クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 銀河の守護者 作:オービタル
afterstory43:勇人の剣
全宇宙に紅い月と黒き太陽の出現により、全宇宙の行政府や王族達はパニックになっていた。
エルシュリア王国では再建が遊んでおり、負傷した兵士達を看病する者が多かった。包帯だらけの陽弥はオムニツールで全宇宙のニュースを見ていた。内容は分かっていたとおりであった。
『緊急速報です。ドレギアス率いる宇宙帝国軍が先日、加盟国であったシャンドゥアとゼルトラン帝国連合を壊滅させ、彼等の住む銀河系を破壊しました。各政府はこの非常事態に全民に緊急移民が発令、各銀河の種族達が母星を離れる事になっております…』
ナレーターがそう言うと、陽弥はオムニツールを切る。
「何で事だ………」
「まさか、こんな事になるなんて………」
各部に包帯や絆創膏が貼られているレオン達は落ち込む。
「すまん、皆……俺がもっと早くにあのバカの仕掛けた爆弾に気づいていれば………」
「良いんだ……俺達も気付かなかったんだ……」
「………あの洋介を痛めつけておけば………くそっ!!」
ジュンが怒りながら、血がにじみ出ている拳を壁にぶつけた。
「ジュン……」
ロザリーが心配すると、エルシャに看病されているアラドが言う。
「痛つつ……それで、そのクソ野郎は何処に?」
「現在、嘆きの渓谷でお兄ちゃんの隠密部隊が必死に捜索しているわ、それが非現実的なのか、指名手配された洋介の足跡が全く消えていたの……まるで、闇の中に隠れているかの様に……」
《………》
「……そう言えば、勇人は?」
レオンが問うと、ルナは首を振る。
その頃、勇人はあの後陽弥達に救出され、急いで緊急治療や回復魔法、さらに大量のアドレナリンや鎮痛剤、酸素カプセル、酸素マスク、メディカルボットでの緊急手術、ナノマシン投与、輸血の提供もあり、現在は治療カプセルの溶液で、治療されていた。酸素吸入器や脳波測定器など様々な装置が勇人の体に付けられていた。面会ガラスの外にいる雄二達が、勇人を心配していた。
「勇人……」
雄二や真里亞、知彦、志歩、瑠璃、彩乃、礼二が悲しい表情になると、そこにベリトが現れる。
「ベリト……」
「……すまない、俺があの時…ドレギアスに吸収されてなければ……」
ベリトが自分を責めていると、雄二が慌てる。
「いえいえ!あなたのせいではありませんよ!」
「嫌!謝らせてくれ!!」
突然ベリトが、雄二達の前で土下座する。さらに頭を強く地面にぶつけ、額から血が出る。
「そこまでしなくても!」
「ベリト!」
雄二達はベリトの謝罪と土下座を辞めさせるのであった。
その頃、陽弥とエミリアはグランドスフィアに保護されているプリズン・ソウルの居住エリアにいるマリーシェ家を訪ねていた。養子であるヨーコと実子のマナとオリバーとライラはルナに任せており、陽弥とエミリアはマリーシェ夫妻と話していた。
「さて、聞きたいことが山程あります……」
「……えぇ」
「シンディ・マリーシェ……彼女があなた方の娘ではないのは、確かですね?」
「……はい、私達の子は流産してしまい、それから子供ができなかったのです………だが、18年前の夜……その時、日本に滞在中に、古い館から赤ん坊の鳴き声が聞こえてきたのです。」
「それがシンディなのですね?」
「えぇ……子供が恵まれなかった私達夫妻にとって、シンディが有いつの娘なの……だから、私達はあの娘を育てる事にしたのです…」
するとダニエル・マリーシェがある木箱を持ってきて、陽弥に差し出す。
「これが……シンディが赤ん坊の時に身に着けていた服とタオルと何かが書かれた紙切れなのです」
木箱を開けると、確かに見たことの無い幼児用の服とタオル、そして紙切れがあり、エミリアはその紙切れに書かれている名前を言う。
「『"ナダ"姫を、お願いします』…と書いてあります」
「ナダ……それかシンディの…あの娘の本当の名前……」
「後…彼女を育てて、何か変わってきた事はありますか?」
「変わってきた事?…………あ…あります……あの娘は時々夜中、屋根裏で綺麗な歌を唄うのです。」
「歌?」
「余りに綺麗な歌だった為、翌日の夜に取ったのですが……」
「ですが?」
「録音したそれが……聴こうとスイッチを入れたら、悲鳴だったのです。」
「……悲鳴?」
エミリアが首を傾げると、陽弥がある提案をする。
「防水用カメラ…あります?」
「え?ありますけど……私が惑星アクアに行って、録音しましょう……もしかしたら、あの娘は泣いたまま唄ったのでしょう」
「「泣いたまま?」」
二人は首を傾げると、陽弥がそのラジオを借り、惑星アクアへ転移した。そして数分後、陽弥が濡れた状態で戻ってきたが太陽の力で服がすぐ乾き、ラジオの音を録音したカメラのスイッチを入れる。
「念のため調整した結果、成功した……始まるぞ」
『…暁の遥か彼方に輝くあの大地
光もて世の幸満たす、恵みし実り
雲の明け行く、あの空の如く
たえなる調べは明日の扉開き照らし出す
母なる大地私は願う
陽は黄金の光で木々を飾る
永久に踊り続けよう
喜びを永遠に捧げよ
絶え間なく時の彼方に過ぎ行く思い出は
涯なく我が胸満たす清らかな夢に
思い馳せしは、あの星のごとく
たえなる調べは明日の扉開き照らし出す
父なる海私は祈る
乙女の笑顔は野を光で満たす
永久に歌い続けよう
喜びを永遠に捧げよ
永遠の愛を私は誓う
空と大地に報われしこの日々が
永久に続くこの時が永遠の幸せを繋ぐよ
永遠の幸せを繋ぎだすよ……』
シンディの歌を聴いたダニエルとエイダが言う。
「そう!これだ!」
「まさか……ようやく13年ぶりに聴けたわ……」
シンディの歌を聴いた陽弥とエミリアは話す。
「エミリア…どう思う?」
「間違いないわ……テンポと音程が……私の永遠語りと同じだわ……」
「だろ……あのゼロから流れた歌と、今聴いたシンディの歌が一致した……奴は……歌の民の声を盗んだと思う……俺の推測だと、歌の民は殺されていない…おそらく声を奪われただけだと思う……すまんがエミリア……歌の民の星へ向かってくれないか?三獣王とユニゴルディアンを貸してやる」
「えぇ」
その後、陽弥とエミリア、ルナは子供達を連れて帰り、エミリアは歌の民のいる星へと向かい、陽弥はグランドスフィアの王座の間で、最後の修行をしていると、ヨーコとマナが話し掛けてきた。
「お父しゃん!」
「お義父さん♪」
すると陽弥の周りに魔法陣が浮かび上がり、目の前に置いてある太刀が宙に浮く。そして陽弥は立ち上がり、鞘を付けたまま、華麗な剣技をする。そして日本刀から何かを感じた……。
「この太刀……多分……もしかしたら、勇人なら使いこなせると思う……たが、出来るのか?あれは使いこなせると思うが……」
陽弥は台に置かれている剣があった。剣先が禍々しく赤黒くなっており、刀身は神々しく光で満ちている赤き剣であった。
「光の炎と闇の焔が合わさった、真炎の聖魔剣………『シャイニングオブダーク』……そして、この太刀は…明らかに普通の剣ではない……?」
陽弥は心配そうに見ると、隠れて見ていたヨーコとマナに気付く。
「何だ?用があるのか?」
「お父しゃん!勇人兄ちゃんが!」
「え!?」
陽弥は台に置かれているシャイニングオブダークを持ち、急いで目を覚ました勇人の所へ戻る。
勇人はベッドの上でココア持っていた。
「勇人!」
「……師匠」
勇人は落ち込んだ表情で話す。
「すみません……僕……守れなかった…」
「……いいんだ、悪いのは俺の方だ………」
「皆は?」
「安心しろ、無事だ……それより、ドレギアスのいる所が分かった」
「何処です!?」
「禁断の地"混沌の狭間"だ……奴はそこにデススフィアと共に根城を建てている…俺達は全勢力を持って、そこへ叩き込む……」
「けど、全勢力を集めた所で、何も……」
「何も?……全勢力には彼等もいる♪」
「彼等?」
するとドアが開き、現れたのは残存している神々の長であった。流石の雄二達もこれには驚くのであった。
「貴方が勇人君ですね、私はラー…よろしく♪」
「クロノスだ、荒神の坊主」
「オーディン……この宇宙を守護する神だ……中級の神である陽弥の弟子なら喜んで助太刀いたそう」
『天照大御神と申します〜♪』
心強い味方が来てくれたことに、勇人は涙を流す。
「お前は一人ではない、俺や皆…ここにいるお前の友達もいる」
雄二達は勇人を見て笑顔で返す。勇人は決意する自分を庇って死んだ母や愛するシンディを助ける事に……。
「ありがとう……師匠…」
勇人は立ち上がり、強い眼差しで陽弥を見る。
「僕、嫌………俺…やる………やり遂げる」
陽弥は、勇人の眼の闘志の炎を見て、笑う。
「ハハハ…それでこそ、護星神に相応しいやつだ……」
「え?」
「言っての通りだ……今日からお前は、オムニバースを守護する者……10人目の護星神だ」
陽弥からの衝撃の発言に、勇人や雄二達は驚く。
「どうした?荒神の坊主」
「…え!?あ、いえ…あまりに凄く強烈な発言だったので……でも、何で俺が護星神に?それに護星神はそれぞれの9つの世界を護るために……」
「あの御方からの命ですから」
ラーが彼の名を言う。
「あの御方………"混沌の存在 カオス"からです」
「カオス…」
「あの御方が何を考えているのかは分からないが、こう言える……」
するとクロノス、ラー、オーディン、天照大御神、そして陽弥が膝まづく。
「オムニバースを守護する護星神……我等の"蒼世神王"……何なりと御命令を…」
突然の事に、勇人は動揺してしまう。
「そんな!そこまでしなくても!」
「俺は……お前を信じる何故なら」
陽弥は立ち上がり、背部に背負っていたシャイニングオブダークを抜く。
「お前を……凄く誇りに思う程の息子でもあるからな♪」
陽弥が満面な笑顔で返すと、勇人はシャイニングオブダークを受け取る。
「この剣は?」
「俺とブラムの力が宿った剣……言わばお前の為に作った剣だ…そして」
すると陽弥がある太刀取り出した。
「それは?」
「……話さなければならないことがある。勇人…落ち着いて聞け、お前は普通のクアンタ人ではない……ブリタニア皇家の子孫なのだ…君は……」
「……知っています」
「え?」
「母さんが死ぬ際に教えてくれました……自分がクアンタ皇家の長男の末裔と…そして本名も…」
「!」
「でも、俺は気にしません……全力持って戦います……大好きなあの娘を助ける為に!」
勇人の決意に、誰もが驚くと、陽弥が言う。
「愛の試練、頑張れよ!」
陽弥は勇人に太刀を渡す。勇人がその太刀を見て、ある事に気付く。
「あれ?この太刀って……雑貨屋で買った刀……」
「そう……不思議な事に、その太刀はかつてお前の先祖が使っていた八つの剣に隠されたもう一つの剣……『スサノオ』だ」
「スサノオ……日本神話に出てくる荒ぶる神……」
「今のお前にちょうど良いだろ?」
勇人は鞘から太刀を引き抜こうとしても抜けなかったが、刀身には凄まじき覇道を感じ、青い宝石が輝く。
「これ抜けない…」
「気付いたか、そうなんだ……神様でもある俺も抜けなかったんだ……その太刀には何か不思議な力を感じたんだ…まるで何かを試しているかのように……ある説では、それを引き抜いた者は全宇宙の覇皇とされる……」
「何か聖剣エクスカリバーみたいだなぁ…引き抜いた者は王となりてという感じみたい………」
《…………》
皆はそう考える中、天井裏に勇人達の話を盗み聞きしていた洋介が笑っていた。