このすば*Elona   作:hasebe

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第54話 かくして彼女の夢は成就する

 自宅に押しかけてきた紅魔族二名を含めた四人でリビングのテーブルを囲む。

 めぐみんは女神ウォルバクに何を言っていいか分からないようで、普段の威勢の良さはすっかり鳴りを潜めてしまっている。まるで借りてきた猫のようだ。

 寸前の会話からしてめぐみんと女神ウォルバクの間に浅からぬ縁があるというのは分かるが、あなたは彼女達の事情を何一つ知らないので全く口出し出来ない。なのでとりあえず二人の関係について説明を求めてみる事にした。

 

「そうですね。えっと……スロウスさん、スロウスさんはめぐみんとお知り合いだったんですか?」

「ええ。といっても、さっき言ったようにその子がまだほんの小さい子供だった頃に一回会ったっきりなのだけど」

 

 子供の頃に一度会っただけというには、女神ウォルバクを見ためぐみんの反応はまるで生き別れになってしまった家族と再会したかのように劇的であった。きっと余程の事があったのだろう。

 同じ爆裂魔法使いとしてめぐみんと気が合いそうだとは思っていたが、まさか本当に関係を持っていたとは。

 一人驚きながらも納得するあなたであったが、そんなめぐみんはちらりとあなたに視線を向けた後、十秒ほど間を置いて口を開いた。

 

「ゆんゆん、私が爆裂魔法の虜になった原因の話はまだ覚えていますか?」

「勿論忘れてなんかいないわ。その直後にめぐみんがやった事を含めてね……」

「大げさな。ちょっと見つけたカモネギを晩御飯のおかずにする為に絞めただけじゃないですか」

「ええ……」

 

 ゆんゆんと女神ウォルバクが同時にめぐみんのあまりにも無慈悲な発言に引く。

 あなたがドリスで軽くネギガモの群れを虐殺したと知られたら二人はどんな反応を示すのだろうか。ネギガモは葱も肉もとても美味しかったのであなたは全く後悔も反省もしていないのだが。

 それはさておき、めぐみんはあなたに向けて、自身が爆裂魔法使いになった経緯について話し始めた。

 

「私がまだ小さい子供の頃、魔獣に襲われた事があったのです。邪神の封印を担うパズルをおもちゃとして遊んでいた時にいきなり現れましてね」

「……何やってんのめぐみん!? 私邪神の封印で遊んでた件については初耳なんだけど!?」

「あれ、そうでしたっけ? まあ昔の話ですし、どうでもいいじゃないですかそんな事は。……そんなこんなで大ピンチになった私でしたが、そこにたまたま通り掛かった魔法使いのお姉さん……いえ、スロウスさんでしたか。スロウスさんが爆裂魔法でその魔獣を撃退したのですよ。その時の爆裂魔法の威力はそれはもう凄まじく、紅魔族の里の大人であっても誰一人叩き出せない最強魔法の名に相応しい威力でした。その閃光、爆発、全てを灰塵に帰す絶対的な力に当時の私は一瞬で魅せられ、スロウスさんに爆裂魔法の習得方法を教えてもらったのです」

「そうだったんだ……スロウスさんが……」

 

 つまり身も蓋も無い事を言ってしまうと、めぐみんの現状は大体女神ウォルバクのせいだった。

 

 そして紅魔族の里に封印されていたという邪神。邪神認定を食らっており、現在は半身と分かたれて弱体化しているという女神ウォルバク。

 女神ウォルバクは封印されて長く幹部の席を空けていたが、およそ十年ほど前に幹部として復帰したという話をあなたはベルディアから聞いている。めぐみんもゆんゆんも気付いていないようだが、とても関連がありそうな話題である。

 あなたが何かに勘付いたという事を察したと思われる女神ウォルバクがあなたを横目で見やったが、それ以上の事は何も言ってこなかった。

 

「……まあそういうわけね。まさかこうして会う日が来るとは思わなかったわ。……でも爆裂魔法は習得に必要なポイントも膨大だし、まだ流石に使えるようにはなっていないでしょ?」

「使えますよ」

「えっ」

「ですから、私はもう爆裂魔法を使えます。というか毎日使ってます」

 

 渾身のドヤ顔で自身の冒険者カードを女神ウォルバクに見せ付けるめぐみん。

 あなたはギルドカードを見つめる女神ウォルバクが冷や汗を流している事に気付いた。めぐみんとゆんゆんは気付いていないようだが、心なしか頬が引き攣っているようにも見える。

 

「ほ、本当に覚えちゃってるわね。確かに私は爆裂魔法を教えたけど、私、あまりオススメしないって言った筈なんだけど……というかあなたの年齢で既に爆裂魔法を覚えてるってどういう事なの……」

「スロウスさん、めぐみんは紅魔族随一の天才なんですよ!」

「なんでゆんゆんが嬉しそうなんですか」

「え? そ、それはほら、めぐみんは私の、ほら……」

「え? 聞こえませんよ。めぐみんは私の、ほら、なんなんですか?」

 

 少しずつエンジンがかかってきたのか、笑顔でゆんゆんをいびり始めためぐみんがいつもの調子に戻ってきたのとは対照的に、女神ウォルバクはめぐみんの冒険者カードを見て困惑を深めていった。

 

「……あら、でもちょっと待って? このカード、爆裂魔法とそれを補助する為のスキルしか書かれてないように見えるんだけど私の気のせいかしら。初級魔法すら無いんだけど」

「あってますよ。私は爆裂魔法と爆裂魔法を強化するスキル以外のスキルを習得していませんし、習得するつもりもありませんので」

「テレポートとか、上級魔法とかは……」

「この先も覚える予定はありません。私は爆裂魔法以外一切興味が無いので。私は貴女に教えてもらった爆裂魔法を以って私こそが最強だと証明してみせます!」

「そ、そう……えっと、その……頑張って、ね?」

「はい!」

 

 キッパリとそう言い切った、頭のおかしい爆裂娘の意思が固いと理解したのだろう。女神ウォルバクは悪い事は言わないから他のスキルを習得しろと告げる事無く冒険者カードをめぐみんに返しながら、あなたにアイコンタクトを送ってきた。

 

(ね、ねえ。これってどうすればいいのかしら。私のせいで前途有望な才能溢れる紅魔族の女の子が道を踏み外しちゃった感じなんだけど……魔王軍に頭がおかしいって言われるエレメンタルナイトの力で何とかならない?)

 

 彼女は喧嘩を売っているのだろうか。あなたは相手が神であろうとも全力で買う人間なのだが。切実にここが剥製とカードをドロップしない世界なのが悔やまれる。

 ともあれめぐみんについてはどうもこうもないし、今更あなたが何かを言った所で何ともならないだろう。彼女の爆裂魔法にかける情熱が本物である事はあなたもよく知るところである。

 当の本人が現状に満足しているのだから、それでいいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

「それで、どうして私の人生を決定付けてくれた大恩人のスロウスさんがあなたの家にいるんですか? 話を聞くに、どうやらゆんゆんとも知り合いみたいですし」

 

 あなたが淹れた茶を飲みながら、めぐみんが問いかけてきた。

 ゆんゆんは女神ウォルバクとウィズの正体を知らない。

 しかしめぐみんはウィズがリッチーである事を知っている。更に確証は無いが、恐らくはウィズが魔王軍の幹部だという事もカズマ少年から聞かされていると思われる。バニルの件もあるのでその可能性は非常に高いといえるだろう。

 相変わらず女神ウォルバクとウィズを取り巻く人間関係が錯綜しすぎである。とてもめんどくさい。

 

「彼とは最近ドリスで知り合ったのよ。ゆんゆんとは結構前にアルカンレティア行きの馬車の中でね。その時はちょっと話をしてすぐに別れちゃったんだけど、彼と一緒にドリスに来てた所をばったり再会したの」

「アルカンレティアはともかく、ドリスというとあの温泉街で有名な観光地ですか」

 

 私そんなの一言も聞いてないんですけど、とめぐみんはあなたとゆんゆんをジロリと睨み付けてきた。

 ゆんゆんが慌てて秘密にしてた修行の一環だったから、とめぐみんに言い訳するも、実際はドリスには養殖でメンタルがいっぱいいっぱいになったゆんゆんの慰安の為に赴いたので、彼女のライバルであるめぐみんに話していないのは当然である。色々な意味で。

 

「それで私がドリスにいた理由なんだけど。私は温泉めぐりが趣味っていうのと、本来の力を取り戻すために湯治をしていたわけ。実は今の私は半身を失っていて、本来の力を出せない状態でね……それでまあ、そこそこ長い話だから詳細は省かせてもらうけど、簡単に言うとそこの彼の持ち物に失われた私の力を大きく回復させるものがあると分かったから、その力を貸してもらう為にこうしてアクセルに滞在しているの」

「ほ、ほう……」

 

 女神ウォルバクの話を聞く紅魔族二名は目を赤く光らせてうずうずしていた。

 紅魔族は興奮すると目が光るというよく分からない生態を持っている。以前もそうだったが、彼女の話の何が紅魔族の琴線に触れているのであろうか。

 

 

 

 

 

 

「まさかずっと探し続けていた魔法使いのお姉さんとこんなドラマもクソもあったもんじゃない流れで再会する事になるとは……いえ、こうして会えた事に関しては全く構わないというか、凄く嬉しいんですけどね。そこんとこだけはちょっとだけあの頭のおかしいのに感謝してやらなくもありません。ええ、ちょっとだけ。でももう少し雰囲気というか盛り上がりとかあるじゃないですか。そう、例えばスロウスさんが大ピンチの所に私が颯爽と駆けつけて爆裂魔法でピンチを解決するとか」

「ねえめぐみん。その後めぐみん魔力切れで倒れちゃうんだけど、それって本当に盛り上がるの?」

「うるさいですよ裏切り者。まさか私より先に私の恩人に会っていたとは……しかもそれを私に黙ったままでいるなんて信じられません。私が爆裂魔法使いを目指した理由、そして私の夢をゆんゆんだけは知っていたというのに。今回は事情を説明する為に仕方なく頭のおかしいのに話しましたが、この件はまだ家族やカズマ達にだって話してないんですよ?」

「わ、私だけ、私がめぐみんの特別……って何よ裏切り者って!? スロウスさんとめぐみんが知り合いだなんてちっとも知らなかったんだから仕方ないでしょ!?」

「世の中って広いようで意外と狭いですよね」

 

 時刻は夕日が殆ど沈み、少しずつ星が輝き始めた頃。

 あなた達はぶつくさと呟きながら先頭を行くめぐみんに連れられてアクセルの外に出ていた。

 なんでも彼女は街の外で女神ウォルバクに見せたいものがあるのだという。事情通のゆんゆんはともかくあなたは呼ばれていないのだが、特にやる事も無いので何となく同行している。

 

 同行する傍ら、紅魔族二人の後方でこそこそと内緒の話をするあなたとウォルバク。勿論話題は女神ウォルバクとめぐみんの関係についてだ。

 

「……そう、あのお嬢ちゃんはウィズがリッチーだと知っているのね。バニルあたりから私の正体がバレたりしないかしら。いつか知られるにしても今はちょっと勘弁してもらいたいのだけど」

 

 今の所ベルディアの正体が他者に……それこそ元同僚の女神ウォルバクにもバレている様子は無いのであなたはそこの所は心配していない。バニルはとてもイイ性格をしているが、わざわざウィズの店に不利になるような事はしないと思われる。

 しかしこれはベルディアが金蔓と見られているあなたのペットだからの可能性も捨てきれないわけだが。

 女神ウォルバクがあなたのペットになれば大方の問題は解決しそうなのだが、モンスターボールの在庫が無い。キョウヤ曰く以前この世界に来たニホンジンが持ち込んでいるとの事なので一度探してみるべきだろうか。女神エリスとの神器回収で手に入れられればいいのだが。

 

 ところでやはり女神ウォルバクの封印を解いたのは幼い頃のめぐみんなのだろうか。あなたは本人に問いかけてみる事にした。

 

「私も直接見たわけじゃないけど、状況証拠的にはそうなるのかしらね。賢者級の冒険者でも中々解けない代物だったんだけど……まさかあんな小さいお嬢ちゃんがね……」

 

 紅魔族随一の天才は幼少の頃よりその片鱗を見せていたようだ。

 女神ウォルバクの影響で爆裂狂になっていなければ間違いなく歴史に名を残した事だろう。今のままでも残しそうだが。

 

「その話題は私の気が罪悪感で重くなるから止めましょう。はい止め止め」

 

 あーあー聞こえない聞こえないとばかりに指で耳に栓をする女神ウォルバク。

 そこまで気にするのであれば、何故めぐみんに爆裂魔法を教えてしまったのか。

 

「いやほら、封印を解いてくれたお礼に願い事を叶えてあげるって言ったんだけどね? あの子世界征服とか巨乳になりたいとか魔王になりたいとか言ったのよ。封印云々は覚えてないみたいだけど」

 

 先ほどめぐみんに魔王を目指しているのかと聞いたのはそれが理由だったようだ。

 しかし他二つはともかく女神ともあろうものが一人の少女を巨乳に出来なかったのだろうか。

 あなたの知る願いの女神は性転換だろうが若さだろうが叶えてくれるのだが。やはり半身を封じられているが故に全力を出せないのが原因と思われる。

 

「幾ら女神でも無理なものは無理だから! ……それでまあ、あの子が最後に願ったのが爆裂魔法を教えてほしいって事だったの。けどまさかあの時の子供がこんな事になってるなんて夢にも思わないわよ。爆裂魔法一本で食っていくなんて魔族でもやらないわよそんなの……」

 

 どこか遠い目をして呟く女神ウォルバクにあなたは言葉を返そうとし、ぴたりと足を止めた。

 

「……どうしたの?」

 

 突然足を止め、アクセルの方角に目を向けたあなたに女神ウォルバクが不思議そうに振り向くも、何でもないとあなたは首を振って歩くのを再開する。

 

 本当に大した事ではない。ちょっと()()()()()()()()()()()だ。

 壁端に追い詰められたのかは分からないが、死ぬ直前の体力の急激な減り方から見てどうやら事故ってしまったらしい。

 大幅なレベルアップの甲斐あって、ベルディアの終末狩りは最初の頃のように即死する事もなくかなり長続きするようになったのだが、それでも時々こういう事がある。とりあえず帰ったら蘇生せねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

「さて、ここら辺でいいですか」

 

 やがて、めぐみんはアクセルから離れた草原まで来ると後方のあなた達に向き直った。

 広々としたこの場所は爆裂魔法を使うにはもってこいといえるだろう。

 

「魔法使いのお姉さん……いえ、スロウスさん」

 

 女神ウォルバクをジッと見つめ、めぐみんは言葉を続ける。

 

「私はずっと、貴女にお礼を言いたかったんです。私はその為にこうして冒険者になり、紅魔族の里を旅立ちました。あの日貴女と出会い、爆裂魔法を教わっていなければ、私はごく普通の天才魔法使いとして一生を終えていたでしょう。本当にありがとうございました」

「…………」

 

 深く頭を下げるめぐみんは気付いていないが、女神ウォルバクの目から光が消えかけている。

 彼女は自身の封印を解いてくれた恩人にして未来ある若者を頭のおかしい爆裂狂にしてしまった事をかなり気にしているようなので、自覚なしとはいえ過度な死体蹴りは止めてあげてほしい。そのうち本当に泣きかねない。

 

「そしてもう一つ。私はずっとずっと、貴女に教わった爆裂魔法を見せたかった。それが私の夢でした。……だから、見ていてください。私の爆裂魔法を……!」

 

 強い決意を湛えた声を発し、めぐみんが爆裂魔法の詠唱を開始した。

 彼女が構えた杖の先には紅魔族随一の天才の膨大な魔力の全てが圧縮された、燃えるような白い光が輝いている。

 

 爆裂魔法はあらゆるスキルの中で最も習得、制御、発動が難しい魔法である。

 それ故にまともに食らわせられれば、ドラゴンや悪魔はおろか、神や魔王ですらも滅ぼし得る、人類の持てる最強にして必殺の攻撃魔法。

 それを年若くして完全に制御してみせるめぐみんの桁外れの才能に、あなたの隣に立つ女神ウォルバクが息を呑む。

 

 

「エクスプロージョン――――ッ!!!」

 

 

 やがて詠唱が終わり、杖から放たれたのは夕闇を切り裂く白い閃光。そして数瞬をおいて、天地を揺るがす壮絶な大爆発が巻き起こった。

 他の追随を許さない絶対的な破壊力は大地に深い傷跡を刻み込み、遠くの森からは一斉に鳥達が羽ばたいていくのが見える。

 そして吹き荒れる爆風と轟音はデストロイヤー戦で女神アクアの魔力のブーストを受けて放った、最後にデストロイヤーを消滅させた時の規格外のものにこそ及ばないものの、しかしウィズと同時に放った時より確かに威力が上がっているようだ。

 

「これが、私の爆裂魔法です。あなたが私に教えてくれた爆裂魔法です」

 

 誰もが威力ばかりが無駄に高いネタ魔法だと、実戦では役に立たないと口を揃えて笑うそれを放ち、草原に巨大なクレーターを作っためぐみんは振り返ってそう言った。膨大な魔力を伴った突風の中、それでも吹き飛ばされる事無く。

 いつもであれば爆裂魔法を使った後のめぐみんはその場に倒れ伏してしまうにも拘わらず、今日の彼女は今も両足で立って女神ウォルバクを見つめている。

 

「……スロウスさん。あなたに教えてもらった、私の爆裂魔法はどうでしたか?」

 

 紅魔族随一の天才アークウィザードは。アクセルでも評判の頭のおかしい爆裂娘は。

 輝くような笑顔で恩人に問いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あー……発動ギリギリの魔力で頑張った分いつもより反動がきっついです。これ、明日爆裂魔法使えますかね……」

 

 あなたの背中におぶわれためぐみんが疲労困憊といった風の声色で呟いた。

 

 結局、めぐみんは女神ウォルバクの返答を聞いた瞬間にいつも通り魔力切れでぶっ倒れていつも通り行動不能になってしまった。

 暗かったのであなたはよく見えなかったのだが、それまでは気合と根性で踏ん張って立っていたらしい。本人曰く膝をガクガク震わせていたとの事で、なんかもう色々と台無しである。

 

 ――ふふ、恩人に私の爆裂魔法を見せる事が出来ました。……これで長年の夢が叶い、私にもう、思い残す事なんか何一つ……いやめっちゃありますけど。私はこの爆裂魔法で世界最強目指しますし。アクセルのエースとか私の爆裂魔法で鎧袖一触ですし。あーそれはそれとして駄目ですなんていうかもう無理です限界ですいっぱいいっぱいですすみません私凄く頑張りましたどっちでもいいので後の事はお願いしますぐえー!

 

 そんな言葉を一息で吐き出し、ビターンという擬音が聞こえてきそうなほどに豪快に前のめりに地面に倒れためぐみん。

 

 ――気を確かに、死んじゃ駄目よ! ああああああ、わ、私が爆裂魔法を教えたせいでこんな事に!

 ――だ、大丈夫ですよスロウスさん。めぐみんのこれはいつもの事ですから。

 ――だってびたーんって! びたーんって! ぐえーって!!

 

 そして驚き慌てふためいて、必死にめぐみんに涙声で呼びかける女神ウォルバクと彼女を大丈夫ですからと落ち着かせようとするゆんゆんのコントっぷりは傍から見ていて抱腹絶倒……もとい感涙物であった。むしろあまりの人の良さに邪神の名が泣いているのではないだろうか。

 

 そんなわけで現在は魔力切れでぶっ倒れためぐみんをあなたが背負い、あなた達四人は帰路についている最中である。

 盛大に取り乱したのが恥ずかしいのか、両手で耳まで真っ赤に染まった顔を覆ったままの女神ウォルバクが大変微笑ま……可愛ら……痛々しい。ゆんゆんとめぐみんもそれについてはそっと触れないであげている辺り、なんだかんだいっても二人は善良である。あなたや友人のように全力で煽らないのだから。

 

 まあそれはともかく、めぐみんの爆裂魔法は基本的に一日一発。

 あなたとしてはてっきりリザードランナーの群れにぶっ放したと思っていたのだが、今日は爆裂魔法を使わなかったようだ。

 

「ちょっとカズマのせいで爆裂魔法を使うだけの魔力が足りなかったんですよ。結局カズマが姫様ランナーを弓で仕留めてリザードランナーの群れは解散しました。おかげでレベルアップの機会を逃しましたが……そのおかげで今こうして爆裂魔法が使えたわけですから、これが災い転じて福となすってやつですか」

 

 そういえば今の今まで聞きそびれていたが、めぐみんはあなたの家に一日でいいので匿ってほしいと訪ねてきたのだ。リザードランナー討伐の際に何かあったのだろうか。

 

「あー……そのですね。ちょっとリザードランナー討伐の後にカズマと喧嘩をしたといいますか……いえ、実際はまだ喧嘩をしたわけではないんですが、私が今家に戻ったら絶対に喧嘩になる事が確定しているといいますか……カズマの事ですからスティールを連発してきて私を全裸にしかねません。なのでほとぼりが冷めるまで数日は帰らない予定です。最初はゆんゆんの泊まってる宿に泊まろうと思っていたんですが、宿泊客でいっぱいだったので。ゆんゆんの部屋は荷物でいっぱいでしたし」

 

 本当にめぐみんはカズマ少年に何をしてしまったのだろう。なんだかんだでカズマ少年は面倒見のいい、仲間思いの所のある少年な筈なのだが。

 事と場合によっては仲直りを取り持ってもいいとあなたが言うと、めぐみんは後ろを歩くゆんゆんとウォルバクを一瞥した後、二人に聞こえないように小さな声で耳打ちしてきた。

 

「私達はリザードランナー討伐の際に木の上に登っていたんですが、カズマがドジして落っこちて首の骨が凄い事になったんです。こう、ぐるんっと。まあそこはアクアのお陰でなんとかなったんですが、アクア曰くあのバカは何を思ったのか来世で幸せに生きるとか言い出しましてね。なので私は気絶したままのカズマの下腹部に『包○野郎、ここに眠る↓』というラクガキを……」

 

 驚愕の事実にあなたは噴出した。

 酷い。イジメだろうか。どうしてそんな事するの……? とどこぞの銀髪幼女に言われる事請け合いの蛮行である。

 というか年頃の少年にその行為は普通に可哀想というか残酷すぎるので止めてあげてほしい。

 風呂場でラクガキに気付いたカズマ少年の困惑と怒りは想像して余りある。それはめぐみんが帰ったら喧嘩になるだろう。ならないわけがない。

 あなたが何があったかは知らないがその年齢であまり下品なのはどうかと思うと素直な感想を送ると、めぐみんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

「ほ、本当は『聖剣エクスカリバーⅡ↓』にしようとしていたんです。ですが気付けば何故かあんな文字をですね。アレはきっと別世界の私、具体的には十七歳か十八歳くらいの私です。その私がそうしろという一種の天啓にも似た情報を送って……いえ、誤解です。私はカズマのソレを見た事があるわけじゃないですよ? 今回だって下着までは脱がしてないです」

 

 どちらにせよ、ラクガキの内容はどっちもどっちである。

 形勢が悪すぎるとめぐみんは悟ったのか、こほんと咳払いをして無理矢理話題を変えた。

 

「ところでスロウスさん」

「な、なに?」

 

 羞恥を引き摺っているのか、顔を上げた女神ウォルバクの声は上擦っている。

 

「私は今はまだ爆裂魔法に詠唱が必要な未熟な身ですが、いずれは詠唱すら不要になるほどに極めた私の爆裂魔法で邪神だろうが魔王だろうが打ち倒してみせます。貴女が教えてくれたこの爆裂魔法で! どうかその時を楽しみにしていてください!」

「そ、そう。お姉さん、その時を楽しみにしてるわね」

 

 魔王軍幹部兼怠惰と暴虐を司る邪神は頬に一筋の冷や汗を流してそう答えた。めぐみんが半泣きの恩人を吹き飛ばさない事を祈るばかりである。

 そんなめぐみんを止めるようにと、縋るような目で見られてもあなたにはどうしようもないが、もしそうなったら可愛い妹分の為に復活の魔法を使ってもいいかもしれない。復活の魔法のストックはあまり無いが、女神ウォルバクの為にせめて一回分は残しておこう。

 

《――お兄ちゃんはさぁ……紅魔族の人?》

 

 突然の電波介入にそういえばアレは紅魔族を嫌っていた事をあなたは思い出した。

 とりあえずあなたはノースティリスの人である。

 

《だったらさあ。むやみに私以外の女の子の事を妹とか思わない方がいいよ。その子勘違いするかもしれないし》

 

 あなたはめぐみんを妹分と思っただけで妹そのものとは思っていない。

 なのでノーカウントである。口に出す気も無い。

 

《……はぁー》

 

 長時間コースになりそうなので電波を強制的に打ち切る。

 

「……あ、あの」

 

 あなたに背負われているめぐみんが先ほどまでのハイテンションから一転、怯えきった震え声で話しかけてきた。

 

「……もしかしてですけど、あなたは何かに呪われてたりしますか? 今一瞬、赤い包丁を持った緑色の髪をした小さな女の子が椅子に座る幻影が見えたんですが」

「え? 私には見えなかったけど? スロウスさんは見えましたか?」

「私にも見えなかったわ」

 

 どうやらめぐみんはアレの姿を見てしまったようだ。

 あなたは彼女の問いかけに気のせいだろうと答えて歩を進める。

 

《紅魔族を、潰す……!》

 

「ほら、今紅魔族を潰すって! ……待ってください、違いますよ二人とも、私がおかしいわけじゃないですから! うんうん分かってるじゃないですって、その目は絶対分かってないでしょう!?」

 

 空を見上げれば煌く星々が夜空に瞬いていた。

 無限に広がる宇宙に思いを馳せれば、自分の事などどこまでもちっぽけな存在でしかない。

 

 神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し。

 そういう事である。

 

 

 

 

 

 

 どっぷりと日が暮れた頃にアクセルの自宅に戻ってきたあなた達。

 ウィズの店も既に閉店しており、そろそろ夕飯の時間である。

 

「……あ、お帰りなさいっ! 今日は本当にありがとうございました! あなたのお蔭でお店がすっごく盛り上がって私凄く嬉しかったです! バニルさんも高笑いしてとても喜んでましたよ!」

 

 店を閉めてすぐに夕飯の支度を始めていたのか、ポニーテールにエプロンという相変わらずの若奥様感丸出しの格好でウィズが帰宅したあなた達を出迎えた。

 こちらまで笑顔になりそうなぽわぽわりっちぃの素敵な笑顔を受け、やはり演奏の件は自身の心の内に仕舞っておこうと決意を新たにする。

 

「めぐみんさん、ゆんゆんさん、スロウスさん、こんばんは。……えっと、どうされたんですか?」

「いえ……」

「その……」

「ねえウィズ、私達お邪魔虫だったりしない? このままだと馬に蹴られて地獄に落ちそうなんだけど」

 

 言葉の意味が理解出来ないのか、ウィズは目を点にした。

 かくいうあなたも分からない。

 

「え? えっ? お邪魔だなんて、そんな事は無いですよ。どうぞあがっていってください。スロウスさんはお風呂ですよね。ゆんゆんさんとめぐみんさんもお夕飯食べていかれますか?」

 

 何故か気落ちした様子の三人にウィズとあなたは首を傾げる。

 

「ねえめぐみん。これが圧倒的勝ち組ってやつなのね……」

「冒険者を辞めた後の理想的な余生の一つである事は認めます。個人的には相手がコレなのはちょっとどうかと思いますがね……」

「私だって向こうに帰れば可愛い信者達がいるもの……いるもの……」

 

 

 

 

 

 

 その後、ウィズにめぐみんの事情を簡単に説明してめぐみん、そしてそれに付いて来る形でゆんゆんがあなたの家に一泊する事になった。ゆんゆんは申し訳なさそうにしていたが、むしろめぐみん一人な方が問題が起きそうなのであなたとしてはとても助かっている。

 そしてあなたが死んだベルディアを回復させてリビングに戻ると、そこは別世界だった。

 

「ウィズは流石というかなんというか。適性値180って中々いないわよ」

「いえ、私はそんな……ほら、幾ら高くても私はアレですし」

「ふふん、今回も私の勝利みたいねめぐみん。これで二連勝よ二連勝。というかめぐみん、8ってどんだけ勇者に向いてないのよ」

「はあ? 何言ってるんですかゆんゆんは。生憎ですが私は勇者なんか目指してませんからこれは負けじゃないですよ。むしろ低いほうがありがたいくらいです」

 

 何をやっているのか、和気藹々と過ごす四人のアークウィザード達。

 あまりの華やかさにあなたはたじろいだ。ここは自宅だというのに、自分達があの場に混じっていいものかと若干戸惑う程に。

 

「これは……爆裂魔法の使い手が三人……来るぞご主人!」

 

 突如ベルディアが迫真の表情で電波の発信を開始する。あるいは受信したのかもしれない。

 しかし一体何が来るというのか。

 

「何ってそりゃあ……エレウィズとか?」

 

 強化しすぎたか。これはもう駄目かも分からんね。次のベルディアはきっと上手くやってくれる事でしょう。

 あなたは内心で支離滅裂な言動のベルディアに冷徹な感情を抱く。

 つい最近ドリスで散々温泉に入って心と体を癒したばかりだというのにこのザマである。

 温泉が駄目となると、以前その存在を知ったアクセルの路地裏に存在するという冒険者御用達の娼館に一度ベルディアをぶち込んでみてもいいかもしれない。

 病気を貰ってくるかもしれないが、どうせ死ねば治るので問題無い。

 

 真剣にベルディアを引きずって自室に戻る事を検討し始めたあなただったが、その前にメガネをかけたウィズがあなたに振り向いてきた。

 

「あ、今ですね。スロウスさんが持って来たこのメガネで私達の勇者適性値を……ええええええっ!?」

 

 突然の絶叫に全員の視線がウィズに集中する。

 

「ど、どうしたの? いきなり大声上げたりして」

「ま、マイナス200です。勇者適性値、マイナス200……」

 

 ウィズの言葉を受け、今度はあなたに視線が集中した。

 

「流石の私もそれは引きます。人でなしですかあなたは」

 

 呆れ顔のめぐみん曰く、ウィズがかけていた眼鏡は女神ウォルバクがエーテル風呂の代価としてあなたに渡すために持ってきた神器なのだという。

 何でも他人の勇者適性値、つまりその人物がどれだけ勇者に向いているかが分かる代物らしい。女神ウォルバク曰く、100あればその人物は勇者と呼ばれるに相応しいのだとか。

 

 なお、各々の勇者適性値はウィズが180。ゆんゆんが94。めぐみんが8。ベルディアが133。そしてあなたがマイナス200。

 ある意味でぶっちぎっているがなるほど、あなたとしても自身の数値に異論は無い。マジックアイテムは正常に機能していると言えるだろう。

 ノースティリスの冒険者、それも廃人がこの世界の勇者に相応しいわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 ウィズが夕食の準備を行っている間、思い思いにくつろぐあなた達だったが、難しい顔で自身の冒険者カードを見つめるめぐみんにエーテル風呂からあがったばかりの女神ウォルバクが近付いていった。

 

「どうしたの? そんなに冒険者カードを見つめて」

「いえ、もっと爆裂魔法を強化する為にはどういったスキル構成にしたものかと悩んでいたのです。今の私ではレベル不足もあってまだまだウィズやスロウスさんの爆裂魔法には届きませんから」

「そ、そう……」

「先達として、何かアドバイスとかあったらお願いしたいのですが」

 

 女神ウォルバクは地雷を踏むのが趣味なのだろうか。

 迂闊な行動にあなたが苦笑すると、くい、くい、とゆんゆんがあなたの服の腕の裾を引っ張ってきた。

 

「……わ、私も必殺技が欲しいです」

 

 何を思ったのか、ゆんゆんは上目遣いであなたにそう言ってきた。

 あなたが先日、爆裂魔法のような高火力の攻撃を持っていないと指摘した事を気にしているのだろうか。

 

「えっと……その……はい……」

 

 ちらちらとめぐみんと女神ウォルバク、そしてキッチンで料理中のウィズを窺うゆんゆん。

 なるほど、先ほどベルディアが言ったように彼女達は三人が三人とも超火力の爆裂魔法使いだ。

 他者と比較すれば上級魔法だけで十分ではあるのだが、やはり爆裂魔法と比べると火力面ではどうしても見劣りしてしまうだろう。

 

 しかし今更ゆんゆんが爆裂魔法を習得するにしても、多大なるスキルポイント、そしてめぐみんというあまりにも高い壁が立ちはだかる。

 どう足掻いても頭のおかしい爆裂娘の二番煎じは避けられず……いや、二番煎じは全く構わないのだが、全うな手段ではゆんゆんの爆裂魔法はめぐみんのそれに到底届かないだろう。何せ紅魔族随一の天才が手に入れた全てのスキルポイントを爆裂魔法関係に注ぎ込んでいるのだからそれも当然の話だ。

 爆裂魔法に人生を懸けているのはまさしく伊達で酔狂で狂気の沙汰だが、それでも彼女は本気である。

 めぐみんを超えるためにはレベル下げを行う必要があるだろう。ゆんゆんが鍛錬を申し出た期間は春までだが、最早知らない仲でもない。もしレベル下げをやりたいというのなら暇な時に手伝うが。

 

「わ、分かってます。流石に爆裂魔法が欲しいとまでは言いません。レベル下げもやりません。だからその、紅魔族の族長だけに伝えられている禁呪みたいなのじゃない、もう少し使いやすそうな別の必殺技を知っていたら教えてもらえたら嬉しいかな、なんて……」

「これは善意の忠告だがな、お前の考えるような都合のいい必殺技なんてものはまず存在しないと思ったほうがいいぞ」

 

 そんなゆんゆんの子供らしい、しかし切実な懇願を、蘇生明けでテーブルに突っ伏したままのベルディアが無慈悲に切って捨てた。

 うぼあーと声にならない声を出しながらだったが、一応は発言がマトモなあたり、電波と黄泉の国から帰ってきたようだ。

 

「というかあったら誰も苦労しない。簡単に覚えられて使いやすい超火力のスキルとか誰だって欲しいわそんなもん。俺だって欲しい。そして習得したら全力でぶん回す。くっそニホンジン共め、あいつ等マジでどこからともなくぽこぽこ湧いてきやがる……インチキ能力もインチキ装備も大概にしろ……」

 

 誰に向けるでもなく怨嗟の声をあげるベルディアに、ゆんゆんは心配そうにあなたを見つめてきた。しかしこれに関しては割といつもの事なので特に問題はない。先ほどは盛大にぶっ壊れていたが、いつも蘇生直後はメンタルが不安定なのだ。時間をおくか食事すれば治る。

 

「そんなわけだから、強いスキルが欲しかったらひたすらに努力しろ努力。具体的にはモンスターを狩ってレベルを上げ、スキルを使い続けて研磨しろ。お前は普通の奴より能力的に恵まれてる紅魔族なんだから、そこら辺は楽だろ……っていうかここまで散々説教っぽい事を言っといてなんだが、お前は普通に沢山努力してたな、すまん俺が無神経だった。……けどまあ、なんだ。ご主人に頼るのだけは止めておけマジで。俺みたいになりたくなかったらな……ウィズならそういう必殺技とか普通に知ってるだろうからそっちを頼れ……」

 

 長々と正論を言い終えたベルディアはいびきをかきはじめた。疲労で眠ってしまったようだ。

 半ば前後不覚の状態で喋っていたと思われるが、それでも毎日終末狩りでモンスターを狩り、死にながらスキルを使い続けているベルディアが言うと非常に説得力があった。

 

「えっと……つまり、どういう事なんでしょうか?」

 

 レベルを上げ、スキルを磨き、同じアークウィザードであるウィズの教授を受ける。

 そう、ゆんゆんが今までやってきた事を続けろというだけの話である。

 大技についてはエレメンタルナイトのあなたではなく、やはり同じアークウィザードのウィズに頼むべきだろう。

 魔法を扱う才だけではなく、新たに魔法を開発する才にも長けているウィズは独自に様々な魔法を開発している。それも誰に使うのか分からない高火力なものばかりを。

 愛弟子であるゆんゆんの頼みであれば喜んで聞いてくれるはずだ。

 

 

 

「必殺技……つまり爆裂魔法のような切り札の事ですよね? ゆんゆんさんのレベルはもう一人前の冒険者のそれですし、私が開発したスキルでよろしければ教えるのは構いませんよ。ゆんゆんさん、どの属性の魔法がいいとかご希望はありますか?」

「じゃ、じゃあ雷でお願いします……」

「分かりました。ゆんゆんさんにぴったりの魔法を探しておきますね」

 

 結果、ゆんゆんの師匠は愛弟子の懇願を快く受け入れてあげる事になった。

 お玉で鍋をかき回しながら優しく笑うぽわぽわりっちぃはとてもそうは見えないが、それでも彼女は誰もが認める凄腕のアークウィザードだ。きっとゆんゆんが満足する大魔法を伝授してくれる事だろう。

 

 

「……こうして見ると、やっぱりあの仮説は間違っていないようですね。つまり私もいつかは……」

 

 

 その微笑ましい光景を見つめていためぐみんは何を思ったのかウィズ、女神ウォルバク、ゆんゆんを見つめ、やがて最後に自分の胸を見下ろしてぐっとガッツポーズを決めた。

 

 先ほどあなたも思ったように、奇しくもこの場に集った四人は四人とも腕利きのアークウィザードだ。リッチー、女神、紅魔族二名という面子であるが。

 四人の魔女。ウィッチーズ。あなたの脳裏にSGGHウィッチーズという言葉が過ぎる。

 

 

 

 Superbなウィズ。

 Greatなウォルバク。

 Goodなゆんゆん。

 Hopelessなめぐみん。

 

 四人揃ってSGGHウィッチーズ。

 

 

 

 別にウィズの何がSuperbでめぐみんの何がHopelessと具体的に言及するつもりは無いが、あなたから見てその程度には差があった。

 

 ちなみにどうでもいい話だが、この世界には大魔法使いになれば巨乳になるという説が存在する。

 魔力の循環が活発な事が血行を良くして発育を促進させるのだとか。なので紅魔族の大人の女性には巨乳が多い。

 確かにウィズも女神ウォルバクもゆんゆんもその力量に相応のスタイルの持ち主であるし、以前あなたが王都で知り合った、アークウィザードのレインも中々のスタイルの持ち主であった。

 

 ここに約一名その例に当て嵌らない存在がいるわけだが、実際にどうあれ希望を持つ事は素晴らしい事である。例えその先に絶望の未来が待っているとしても。

 あなたは慈愛と温かさに満ちたどこまでも優しい瞳で、爆裂魔法を操る紅魔族随一の天才アークウィザードの平らと呼んで差し支えない、とても慎ましやかな胸部を見つめた。

 

「――――そういう目をしましたっ!!」

 

 何故か突然激昂しためぐみんが襲い掛かってきて、あなたの鳩尾をグーでぶん殴った。

 彼女の細腕も相まってダメージは皆無だが、頭のおかしい爆裂娘は理不尽すぎて困りものである。暴れ牛か何かだろうか。


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