ハイスクール KIVA   作:寝坊助

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18話 イクサ剥奪・エリカ最大の危機

放課後、気付けば外は酷く土砂降りだった。

 

生憎傘は持って来ておらず、ここは時間をかけずにさっさとダッシュで帰ろうと判断した。

 

瞬間、叩きつけるような雨が渡の全身を襲う。

その時、嫌な気配を察した渡はキバットを呼ぶ。

 

「キバット」

 

「はいよー、ガブッ!」

 

「変身」

 

キバに変身して辺りを探索するキバの耳に、聞き覚えのあるその声が届いた。

 

「やっほー!おっひさっだねー!」

 

そこには前に出会ったフリードの姿があった。

フリードの片手には光るオーラを出す長剣が握られている。

 

『お前、まだいたのか』

 

呆れているキバに向かって、フリードは何が楽しいのかもの凄い笑顔で返事して来た。

 

「楽しく神父狩り〜をしていたらイケメン君に出くわしてさ〜!」

 

『ッ!』

 

フリードの足元には、傷だらけの木場の姿があった。

 

『お前がやったのか⁉︎』

 

「Yes!これはねぇ、エクスカリバーっていう聖剣なんですよ?ゲームとかで聞いた事あるでしょ?最強にして最高の剣でチョッパーしてたんデーィス!」

 

(エクスカリバー……何でそんな物がこの街にあるんだ?っていうか、何であいつが…)

 

「キミもぉ!あの時、俺を虚仮にしてくれたお礼をしないとねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」

 

言うや否や、フリードがエクスカリバーを振りかぶって突っ込んで来た。

 

ガギィィィィンッ!

 

 

 

『………あんま痛くない』

 

衝撃は来たがそれだけで、エクスカリバーなら悪魔には天敵で消滅してしまうが、『キバの鎧』を纏っている渡には聖なる力の影響は受けなかった。

 

「あ、ありえねえ……ありえねえありえねえありえねえありえねえ!聖剣だぞ⁉︎本物のエクスカリバーなんだぞ⁉︎テメエは斬られて死ななきゃいけね『黙れ』アブバァッ⁉︎」

 

動揺しきっているフリードの顔面に拳を放つ。

 

「ペッ!ああ゛あ゛あ゛あ゛!チクショウ!舐めくさりやがってぇ!」

 

フリードはキバ背を向けて走り始めた。

 

「次に出会った時は絶対に殺す!覚えてろぉぉおあぁ‼︎」

 

そんな捨て台詞を残し、フリードは完全にキバの前から姿を消した。

 

『エクスカリバーも防ぐなんて…この鎧凄いな』

 

「へへん、『キバの鎧』を凄さを理解したか?渡」

 

「はいはい」

 

変身を解いて、辺りを見回す。

先程、倒れていた木場の姿はなくなっていた。

 

「木場のヤツ……ん?」

 

渡は道に落ちているある物を拾う。

恐らく、フリードが落としていった物だろう。

 

「地図か?何て書いてあるんだ、渡?」

 

「『フランケン強化改造研究』…何だこれ?」

 

渡は地図を持って帰宅した。

 

 

**********

 

 

「え?」

 

翌日、エリカの家ではある出来事が起きていた。

リビングでは、青髪の少女ゼノヴィアと栗色の髪のツインテールの少女、紫藤 イリナがエリカの目の前でソファーに座っている。

 

「今言った通りだ。上層部はエリカ・シェリベルクに『イクサシステムを剥奪する』」

 

ゼノヴィアの口から放たれた言葉が、エリカの胸に突き刺さる。

 

「な、何で…!」

 

それでもエリカは2人に問い質す。

 

「だって貴女、『キバ討伐』の任務を遂行できていないじゃない」

 

イリナの言葉に、エリカは口をつぐむ。

 

「上層部は君の才能を見越してイクサに任命した。しかし、いつまでたってもキバ討伐の連絡は来ない。それ以前に、『バーストモード』も扱えない君に、イクサの資格は無いと判断したんだろう」

 

「その事を…伝えに来たの?」

 

「いいえ、貴女はこの街に派遣されているから言うけど、私達の任務は他にあるの」

 

イリナ達の任命。

それは盗まれたエクスカリバーの奪還だった。

盗んだのは堕天使の幹部コカビエル。

それを聞いたエリカは驚愕を隠しえなかった。

 

「堕天使の幹部に対して2人だけなの⁉︎」

 

「私達には残りの2本のエクスカリバーが渡されているわ」

 

「確かに勝率は少ないが、それでも刺し違えてでもコカビエルを倒す。それか、奪われる位だったらエクスカリバーを破壊しろとの命令だ」

 

エリカは開いた口が塞がらなかった。

コカビエルといえば、聖書にも記された超大物。

確かにエクスカリバーは強力だが、2人だけとは理解できなかった。

 

「ストラーダさんは⁉︎クリスタルディさんは⁉︎あ、そうだ!デュリオさんがいるじゃない!2人が持ちこたえてる間、あの3人のどちらかが来てくれれば!」

 

「命令が下されたのは私とイリナだけだ」

 

ゼノヴィアの言葉に、エリカの提案はバッサリ否定される。

 

「ま、待ってよ…じゃあ本当に死ぬ気なの?勝てっこないよ…!何でそんな簡単に命を捨てようとするの⁉︎」

 

「勝てっこないですって?キバ討伐も満足にできない貴女がよく言うわね」

 

「ッ!それは…」

 

「主の為なら、この身を捧げても構わないわ。神の為にしたんだもの、きっと神も手を差し伸べてくれるはずよ」

 

「そんな事ない‼︎‼︎」

 

エリカはイリナの言葉を否定する。

神を信じても救われなかったエリカはよく理解している。

神は手を差し伸べてくれないのだと。

 

「……話は以上だ」

 

ゼノヴィアとイリナは立ち上がる。

 

「イクサは私とイリナの任務が終わってから、エクスカリバーと共に回収させてもらう。イクサではなくなった君はもう一度、見習い悪魔祓いの施設に戻ってもらう事になっている」

 

それを聞いて、エリカの表情が絶望に変わる。

 

(帰る?…施設に?…もうこの街にはいられなくなるの?)

 

エリカの頭の中に、愛しの人物の顔が浮かぶ。

 

(渡君に……もう会えないの⁉︎)

 

「貴女は精々、残された時間をはぐれ悪魔の除去に使うといいわ。ついでに、キバの討伐は私達に任せといて大丈夫だから」

 

「くれぐれも、私達の『邪魔』はしないように」

 

そう言って、ゼノヴィア達は出て行った。

 

 

**********

 

 

「最悪…何で今になってニスの材料が…」

 

渡は愚痴を吐きながら、ニスの材料の入った袋を持って帰っていた。

 

「ん?あれは……ウゲッ!マジかよ」

 

「あ」

 

渡の視線の先には、一番会いたくない人物がそこにいた。

忘れようにも忘れられない…というより、漸く忘れかけていたのに出会ってしまった少女。

 

「…紫藤」

 

「暁君」

 

昔、自分を苛めていた紫藤 イリナがいた。

 

「イリナ、知り合いか?」

 

「ええ、”ただ”の知り合いよ」

 

『ただの』を強調していうイリナ。

渡自身も、『ただの』という関係の方がいいと内心、胸をなで下ろす。

 

「じゃあな、俺は帰るから」

 

正直、今の格好と背中に背負っている聖剣がかなり気になるが、間違いなく面倒な事になりそうな為、小走りでイリナ達の横を通ろうとする。

 

「相変わらず根暗ね〜、イッセー君とは大違い」

 

イリナの揶揄いに渡は反応する。

 

「……ああ、あいつと俺とじゃ天と地の差があるよ」

 

「あら、雰囲気は変わってない割には頭の方は成長してるじゃない」

 

「さっさと帰らせてくれ」と内心、鬱陶しく思う渡。

 

「何年経っても『お化け太郎』なのね。貴方の将来、真っ暗間違いなしだわ。ああ、主よ!この悲しき青年に少しの幸あれ!」

 

イリナが十字架を切り、それによりハーフでもある渡にダメージが入る。

 

(こんの……!)

 

「あら?どうしたの?」

 

イリナが渡の顔を覗き込む。

 

「別に心配ねぇよ。ちょっと立ち眩みしただけだ」

 

「うん、心配なんて最初からしてないけどね♪」

 

イッラァァァァァァーーーーッ

 

「じゃあ、俺は今度こそさっさと帰るからな」

 

「バイバーイ♪」

 

最初から最後まで胸にムカムカが溜まりまくった渡であった。

 

 

**********

 

 

「ここか」

 

翌日渡は、前に手に入れた地図の場所へ眷属を引き連れて来ていた。

 

「研究所?」

 

「不気味ねー」

 

結菜とリーヤが辺りを見回す。

研究所の外見は、焼け跡のせいで真っ黒になっていたが、それ以外は原形を留めていた。

 

「何かが暴れ回った痕跡があるわね」

 

リーヤは『フランケン強化実験研究』の地図に目を通す。

 

「恐らく、実験台のフランケンが暴走したんだろう。そしてご覧の有様だ。しかし、ますます分からないな。何でこんな物をあいつが…」

 

渡達は研究所の先へ進む。

研究所にはボロボロになった研究用具、更には…

 

「うげ、死体だ」

 

凄まじい力で全身をグチャグチャにされた研究員らしきモノがあちこちに転がっていた。

 

「ねぇ、これ見て」

 

結菜が指差した先には、開いた巨大なカプセルが置かれていた。

 

「カプセル?何が入ってたんだろう?」

 

リーヤがジッとカプセルを見つめる。

 

「フランケン以外に無いでしょう」

 

渡達がカプセルの周りをウロウロしていると、

 

 

 

ガコッーーー

 

「「「ッ⁉︎」」」

 

突然、瓦礫が盛り上がる。

 

「ウ……おオ…アウお……ろろ゛ぉ」

 

瓦礫の中から継接ぎだらけの人間が出てきた。

目の焦点が合っておらず、既に死んでいる事が分かる。

 

「フランケン」

 

「恐らく、実験台の1つだろう…見ろ」

 

在らぬ所から、何十体ものフランケンが現れる。

 

「”失敗作”で捨てられたって所ね。全く、酷い事する奴は何処にでもいるものだわ」

 

「行くぞ、キバット!」

 

「あいよぅ!ガブッ!」

 

「変身!」

 

渡はキバに変身し、結菜も獣人へ、リーヤも身体中に水を纏い、戦闘態勢を取る。

 

『片っ端から倒そう!』

 

「了解!」

 

「成仏してね!」

 

3手に分かれて、フランケンを倒していく。

 

『ハッ‼︎タァッ!‼︎』

 

既に死んでいるフランケンの動きは鈍く、簡単に拳を食らわせられる。

しかし、

 

「お゛お゛…!アゔ、が…」

 

既に死んでいるため痛みは無く、攻撃しても反撃してくる。

 

「渡!倒すんじゃダメだ!動きを封じろ!」

 

キバットは指示をしながらフェッスルを吹き鳴らす。

 

「『ガルルセイバー』!」

 

『ヴゥ、ヴォォォォォォオオオ‼︎‼︎』

 

ガルルセイバーを掴み『ガルルフォーム』となると、フランケンの主に足を次々と斬り裂く。

 

『死なないからな。取り敢えずこれで身動きは取れないようにできたか』

 

「ナイスだぜ渡ー!」

 

リーヤの方を見てみると、リーヤはフランケンを水で閉じ込めて腐食を早めて倒していた。

 

『あっちも大丈夫そ《ゴゥンッッ!》ウォッ⁉︎』

 

キバの横に何かが通り過ぎた。

それは倒されたフランケンで、吹き飛んできた方を向く。

 

 

 

『キバ、今度こそ必ず…貴方を倒す‼︎』

 

闘気丸出しのイクサが、ズンズンとキバに迫って来ていた。

 

『お前……』

 

明らかに雰囲気が違うイクサに、キバは警戒する。

 

『ダァァァァァァア‼︎‼︎』

 

『ッ⁉︎』

 

前に戦った時よりも、想像もつかない程の速度でキバに近づき拳を振るうが即座に部屋の中央へと回避する。

 

その後、キバは『ガルル』の力を解放し、イクサを上回る速度で近づき蹴りを放つが強力な衝撃が部屋中に響くだけでイクサは砕けることは無かった。

 

『絶対に……負ける訳には‼︎‼︎』

 

(何て気合い⁉︎一体、奴に何が⁉︎)

 

今迄に無い気迫に押され、キバは即座に距離を取る。

 

『逃がすか!』

 

『何ッ⁉︎』

 

距離を取ったキバに迫り、高速での移動を利用した拳を放つが、ガルルセイバーの側面で受け止められる。

かなりの衝撃がキバを襲うが体勢を崩さず、睨み合いになる。

 

『ガァァァァアッッ‼︎‼︎‼︎』

 

雄叫びを上げ、イクサを吹き飛ばす。

その隙を狙いガルルセイバーの斬撃を放ち攻撃するが吹き飛ばすだけでダメージを負った感じはしない。

 

『ウゥゥォォォォォォオオオ‼︎‼︎‼︎』

 

高く跳躍したキバは上空で回転し踵落としを喰らわせてダメージを与えようとするが、寸での所で止められる。

 

『ハァァァァァァア‼︎‼︎‼︎』

 

イクサはキバの腕を掴んだまま、壁へと叩きつける。

 

「Wake up‼︎」

 

《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》

 

『ハアアアアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎』

 

『ヤアアアアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎』

 

『ダークネスムームブレイク』と、『ブロウクン・ファング』が合わさり、凄まじい爆音と共に研究所を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「ガハッ‼︎はぁ、はぁ!ここまで疲労したのって、生まれて初めてかも…」

 

「大丈夫かー、渡?」

 

変身が解けた渡が、瓦礫を退かして立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!はぁ!負けない…‼︎キバを倒せば、私はまだこの街にいられるんだ!だから…‼︎」

 

同じく変身が解けたエリカも、体を奮い立たせる。

 

 

 

 

「「え?」」

 

この瞬間、2人の目が合う。

 

「エリカ何でここに……ていうか、やっぱりそのベルト…」

 

「渡君、何でここに……ていうか、その

蝙蝠…」

 

2人の思考が止まる。

いや、あらゆる可能性のビジョンが脳の中で生み出され、放心状態となる。

 

 

 

そして、遂に2人はお互いの正体を知る。

 

 

 

 

 

「んんぅ〜む、これは興味深い」

 

その光景を、影で見ていた者が1人。

 

「まさかあの2人がキバとイクサだったとは。皮肉な運命ですねぇ」

 

男は表情をニタリと歪ませる。

 

「キバとイクサ…これなら同時に葬る事も可能」

 

その表情は、骸骨のように不気味だった。




遂に2人が互いの正体に気づく!
それを見た謎の男。
次回もお楽しみ!

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