このすば*Elona   作:hasebe

135 / 148
第132話 世界樹が奏でる交響曲

【世界樹】

 

 千年樹海の奥地に堂々とそびえ立つ、世界最大にして神聖不可侵の巨木。

 枝には黄金に輝く不朽の果実、頂上には天界への入り口が存在するとまことしやかに囁かれ、葉を口にすれば死者すらたちどころに蘇るという。

 

 だが過去世界樹まで辿り着き生還した探索者の中に枝葉の高さまで飛行、浮遊が可能な者は誰一人として存在せず、落下すれば死は免れない幹という名の断崖絶壁を登りきった者もいなかった。

 ゆえにいかなる強風ですらびくともせず、ただ十年に一度だけ一枚葉を落とすという世界樹の葉ですら、エリー草以上の幻、伝説と化しているのが実情だ。

 

 謎と神秘に満ち溢れた世界樹だが、歴代の探索者達によって唯一判明している事実は、竜を筆頭とした樹海に生きる者たちの殆どが不思議とこの神秘の樹に近寄ろうとしないという点だ。

 これもまた世界樹が神聖視される一因となっている。

 よもや頂上に存在するとされる天界、そこに住まう神々の威光が漏れ出ているとでもいうのだろうか。

 

 ――コウジロウ・イイダ著『未知なる楽園を魔境に求めて』より

 

 

 

 

 

 

 ~~ゆんゆんの旅日記・千年樹海編~~

 

 ★月П日(曇り)

 水。動植物が生きていく上で欠かせないもの。

 それはモンスターも同じであり、川や湖といった水場の近くを縄張りにしているモンスターは、周辺のモンスターと比較して明確に強くて危ない。

 こんなのは子供でも知っている常識だけど、竜の谷でもそれは同じだった。

 

 アルラウネの集落を発った私達は竜の河に戻り、そのまま世界樹を目指して北上した。

 そうしたら出るわ出るわのモンスター。

 今日だけで何回モンスターの襲撃に遭ったんだろう。ちょっと思い出せないくらい。

 

 全身から酸毒を帯びた槍のような大きさの棘を飛ばす鳥、目にも留まらぬ速さで動き氷炎雷と三属性の攻撃を使う獅子、闇の糸でアンデッドを操る巨大蜘蛛、他には燃えて増えて消えるクラーケンまで出てきた。焼きイカのいい匂いがしたし食べたら経験値がいっぱい詰まっていて美味しかった。

 今の私じゃ逆立ちしたって勝ち目が見えない強大なモンスター達が当たり前のように湧いてくるあたり、天界直通ルートの異名は伊達じゃない。推奨レベルはどれくらいになるのやら。

 

 まあ襲ってきたモンスターは全部二人に蹴散らされたわけだけど。

 ただひたすらに前進、蹂躙、制圧あるのみ。もしかして二人の辞書には逃げるという項目が存在しないのでは? なんて思ってしまう。

 ネバーアローンが通った後は死体すら残らない。何故なら道具や魔法に使う素材として解体され、骨の一片まで回収されるから。血の臭いに寄ってきたモンスター達も一体残らず素材になった。

 

 つくづくパーティーの戦力が無法すぎる。自然災害だろうか。

 とはいえ強さに関しては今更すぎるし最初から分かってたのでそこまで気にならない。気にしてたらこの二人とはやっていけない。

 それでも血に汚れても一切気にせず、初めて見るモンスターの死体を嬉々として解体する二人にはほんのちょっぴり付いていけないものを感じる今日この頃。

 

 ★月Α日(晴れ)

 昨日今日と歩き通しだったというのに、遥か彼方に見える世界樹が近づいた気がまるでしない。

 このペースで順調に進めば一ヶ月くらいで到着するとの事。

 私とウィズさんにとって無理のないペースで進んでいるとはいえ、過去の探索者達が残した記録と比較すると間違いなくハイペースなんだけど、それでも先は長いと言わざるを得ない。乗り物の重要性を切実に感じる。

 三人で河を渡った時みたいに背負って加速して爆走してくれないだろうか。

 

 ★月%日(晴れのち吹雪)

 今日は昼から吹雪だった。

 真夏みたいな酷暑から三分で視界が白に閉ざされたのでびっくりした。すごくびっくりした。寒暖の差があんまりすぎる。

 二人はともかく私が死ぬので今日は早めの野宿を行う事に。

 ポケットハウスが無かったら私だけ凍死してたと思う。カイラムの人達に感謝。

 

 ★月χ日(吹雪)

 昨日に引き続き天気が絶好調。

 何事も起きなければ良かったのだけど、竜の谷でそんな甘い考えが通じるわけもなく。

 昼過ぎに家の中に響いたのは、外からドアを叩く音と助けを求める声。

 亡霊の群れが家の周りを取り囲んでいたらしく、ウィズさんが葬送していた。

 いくら天候が吹雪で日の光が届かないとはいえ、昼間からアンデッドが湧いてくるとか物凄いナチュラルに怪奇現象が起きるから困る。

 

 亡霊以外にも雪で家が埋もれるんじゃないかとかモンスターの襲撃があるんじゃないかとか不安になったけど、ウィズさんが家の周囲に結界やら迎撃機能を追加してくれたみたいで、そこは安心していいみたい。

 でも当たり前のように魔王城の結界を性能の比較対象にしないでほしい。ウィズさんはどこを目指しているんだろう。

 魔王城の結界は紅魔族の皆が総出で攻撃しても破れない代物なので、私も普通に反応に困る。

 流石のめぐみんでも破るのは無理なんじゃないだろうか。爆裂魔法一発しか撃てないし。

 

 ★月;日(晴れ)

 吹雪が止んだので冒険を再開。

 一面の雪景色から始まって北に進み続ける一日だったけど、先日と同じく見た事も聞いた事も無い凶悪なモンスター達と何度も遭遇した。

 結果は踊れ踊れ皆殺しのワルツを! みたいな感じ。

 集まった素材を売り払ったらどれだけの財産になるんだろう。考えるだけで軽く震える。

 というか絶対に分け前を受け取りたくない。

 私何もしてないし。謙遜とか誇張抜きで本当に何もしてない。冒険楽しい! ってノリノリで全てを蹂躙する二人の後を付いていってるだけ。

 今更だけど、ドラゴンだとか魔物だとか悪魔だとか関係なく蹴散らしていく二人はパーティー名をスレイヤーズに変えた方がいいと思う。

 

 ★月‐日(雷)

 サンダードラゴンと遭遇した。私が相棒にしたいと思っているドラゴンだ。

 天気が雷雨とか嵐じゃなくて雷なのはそういうこと。

 目的の相手という事で私は精一杯頑張ってみたのだけど、見事に失敗した。

 というか普通に無理。

 ドラゴン使いを目指すには、まずドラゴンに力を示すか対話に持っていくところから始める必要があるわけで。

 人と交流可能な理性と知性を持たずひたすら空を飛んで雷を落としてくる相手とか、力を示すとか心を通わせるとか対話とかそれ以前の問題なわけで。

 私が得意な雷属性の魔法は当然のように通じないしセイバー系魔法は射程外だし他の攻撃魔法は咆哮と羽ばたきで軽く掻き消されるしで手も足も出なかった。

 結局ドラゴンは最終的にウィズさんの爆発魔法で塵一つ残さず消滅させられる事に。

 ルビードラゴンの時といい、他のモンスターと比較して明らかに処理が雑なあたり、此処以外でも見かけるような竜種は二人の眼中に無いのだろう。

 

 今日の件でよく分かったけど、せめてこっちの話を聞いてくれるドラゴンじゃないと絶対に無理。文字通り話にならない。余裕で死ぬ。

 ドラゴン使いの相棒はほぼ全てが理性的な竜である理由が深く理解できた一日だった。やっぱり野生の獣はダメだ。

 全身をガッチガチの耐雷装備で固めていたからダメージこそ無かったけど、あたり一面に降り注ぐ雷の中に立つというのは生きた心地がしなかった。

 

 ※月☆日(雨)

 また一つ月が変わった。

 今回の旅が始まって結構な日数が経過した事になる。

 旅の中で私は沢山のものを見た。沢山の人に出会った。

 懐かしむにはまだまだ早いし旅も終わっていないけれど、日記を読み返していたらちょっとしんみりしてしまう私がいたり。

 久しぶりにめぐみんに会いたい。今日もアクセルで爆裂魔法を撃ってるのかな。

 

 ※月£日(強風)

 どうしてモンスターは私達を襲うんだろう。

 私を狙うのは分かる。むしろそりゃそうだって感じ。

 天界直通ルートを使うには、私は普通にレベルが足りていない。自慢じゃないけど一時間も経たずに餌になる自信がある。

 でも私以外の二人は違う。強い。もうハチャメチャが押し寄せてくる勢いで強い。

 二人と今まで返り討ちにしてきたモンスターとでは、狩る者と狩られる者という絶対的な線引きがされている。それくらいに力の差があった。

 だからこそ、何故襲ってくるのかが分からない。

 まさか千年樹海の天界直通ルートに縄張りを持ってるようなモンスターが、相手との力量差を感じ取れないほど無能なわけないだろうし、謎過ぎる。

 

 ※月↑日(晴れ)

 私達が頻繁に襲われる理由が判明した。

 そもそもの話、二人はモンスターから強いと認識されていなかったらしい。

 強者が発する独特の気配や圧力みたいなのを、普段の二人は無意識で抑えているとの事。

 流石に無数のアンデッドを浄化したりヴォーパルと戦った時のように、真剣になった場合はそういうのが滲み出てしまうらしいけど、それはここまでの道中で本気を出すまでもなく凶悪なモンスターの数々をぶち殺してきたという事だ。それこそアクセルで日常生活を送るのと同じような空気で。

 モンスター側からしてみれば極めて理不尽かつ詐欺以外の何物でもない。

 まるで徘徊する即死罠ですね、という素直な感想を零すと二人は微妙な表情になっていた。

 

 じゃあそんな二人が意識して戦闘態勢というか周囲に圧を振りまいたらどうなるのだろう? という話だけど、見事に樹海が静かになった。

 まるで凶悪な魔物に怯える駆け出し冒険者のように、必死で息を殺す無数の気配を私は感じ取ることができた。

 樹海のモンスターとか動植物の気持ちは分かる。とてもよく分かる。

 ついでに今まで二人がどれくらい周囲に配慮していたかも理解できた。

 特にウィズさんの変貌っぷりが酷い。凄いんじゃなくて酷い。

 本人には口が裂けても言えないけど、あれを見た今は氷の魔女という紅魔族じみた異名に真顔かつ神妙に頷くことしか私にはできない。

 私は日々の鍛錬でボコボコにされながら格上のプレッシャーに曝される訓練を受けているし、何よりウィズさんがとても素敵で優しい人だって知っているから平気だけど、そうじゃなかったらウィズさんを見る目が変わっていたかもしれない。悪い意味で。

 

 ※月Ч日(雨)

 人間は戦ってばかりだと心が荒む。

 私は全然戦ってないけど、それはそれとして築かれ続ける屍山血河を眺めていると心がとても疲れるし、なんか嫌な記憶を思い出しそうになる。

 冒険を始めてから明らかに肌艶が良くなっているウィズさんも、久しぶりにはしゃぎすぎて少し精神疲労が溜まったとのこと。

 最後の約一名は精神の疲れとは無縁どころか「戦うと元気になるなぁ!」みたいなノリを隠そうともしないので、ちょっとそこらへんの精神構造が私達の考える人類の規格をぶっちぎっている可能性が高い。なんたって異世界人だし。

 

 というわけで、世界樹にだいぶ近づいてきたけど今日はお休み。

 ポケットハウスの中でのんびり過ごしたり真昼間からお酒を飲んだりお菓子を作ったりちょっとした演奏会をやった。

 今いる場所がどこなのかを忘れてしまいそうになる、穏やかな一日を過ごせたと思う。

 

 肝心の演奏会だけど、軽く依存性を疑うレベルで上手なバイオリンを伴奏にウィズさんと私が歌を披露することに。

 伴奏とウィズさんの歌唱に対して私だけ釣り合っていなかった気がするけど、それでも恥はかかずにすんで一安心。

 友達が私の誕生日を祝ってくれた時のため、お返しの一つとして小さい頃からこっそりと歌の練習をしていて良かった。

 まあ私が人前で歌ったのは今日が生まれて初めてなんだけど。

 

 ※月@日(全部)

 朝起きたら夜だった。眠りすぎたというわけでもないのに。

 今までも時間の流れが微妙に速かったり遅かったりした日はあったけど、今日は特に酷かった。

 一日が夜→夕方→夜→昼→朝→夜という順番で流れていったのだから。

 ここの時空が歪んでいるというのは周知の事実だけど、それにしたって太陽や月の動きが常識を無視しすぎていて頭がおかしくなりそう。

 天気も滅茶苦茶だったしもうやってられない。

 この調子だと明日は空から槍でも降ってくるんじゃないだろうか。

 

 ※月L日(晴れ時々槍)

 確かに私は昨日ああ書いたけど、空から槍が降ってくるのが見たいとは書いてない。

 

 

 

 

 

 

 竜の河の岸をひたすら北進していくという、一般的に手の込んでいない自殺と揶揄される天界直通ルートを真っ直ぐ突き進み、立ちはだかる全ての者を等しく蹴散らして屍の山を築き続けたあなた達ことネバーアローン。

 廃人とリッチーと紅魔族の三人は聞きしに勝る竜の谷の環境に幾度も足止めを食らいながらも、無事に当座の目的地である世界樹に辿り着いた。

 規格外の樹木が生み出した無数の枝葉によって日の光は遮られており、世界樹の周辺はすこぶる暗い。このような秘境でなければ間違いなく日照問題および切り倒しのデモが発生し、アクセル近郊に在ろうものならば漏れなくめぐみんの的になるだろう。

 

 あなた達は首を大きく曲げて頭上を仰ぎ見る。

 聞こえてきた小さな感嘆の声は誰が発したものだったのか。

 あなた達が立っている木の根元からでは分からないが、どこまでも伸びてゆく幹と枝葉は雲を貫くまでに至っていた。

 目測による樹高は6000メートル超。分類としては恐らく広葉樹。

 枝下は1500メートルで、樹冠が4500メートル。

 

 山脈を彷彿とさせるあまりの雄大さと果てしなさに、あなたは軽く眩暈を覚えた。

 最初から分かりきっていたが、呆れるほどに巨大な樹だ。非常識を通り越して非現実的ですらある。

 

「着いたー! おっきいー! 暗いー!」

 

 ゆんゆんもまた眼前にそびえ立つ世界樹を思い切り見上げながら喝采をあげていた。

 適度に休みながらの行軍だったこともあり、そこまで疲労の色が濃いわけではない。

 だが代わり映えのしない天界直通ルートをひたすら前に前に直進し続ける日々には若干辟易していたのだろう。少しばかりテンションがおかしいし、その顔には強い開放感と喜びが浮かんでいる。

 少し前、槍が降ってきた日のやさぐれっぷりにはあなたも少し危機感を抱いていたので、ここらでなんとかメンタルをリフレッシュさせておきたいところである。

 

「うーん……?」

 

 一方、はっきりしない表情で周囲を見渡すウィズ。

 先ほどまではあなた達と同様、名所への期待にうきうきりっちぃと化していたのだが、世界樹の至近距離に近づいた途端こうなってしまったのだ。何かしらの違和感を覚えたらしい。

 

 明らかにおかしい様子を見せるパートナーに、あなたは体調を気遣った声をかける。

 世界樹の頂上は天界に繋がっているという噂は眉唾物だったが、実際に近づいてみれば確かにそれらしき澄み切った力の気配が世界樹一帯に満ちている事が分かる。

 本来であれば魔物が近づかないという世界樹の近辺で何日か休養を取り、第二層の準備を万全に整える予定だったのだが、この気配と空気がリッチーに悪影響を及ぼすというのであれば、予定の変更を考慮する必要が出てくるだろう。

 

「ああ、すみません。体調は問題無いので大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」

 

 ウィズは何でもないかのように答えた。

 

「確かにここは澄んだ気配で満ちていますが、アンデッドを浄化する神聖系とはジャンルが違うといいますか。具体的な言葉で表現するのは難しいんですけど、とりあえず長時間滞在していても私への悪影響は無いと思います」

 

 ただ、と言葉を続ける。

 視線を世界樹の根元、地面の下に向けながら。

 

「既視感とでも言えばいいのでしょうか。木の下から感じ取れる何かに覚えがあるような、でも何か違うような。とにかくはっきりしなくてもやもやするんですよね」

 

 歯に物が詰まったかのような物言いだが、少なくとも彼女の心身に悪影響を及ぼすものではないらしい。

 言われてみれば確かに、気配の大元は頭上ではなく地面の中から感じられるように思える。

 天界は空ではなく地の底にあるとでもいうのだろうか。

 

「地獄に繋がってたりするかも、なんちゃって」

 

 冗談めかしてゆんゆんが言う。ありえないとは言い切れないのが怖いところだ。

 いずれにせよ、ここで臆したり見て見ぬふりをするのであれば、あなたは冒険者などやっていない。

 早速スコップを取り出し、世界樹の根元を掘ってみることにした。

 

 だがスコップを地面に突き立てた途端、あなたに高速で飛来する何かの気配。

 間違いなくあなただけに向けられた攻撃。だが敵意や殺意と呼べるものはない。まるで意思の無い機械が放ったかのように。

 速度も素のヴォーパルより遥かに遅い。故に悠々と余裕を持って反射的にスコップで打ち払い……かけたところで、あなたは愛剣のビキィッ!! と額に太い青筋を浮かべたかの如き怒りの意思を敏感に感じ取った。

 その力と反比例するかのように気難しい愛剣は、刀剣類と聖槍以外の近接武器の使用を決して許さない。

 あなたは今まさにスコップを武器として使おうとしている。そして言うまでも無いが、たとえ鋭利な刃を持っていたとしても、スコップは刀剣類ではない。少なくとも愛剣はスコップを同族だと認めていない。

 

 つまりこのままだとジェラシーで臍を曲げた愛剣によって流血沙汰が不可避になる。

 ついでに愛剣がストライキを起こす。

 

 危うく血みどろの大惨事を引き起こしかける所だった。軽く冷や汗ものである。あなたの冒険者生活はいつだってスリリングでブラッディでアハハ! ミンチミンチィ! な刺激に満ちている。

 あなたはスコップでの迎撃を放棄し、矢の如き速度で迫りくる、円錐螺旋状で全長一メートルほどの物体、つまり細長いドリルにしか見えない何かを手で掴む事で防いでみせた。

 軽く大道芸を披露したあなたは、正体を調べてもらうためにそれをウィズに軽く放り投げる。

 仮に世界樹から降ってきたというのであれば鑑定の魔法を使っていたところだが、これは違う。わざわざストックを減らす理由は無い。

 

「ただの樹の枝、ですね。一切加工が行われた痕跡が無いにもかかわらず、不自然極まりない形状をしている点を除けばですが」

「世界樹の枝ってことですか?」

「いえ、周囲に生えているものと同じ種類だと思います」

 

 周囲を見渡すも、最も近くの樹まではそこそこに距離がある。

 それもそのはずで、世界樹の周囲から1000メートルほどは樹が一本も立っていない空白地帯と化している。草花も小さなものがまばらにしか生えていない。

 巨大すぎる世界樹に栄養を取られたり日光を遮られた結果、自然とこのような不自然な地形が形成されていったのだろうとウィズは推測していた。

 

 魔物の襲撃があるかもしれないと警戒しつつ周囲の気配を探っていると、やがて樹海の中から何者かが姿を現した。

 猛烈な速度で近づいてきている。

 

「コラー!」

 

 やがて聞こえてきたのは微妙に緩くて間の抜けた怒鳴り声。

 

「そこの人間たちー! 馬鹿な真似は今すぐ止めなさーい!!」

 

 あなた達に向かって声を張り上げているのは、3メートルほどの身長を持った、人の女性と樹木をかけあわせたような外見の持ち主だ。

 根の足、幹の肌、緑の葉の髪で身体が構成されたそれは自身が樹木の亜人、ドライアドであると全身で示していた。アルラウネよりも更に植物に近い亜人である。

 世界樹の近くに多く生息しているといわれているが、アルラウネのように集落を持っているわけではなく、世界樹を管理しているわけでもない。

 

 種族としての性質は総じて温厚で気長で暢気。

 

 そんな樹人とも呼べる存在が枝のような腕を振り上げながらあなた達の方へ走ってきている。

 敵意や殺意は感じられないが、非常に怒っているようだ。

 ごく自然と、ウィズとゆんゆんの視線があなたの持つスコップに向けられる。確かに理由はそれくらいしか思い浮かばない。

 やがてあなた達の元に辿り着いたドライアドは、苛立たしげに根足で地面をぺしぺしと叩き、頭部の葉をざわざわと騒がしく鳴らしながらあなた達を怒鳴りつけた。

 

「あのねえ! こないだも言ったと思うけど、ここは私達にとって大事な場所なの! 人間がカミサマって呼ぶようなものなの! また掘り返して荒らそうっていうなら今度こそ容赦はしないわよ!? 前みたいにごめんなさいしても許してあげないんだからね!」

 

 樹の亜人であるドライアドが世界樹を神聖視するというのは理解出来る。怒られた理由も同様に。

 理解は出来るのだが、肝心の発言の内容がすこぶるおかしい。

 あなた達の困惑を感じ取ったのか、ドライアドは呆れを前面に押し出して嘆息した。

 

「なに、私達が教えてあげた話、もう忘れちゃったの? あんなに痛い目に遭ったのに? 大丈夫? 人間って忘れっぽすぎない? また私達にボコボコにされたいの?」

(どうやら誰かと勘違いされているみたいですね。過去の探索者でしょうか)

 

 ひそひそと耳打ちしてくるウィズに頷く。

 同一視されているのは単にドライアドに人間の見分けがついていないからだろう。あなたとしても非常に身覚えのある話だ。

 ゴブリンやかたつむりなら余裕で見分けが付くのだが、モンスターや亜人は多少の差異こそあれ、どれも似たような顔、似たような姿をしているように見える。

 さておき、竜の谷は時間の流れが歪んでいる。未来の自分達が何かの理由で過去の世界樹に流れ着くのかもしれないとあなたは考えるも、その探索者がボコボコにされたというくだりでその線は無さそうだと判断した。

 このドライアドは天界直通ルートで出会ってきた魔物達より確実に弱い。少なくともヴォーパルと同等の敵が出てこない限りはネバーアローンの敵には成り得ないだろう。

 

 あなたは知らなかったとはいえドライアドの聖域を荒らしてしまった事をドライアドに謝罪し、話に出てくる探索者と自分達が全くの無関係である別人な事を告げる。

 知った事かと言わんばかりに問答無用で掘り進めるとでも思ったのだろう。ゆんゆんが物分りの良いあなたの姿に目を見開いて嘘でしょ……と驚愕しているが、あなたは努めてそれを無視した。

 

「えー? でも私人間の区別とか付かないしなー」

「すみません、貴女が仰っているのっていつごろのお話なんですか?」

 

 いぶかしむ様子を隠そうともしない樹人に、ウィズが問いかける。

 

「確か私の年輪が今より三十くらい少ない時、だったかな? 最近でしょ?」

 

 年輪が三十などと言われても、あなたには意味がさっぱり分からない。

 自分の常識が当たり前のように他者に通じると思ってもらっては困ると閉口するあなたは、リッチーの知恵袋を頼る事にした。

 

「ドライアドは人間換算でおよそ十年に一度、体の年輪が増えるといわれています。なので彼女の話は三百年は昔という事になりますね……私はもしかしたらまたアンデッドが迷惑をかけているのかも、と思ったのですが」

 

 アンデッドどころの話ではなかった。

 なるほど、暢気と言われているわけだとあなたは脱力する。あるいは植物らしいのか。

 竜の谷の時間が歪んでいるとはいえ、最近と称して百年単位の時間を平気で持ち出してくるあたり、時間に対する感覚が人間とは根本的に異なっている。

 おまけに人間の事も碌に知らないようだが、それは当然といえば当然なのかもしれない。

 世界樹が存在する場所は、言わずと知れた千年樹海の奥地。

 ここまで辿り着く事の出来る人間など、そうはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 説得の末、なんとか人間の寿命を教え込む事に成功したあなた達。

 ドライアドが人間って十年輪ぶんも生きていられないの!? 可哀想すぎる……と同情の涙を流すといった一幕こそあったものの、無事に誤解を解くことができた。

 とはいえ地面を掘るだけでああも怒りを露にするのだから、幹を伝っての登頂や枝葉、実の採取の許可など夢のまた夢。

 そんな事を考えていたネバーアローンに対し、ここまでやってきた目的を聞かされたドライアドは、事も無げにこう言い放った。

 

「ふーん、てっぺんに何かあったら私にも教えてね。ちょっと気になるから」

 

 地面を掘った時とはまるで異なる、いっそ投げやりと言ってもいい反応。

 世界樹の枝葉を少々。そして黄金の林檎を採取する予定だと聞かされても、好きにすればいいと表情すら動かさない。

 

「葉っぱが欲しいならあげちゃってもよかったんだけどね。今はちょっと切らしちゃってるけど、一年輪に一枚も降ってくるし」

「世界樹はドライアドの聖地なんですよね? 樹を傷つけても大丈夫なんですか?」

 

 ゆんゆんの言葉にドライアドは意味が分からない、といった表情を作った。

 

「うん? 樹は別にどうでもいい、とまでは言わないけど。前に来た人間も登ってたし、ちょっと傷つけたり登ったりしても私達は気にしないよ」

「登った人はてっぺんまでいけなかったんですか?」

「途中で落っこちて死んだ。しかも死体で土地が汚れちゃったからもう大変で大変で。登るのはいいけど私達に迷惑はかけないでね」

 

 ドライアドが神聖視しているのはあくまでも何かが眠っている、あるいは眠っていたこの土地そのものであって、土地の上に立っている世界樹についてはその限りではないようだ。

 雲を貫く大樹に何らかの神聖さを見出すのはあくまでも外部の者であり、現地に生きる者にとってはただの巨大な樹木に過ぎないらしい。

 そうなってくるとあなたとしては俄然この土地の下に興味が湧いてくるわけだが、ドライアドも詳細までは知らないのだという。

 

「私が生まれるよりもずっとずーっと昔、とにかくでっかくてすっごいのがここで永遠の眠りについたから、ここらへんは私達にとって力が溢れる場所なの。そんででっかくてすっごいのが背負ってたおっきい樹がなっがーい時間をかけて成長して、こうなったってわけ」

「……土地を調査しても構いませんか?」

「構うに決まってんでしょ!」

「ちょっとだけ、ちょっと掘るだけですから」

「絶対ダメー!」

 

 既視感の正体を知りたがっているのか、ウィズが無謀な提案を行うも即撃沈。

 ウィズほどではないにしろ、あなたもまたこの気配に似通ったものを知っている気がした。

 それもイルヴァではなく、この世界で。

 

 永き時を経てなお大地にはっきりと残る力の残滓。

 この地に眠る者は、まさしく神と呼ぶに相応しい存在だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 地面を荒らすなと入念に警告を行ったドライアドが立ち去り、いよいよ世界樹に挑む時がやってきた。

 といっても断崖絶壁を登るのはあなた一人であり、そこまで無茶な身体能力を持たないウィズとゆんゆんは地上で留守番である。

 幾らなんでも危険すぎるので、流石のあなたも二人を背負って登るつもりは無い。

 

 ロッククライミングならぬツリークライミング。

 本格的に登る前に練習として軽く上り下りを行い、これならば問題ないとあなたは確信を抱く。

 規格外の大きさを誇る世界樹の樹皮は、一般の樹木とは比較にならないほど凹凸が激しい。手足をかける場所には困らないだろう。

 標高1500メートルを超えれば樹冠に到達し、枝葉を伝って上り下りが可能になるので更に楽になる。

 

 だがウィズに幾らかの荷物を預けてゆんゆんを任せ、さあ登ろうかというタイミングで、ゆんゆんがあなたを呼び止めた。

 

「今更ですけど、本気で登るんですか? 私が竜を仲間にしてからでも遅くないと思いますよ?」

 

 わざわざ危険を冒さずとも、竜に乗って頂上まで飛んでいけばいいと身も蓋も無い正論を吐く紅魔族の少女。

 山登りを趣味としている者からごちゃごちゃうるせー! とゲロゲロ収集用具こと呪い酒をぶつけられる事確実の発言だ。たまにゆんゆんはこういう事を言う。

 ここまでの道程でゆんゆんがテイムを成功させていればそれも悪くはなかったのだが、生憎とそうはなっていない。

 空を飛ぶにしても、仲間にしたドラゴンが世界樹に近寄れるのか、そもそもどの高さまで飛べるのか、といった問題も出てくる。

 

「それって今登る理由にはならないですよね?」

 

 無論だとあなたは頷く。

 あなたは登山家ではないし、楽な道は間違っていると考えているわけでもない。

 自力で上り詰めた末に見る事ができる光景は間違いなく最高だろうが、空を飛んで一気に世界樹の頂点まで行くのはさぞかし爽快だろうとも思っている。

 

 落下が死を招く事も承知の上。

 それでも尚ゆんゆんの提案を受け入れるつもりが無いのは、ここで世界樹を見過ごして後回しにするという選択肢が、あなたという冒険者からしてみればちょっとどころではなく有り得ないものだからだ。

 

 何故かと聞かれれば、あなたは自分がそういう冒険者だから、としか答えようがなかった。

 こればかりは理屈ではないのだ。

 山を登る理由を聞かれてそこに山があるからと答える登山家のようなものである。

 そもそも理屈と正論で動くのであれば、あなたは冒険者などやっていないし廃人になどなっていない。

 

「そう言われちゃうと返す言葉が無いんですけど。ウィズさんはどう思います?」

「とっても冒険者らしいと思います。冒険者ってそういうものですよね。むしろそれでこそというか」

 

 ご満悦な様子で腕を組み、うんうん分かります分かります、と頷くウィズ。

 後方理解者面がやけに堂に入っている。

 

 ウィズの冒険者観はさておき、ゆんゆんは心配しすぎだとあなたは笑う。

 確かに世界樹の登攀は危険を伴う行為だ。一般人やそこいらの冒険者が挑むのは自殺行為に等しい。

 だがあなたは一般人でもそこいらの冒険者でもない。

 それにダーインスレイヴを使ったりヴォーパルの相手をするよりかは間違いなく安全だといえる。

 

「こういう時だけ説得力が凄い事を言う……」

 

 世界樹を一切傷つけずに登る必要があるわけではないので、万が一の事態に陥ったとしても愛剣なり他の武器を突き刺して落下を防げばいい。

 理路整然とした正論を突きつけられたゆんゆんは渋々引き下がったので、今度こそあなたは頂上を目指して世界樹を登り始めた。速度を全開にして。

 あなたの体感では登頂までにかかる時間は一切変わらないのだが、客観的には通常の約30倍の早さで登頂可能なのだから、やらない理由はどこにもない。

 

「うっわ……」

「これは、ちょっと……」

 

 だが登り始めて間も無く、地上から声が聞こえてきた気がした。

 速度を戻したあなたが振り返るも、二人はなんでもないと首を横に振っている。

 気のせいだろうかと内心で首を傾げつつ、あなたは登攀を再開する。

 

「なんていうかこう、悪い夢に出てきそうですよね。それも熱が出て寝込んでる時の夢とかに」

「……あまり見ていたいものではありませんね。本人には絶対言えませんが。私が同じ事を言われたら多分泣きます」

 

 労しいものを見る目であなたを眺めるゆんゆんとウィズ。

 

「あの動きってまるでゴキ……」

「止めましょうゆんゆんさん。本当に止めましょう」

 

 当のあなたは全く気付いていなかったが、人外の身体能力を存分に活かしながら常人の約30倍という超高速で手足を動かして軽々と樹を登る今のあなたの姿は、傍目には地面をカサカサと這い回る巨大な虫そのものであり、その正視に耐えない気持ち悪さでゆんゆんとウィズをドン引きさせていたのだ。

 

 

 

 

 

 

【標高約200メートル】

 軽々と到達。

 ふと地上を見てみると、ウィズとゆんゆんはまだあなたを見つめていた。

 速度を落として余裕を示すかのごとく声をかけ、軽く手を振ってから登攀を再開する。

 

【標高約500メートル】

 あなたはふと気付く。

 世界樹には虫がいない。ただの一匹もだ。

 

【標高約800メートル】

 遠くから獣の鳴き声が聞こえてきた。

 手足を止めて振り返ってみれば、世界樹の領域とも呼べる区画の外で同じ高度に飛ぶグリフォンがあなたを捕捉している。

 襲われても傷ひとつ負う事は無いだろうが、不慮の事故で幹から落下してしまう危険性はある。

 身構えるあなたに対し、グリフォンは近づくどころか不思議と困惑しているかのような雰囲気で離れていった。

 

【標高約1100メートル】

 空洞化している部分を発見。

 高さ直径2メートル、深さは5メートルほどと、あなたが入っても余裕のある大きさだ。

 まだまだ先は長い。特に疲労はしていないが、あなたは洞で小休止を取る事にした。

 

『いい景色だねー』

 

 内なる妹の声に同意し、眼下に広がる樹海が写るようにカメラで自撮りを行う。

 折角なので複数枚撮ったのだが、そのうちの一つにこっそり妹と愛剣とダーインスレイヴとホーリーランスが入り込んできた。

 

 何の変哲も無いはずの一枚を見たあなたは、たまらず眉間を押さえる。

 あなたの頭の上に顎を乗せる形で写りこむ笑顔の妹。

 あなたの背後で浮遊し、邪魔だ消えろと二本の神器に凶悪な殺意を放つ愛剣。

 画面両端にこっそり写りこんで自己主張する魔剣と聖槍。

 百鬼夜行じみた心霊写真がそこにはあった。

 

【標高約1500メートル】

 樹冠に到達。

 幹のみならず、葉の一枚一枚も縦横共にメートル超えと他に類を見ないほど大きい。

 縦横に伸びた無数の枝葉は樹海の如く入り組んでおり、あなたの進行を阻む。

 さながら世界樹の迷宮といったところだろうか。

 

【標高約2000メートル】

 探索は順調に進んでいるが、黄金の林檎は見つかっていない。

 それはいいのだが、樹冠に足を踏み入れてからというもの、あなたは時折何者かの視線を感じるようになっていた。

 少なくとも視線の主が虫や獣、モンスターといったものでないことは分かっている。

 見つからないからだ。どれだけ本気で探っても、あなた以外の生物の痕跡が、何一つとして。

 千年樹海において最大の生命である世界樹には、不自然なまでに他の生命が存在しない。

 聞こえてくるのはあなたの足音と呼吸音、そして枝葉が風に揺れる音だけ。

 世界樹は人が死に絶えた街のような、不気味な静けさを保ち続けている。

 

【標高約2500メートル】

 どういう理由かは不明だが、世界樹の枝と葉が内包する力は上に行けば行くほど強くなっている。

 土産や素材として用いるのであれば、最も上に生えているものを採取するのが望ましいだろう。

 余談だが、世界樹の葉に鑑定の魔法を使ったところ、確かに死者蘇生の効能を持っている事が分かった。

 世界から寿命以外で発生する死者を根絶する事が可能なように思えるが、問題は葉っぱ一枚を食べつくして初めて効果を発揮するという点にある。

 葉身は小さいものでも5メートル超で厚さもそれ相応。

 これを食い尽くすというのは人類、それも死体にはどう足掻いても不可能な所業でしかない。

 

【標高約3000メートル】

 この高さまで来ると気温と酸素濃度の低下がはっきりと感じられる。

 訓練を行っていない一般人が装備も準備も無くこの高さまで来るのは中々に苦しいものになるだろう。

 それでも高い身体能力を保有する高レベル冒険者が足を止めるほどのものではないし、更にそれを上回るあなたにとっては言うまでもない。

 

【標高約3500メートル】

 視線を感じる頻度が明確に上昇した。

 あなたは幾度と無く周囲に声をかけてみたものの、返答は一切無い。

 恐らくは世界樹の意思のようなものだろうとあなたは予想しているが、試しに声をかけてから枝葉を数本切り取っても反応は無かった。

 

【標高約3700メートル】

 いつまでもこちらを無視し続けるというのであれば考えがあると、あなたは幹の比較的乾燥している部分を削り、焚き火を行ってみた。知れば神をも恐れぬ蛮行だと誰もが口を揃えるだろう。

 だが火が付いた瞬間、どこからともなく飛んできた鉄砲水……世界樹の雫とでも呼ぶべきものが焚き火を粉砕してしまう。

 ここに来て初の反応に気をよくしたあなたは三度同じ事を繰り返したが、三度目になって顔面に水が直撃した。天界直通ルートのモンスター達でも余裕で首がもげる一撃である。

 

 行動の意味をあえて言葉にするなら「止めろっつってんだろ!!」だろうか。

 ずぶ濡れにされたものの、こればかりは自分が悪いと思ったあなたは素直に謝罪した。

 ついでに世界樹の雫には女神アクアの最上級回復魔法に匹敵するという、極めて強大な癒しの力が込められていた。

 ただし最低でも10リットルを一気飲みする必要がある。

 葉といい、まるでウィズが仕入れてくる産廃の仲間のようだとあなたは思った。

 巨大極まる世界樹にとってはこれでも雫扱いになるのだろうが、人間にとってはネタアイテムにも程がある。頑張れば飲めなくもないだろうが、それでも加減しろ莫迦としか言いようがない。

 

【標高約4000メートル】

 焚き火を行ってからというもの、あなたは常に視線を感じるようになっていた。

 目を離している隙に再犯されては堪らない、という事なのかもしれないが、軽く焼き討ちを食らいかけたにもかかわらず、相手からの敵意は感じられない。

 時折速度を落として推定世界樹の意思に語りかけながら、あなたはひたすら先に進み続ける。

 

【標高約4500メートル】

 世界樹の雫が湧き水のように流れ出ている地点を発見。

 人間が薬として使うのであれば論外もいいところだが、飲料水としてはクリエイトウォーターを超えるものなので、あなたは手持ちの空き樽を総動員して雫(世界樹比較)を回収する事にした。

 

【標高約5000メートル】

 ふとあなたはここで愛剣を抜いたらどうなるのだろう、と思った。

 イルヴァにおいては木々から抽出されるエーテルを物質化するほどに集め、凝縮した魔剣を見て視線の主はどんな反応を示すのか。

 結果としてはかつてないほどに強い感情、驚愕の気配が返ってきてあなたの方が逆に驚かされた。

 世界樹の意思と思わしき相手であっても愛剣には思うところが出てくるらしい。

 

【標高約5500メートル】

 何かの合図や目印があったわけではない。

 だが確かに、そして唐突に世界樹から感じられる空気が、気配が変わった。

 神聖や邪悪とは根本から異なる、水のように清んだ無色透明の力が上方から流れ込んできている。

 今はまだそこまで強くないものの、進めば進むほどに力は強まっている。

 あなたはウィズが言っていた言葉の意味を理解できた気がした。

 終わりはきっと、すぐそこに。

 

 

 

 

 

 

 およそ標高6000メートル地点。

 終点が間近に迫る、地上から遠く離れた場所で、あなたはそれを発見した。

 

 あなたが辿り着いたのは、樹のドームとでも呼ぶべき場所だ。

 それまでの険しかった道のりとはうって変わり、樹上でありながら平らな地面、広場のように円形の広範囲に渡って幹が均されている。

 幹が上から見えない強い力で押さえつけられながら成長を続けたらこういう形になるのだろうと思える、決して自然に形成されたとは思えない歪な地形。

 不自然に整えられた幹から伸びた枝葉は広場の外周をドーム状に囲むように広がっており、外からは暫く見ていなかった木漏れ日が差し込んできていた。

 

 そして、広場とドームの中央。

 世界樹の中心であるそこには、一本の樹が生えていた。

 均された平らな幹に根を生やし、自身を覆う枝葉のドームを突き破り、更に上に向かって伸びる樹が。

 

 樹高は精々が百数十メートルといったところ。

 決して小さくはないどころか樹海の木々より倍近く大きいのだが、世界樹とは比較にならないほどに小さい。

 だがあなたが少し前から感じ取っていた強い力の気配は紛れも無くこの樹が発しているものであり、更にはあなたが此処に到達するまで一度も見つけられなかった、黄金に輝く林檎が数え切れないほどに実っていた。

 

 黄金の林檎のサイズは一般的な林檎とほぼ変わらない。

 その葉と雫に癒しの力は宿っていない。

 

 それでもなお、樹の前に辿り着いたあなたは誰から教えられるでもなく直感する。

 世界樹の奥底に生えた一本の樹木。

 これこそが世界樹の大元にして力の根源、世界樹の始まりであり、真に世界樹と呼称すべきものなのだと。

 

 

 

 

 

 

 真なる世界樹を登りながら黄金の林檎を十個、そして杖に加工出来そうな太さの枝を数本採取したあなたは更に上に進み、終に終点に辿り着いた。

 世界樹の先端。標高6142メートル。

 長く続いた緑の天蓋を抜けた先で、久方ぶりの青空と太陽があなたを出迎える。

 

 世界樹の頂上には、神々が住まう天界への道がある。

 そう言われていたし、あなたとしてもそれなりに信憑性がある話だと思っていたのは事実だ。

 

 だが、そこには何も無かった。

 

 まことしやかに囁かれていた、天界へ通じるという道も。

 あるいは自分を待っているのかもしれないと考えていた、世界樹の化身も。

 神器も。特別なアイテムも。敵も。味方も。それらの気配や痕跡と思わしき何かも。

 何も無い。

 本当に、本当にそこには何も無かった。

 

 ただ一つ、風景を除いては。

 

 あなたの視界全てを埋め尽くす、何物にも代えられない、不可侵にして至上の風景だけがここには在る。

 

 何一つとして遮るものが無い、どこまでも続く無窮の空。

 大海の如き青の中で力強く輝く唯一無二の宝石。手を伸ばせば届きそうだと感じるまでに近づいた太陽。

 ここまで歩み続けてきた、数多の命を食らい尽くしてきた広大な樹海も、樹海を真っ直ぐに貫く雄大な大河も、今のあなたにはまるでミニチュアのように見えており、あなたは自身が巨人になった錯覚を覚えた。

 

 そして樹海から目を外して北を見やれば、そこには樹海の果て、更にその先が……竜の谷、第二層が広がっている。

 

 妹や神器といった、あなたと共に在る意識持つ者達もまた同様に、この絶景を堪能しているようだ。

 

 胸の奥底より湧き上がる熱い衝動。

 それに抗う事無く、あなたは大きく息を吸い込み、声をあげた。

 何ら特別な意味も価値も持たない、どこまでも原始的で達成感に満ち溢れた雄叫び。

 そんな長く、長く続いた大きな声は、青い空に吸い込まれ、溶けて消えていく。

 二度三度と繰り返し、あなたは胸の熱を抱えたまま至福のひと時に浸る。

 

 この世界に、竜の谷に来て本当によかった。

 熱と共に胸中に満ちる、シンプルで嘘偽りの無い感想。

 

 何もかもを忘れ、一時間ほど風景を堪能した後、あなたはカメラを手に取り……しかしすぐに仕舞い込んだ。

 今この風景をカメラに撮るのは憚られる。そんな事をあなたは考えてしまったのだ。

 まだ足りない。せめてもう少し。満足するまでは自分達で独占していたいと。今だけはこの景色を自分達だけで共有していたいと。

 

 こうして結局、枝に腰掛けたあなたはかれこれ二日もの長い間、その場に居座り続ける事になる。

 

 茜色に染まる世界と沈む夕日。

 全てを飲み込む暗黒の中で美しく煌く月と星々。

 闇を塗り潰し、朝の訪れを知らせるために昇る朝日。

 

 一日目でこれら全てを存分に味わい、二日目になってようやく朝昼夜分の写真を残し始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……と、このような冒険を経て、あなたは無事地上に戻ってきた。

 普段は見せる事の無い、少年のように純粋で綺麗で無邪気な笑顔を浮かべるあなたは土産話に興じる。

 ウィズとゆんゆん。二人の仲間に向けて数多の写真をばら撒き、世界樹のてっぺんから見た景色は本当に最高だったと、ついでに世界樹からこんなにいいものを貰ってきたと大人気なく苗木を見せびらかしながら。

 そう、苗木である。

 当然ただの苗木なわけも無く、微弱ながらもあの真なる世界樹と同質の力を発している苗木だ。

 終点を降り、あなたが真なる世界樹を後にしようとした所で、何の前触れも無く頭上から降ってきたそれは、音速を軽く超える速度で降ってきたこともあり、ばっちりあなたの頭に突き刺さっていたりする。軽く血が流れた。

 

 確固たる意思を持ちながらも、あなたに向けて言葉を発する事は一度も無かった世界樹。

 故にあなたに苗木を、それもあなたに突き刺さるほど凄まじい速度で寄越した理由は分かっていないのだが、受け取った以上、あなたは責任を持って苗木をアクセルに連れ帰るつもりだった。

 育つまでには途方も無い時間が必要になるだろうが、いざ育ちきった時にどうなっているのかは色々な意味で興味が尽きない。

 

「あなただけずるい! ずーるーいーでーす! 一人でとっても楽しく冒険しててずるいです! いいなー! 私も付いていきたかったですー!」

 

 あなたの自慢話、もとい冒険譚を聞くウィズはそう言って悔しがりながらも、まるで絵本に心をときめかせる幼子のように、その顔と瞳をきらきら輝かせている。

 こういうのが大好きでしょうがないのだと言わんばかりに。

 普段の落ち着いた物腰のウィズからは想像も出来ないハイテンションっぷりだが、あなたとしても、ここまで喜んでもらえるのであれば冒険者冥利に尽きるというものである。

 

「……! …………!!」

 

 師のように感情を大きく表現する事が恥ずかしいのか、黙して語らぬゆんゆんもまたそわそわした様子を隠しきれていない。

 あなたが持ち帰った写真をじっと見つめる目に宿るのは、確かな感動と興奮。

 ゆんゆんがドラゴンを仲間にし、今度は二人の仲間と共にあの絶景を見ると思うと、あなたは早くもその時が楽しみになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほっ、ほぁああああああ……!」

 

 あなた達の前には、皮を剥き、四つ切りにされた黄金の林檎が皿の上に乗っている。

 皮の内側もしっかり黄金色であり、どうにも貧乏性が抜けないウィズが恐れ戦いて奇声を発した。

 

「本当に食べちゃっていいんですかこれ!? なんかこの世のものとは思えないすっごくいい匂いがするんですけど、私大丈夫なやつですか!?」

 

 林檎から漂う、芳醇で甘い蜜の香りには数々の美食を経験してきたあなたですら青天井に期待が高まっていく。

 ゆんゆんもまた軽く錯乱しかけているようだ。

 

「いただきます!」

「い、いただきます!」

 

 恐る恐る果実を口に近づけ、しゃくり、と各々が同時に一口齧り。

 途端に鼻腔を突き抜ける爽やかな甘酸っぱい香り。

 そして。

 

「うぐっ……!?」

 

 あなたは吐いた。

 ウィズは吐いた。

 ゆんゆんは吐いた。

 

 緑と清涼感に溢れた景色に響き渡るゲロゲロ三重奏。

 明滅する視界。混濁する意識。

 全ての思考と感情が消し飛んだあなたの頭を支配するのはどこまでも簡潔にして明瞭なる三文字。

 

 まずい。

 

 黄金の林檎はとにかく不味かった。ただひたすらに不味かった。

 辛いとか甘いとか渋いとか苦いといった、言語で表現可能な領域を超越している。あまりの不味さに体が拒絶反応を起こすほどに不味い。

 不味いという概念を凝縮して濃縮して濾過してそこから更に精製した果てに生み出されたとしか思えない不味さだ。その癖匂いだけは最高なのが完全に悪意のある嫌がらせにしかなっていない。鼻を摘んでも余裕で不味さが貫通してくる始末。

 あなたは長きに渡る冒険者活動の中で多種多様のゲロマズと形容した物を飲み食いしてきたが、この林檎の形をした悪意と比較すればそれらは塵に等しい程度でしかなかったと思い知る。

 どれだけの言葉を重ねたとしても、この不味さを表すには到底届かない。

 空前絶後、人生最低最悪の不味さ。口内への虐待。味覚への陵辱。味という概念への冒涜。

 

 何度水で口を洗い流しても、後味が消えずにこびりついている。口の中がゴミ溜めになったかのような気分だ。

 腐って呪われたゾンビ肉の方が遥かにマシな味がする。

 

「まずい!! 世界のまずさが競い合うように地獄の交響曲を!!!」

 

 最早精神力が限界だったのだろう。

 断末魔の如き怨嗟に満ちた詩的な叫びをあげ、ゆんゆんは豪快に昏倒した。

 

「……っ、…………ッ!」

 

 ウィズもまた涙目でぶんぶんと勢い良く首を横に振っている。

 これ無理です、限界です。死にます。

 そんな泣き言が聞こえてくるかのようだ。

 

 異世界廃人とリッチーと紅魔族によるパーティー、ネバーアローン。

 世界最強の一行はだがしかし、今まさに壊滅の危機に瀕していた。

 

 悪夢の如き修羅場だが、まだ終わっていない。

 あなた達は黄金の林檎を四つ切りにした。つまりあと一切れ残っている。

 あなたは今も強く震える手で皿を持ち、ウィズに手渡そうと試みる。

 残ったのを食べていいと視線で強く訴えかけながら。

 

「…………!!!!」

 

 ぜったいいやですむりですしにますあなたがたべてください。

 残像が見える速度で首を横に振って拒絶する不死の女王。

 だがあなたもこんな劇物の処理など断じて御免だった。

 これ以上は本気で死ぬ。ああ、世界樹の頂上が天界に繋がっているってそういう……と変な納得を覚えてしまう程度には死ぬ。

 とはいえ捨てたり燃やしたりすると世界樹に呪われそうなので、必死に逃げようとするウィズの肩を掴み、あなたは無理矢理黄金の林檎を口に突っ込まんとする。

 あなたの腕を必死に押し返すウィズだが、流石に筋力に差がありすぎる。

 

「そうだまおうさん、まおうさんにたべさせてあげましょう! めずらしいものがすきだからきっとよろこんでくれますよ!」

 

 あなたに追い詰められたリッチー兼現役魔王軍幹部だが、彼女は起死回生一発逆転を狙うべく、とてつもなく冷徹で悪辣で非情な外道テロ作戦を提案した。

 裏切り行為にしたってそれはないだろう、というレベルの。

 ドン引きである。人の心とか無いのか? とベルディアに詰られる事間違い無しだ。

 だが魔王に食べさせるかはさておき、ウィズの提案は中々に悪くないものだった。

 捨てられないのであれば、嫌いな奴の口に突っ込めばいいのだ。至高の素材、伝説の果実である黄金の林檎を食べられるのだから責められる謂れはこれっぽっちも無い。

 

「そうですよね! すごいあじですもんね!」

 

 とりあえずそういうことになった。

 味覚を粉砕されたあなたとウィズの頭が一時的にパーになっているのは言うまでもない。

 

 結局この後、あなた達の味覚と正気が回復し、冒険を再開するだけの気力を取り戻すまで、三日もの時間が必要になった。

 

 

 

 

 

 

 世界樹を発ち、その後も旅を続けたあなた達は、千年樹海の果てに辿り着く。

 

「ここが第二層……」

 

 ごくり、と。

 あなたの隣でゆんゆんが喉を鳴らした。

 

「なんというか、思っていた以上にアンデッドである私は相性が悪そうですね……」

「アンデッドどころか人間だって生きていけない場所ですよこれは……」

 

 申し訳なさそうにするウィズにツッコミを入れるゆんゆんだが、さもあらん。

 第二層は数多の命を飲み込んできた千年樹海が可愛く見えるほどの、壮絶にして過酷すぎる環境だ。

 

 竜の谷、その第一層を踏破してみせたネバーアローンの前に現れた光景は、千年樹海が竜の谷における浅瀬に過ぎないのだと突きつけてきた。

 眼前に広がる赤褐色の大地。

 あなた達が今立っているのはまだ千年樹海であり、足元には草花が元気に生い茂っている。

 だがそこから一歩でも足を踏み出せば、枯れ草の一本すら存在を許さない、尋常の生命を拒む世界があなた達を待ち構えていた。

 

 一般論として、地続きの自然環境というものは段階を踏んで緩やかに変化していくものである。

 ある地点を境に緑溢れる草原から一瞬で砂漠だの荒野だのに変化したりはしない。

 だが竜の谷は一般論を粉砕して唾を吐いた挙句中指を突き立てるような場所なので、当たり前のように非常識が罷り通ってしまう。

 

 草木の代わりに荒れた地面のあちこちから顔を覗かせるのは燃え盛る炎の叢。

 空高く立ち上り天を焼き焦がす、巨大な火炎旋風。

 炎に焼かれ、煤だらけになった無数の岩山。

 過酷な環境に適応し跋扈する屈強な生命。

 雲も星も月も一時たりとも存在を許されず、ただ太陽だけが孤独に、そして永遠に空に在り続ける。

 

 竜の谷第二層、白夜焦原。

 そこは沈まぬ太陽と燃え盛る大地に支配された、灼熱の領域である。




 ★世界樹の枝
 類稀なる硬さとしなやかさを併せ持った枝。
 杖にしてもいいし木刀にしてもいいし箸にしてもいい。
 ただし加工するのは死ぬほど大変。

 ★世界樹の葉
 死者を蘇らせる力を持つ、奇跡の葉。
 だが葉っぱを一枚まるごと食べないと効力を発揮しない。
 そしてサイズは最低でも5メートルほど。
 およそ死人に食わせるサイズではない。
 いかなる健啖家であっても無茶言うな! と叫ぶだろう。
 おまけに苦い。激烈に苦い。一口齧れば死人も思わず飛び起きる苦さを持つ。
 その苦さはドライアドを除く千年樹海に生きる者たちが一切世界樹に近寄ろうとしない理由である。

 ★世界樹の雫
 ありとあらゆる傷を癒す力を持つ、奇跡の雫。
 ただし10リットルを一気飲みしないと効力を発揮しない。
 雫といっても6000メートルの樹木基準での雫である。
 瀕死の重体であっても即座に完治させてしまうが、およそ怪我人に飲ませていい水量ではない。
 味は雑味も無くスッキリしていて美味しいので、飲料水として使う分には申し分ない。

 ★黄金の林檎
 標高6000メートルという世界樹の最奥に聳え立つ、世界樹の根源とも呼べる一本の樹木に生っている神秘の林檎。
 天界に住まう神々の食べ物として紹介されれば誰もが疑わずに信じる事請け合いの、どんな財宝よりも美しく力のある果実。
 世界樹の力と歴史が凝縮されたそれは、植物系の素材として文句なしの最上位。世界に並び立つものが無い、至高にして究極の逸品である。
 一口齧ればそこには新たな世界と価値観があなたを待っている。

 ★《世界樹の苗木》
 それはあまりにも永い時を生きてきた。
 世界を渡り歩く巨大な亀の背で生まれ育ったそれは、様々な風景を見るのが好きだった。
 役目を終えた大亀が代替わりを果たして永遠の眠りにつき、その命と体を星に返した後もずっと、ずっと生き続けていた。亀の墓標のように。

 やがてそれのいた場所が一種の異界と化し、永い時を過ごした後、それの前に一人の冒険者が現れる。
 代わり映えの無い樹海の風景に飽き飽きし、いい加減新しい景色が見たいと思っていたそれは、一本の苗木に自らの意識を分け与え、自分よりも遥かに小さいその冒険者に付いていく事にした。
 旅は道連れ世は情け。
 自身が生まれ育った大亀の背にあった時と同じように、冒険者の頭に自身を突き刺す形で。
 中々に頑丈そうなので、思い切り勢いをつけて。

 何故か即引っこ抜かれて異空間にぶち込まれた。それも若干キレ気味に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。