このすば*Elona   作:hasebe

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第19話 幽霊屋敷

 秋の終わりのある日の昼下がり。

 あなたはアクセルの街の郊外に佇む屋敷に訪れていた。

 

 屋敷はあなたが現在住んでいる家の十倍以上というかなりの大きさを誇っており、ノースティリスで言うならばセレブ邸だろう。

 この屋敷は元々貴族の別荘だったらしいのだが今は誰も住んでいない。

 

 ここ最近のアクセルの街では空き家に悪霊が住み着くという怪事件が多発しており、住人の頭を悩ませている。

 アンデッド絡みの件に強いと認知されているウィズもあちこち引っ張り出されているようで、それなりに多忙な日々を送っているらしい。

 

 そしてあなたが訪れたこの屋敷は特に多くの悪霊が出る場所であり、実際に大家側から討伐依頼が出されているものの何度悪霊を退治してもすぐに住み着かれてしまう曰く付きの物件である。

 

 悪霊が出没する原因を探して断つのが最善なのだが、それは他の冒険者が探っている。あなたの出る幕ではないし他者の受注した依頼に横から手を出すべきではない。

 それにあなたは悪霊だの亡霊だのといった存在は今までに何度も討伐してきている。

 プリーストが浄化の魔法を使っても駄目だというのなら直接ぶっ飛ばせばいい。

 再度湧いたとしても、何度でも何度でも。全ての悪霊がいなくなるまで。

 

 ただでさえ忙しいウィズの手を煩わせるまでも無い。いつだって最後に物を言うのは力押しだ。この手に限る。

 

 あなたは特に気負うことも無く悪霊屋敷の中に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中は長く人が住んでいないというにも関わらず定期的に手入れはされていたようで、若干埃っぽいものの老朽化や痛みといったものは見られない。

 用意のいい事にどの部屋も家具は一式揃っているので、もし住もうと思えば軽く掃除をしただけでこのまま住んでしまえるだろう。

 この依頼が終わった後に購入する事も考えたがあなたは首を横に振った。流石にベルディアと二人で住むにはこの屋敷は広すぎである。

 掃除の手間だって馬鹿にならないし、殆どの部屋は物置と化してしまう。

 

 やはり今の家で十分だろうと結論を付けて探索を続けていると、あなたの耳に何者かの声が聞こえてきた。

 どうやら玄関の方から聞こえてきているようだ。

 こんな日の高い時間から悪霊が出たのだろうか。いい度胸であるとあなたは玄関の方に足を向けた。

 

「…………うわぁ」

 

 玄関に足を運んだあなたの顔を見た瞬間にそんな声を出したのは頭のおかしい爆裂娘ことめぐみんである。

 屋敷の玄関にいたのは悪霊ではなく、カズマ少年のパーティーの四人だった。

 最後尾のダクネスが真っ赤な顔であなたを凝視している。誰も気付いていないようなのであなたは黙っておく事にした。

 

 それはそれとして、彼らも屋敷の除霊依頼を受けたのだろうか。ギルド側から合同でやれという話は聞かされていないし、事後承諾で増援を寄越されると報酬で揉めるので止めてほしいのだが。

 後でギルドに苦情を入れておくべきだろう。

 

「俺達はこの屋敷を買ったんだ。大家さんが除霊してくれるなら格安で売ってくれるって言うからさ」

 

 あんまり無い金を全財産注ぎ込んだけど、と続けるカズマ少年。どうやらギルド経由でここに来たわけではないらしい。

 悪霊騒ぎがあったとはいえこの屋敷は駆け出しの彼らが買えるほどに安い物件だったと知ってあなたは目を丸くした。

 自分達が知らないだけでこの屋敷は事故物件として有名なのだろうか。長く無人だったようだし、死体が壁や床に塗り込められていたりするのかもしれない。

 

「あ、あんまり怖い事言わないでくれよ……本当にありそうな気がしてきた」

「残念ながら頭のおかしいアクセルのエースがいる時点で碌な物件じゃないのが確定しましたからね。いかなる理由でこの屋敷にいたのかは分かりませんが、この分だとどんなバケモノが出てきてもおかしくはありませんよ」

 

 めぐみんが緊張を滲ませているが、あなたがここに来たのはただの悪霊の討伐依頼である。

 

「アクセルのエースが受ける悪霊の討伐依頼……これはリッチーとかデュラハンが出るかもしれませんね……」

「駆け出し冒険者の街に伝説のアンデッドが何体もいてたまるか! っていうかお前のこの人への悪い意味での信頼は何なの?」

「私はアクセルのエースを目指すもの。越えるべき壁にして運命の宿敵(ライバル)と仲良くなんか出来るわけないじゃないですか」

 

 めぐみんはそう言うが、若干の辛辣さもあなたの力量への信頼の裏返しと思えば可愛いものである。

 ちなみにめぐみんが最近アクセルの冒険者からつけられているあだなはアクセルの喧嘩娘とかアクセルの暴れ牛とか頭のおかしい爆裂娘だ。

 めぐみんのエースへの道は遠い。どうでもいい話だが三番目はあなたが自分で流したものである。

 

「……ちょっと不安になってきたけど、それこそ本当にリッチーみたいなのが出てこない限り大丈夫だろ。こっちにはアークプリーストのアクアにアクセルのエースのエレメンタルナイトがいるんだからさ」

「うぇっ? え、ええ、そうね! ここは私の家になるんだもの。全力で頑張るわ!!」

 

 水を向けられた女神アクアはあなたを見てぎこちない笑みを浮かべた。

 どうにも女神アクアには墓場の一件以来苦手意識を持たれてしまっているようで、今も彼女はそれとなくあなたから距離をとっている。

 あなたとしては明確な殺意を持ってウィズの命を脅かさない限りは手を出す気は全く無いのだが、女神の大敵であるリッチーなウィズと友人である以上こればかりは仕方無いだろう。

 

「共同戦線は構いませんが、くれぐれも屋敷を破壊しないでくださいね。ここ私の家になるんですから」

 

 いざその時となったら悪霊ごと屋敷を吹き飛ばすのはめぐみんではないだろうか。

 確かに一撃の威力は認めるが、才能や努力を爆裂魔法に全振りという小回りの利かなさである。

 間違っても屋内で戦闘させてはいけない人種だ。絶対にダンジョンに連れて行きたくない。

 

「にゃ、にゃにおう!? あなたは私が自分の家を吹き飛ばすような間抜けだと言っているんですか、いいだろうその喧嘩買ってやろうじゃないか!! 明日の朝日が拝めるとは思わないことですね!!」

「おいお前ら。さっきから私の家って言ってるがここ俺の家だからな? お前達はあくまで俺のついでに住むだけで、この屋敷は俺が全財産はたいて買ったものだからな?」

 

 あなたがぽかぽかと殴りかかってきためぐみんを適当にあやしているとずっと黙ったままだったダクネスの目がいよいよ怪しくなってきた。

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

「ダクネス、あなたさっきからエレメンタルナイトの人見てるみたいだけどどうしたの? やけに息も荒いし。ねえってば」

 

 女神アクアがダクネスの肩を叩くと彼女はびくんと痙攣して甲高い嬌声をあげる。

 激しく身を捩じらせているダクネスが発情しているのは誰の目にも明らかだった。

 

「んくぅっ!」

「お、おいダクネス。お前まさか……」

 

 ダクネスはあなたに詰め寄ってきたかと思うと力強く腕を掴んできた。

 瞳は情欲に濡れており怜悧な美貌が台無しである。

 

「分かる、分かるぞ! あなたは今まさに誰かを調教していて、それはもう言葉に出来ないほど酷い目に遭わせているんだろう!? 私の勘がかつてない勢いで叫んでいる! この感覚はあのリッチーではなくきっと私のような騎士だな。……いいなあ、凄く羨ましいなあ……一日でいいから私と代わってくれないだろうか!!」

「今すぐその妄想を止めろこのオタンコナスッ! 何もされてないのに盛るとかお前の頭の中はピンク色通り越してどどめ色か! 見ろ、エレメンタルナイトの人もお前にドン引きしてるじゃねえかほんとごめんなさい!!」

 

 ダクネスの頭を勢いよく叩いて少年が謝罪してくるが、あなたはドン引きしていたわけではなくダクネスの人智を超えた被虐への嗅覚に戦慄しただけである。

 ベルディアとダクネスが顔を合わせたらどうなってしまうのだろうか。

 

《…………》

 

 不意に背中に何者かの視線を感じたあなたは勢いよく振り返る。

 しかしそこには長い廊下が続くばかりで誰もいない。

 

 女神アクアに視線を向けるが彼女は首を傾げるばかり。

 悪霊かと思ったのだがどうやら気のせいだったようだ。

 

「な、なんですか。どうして今後ろを振り返ったんですか? そういう笑えない冗談は止めてくださいよ」

 

 悪態をつきながらもあなたを盾にしようと背中に隠れるめぐみんは背丈も相まってまるで素直になれない反抗期の妹のようでどこか微笑ましい。

 勿論ノースティリスで有名な緑色の髪をした妹ではなく、世間一般で認識されている妹という意味である。

 あなたがめぐみんにそんな気持ちを抱いた瞬間、四次元ポケットの中からとても恐ろしい電波が届いた。

 

 

 

――地の底よりも深い場所から響く、この世全ての感情を煮詰めたかのような泣き声はさながら呪詛の如く。

 

――あらゆる生物の極北に立ち、あらゆる生命に干渉しながらもあらゆる干渉を撥ね退け侵食するもの。

 

――新しい生命を産み続け増殖を続けるもの。人々の想いに紡がれて生まれる幻想。

 

――知るがよい。忌むべきその名は“妹”なり。

 

 

 

《お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!!》

「ぴぎゃああああああああああああああああああああああ!?」

 

 めぐみんが悲鳴をあげてあなたの背中に抱き付いてきた。

 可哀想な事に今の声が聞こえてしまったようだ。

 あなたに近かったからか、あるいはあなたがめぐみんを妹のようだと思ってしまったからだろうか。

 

「な、なんだよめぐみん。びっくりさせんなよ」

「かかかっかかっかかかかカズマには今の声が聞こえなかったんですか!?」

「……なんか聞こえたか?」

 

 ダクネスも女神アクアも首を横に振って否定した。

 

「私には聞こえたんです!! 確かに女の子の声が私に殺してやるって言ってたんです!! お兄ちゃんどいてって!!」

「おい、もう少し今のお兄ちゃんって所を詳しく頼む!」

「そんな事よりもう帰りましょうカズマ! こんな所にいたら命が幾つあっても足りません! 後の事は全部この頭のおかしいのに任せてしまえばいいんです!!」

 

 ぶるぶるとあなたの背中で小動物のように震えるめぐみんは既に軽く泣きが入っている。

 めぐみんは脳内に電波が届くという経験をした事が無かったらしい。

 ノースティリスでは割と日常茶飯事なのだが。

 

「……どうなんだよアクア。めぐみんの言うような奴に何か心当たりとか悪霊の反応は?」

「全然無いわね。そもそも悪霊が活動するのって夜とかダンジョンの中なのよ。いくら屋敷の中だからってこんな時間からハッスルなんかしないわ」

「だよなあ。やっぱりめぐみんの気のせいじゃないか? お前ずっと緊張してたし」

「そんな事はありません! ねえ、貴方には今の声が聞こえてましたよね!?」

 

 めぐみんが必死に縋り付いて来るが、あなたはまるで身内に死者が出たかのような沈痛な面持ちでめぐみんを見つめた。

 せめて嘘はつかないように否定だけはしないでおいた。

 

「どうしてそんな可哀想な人を見る目で私を見るんですか!?」

 

 自分の持っているある意味呪いの道具のせいですとは口が裂けても言えない。

 あなたは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。めぐみんにはどうか強く生きてほしい。

 

 

 

 

 

 

 めぐみんが半泣きで暴れて爆裂魔法をぶっぱなそうとするという冷や汗物のハプニングこそあったものの、それ以外は特に何も起きる事無く時間が過ぎ、悪霊の出る時間である夜更けになった。

 現在あなたは一人で屋敷の中を探索中なのだが悪霊には今の所お目にかかれていない。

 他のメンバーは就寝中で女神アクアは秘蔵の酒を悪霊に飲まれたといってあなたとは別行動中である。

 

《…………》

 

 そして、数分ほど前からずっと何者かがあなたを見つめている。

 振り返ってもそこには誰もいない。しかしやはり昼間の気配は気のせいではなかったようだ。

 気配と視線の正体を探る為に廊下の角に近づいた所であなたは突然走り出す。背後から焦ったような気配がした。

 角を曲がって少しのところであなたは足を止めて後ろを振り返る。

 

 果たして、角の向こうで出待ちしていたあなたに突っ込んできたのは幽霊と思わしき、体が若干透けた少女だった。

 出待ちしていたあなたとあなたに追いついた少女の目が合い、数秒間互いの視線が交差する。

 

《……?》

 

 少女は首を傾げてあなたの前から横に移動し、あなたの視線は少女を追う。

 

《…………!?》

 

 少女はあなたが自分を見ていると気付いたようで、驚いたように自分の顔を指差した。

 まるで自分の姿が見えているのか、とでも言うかのように。

 あなたが頷くと少女は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねてあなたに飛びついてきた。

 

 幽霊の少女はあなたの肩の上を占領し、何かを催促するようにニコニコと屈託無く笑いながらあなたを見下ろしている。

 どうにも悪霊の類には見えない。除霊してしまって構わないのだろうか。

 まるで農村の少女を想起させる人懐っこさにどうしたものかと頭を悩ませたあなたは、数時間前に女神アクアが霊視して語っていた話の内容を思い出す。

 

 女神アクア曰く、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとその子供、つまり隠し子が幽閉されていたのだという。

 元々身体の弱かった貴族の男はほどなくして病死。

 母親のメイドは娘を残して蒸発。

 そして屋敷に残された娘は幼くして父親と同じ病にかかって一人寂しく亡くなってしまったのだとか。

 

 その少女の名はアンナ・フィランテ・エステロイド。

 

 確認の意を込めて名を呼ぶと幽霊の少女、アンナは嬉しそうにコクコクと頷いた。どうやらこの少女が件の幽霊だったようだ。

 女神アクアの冗談のような精度の霊視に流石は女神であるとあなたは舌を巻く。

 霊視ではアンナは悪霊ではなく、あなた達に危害を加えるような存在ではないとなっていた。

 そしてお酒を飲むような大人っぽい事に興味があり、ぬいぐるみや人形、冒険者の冒険話を聞くのが好きだとも。

 

 外の世界を知らずに亡くなったアンナを不憫に思ったあなたは今までのこの世界での経験を話す事にした。

 幸いにしてあなたは数時間話し続けても話のネタに事欠かない程度にはこの世界で様々な経験をしている。

 身振り手振りを交えて時におもしろおかしい話を、時に手に汗握る話をアンナが飽きないように気を配りながら進めていく。

 キラキラと目を輝かせるアンナだったが、それも長くは続かなかった。

 あなたも話に夢中になって半ば忘れていたがここは現在幽霊屋敷である。

 

 

「アクアあああああああああああああああ!!! アクア様あああああああああああああああああ!!!」

 

 

 夜の静寂を切り裂く悲鳴にあなたがすわ何事かと構えればなんとカズマ少年が大量の人形に追いかけられているではないか。

 カズマ少年はそのままあなたに気付く事無く部屋の一つに駆け込んでしまった。あそこは確か女神アクアの部屋だった筈である。

 

 カズマ少年を取り逃がした人形達だが、すぐさまあなたに気付き一斉に襲い掛かってくる。

 悪霊の方から来てくれるというのならば話は早いとあなたは竜鱗の剣を抜く。

 人形ごと魂を破壊してしまえばそれで終わりだ。

 

《……!? ……!!》

 

 しかしそんなあなたの頭をアンナが必死な顔でぺしぺしと叩いてきた。どうやら壊すのは止めろと言っているようだ。

 そういえばアンナは人形が好きだった。この必死な様を見るに恐らく悪霊が乗り移った人形の群れはアンナが集めたものなのだろう。

 

 あなたの手持ちの手段には人形を破壊せずに悪霊を祓える手段は無い。

 もしもあなた一人だった場合は依頼達成の為に迷わず全ての人形を破壊していただろうが、幸いにして現在この屋敷には女神アクアという対アンデッドのスペシャリストが存在する。

 あなたは人形の破壊から捕獲に切り替える事にした。飛来するキャベツを捕まえるよりは遥かに気が楽だ。

 

 ちなみになんか虫みたいで気持ち悪いとはあなたに捕獲されて袋の中で蠢く無数の人形達を見て女神アクアが漏らした言葉であるが、それを聞いてアンナは憤慨していた。

 女神アクアは当然アンナを視認出来ていたが、あなたの頭の上で片足立ち……女神アクア曰く荒ぶる鷹のポーズを決めるアンナを生温かい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の夜明け前。

 全ての悪霊を除霊し終えたあなたはアンナに連れられて一人で屋敷の天井裏に侵入していた。

 

 天井裏はとても埃っぽかったがそれ以外に目を引くものは無い。

 ただ一つ、アンナに連れられた最奥に鎮座していた大きい黒い箱以外は。

 

 アンナのジェスチャーを見るに箱を開けろと言っているようだ。

 

 神器でも入っているのだろうか、と愚にもつかない事を考えながら箱を開けた瞬間、あなたはあまりの驚きに目を剥いた。

 なんと箱の中にはまるで人間の少女と見紛うような、長い桃色の髪をした極めて精巧な人形が入っていたのだ。

 

 身長は120センチほど。箱にはルゥルゥと刻まれているので恐らくはこの人形の名前なのだろう。アンナはこれをどうしてほしいのだろう。

 あなたがアンナに問いかけるとアンナはゆっくりと口の動きで“こわさなかった”“おともだち”“だいじにしてね”と言った。

 どうやらアンナはこの人形をプレゼントしてくれるつもりらしい。

 

 しかし本当に構わないのだろうか。

 人形に詳しくないあなたでもルゥルゥが職人の手によって作られた逸品だと分かるし、何よりこんな場所に隠していたという事はアンナにとっても大事な人形なように思えるのだが。

 

 だがアンナは少しだけ寂しそうに笑って、やはりあなたには聞こえない声で“ひとり”“かわいそう”と言った。

 

 女神アクア達に渡すという選択肢もあっただろうに、アンナはあなたを選んだのだ。

 あなたは大事にすると固く約束し、アンナからルゥルゥを譲り受ける事にした。

 

 しかしこれ程の品をタダ同然で受け取るのは心苦しいものがある。例え相手が幽霊だったとしてもだ。

 なのであなたはとっておきの冒険の話をする事にした。

 

 女神アクア達はまだ眠っているしここは皆の部屋から遠く離れた屋根裏部屋である。少しくらい秘密の話をしても大丈夫だろう。

 あなたはルゥルゥを箱の上に座らせ、あなたも床に座って息を吐いた。

 

《……?》

 

 ルゥルゥの隣に腰掛けて不思議そうに首を傾げるアンナに秘密の話……異世界の冒険の話をしようと告げる。

 

 顔をパアっと明るくして何度も何度も頷くアンナはどうやら異世界の冒険話に興味津々なようだ。

 元いた世界の話であれば、子供に話せないような血生臭い場面をカットしてもあなたの話題の泉が枯れる事は無い。

 

「…………」

 

 自分がノースティリスに降り立つ直前、クイーンセドナ号という船に乗っていた時の事を話し始めるあなたと異世界の冒険譚にワクワクと期待に目を輝かせるアンナ。

 そんなあなた達をルゥルゥはガラス玉の、しかし確かに意思を持った優しい目でしっかりと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 余談だが、悪霊騒ぎの原因は共同墓地に広域の神聖結界が張られていた事で墓場の霊が行き場を失ったからだったそうだ。

 つまり墓場の浄化をめんどくさがって横着した女神アクアが原因だった。

 女神アクア達は悪霊騒ぎのおかげで立派な屋敷を手に入れたわけで、知らなかったとはいえ酷いマッチポンプもあったものである。


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