味が悪そうにエリカを見るコカビエル。
「貴様、教会の戦士だろう。絶望しないのか?」
「だって私、神に祈った事なんてないもの」
「何……だと⁉︎」
「それ…どういう事?」
ゼノヴィアのイリナはエリカに問いただす。
「私ね、最初は「神様はいる」って思ってたわ。けど、何もかもをなくして分かったの。「神は助けてなんかくれない」って」
「貴様、何という事を!」
ゼノヴィアが怒りを露わにするが、エリカはどこ吹く風のようにあしらう。
「私の戦う理由。それは神の為じゃない……『人を守りたい』からただそれだけなの!」
エリカは自分の心の内をぶちまける。
《レ・ディ・ー》
「変身」
《フィ・ス・ト・オ・ン》
イクサに変身し、コカビエルと対峙する。
「イクサか。ふん、そんなガラクタでこの俺とどこまでやれるか……」
「やれるわよ。イクサの真の力、見せてあげるわ」
ガコンッ!
その時、顔面部のシールドが展開する。
ブォォォォォォォォ…………‼︎‼︎‼︎
「ッ、おおおおおお⁉︎」
瞬間、イクサから風圧が発生し、コカビエルは吹き飛ばされかける。
「あ、あれは……」
イクサの真の姿『バーストモード』が、姿を現した。
『その命、神に返しなさい!』
「先程まで神を信じていないと言ったクセに、何を言う!」
イクサは『イクサカリバー』を、コカビエルは光の剣を両手に用いて、ぶつかり合う。
ギィン!ギャリッ!スパンッ‼︎
「チッ」
舌打ちし、コカビエルが槍を二回連続で投擲する。
それをイクサは前転する事で回避する。
連続で投擲された槍。
その着弾点が、大爆発を起こす。
(まともに食らえば死ぬわね)
「キバとの戦いの前座かと思えば、中々やるではないか!」
コカビエルは羽を羽ばたかせ、槍を片手に距離を詰めに来る。
イクサはそれをイクサカリバーで受け止め、すかさず『ガンモード』にして銃弾を放ち攻撃する。
「ッ!凄いな。まさか人間が俺に大きな傷をつけるとは!」
『セアァァアッ‼︎』
イクサはコカビエルの巨大な槍を弾き、高速で相手の周りを何度も通りその度にイクサカリバーで斬り裂く。
だが、それを許すわけもなく、羽でイクサは遠くに飛ばされる。
そして受け身を取ると目の前には、
『ッ!グッ!』
大量の槍が飛んできた。
量が多くて何発か当たる。
しかし、致命傷にはならず殆どを斬り捨てた。
『ッ、マズイ!』
見ると、コカビエルが一際大きい槍を作ろうとしていた。
完成する前に、後ろに回り込む。
「何ッ⁉︎」
これにはコカビエルも予想外。
できるはずがないと思っていたのか、反応が遅れてしまった。
無理もない。
数十メートルも離れている所からほぼ一瞬で移動したのだから。
『ヤァァァァァァァァァァアア‼︎‼︎‼︎』
「グウゥ!」
コカビエルの体勢が崩れたのを見切り、ここぞとばかりに連続攻撃を繰り出す。
徐々にコカビエルの傷が増えていく。
「しかし惜しかったな!完成だ!」
コカビエルは完成した巨大な眩しい光の槍を地面に投げ、爆風でイクサごと吹っ飛ばそうとする。
《イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
『はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』
『イクサ・ジャッジメント』の斬撃がコカビエルの巨大な槍を斬り裂いた。
「まさかこれ程の人間がいるとは!思わずヴァスコ・ストラーダとの戦いの記憶が蘇ったぞ!」
『そう、それは良かったわね』
「こうしてお前と戦っていると、あの時を思い出す。そう、あの時の戦い。…あの……時の………」
途端にコカビエルの声が止まる。
「んん?」
すると今度は、コカビエルはイクサをジッと見つめる。
「まさか……」
「ッ……」
「貴様、まさかぁ‼︎‼︎」
コカビエルはある事に気がついた。
「ヴァスコ・ストラーダの血を引く者か!」
「何⁉︎」
「ウソ……」
コカビエルの言葉に、全員が驚愕する。
「ヴァスコ・ストラーダ……あの教会の戦士の…」
リアス達もその真実に少なからず驚いていた。
『………ええ』
イクサは静かに頷く。
『私の実名は【エリカ・ストラーダ】、ヴァスコ・ストラーダの実の孫娘』
「そんな、あの人に孫がいたなんて話……!」
『悪いけど、あの人の話はしないで』
イクサの鋭い眼光に、ゼノヴィアは黙る。
『あの人………なんて…』
**********
『お爺様!お帰りなさい!』
『エリカ、元気にしてたか?』
『うん!私、大きくなったらお爺様みたいな戦士になる!』
『エリカ、この世界にある全ての命は神が作り出したんだ。だから、神への祈りは忘れてはいけないぞ?』
『はい、お爺様!じゃあ死んじゃったら、神様に命を返さなきゃいけないのね!』
『死ん…だ?』
『悪魔に襲われて、2人とも重傷を負ったらしい』
『まだあんな小さい子供がいるのに、可哀想ね』
『ねぇ、お爺様。何で?何でお父さんとお母さんは死んじゃったの?お祈りしてたよ?私もお祈りしたんだよ?神様は助けてくれるんじゃないの?』
『エリカ…すまない……こんな事になるとは……‼︎』
『お爺様!これはどういう事⁉︎』
『エリカ、これには訳が…』
『どうしてアーシアを追放なんてしたの⁉︎私の…私の一番の友達だったのに!』
『話を聞いてくれ!』
『もう知らない!お爺様は嘘つきで、神様は助けてくれない!大嫌い!皆んな大嫌い!』
『エリカ⁉︎何処へ行く!エリカ!』
**********
『…………』
「どうやらその様子だと、複雑な関係らしい。ハッ!あのパワーバカはそういう所は不器用だったらしいなぁ!」
『ッ、しまっ…‼︎』
反応が一瞬遅れ、コカビエルの槍がイクサに迫った直後、
バギィィィンッ!
「キバ、やっと来たか!」
キバが蹴りで槍を砕いた。
『エリカ、無事か?』
『うん………ありがとう』
(そうだ、あの人なんて関係ない。私には彼がいる……)
キバはイクサの前に立ち、ベルトから紫の拳を象ったフエッスルを手に取る。
「派手に行くぜ!『ドッガハンマー』!」
キバットがフエッスルを奏でた瞬間、フランケンが変形した彫像がキバの元にやってくる。
彫像は宙で姿を変え、拳を象ったハンマー・『魔鉄槌ドッガハンマー』へと変わる。
キバがそれを力強く両手で掴むと、紫の電撃と共に鎖・カテナが厳重に両腕に巻きついていき、紫の両腕がキバの筋肉を通常の10倍に強化する。
次に鎖が胸を多い、これで下部装甲との二重の守りとなる。
最後にキバットの眼が紫色になり、フランケンの幻影がキバに吸い込まれると、キバの眼も紫色に変色した。
キバの全身を覆う紫は深厚な闇の色を連想させる。
キバの怪力形態『ドッガフォーム』。
キバはドッガハンマーを引きずり、無防備にコカビエルに近づいた。
「構えもしないとは、バカが!」
コカビエルが光の槍を飛ばす。
槍はキバに直撃し、爆発が起きる。
「終わりだキバァ!」
更にコカビエルは槍を飛ばし続け、次々とキバの周りで火柱が立ち上る。
しかし、キバの歩みが止まる事はなかった。
爆発の嵐の中、ゆっくりと、一歩ずつ、確実にコカビエルとの距離をつめていく。
そうこうしているうちに、キバはコカビエルの眼前に迫っていた。
すかさずコカビエルが光の槍を放った。
放たれた槍は真っ直ぐキバに向かっていく。
そして次の瞬間、爆発がキバを飲み込んだ。
『渡君…⁉︎』
「ハハハハハ!まさか本当に最後まで何もしないとはな!話にならん!」
そして爆炎が晴れていくと、片手をつきだしたままで立っている無傷のキバがいた。
「何‼︎」
コカビエルには何が起こったかのかはすぐに理解した。
キバは爆発を片手だけで受け止めたのだ。
その事実に狼狽えるコカビエルの姿にチャンスと思ったキバはドッガハンマーを掴む腕に力を込めた。
『ハァァァ……………』
「ッ、待ーーー」
『フゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ‼︎‼︎‼︎』
ゴギャァァァァァァァンッッッ‼︎‼︎‼︎
「ゴワァァァァァアッ⁉︎⁉︎⁉︎」
叫び共に振り落とされたドッガハンマーがコカビエルを地面に叩きつけた。
「コハッ!お、おのれぇ!」
翼を広げ、空に逃げようとしたその時、
「…………」
「止まった?」
コカビエルは空中で止まる。
(逃げるのか?
コカビエルは戦争の時の記憶を思い出す。
『非力な自分を呪うがいい』
「ッ!」
コカビエルはギリリと、歯を噛み締める。
「……フンッ!」
ブチィ!
「「「「「ッ!!?」」」」」
コカビエルは何と、自分の羽を引きちぎった。
『何の真似だ』
「下らん……下らん下らん下らん下らん!」
コカビエルはキッと、キバに視線を向ける。
「お前を倒す事で……
『殺さないのか?』
『ああ、堕ちた天使など殺す価値も無い』
「何故忘れていたのだろうなぁ」
コカビエルは
「戦争がしたかったのは、奴とのリベンジがしたいが為……その幻想に囚われていたという訳か」
ニヤリと笑う。
「来い」
『…………』
キバはドッガハンマーを振り上げ、コカビエルに向かっていく。
コカビエルに向かって、ドッガハンマーが振り下ろされるが、
「ヌウウゥゥゥゥゥゥゥウン!!!」
『何ッ⁉︎』
両手で受け止めた。
「おらぁ!」
そのまま地面に叩きつけ、無防備になったキバに槍を突き立てる。
『ガハッ⁉︎』
通常より防御力が上がっている為、突き刺す事は出来なかったが、途轍もない衝撃がキバを襲う。
「キバット!」
キバはドッガハンマーをキバットに近づける。
「一気に決めるぜ!『ドッガバイト』!」
キバットがドッガハンマーに噛み付き、魔皇力を伝達させる。
(イヤ………ん❤︎)
(はぁ、またか)
そしてキバを中心に世界が夜に覆われる。
雷鳴轟き、そらに朧月が浮かぶ。
キバはドッガハンマーの柄の先を地面に叩きつける。
拳の握り目がコカビエルに向かうように。
ドッガハンマーの拳が少しずつ開く。
そしてドッガハンマーの掌には大きな一つ目が存在した。
巨大な眼球『トゥルーアイ』。
このトゥルーアイから放出する魔皇力によってコカビエルは石のように止まってしまう。
キバはドッガハンマーを持ち上げる。
(何だ……体が…動かん⁉︎)
ドッガハンマーから更に巨大な拳が雷を纏って現れる。
キバがドッガハンマーを振り回すと、それに呼応して、巨大な拳も動く。
(あ…………ああ‼︎)
『ドッガ・ハンマースラップ』により、コカビエルは粉々に砕け散った。
訳がなかった。
「オオオオオオオオオオオオ!!!」
「な、何て野郎だ!拘束を無理矢理、弾きやがった!」
「これが、堕天使の幹部の実力⁉︎」
全員が驚愕している中、コカビエルは声をはりあげる。
「堕天使の幹部…だと?下らん!」
『ッ!』
「俺はコカビエルだ!唯のコカビエルだ!漢として戦場に赴いたコカビエルだ!キバァァァァァア‼︎‼︎‼︎」
『ダァァァァァァァァァァア!!!』
キバとコカビエルの力が極限まで高められる。
「…………ふ」
『ッ!』
刹那、コカビエルの力が抜ける。
「俺も平和ボケしたという訳か…もう力が出せん。これではアザゼルのバカを悪く言えんな」
『お前………』
「ああ………………実に楽しかったな」
エリカはあのストラーダの孫という設定でした!
そして過去のキバのトラウマを振り切ったコカビエルはどうだったでしょうか?
感想、お願い致します!