夜魔―理々禍流奇譚   作:罠ビー

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 お待たせしました。フェイトそん編です。
 とりあえず今回なのは嬢はラストだけの出番です。代わりにフェイトそんとプレシア女史がメルヘン時空に吸い込まれてます。ようはキャラ崩壊注意です。

 複製奇譚はフクセイキタンでもクローンキタンでもどちらでも構いません。


複製奇譚―1

 

 少女は孤独だった。

 少女は人形だった。

 少女は複製だった。

 

 

 

『複製奇譚』

 

 

「お母さん。頼まれていたもの探してきたよ」

 

「ありがとうフェイト。少し休んでいきなさい」

 

「……まだやらなきゃいけない事があるから」

 

 

 そう言って私はお母さんの目の前から逃げ出した。アルバムを見つめたまま答えたお母さんは表情を変えずアルバムを見続けていた。

 

 

「あの鬼婆も丸くなったもんだね。拍子抜けしたよ」

 

 

 使い魔で友達のアルフが安心したようにそう言う。アルフは優しいから私がお母さんに傷つけられなくなってよかったと考えているんだろう。でもそれは違う。あの頃はお母さんに色々とされて、身体は痛かったけど、お母さんは私を見てくれていた。

 

 

 今のお母さんは私を見てくれてはいない。

 

 

 お母さんはいつもアルバムに目を向けて、私の向こう側に何かを見ていた。ジュエルシードを集めてきてと頼んだ時もそうだった。声音だけはいつも優しいお母さん。だけどその声は私にかけられているんじゃない。

 歯がゆかった。寂しかった。苦しかった。あの時の事を思い出すと手に力が入る。

 

 

「お母さんはいつも何を見ているの」

 

 

 だから私は少し前に一度聞いてみた。するとお母さんは楽しそうに笑ったあとに私にアルバムを見せてくれた。

 

 

 

 ……何も貼られていない、真っ白のアルバムを。

 

 

「何もないよ?」

 

「ふふ、ここには私とアリシアの思い出がつまっているの。ほら、これが去年のよ」

 

 

 そう言って指差したのはアルバムの白紙部分だった。背中に何かが走る。それと同時に自分の背中に何かが迫っている気配があった。そして目の前のお母さんの姿がお母さんなのに見ていられなくなりそうになり目を反らそうとした。

 

 

「こちらを見なさい」

 

 

 目を背けた私にお母さんは叱責するような声をあげて私に魔法を放った。私はお母さんが戻ってきたと笑顔になった。

 私は場違いにも笑顔をお母さんに向けた。嬉しかった。久しぶりにお母さんが自分を見てくれたと思い幸福な気持ちになった。

 

 

「ふふ、その笑顔。アリシアによく似ているわ」

 

 

 そして絶望した。お母さんは自分を見ていないということに。そして何より憎らしかった。お母さんの寵愛をうけるアリシアという存在が。そしてそんな存在に似ているらしい自分自身が。

 その時の事を思い出すと歯に力が入る。その時以来ジュエルシードを集めるのに躍起になった。

 

 

「でもフェイトが無理する必要ないんじゃ」

 

 

 隣でアルフがそんな事を言う。確かにジュエルシードはお母さんが望んだもの。だけど私がジュエルシードを集めているのは自分のためだ。私はジュエルシードを使ってお母さんを取り戻す。……アリシアの呪縛から。

 

 

「無理なんかしてないよ。それに私のためだから」

 

 

 そう言って私は呆然としたアルフをそこにおいたまま、今の自分がホームにしている貸しアパートの一室に転移した。

 

 

◇◇◇

 

 

 暗い暗い闇のなか。ぴちょんぴちょんと水音がしていた。そしてそこには綺麗な金髪をツインテールにした女の子がいっぱい佇んでいた。けれどもその誰もがどこかが欠けていたりどこかが膨らんでいたりと歪な姿をしていた。

 

 

「寂しいの?」

 

 

 その呟きは闇のなかに消えた。呟きの主である少女は不思議だった。こんなにいるのに寂しいの?そう素直に聞く。

 

 

「お母さんに会いたいんだ。確かにお母さんに会えないのは辛いもんね。でも貴女達はお母さんに会いにいけない。羨ましい妹さんにも直接は訴えられない」

 

 

 少女は笑いながら金髪の少女達の言葉を代弁していく。金髪の少女達は代弁者を囲み佇んでいるだけだ。

 

 

「お母さんに会えないのも妹さんとすれ違ってしまうのも悲しいよね。でも安心して」

 

「私が協力してあげるよ」

 

 

 金髪の少女達は答えない。答える術を持たないのだから。彼女達は言葉を発する事はなく、またその身を動かした事が無いのだから。

 

 

「私が貴女達に形をあげる。妹さんとお母さんに会いに行けるように」

 

 

 金髪の少女達は答えない。ただその空間に立ち尽くし濡れた身体から水を滴らせるだけだった。

 

 

「ふふ、嬉し涙かな?」

 

 

 代弁者は至極愉快そうにそう言った。

 

 

◇◇◇

 

 

 フェイトが貸しアパートに戻ると直ぐ様に家を出て市街に繰り出した。髪はボサボサで短く切られておりあまり女の子らしい格好ではない。というのもアルバムを見せられた日、フェイトは荒れに荒れた。母親を奪ったアリシアが憎くて、それに似ている自分が憎くて。

 先ず自分の顔が映る鏡を自身のバルディッシュで叩き割った。そして割れた破片に映る自分の顔に怒り、その破片を目に向けたところでアルフに羽交い締めにされて止められた。その時以来フェイトのアパートには鏡が無く、自身の姿が映る窓にはずっとカーテンが引かれている。

 アルフはフェイトの自傷行為を避けるために彼女の髪をバッサリと切ることにした。フェイトとしても少しでも変わる方がいいのかそれを受け入れ今の髪型にしていた。

 それはさておきこうやってフェイトが街中を歩くのはジュエルシードの情報を見つけるためである。だから人々の噂話なんかは良い情報源であった。

 

 

「ねえ、『ありしあ様』って知ってる」

 

 

 こんなフェイトにとって不機嫌な噂話を耳にするのは当然だった。

 

 

「なんでも『ありしあ様』って子を呼び出すとその子と遊んであげると願い事を叶えてくれるんだって」

 

「用意するものは人形と……」

 

 

 フェイトは不愉快のあまりその場を立ち去ろうとした。しかし好奇心と何かが勝りフェイトはそこを動く事ができなかった。

 

 

「気になるの?」

 

 

 不意にかけられた声にフェイトは振り向いた。しかし誰もいなく誰かとすれ違っただけだと気づくと自分の手に違和感を感じた。

 

 

 

 手の中には青い宝石が握らされていた。


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