このすば*Elona   作:hasebe

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第43話 それでもいつか必ず旅は終わる

「……というわけでゆんゆんさん、私達と一緒に温泉に行きましょう!」

「と、というわけで、っていきなり言われましても……どういう経緯でそうなったんですか?」

 

 スリープタッチから目覚めた途端、有無を言わせぬ勢いで両の肩を掴んできたウィズに困惑したのか、視線をあちこちに彷徨わせるゆんゆん。

 ゆんゆん本人は気付いていないようだが、今の彼女は非常に疲弊しているのだ。主に心が。

 具体的には養殖の記憶が飛ぶくらいには疲れていて、若干だが闇堕ちもしかかっている。心なしか狂気度も上がっているように見受けられる。

 これくらいなら全然大丈夫だろうと今の自分を基準にして、力量はともかくメンタルは駆け出しに毛が生えた程度のゆんゆんに課してしまった作業という名の殺戮行為の結果がこれだ。

 

 ほんの少しだけ反省したあなたはこの機会に休養を取らせる、という体での慰安旅行である。

 

 しかし下手に突っつくと簡単に闇堕ちルートに全力でダイブしそうなので、ゆんゆんの壊れかけたメンタル面については触れず、疑問に思う気持ちはもっともだが、ドリスに行くのは決定事項なのでドラゴンにでも噛まれたと思って諦めてほしいとあなたは気軽に告げた。

 

 何故かゆんゆんが頭を抱えた。

 

「ドラゴンに噛まれるのってどう考えても即死ですよね!?」

「いや、意外にそうでもないぞ」

「えっ」

「確かに死ぬほど痛いが、装備さえちゃんとしていれば頭を齧られても一口で即死するほどではなかったりする」

「えっ!?」

「まあゴリゴリとかバリバリとか聞こえてくるんだけどな。時々夢の中とか幻聴でも聞こえてくるから困る」

「聞きたくありません聞きたくありません聞きたくありません! 私温泉でどうなっちゃうの!?」

「ベル……ベアさん……」

「いや、つい。……正直すまんかった」

 

 あなたとしても身に覚えのありすぎる、ノースティリスではあるあると笑い話になる、しかしこの世界の人間に話せばドン引きされる事請け合いのベルディアのグロ話をあうあうあーと耳を塞いでシャットアウトするゆんゆんは早くも泣きが入っている。

 レベルが上がってもメンタルはそうそう強靭にはならないという事がよく分かる。やはり何度か死ぬほどの地獄に叩き込まなければ、精神面での劇的な成長は見込めない。

 

 一人納得したあなたはレベル36ならドラゴンとも普通に戦える事、そして休養も強くなるためには必要だとそれらしい事を言ってみた。

 

「そ、それはそうかもしれませんけど……」

「そうですよ、ゆんゆんさん。今回の件は今まで頑張ってきたゆんゆんさんに友達が温泉旅行を誘ってるんだと思ってくだされば……」

「お、()()()()()()()()()……!? 行きます! 私絶対行きます!!」

 

 ウィズの発した友達という対ゆんゆん専用の必殺ワード。案の定ぼっちを拗らせたゆんゆんはこれまでの話を全てぶっ飛ばす勢いで瞳を輝かせて食いついてきた。最初からこうしておけばよかった。

 しかしウィズに自覚は無いのだろうが、地味にえげつない。

 そして幾ら闇堕ちしかけても、ゆんゆんがチョロすぎるのは変わらないらしい。

 休養が大事だというのは嘘ではない。ベルディアも八日に一度は休養をとっているのだ。

 

「改めて考えると俺の休みって少なすぎだろ……もう慣れたが慣れたくなかったぞ。こんなの禿げるわ。主にストレスで」

 

 ゆんゆん以上の効率で強くなっているペットが小声で贅沢な文句を言っているようだが、慣れたのなら何も問題は無いので黙殺した。

 

 

 

 

 

 

 四人で旅行の日程を話し合う。

 といっても所詮は慰安旅行なので、あまり大袈裟な話にはならない。

 

「差し当たっては、ドリスに着いてからは三泊四日辺りでいいですかね? 行きはドリス行きの馬車、帰りはテレポートを使うとして……ゆんゆんさんは予定が入ってたりしますか?」

「何も入ってないので大丈夫です! 明日からでも行けますよ!」

 

 興奮冷めやらぬといった様子のゆんゆんだが、彼女からしてみれば今回のこれは友人と旅行に行く一大イベントである。

 このテンションの高さはさもあらんといった所だろうか。

 

 ライバル兼友人のめぐみんについてだが、一応修行の一環という事で呼ぶのは止めておく。

 めぐみんを呼ぶと女神アクア一行が同行する可能性もあり、ゆんゆんと一緒に湯治に行くベルディアの心労が増えてしまう。

 湯治中にゆんゆんがどんなタイミングで壊れるか分からないという理由もある。

 ガンバリマスと口走る機械と化したライバルを見せるのは、口では色々辛辣な事を言いながらも内心ではゆんゆんを大事に想っているめぐみんの精神衛生上、非常によろしくないだろう。

 

 

 

「実は私もドリスに行くのって初めてなんですよね。だからすっごく今回の機会が楽しみだったりするんです」

 

 話し合いの最中、ドリスに行くのは初めてだと楽しそうに言ったゆんゆんにウィズはこう返した。

 

「そうだったんですか?」

「はい、ドリスは魔王軍も手を出さない平和な地域にありますから。現役時代は……ちょっと行く機会が無かったんですよね……」

 

 意外な事実である。

 ソロでぼっちで駆け出しのゆんゆんはともかく、歴戦かつ大のお風呂好きであるウィズが温泉街として有名なドリスに赴いた事が無いとは。

 ウィズ曰く、現役時代は生き急ぐように魔王軍を求めて各地を転戦していたらしいのだが、何故引退後に行かなかったのだろうか。

 

「行きたいのは山々だったんですが、……その、お金がですね……」

 

 気まずそうに言葉を濁すウィズに、あなたは返す言葉を持っていない。

 あなたが介入するまでは、借金漬けで限界の生活を送っていたウィズに旅費を捻出出来る筈も無い。

 少し考えてみればすぐに分かる程度の話だった。

 

「で、でもこれからは違いますよ? 何たってお金がありますし、今回を機にテレポートの移動先にドリスを登録する予定ですからね! 好きな時にいつでも温泉に行けるんです!」

 

 ドヤ顔でえへん、と胸を張るウィズは非常に微笑ましいのだが、どこか登録先を潰す予定なのだろうか。

 

「いいえ、私、デストロイヤーの時からテレポートの熟練度を幾つか上げてますから」

 

 あなたの疑問にウィズはあっさりとそう答えた。

 そんな機会があっただろうか。

 

「毎日寝る前に使ってるんです。私の部屋に登録して、私の部屋に飛ぶっていう作業を繰り返してます」

 

 これでいつでもあなたのお役に立てますよ、いつでも足に使ってくださいね。

 そう言ってニコニコと無邪気に笑うウィズはあなたからしてみればとても眩しく、そして尊い。

 

「それに最近は私が独自に開発した魔法も増やしてるんですよ? 特にオススメなのが、炎と氷と雷の複合属性な攻撃魔法です。名前はオーバーキルっていうんですけど……」

 

 眩しすぎて思わず目を逸らしてしまうほどである。

 今の所そんな機会に恵まれていないだけに、あなたはウィズの甲斐甲斐しい献身が非常に心苦しかったのだ。

 あなたが一人でも達成可能である、適当な依頼に彼女を連れ出した場合はアッサリとウィズに勘付かれて逆に気まずい思いをさせてしまうだろう。

 玄武や冬将軍のような、ウィズに助力を頼むべきであるレベルの強敵を探した方がいいのだろうか。

 しかし、あれほどの大物がどれくらいこの世界に存在しているのかという疑問もある。

 だがウィズといいバニルといい、アクセルだけで複数いる辺り、意外といるのかもしれない。

 

 最も近場に住む冬将軍には神器の恩があるので、手を出すのは気が引ける。

 なので冬将軍以外の精霊狩りでも始めるべきだろうか。

 ウィズが精霊を信仰している者でなければいいのだが。

 

「……ベアさん、苦労されてるんですね」

「してる。滅茶苦茶してる。……やっぱり分かるか?」

「なんとなく。だってベアさん、()()()()と一緒に住んでるんですよね?」

「本当にな。友人って何だよって話だぞ。……だが、かくいうお前も()()()()()の中にあってマトモな感性を持ってしまったせいで紅魔族の中で浮いているらしいと話に聞いているが?」

「私は、その、もう慣れましたから」

「お前も大変なんだな……ウィズが焼いたクッキー食うか? 美味いぞ」

「いただきます……あ、本当に美味しい」

 

 ゆんゆんが話し合いに加わらず、一人で菓子を齧っていたベルディアに近づいてコソコソと何かを言い合っていたが、頭を悩ませる今のあなたにはどうでもいい事だった。

 

「私だけじゃなくて、彼と一緒に作ったクッキーですよ?」

「え、何だって? ちょっと何言ってるのか分からない。言葉が聞こえない」

「ベアさん……」

 

 ウィズの訂正に一瞬でどろりと濁らせた瞳のベルディアに同情しながらも、軽く引くゆんゆん。

 今日もあなたの家は呆れるくらいに平和だった。

 

 

 

 

 

 

 話し合いを終えたあなた達。

 ウィズはゆんゆんを連れて旅行の準備の為の買い物に出かけ、あなたはお隣さんの家に足を運んでいた。

 

「どうしたお得意様。お得意様が注文した、対神聖属性用の魔道具はまだ届いておらんぞ」

 

 扉を開けてあなたを出迎えたのは、ウィズの友人であるバニルだ。

 あなたの自宅の隣家には現在、見通す悪魔が誰憚る事無く、堂々と住み着いている。正体を隠しているわけでも無い。

 ベルディア、ウィズ、バニル。

 冬になってから自宅周辺の総戦力および魔窟度が急激に上昇している気がするが、恐らくあなたの気のせいだろう。

 

 既に魔王城の結界維持を担当していないとはいえ、元魔王軍幹部にして強大な力を持つ悪魔が堂々と人間の街に住み着いて問題無いのか、という当然の疑問についてだが。

 冒険者ギルドの上層部は要観察で、という事で彼の存在を警戒しつつも、放置するに留めているというのが現状だ。

 魔王軍幹部にこの極めて異例の措置は、バニルが極めて強大ながら人間を殺害しない、言ってしまえば危険度の低い悪魔故の対処である。

 相手をイラつかせる事にかけては右に出る者がいないと多くの者に認識されているバニルだが、それ以上の害は無い。その証拠に討伐の際にも冒険者に死者は出なかった。

 更に彼の住処の隣には頭のおかしいエレメンタルナイト……もとい、アクセルのエースと呼ばれるあなたと高名な冒険者だったウィズが住んでいるので、いざという時はなんとかしてくれるだろうという目論見だ。

 少なくともこの件でギルドの上層部に呼び出しを食らったあなたはそう聞いている。形式上では魔王軍幹部のバニルは討伐された事になっているとも。

 

 バニルほどの力を持たず、更に戦場で数多の人間を殺してきたベルディアではこうはいかないだろう。

 

 それにしても、実に丸投げされた気分である。

 あなたとバニルが本気で戦えば、決着がつく頃にはアクセルは余裕で更地になるだろうが、それはいいのだろうか。きっといいのだろう。そういう事にしておく。

 まあ、彼とあなたが戦う事は互いの利害の関係で無いだろうが。剥製も落とさないし。

 

 ベルディアが「ご主人がラグナロクを持って暴れるだけで国中が更地になりそう」とか言っていたが、それも気のせいだ。面倒なので広域を整地するなら核は使わせてほしい。

 

 ともあれ今日はウィズ用の装備の催促に来たわけでは無い。

 

「ほう、温泉旅行とな?」

 

 あなたの話を聞いて、バニルはニヤリ、と笑った。

 悪魔に相応しい、どこかの緑髪のエレアを髣髴とさせる不吉な笑い方だ。

 

「ポンコツリッチーにネタ種族に首無し中年。お得意様だけでなく、全員が中々見所のある面子であるな」

 

 愉悦的な意味で。

 バニルは言外にそんな意図を含ませたようにも思えた。

 

「……ふむ。我輩としても愉しむ為に同行しても良かったのだが、我輩は春先まで生憎とやる事が山積みなのでな。旅行はお得意様達だけで楽しんでくるがよい」

 

 あなたはウィズと共に暫く留守にするのでその報告に来ただけなのだが、予定がなければバニルは付いてくるつもりだったのだろうか。

 あなたとしては全く構わないのだが、愉快犯としか言いようが無いバニルの相手をするのはゆんゆんでは若干荷が重いだろう。振り回されて疲労困憊の内に終わるのが目に見えている。ベルディアもだ。

 

「折角なのでお得意様には一つ耳寄りな情報を教えてやろう。あの店主は無駄に着痩せするタイプでな……」

 

 ウィズが着痩せするのは知っている。伊達に数ヶ月同居しているわけではないのだ。

 しかしバニルはそんな話をしてウィズをどうしてほしいというのだろうか。ノースティリスの友人が相手であれば全力でセクハラするのだが。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなであっという間に翌日。

 アクセルを発つ日がやってきた。

 天気は快晴で幸先がいい。季節柄若干肌寒いのは避けられないが、それでも絶好の行楽日和である。

 

「おはようございます……」

 

 朝一番、ゆんゆんがやけに大量の荷物を持ってあなたの家を訪ねてきた。

 一体何日外泊するつもりなのか、と問いかけたくなる量の荷物だがそれについてはいい。

 旅行に行く女性の荷物が多いというのは古今東西、異世界でも変わりないのだから。

 

 しかしゆんゆんの目の下には隈が出来てしまっている。

 赤い瞳に覇気は無く、表情もどんよりと曇っていた。

 明らかに睡眠不足の症状である。

 

「おい、足元がふらついてるぞ」

「ゆんゆんさん、もしかして寝てないんですか?」

「な、なんかベッドで横になって目を瞑っても全然寝付けなくって……徹夜しちゃいました……旅行が楽しみすぎて……」

 

 えへへ、と頭を掻いて儚げに笑うゆんゆんだが、徹夜したとなると前日の気絶とスリープタッチを合わせても、二日で三時間も寝ていない事になる。

 旅行が楽しみで眠れないなどまるで子供のようだが、実際ゆんゆんは十三歳の子供だった。

 

「……少し休んでから行きますか?」

「いえ、お気遣いなく! 私は大丈夫ですから行きましょう!」

 

 心配そうなウィズに心配をかけまいと気張り、ふらつきながらも声を張り上げるゆんゆん。

 一目で空元気だと分かる有様だ。

 

「ご主人がやらかした、明らかに度の過ぎたパワーレベリングのせいじゃないのか?」

 

 こっそりとベルディアが耳打ちしてきた。

 確かに幾ら彼女がぼっちを拗らせているといっても、一睡も出来ないというのは少しおかしい。

 本人は気付いていないようだが、もしかしたら養殖での精神の許容限界を超えた殺戮行為が尾を引いているのかもしれない。もしそうなら自覚が無いだけにかなり厄介だが、さて。

 

「…………」

 

 ウィズがあなたに視線でどうするか問いかけてきた。

 本人もこう言っている事だし、馬車の中で寝かせておけば良いだろうと肩を竦める。

 どうせドリスはここからすぐに着く距離ではないのだ。

 いざとなったらまた気絶させるなりスキルで無理矢理眠らせるなりすればいい。

 

 

 

 

 

 

 ドリス行きの隊商の中の馬車の一つを貸し切り、馬車に揺られること数時間。

 既にアクセルは影も形も見えない。

 

 隊商には冬季ゆえ数が少ないとはいえあなた達以外の冒険者も雇われており、あなた達のように金を払うのではなく護衛の依頼を受けた者として付いてきている。

 しかしあなた達はあくまでも客として今回の旅に参加している。

 

 有事の際、本当にいよいよ死人が出るという場面では働くつもりだが、それ以外では他の冒険者達に護衛を任せてゆっくり骨休めする予定だ。

 あなた達は慰安で来ているのだ。わざわざ血生臭い行為に手を染める必要は無い。

 実際、あなたとしては護衛として雇われてもよかったのだが、ウィズが断固として主張するのでこうなった。恐らくはゆんゆんの為を思っての事だろう。

 

 そのゆんゆんは馬車に揺られると早々に眠りこけてしまった。今も馬車の壁に寄りかかって暖かい毛布に包まれながら静かな寝息を立てている。今の所は魘されるなどの不穏な兆候は見せていない。

 あなたの隣の席に座るベルディアも、暫くは窓の外を流れる景色を眺め続けていたのだが、やがてそれにも飽きてしまったのか今は腕を組んで瞳を閉じている。彼の膝の上には白猫が乗っており、毛玉のように丸まって眠っている。

 仲良く眠っている姿はどこか微笑ましい。

 

 そして、あなたの対面に座っているウィズは……

 

「…………」

 

 あなたと共同で作り上げた、ノースティリスのスキルの学習書の写しを黙々と読み耽っている。

 最近はポーション調合の為に錬金術の学習書を読んでいたのだが、今ウィズが読んでいるのはどうやら宝石細工の学習書なようだ。

 

 やけに集中しているウィズを見つめながらあなたは考える。

 思えばこうして友人と旅行に行くのは久しぶりだ、と。

 

 各々のペットを連れての大所帯での旅行はノースティリスでも時折やっていた。

 ノースティリスにはドリスのような温泉の街もあり、友人と訪れたのは一度や二度では無い。

 

 まあ、些細な切っ掛けであなたや友人が温泉街を更地にした回数も一度や二度では利かないのだが。

 理由については覗きのようなセクハラや、酔った勢い、普通に喧嘩と色々だ。実にいつもの事すぎて一々考えていられない。

 

 そう考えてみれば、あなたとウィズの間にはノースティリスの友人達との間には無い、一種の壁があると言えなくもない。遠慮があるとも言える。

 ウィズはあなたや彼等と違って特に理由も無く、強いて言えばただの暇潰しで本気の殺し合いを行うようなメンタリティを持っていないので、それも当然といえば当然なのだが。

 流石のあなたであっても、つい一分前まで談笑していたと思ったら「暇だし喧嘩しようぜ! 死んだら負けな!」みたいな紙のようにペラッペラな、極めて薄くて軽いノリで命のやり取りを始める相手に遠慮などするわけが無い。

 

 随一の良識派であるエヘカトルの信者も、マニ信者が相手になると途端に毒を吐きまくるし混沌も撒き散らす。マニ信者も罵倒とエーテルをぶちまけるのでおあいこだ。

 

 この世界は平和で大変素晴らしいのだが、あの殺伐としたノリが若干恋しいのも事実だ。

 だが不思議な事に、ウィズとそういう行為をしようとはあなたはどうしても思えなかった。

 無論、ウィズがそれ(殺し合い)を望むのならば、彼女の友人として喜んで受ける所存であるが。

 

 彼女とであれば、きっと勝っても負けても楽しく喧嘩(殺し合い)が出来るだろう。

 今の所死ぬ予定は立てていないが、自身が本当に終わる時があるとするのならば、それは友人か信仰する神の手であってほしいものだ。あなたはそう思っている。

 大切な者に看取られながら逝く。この上ない最期だろう。

 

「…………?」

 

 ふと、顔を上げたウィズと視線が交錯した。

 じっと彼女を見つめていたのを勘付かれてしまったようだ。

 あなたが誤魔化すように笑うと、彼女も釣られてふんわりと微笑んだ。

 

 ガタゴトと、時に大きく揺られながらも旅は続く。

 

 (人生)の終点はまだ、見えない。


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