このすば*Elona   作:hasebe

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第13話 十三階段への直行便

 《ベルディア》

 

――魔王軍の幹部随一の武闘派のデュラハン。

――人間の騎士であったらしいが詳細は不明。

――過去に幾度と無く討伐依頼が出されたがその全てを退けている。

――現在は戦場においてのみ姿が確認されている模様。

――弱者や非戦闘員に手を出さないことで有名。高レベルの者にのみ戦いを挑んでいる。

――くろがねくだき、魔王の加護がかかっているという全身鎧を装備しており、デュラハンの固有技能である死の宣告を含めて幹部の中でも高い近接戦闘力を誇る。

――懸賞金三億エリス。

 

 以上が廃城から帰ってギルドの手配書であなたが得たベルディアの簡単な情報である。

 あなたの知るベルディアの情報と照らし合わせた結果、装備から経歴に至るまでほぼ全てが周知されている。

 長年に渡ってベルディアが魔王軍の幹部として一線で戦い続けているというのもあるが、どうやらベルディアがお喋りなのは有名らしい。

 

 そう考えるとやはりベルディアはこの世界の人間にとっては相当な脅威だったのだろう。

 長く前線に立ち、これだけの懸賞金をかけられて尚今まで生き残ってきたのだから。

 

 だがここまで分かっているにもかかわらず、何故誰もベルディアを今まで倒せていなかったのか若干不思議ではあるものの、しかしそれはある意味当然なのかもしれない。

 あなたが偶然迷い込んだこの世界はノースティリスとは比較にならないほど平和だが、同時に死という現象が持つ意味が圧倒的に重い。

 この世界で生きる者達はノースティリスの冒険者のように己の屍を無数に積み重ねて強くなることができないのだ。

 かくいうあなたとて二度死ぬだけで確実な終わりが訪れるならここまで強くなっていない。それがたとえ平和なこの世界だったとしても。

 

 だがノースティリスで無数の繰り返される死と蘇生(トライアンドエラー)を越えた今のあなたでは、死ねばそこで終わりという言葉の意味は理解できても異世界なのだからそういうものなのだろう、という受け入れ方しかできない。

 仮に今のあなたが死んだらそこで終わりな状態だったとしても、やはりあなたには己を顧みずに行動するだろうという確信がある。

 そう、ウィズの命を護るために女神アクアと相対したときと同じように。

 

 しかし手加減はしていないが全く本気を出していない状態で三分で半殺しにできる相手が三億エリス。

 あなたが玄武の件で手に入れた報酬とほぼ同額である。濡れ手で粟などという話ではない。

 ウィズは魔法店をやる傍らに魔王軍の幹部を狩ればいいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

「いえ、流石にそれはちょっと……」

 

 資金繰りに魔王軍の幹部を狩ればいいのではというあなたの提案に、ウィズは苦笑いしながら首を横に振った。

 現在あなたはギルドから直行したウィズの店で紅茶を飲んでいる最中である。

 

 テーブルの対面にはいつものようにウィズが座ってあなたと同じようにお茶を飲んでいる。

 ちなみに今日は定休日でも何でもないし今も普通に営業時間中である。

 

「最近はあなたしかお客さんが来てくれなくなっちゃいましたし……元からお店の商品を買ってくれるお客さんはあなたしかいなかったですけど……」

 

 とは店主として問題ないのかと以前あなたに聞かれたウィズの弁である。

 言われてみれば確かにあなたは商品を買う気も無いのに来店して落ち込むウィズを見て愛でる者達を見ていない。

 不思議なこともあったものである。

 

「でもどうしたんですか? いきなり魔王軍の幹部の話をするなんて」

 

 どうやらウィズは廃城の件を知らなかったらしい。

 あなたはアクセルの近くに魔王軍の幹部がやってきたと教えることにした。

 

「そうだったんですか……誰が来たんでしょうか。……さんだったら今頃挨拶というか嫌味を言いに来てるはずですし……」

 

 ウィズはむむむと難しい顔で唸り始めた。

 リッチーだけあって魔王軍に顔見知りがいるらしい。

 

「え? …………ああ、はい」

 

 何故だろう。

 あなたには一瞬ウィズが何かを躊躇った気がした。

 

「……そういえばあなたに話したことは無かったですね。私、魔王軍の幹部の一人なんですよ」

 

 ウィズはいつもの世間話のように、アッサリとそんなことを言い放った。

 魔王軍の顔見知りなどという浅い話ではなかった。これ以上無いほどに関係者である。

 なんと驚くべきことにアクセルの街にこの世界の人類の敵の一員が店を構えていたのだ。

 言うまでも無いがあなたは初耳である。

 

「幹部と言っても籍を置いてるだけのなんちゃって幹部なんですけどね。魔王城の結界のことはご存知ですか?」

 

 あなたも噂程度には聞いたことがあった。

 魔王城には大規模な結界が張られており、結界を破る手段を持たない人類側は攻め込もうにも攻め込めないと。

 

「魔王軍には私を含めて八人の幹部がいます。そして八人で魔王城の結界の維持を担っているんですよ。けど以前お話ししたように私は今まで人に危害を加えたことはありませんし、魔王軍の幹部としての活動も全くやっていません。こうしてお店をやりながら結界の維持をするだけでいいと言われていますので」

 

 それだけでも十分に人類に仇なす行為なのだろうが、あなたの関心はベルディアにあった。

 自称魔王軍筆頭のベルディアは本当に自称でしかなかったらしい。

 あまりにも酷い大言壮語にただただ呆れるばかりである。

 

「…………」

 

 ウィズは店に入荷する品のセンスが終わっている以外は極めて常識的で善良な女性だ。確かに同僚を狩って資金にしようとは思わないだろう。

 幹部の狩猟を拒否した理由に納得してお茶のおかわりをカップに注ぐあなただが、何故かウィズはそれを静かに見つめている。

 あなたに話したいことでもあるのだろうか。

 自分から暴露しておいて秘密を知られたからには生かしておけないなどと言い出したら幾ら相手がウィズであってもあなたは大笑いする自信があった。

 

「……いえ、本当に大したことじゃないんです。ただ、私が魔王軍の幹部と知ってもあなたは態度も反応も何も変わらないんだなって」

 

 そこまで言って、ウィズは一息ついて紅茶を口に含んだ。

 

「幾らあなたが別の世界から来たといっても、ここまでいつもの世間話のように軽く受け取められるとは思わなかったんです」

 

 あなたはおかしなことを言い出したウィズに思わず笑ってしまった。

 大したことではないと言ったのはウィズの方だし、あなたからしても実際に大した話では無い。

 

「私が言うのもどうかと思いますけど、結構大した話だと思いますよ?」

 

 ウィズは呆れたように苦笑しているが、そんなものはこの世界の住人に限った話だ。

 別にどうでもいいとまで言うつもりはないが、リッチや妖精、ゴーレムやかたつむりなどの人外が普通に冒険者として活動している世界に住まうあなたからしてみれば魔王軍の幹部というのは精々戦争中の外国の要人程度の認識である。

 

 ゆえに人類の敵の側に属しているとしても、ウィズがあなたの友人であることに変わりは無いのだ。

 ウィズはウィズだなどという言葉はあまりに陳腐が過ぎるものの、実際に他に言いようが無いから仕方無い。

 大体にしてウィズがこの世界の大物女神である女神アクアに一方的に目の仇にされるほどの伝説のアンデッド、リッチーだと知っていて友人をやっている時点で態度が変わるも何もといった感すらある。

 

 なのであなたからウィズに言うことがあるとすれば、これからも変わらぬ付き合いをよろしく頼むといったところだろうか。

 

「えっと……はい、ありがとうございます。あらためまして、これからもよろしくお願いしますね」

 

 あなたの宣言に、ウィズは日溜りのような柔らかい笑みを浮かべることで答えた。

 

 それはさておき、ウィズが魔王軍の幹部だというのならば世間話のタネにこれを見せても構わないだろう。

 あなたはおもむろにポケットに入れていたモンスターボールを取り出した。

 

「……初めて見る道具ですね。あなたの世界の魔法道具ですか?」

 

 モンスターボールはノースティリスで用いられる捕獲用の道具だ。

 そしてこの中にはあなたが廃城で半殺しにして捕獲した魔王軍幹部であるデュラハンのベルディアが入っている。

 

「ぶふうえええええーーーッ!?」

 

 あなたの説明にウィズは盛大に茶を噴き出した。

 いつぞやの女神エリスのようにあなたの顔面に紅茶の飛沫が直撃する。

 熱くはないがだからといって何も思わないわけではない。

 

「ああああああごごごごめんなさいごめんなさい!!」

 

 ウィズといい女神エリスといい、この世界の女性は他者に飲料を吹きかける趣味でもあるのだろうか。

 特にウィズは共同墓地に続いて二回目である。

 あなたは若干呆れながら反射的に顔にかかった紅茶を舐めた。

 

「ば、ばっちいですから舐めちゃ駄目です!!」

 

 真っ赤な顔をしたウィズに怒られてしまった。

 ウィズが噴き出したものだし、別に汚くはないと思うのだが。

 

「あなたがよくても私が恥ずかしいんですってば!!」

 

 なるほど、まったくもって返す言葉も無い。

 確かにウィズのような女性の、それも噴き出した本人の前でやるにはデリカシーに欠ける行為だったかもしれない。

 あなたは髪から紅茶を滴らせながら謝罪した。

 

「い、いえ……噴き出したのは私ですから……あ、すぐに拭くもの持ってきますね!? 本当にお願いしますから絶対にそれ以上舐めたり変なことをしたりしないでくださいね!?」

 

 ウィズがあまりにも必死に懇願してくるのであなたは素直に待つことにした。

 下手な真似をすると今度は数時間の説教では済まないかもしれない。

 ただ、ウィズの言う変なこととはいったい何なのだろうかとあなたは思うのだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……大変失礼しました」

 

 渡された布巾で顔を拭くあなたにウィズは申し訳無さそうに謝罪した。

 そんな彼女に申し訳ないと思うなら先ほどウィズが言っていた変なことについて詳しく教えてほしいとあなたは頼み込む。

 

「い、言えませんよそんな恥ずかしいこと……」

 

 ウィズは顔面にかかった紅茶であなたがどんな恥ずかしいことをすると思っているのだろうか。

 残念ながらあなたの貧困な想像力ではまるで思いつかない。

 後学のために是非ともウィズの口から教えてほしいものだ。

 これは純粋な知的欲求に基づくものであり、決して性的嫌がらせではないし耳まで真っ赤にして恥ずかしがるウィズを見て悦に入ろうとしているわけでもない。

 繰り返すがこれは決して痴的欲求でも性的嫌がらせでもない。

 その証拠にあなたはこれ以上無いほどに真剣な顔をしている。

 

「終わりです、この話はここで終わりにしましょう。これ以上続けるなら私に泣きが入りますからね」

 

 流石にそこまで言われてはどうしようもない。

 あなたは潔く追及を止めて引き下がることにした。

 

「……こほん。それで、どういった経緯でベルディアさんはこんなことになっちゃったんですか?」

 

 ウィズは頬杖をつきながらテーブルの上に転がる紅白の玉を白魚のような手の人差し指で突いている。

 あなたは魔王軍の幹部なら何か貴重な品を持っているだろうと期待して喧嘩を売りに行ったこと、実際に持っていたから強奪したこと、ベルディアがあなたのことを知っているようだったので情報を得るために半殺しにして捕獲したことを話した。

 

「またあなたはそんな滅茶苦茶なことを……異世界の人って皆こうなんでしょうか」

 

 話を聞いたウィズはテーブルに突っ伏して頭を抱えてしまった。

 力量はピンキリだが、ノースティリスの冒険者の行動原理は大体こんな感じである。

 

「あなたの世界の魔法を使ったんですか? ベルディアさんは幹部の中でも剣の腕は相当のものでしたし、使っていた装備も凄かったはずなんですけど」

 

 ウィズの目から見てもベルディアの剣技や装備は一廉のものだったらしい。

 実際は三分で魔法も使っていないあなたに半殺しにされるという結果に終わったわけだが。

 技量や装備では覆すことのできない、純粋な地力の差だ。

 

「……実はあなたも私みたいに禁呪で人外になってたりします?」

 

 あなたは即座に違うとは断言できなかった。

 きっとこの世界の住人からしてみればあなたはおぞましい人外に等しいのだろう。

 強さというのは時としてただそれだけで周囲の者に忌避されることをあなたは知っている。

 だがそれでもあなたは人間だ。

 

「そうですか……そうですね。私も自分はこんなことになってしまった今でも、心だけは人間だと思ってますから」

 

 ウィズの呟きにはどこかあなたが人間のままであることへの憧憬が含まれているようだった。

 ちなみにあなたの見立てではウィズが本気で戦えばベルディアは三分どころか秒殺されると出ている。

 実際にウィズがやるかどうかは別として。

 

「そ、そんなことは無いですよ?」

 

 若干ウィズの目が泳いだ。

 どうやら心当たりが無いわけでもないようだ。

 あるいは他の幹部を半殺しにしたことがあるのかもしれない。

 

「…………そ、それよりも。あなたはこの後ベルディアさんをどうされるんですか?」

 

 ウィズは露骨に話題を逸らしにきたが、あなたはあえてそれに乗ることにした。

 今のところベルディアは情報を搾り取った後は適当に処分する予定になっている。

 

 あなたが異世界の者だと知っている敵を生かしておく理由は無い。

 

「なんか……知り合いが処刑される話を聞くのって凄く複雑な気分になりますね。私達は人間の敵ですから、そうされて当然だと分かってはいるんですが」

 

 ウィズの表情が曇ってしまった。

 実はベルディアはウィズの知り合いどころか友人だったりするのだろうか。

 もしそうなら命までは取らないでおこう。逃がすわけにはいかないが。

 

「ベルディアさんはただの知り合いですよ。友達なんかじゃありません」

 

 ウィズは真心の欠片も篭っていない営業スマイルでキッパリと断言した。

 同じ魔王軍の幹部のはずなのだが、二人はどんな関係だったのだろう。

 

「ベルディアさんはよくわざと首を落としたフリをして私のスカートの中を覗こうとしてくる方でしたね」

 

 生かさずに殺しておいたほうがよかったのかもしれない。

 あなたは腐った生ゴミを見る目でモンスターボールを睨んだ。

 騎士とはいったい何だったのか。

 

「あとは……」

 

 ウィズは目を瞑り、まるで何かを思い出すかのように黙りこくってしまった。

 そしておよそ一分の後、目を開けたウィズはこう切り出した。

 

「彼は私がリッチーになった原因の方です。私も人間だったときに沢山の魔族を殺してますから、恨みとかは無いんですけどね」

 

 あなたはウィズの発言に、驚愕のあまり目を剥いて唸った。

 ウィズがリッチーになった原因にではない。

 ウィズがあなたにそのことを話したことに驚いたのだ。

 

「もしかしたらベルディアさんが話しちゃうかもしれませんし、それだったら先に自分から言っておこうかなって。それにいつもいつもお世話になってるあなたに隠しておくのもどうなんだろうって思ったんです。それに……」

 

 指で髪先を弄りながらウィズは言葉を濁している。

 あなたは黙って話の続きを促した。

 

「それに、その……私もですね……あなたのことは、とっても大切な友達だと思っていますから……」

 

 ウィズの方から友だと言ってくれるのはとても嬉しい話だ。

 あなたとウィズは互いの顔を見合わせて笑いあった。

 

「あの、折角の機会ですしよろしければ私が魔王軍の幹部になった経緯やここでお店をやっている理由なんかもお話ししますがどうします?」

 

 あなたは黙って首を横に振った。

 聞きたくないわけではないが、わざわざ話してもらう必要は無い。

 

「そうですか。あなたが聞きたくなったらいつでもお話ししますから言ってくださいね。……まあそんなにもったいぶるほどに大したお話でもないんですけど」

 

 ウィズは小さく笑ったが、あなたにはとてもそうは思えなかった。

 前者はまだしも、後者には何があっても絶対に店を移さないほどの何かがあった筈なのだ。

 ウィズが話したいと言うのなら勿論聞くが、あなたは自分からそれを聞きだそうとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 自宅に帰ったあなたは早速ベルディアの尋問の準備を行うことにした。

 まず部屋の中で《シェルター》を使用する。

 本来であれば緊急避難用の道具なのだが、地面に簡易的な異空間を作り出すこれがあれば何をしても外に音は漏れないし被害も出ない。

 

 しかし異世界であるがゆえにあなたはもしかしたら機能しないかもしれないと危惧したのだが、シェルターは無事に異空間を形成してくれた。

 

 次にあなたはシェルターの中でモンスターボールの中のベルディアを解放する。

 殆ど死体同然の黒い肌の男が光と共に出現した。

 相変わらず意識は無いし体はぐちゃぐちゃだが生きている。

 

 ここであなたは不思議なことが起きていることに気付いた。

 

 本来であればモンスターボールは使い捨てだ。

 捕獲した中身を出せばそこで役目を終えて崩壊してしまう。

 だが中身のベルディアを解放してもモンスターボールが無くならないのだ。

 

 再度モンスターボールをベルディアに当てるとベルディアはそのままボールの中に納まった。

 再びベルディアを出してもモンスターボールは壊れない。

 

 首を傾げながらあなたはサンドバッグにベルディアの胴体を吊るす。

 サンドバッグとはノースティリスの冒険者を恐怖で震えあがらせるほどの狂気の拷問道具である。

 

 瀕死の者しか吊るせないものの、吊るされたものは完全に無力化されサンドバッグと共に不壊、不死の概念が付与される。

 決して抵抗できないし逃げられない。死ねない。狂うこともできない。サンドバッグは壊せない。

 これ以上の説明は不要だろう。

 

 かくしてベルディアはサンドバッグに吊るされた。助けも来ない以上完全に詰みの状況である。

 

 さて、この後あなたの世界の魔法で瀕死の重傷を治療されたベルディアだが、なんと目覚めた彼は最初にこう言った。

 

「…………何が聞きたい? 俺は知っていることなら話す。だが魔王様の弱点なんぞ知らんから拷問しても無駄だぞ」

 

 あまりの物分りの良さにあなたは驚きを隠せない。

 何か策でも練っているのだろうか。

 この完全に詰んだ状況で何を企んでも無駄と思うのだが。

 

「何も企んでなどいない。どういうわけか全く身体に力が入らん。こんな生殺与奪を完璧に握られた状況で無駄に意地を張ってもどうしようもあるまい」

 

 ベルディアは深い溜息を吐いた。

 

「というか俺が口を割るまで俺を嬲り続けるつもりだろう。そして嘘でも吐こうものなら死ぬより酷い目に遭わされる予感しかしない。貴様はそういう目をしている」

 

 話が早いのは助かる。

 相手が殺してくださいと懇願するまで痛めつけるのはあなたの趣味ではないのだ。

 だがやらないともやれないとも言っていない。

 

 あなたはまずベルディアが廃城で言っていた光について尋ねてみた。

 

「アクセルの街に大きな光が舞い降りたと魔王城の予言者が言い出したのだ。俺は魔王様に命じられてその調査に来た。駆け出し冒険者の街だと思って放置していたら最悪なのが来たがな」

 

 ベルディアが来た理由は分かった。

 では何故半年以上もアクセルの街を放置していたのだろう。

 魔王城からそこまで距離は無かったはずだが。

 

「……半年? まだ予言から一月も経っていないのに俺がこんな場所に来る理由なんぞあるわけないだろう」

 

 あなたはその話を聞いて眉を顰めた。

 ベルディアの言うそれは明らかに時期が違う。

 あなたがこの世界にやってきたのはもう半年以上も前のことだ。

 

 しかしベルディアの話すそれは、女神アクアがアクセルに来訪した時期と考えれば完璧に一致している。

 

 あなたは肩透かしを食らった気分になった。

 どうやらベルディアとあなたの勘違いだったようだ。

 

「なんだ、もういいのか?」

 

 あっさりと尋問が終わってしまったのであなたはベルディアに幾つかの選択肢を突きつけた。

 

 このまま一生魔法や技能のサンドバッグとして生きる。

 この場で滅ぼされる。

 人間に敵対することを止めてあなたの下僕になる。

 死ぬよりも恐ろしい目に遭う。

 

 あなたはベルディアにはこの中からどれかを選んでもらうことにした。

 そんなあなたの提案にやってられないと言わんばかりにベルディアは深い溜息を吐いた。

 

「正気か? 何故わざわざ俺を生かそうとする」

 

 強いて言うなら気まぐれだろうか。話をした感じ人類の敵であっても悪人ではないように思えた。

 デュラハンを見たのは初めてなので育成してみたいという気は無いでもない。

 

「……そうか、やっと分かった。お前絶対勇者じゃないだろ。それどころか神器所有者のような女神に連なるものでもない」

 

 気付くのが遅すぎるとあなたは笑った。

 あなたは勇者などではなく、一介の冒険者である。

 ベルディアの言う光や勇者などとは程遠い存在だ。

 

「お前のような一介の冒険者がいてたまるか……」

 

 ベルディアの生首は疲れきったように項垂れた。

 

「……もし。もし三つ目を選んだ場合、俺は強くなれるのか?」

 

 あなたの下僕となったベルディアがそれを望むのならば、あなたはそれを叶えるだろう。

 勿論あなたの下に付く以上、あなたが命じない限りは人間に手を出さないという条件は出させてもらうが。

 

「構わん。元より弱者に興味は無いし俺は既に一度……いや、二度死んだ身だ。俺を拾ってくれた魔王様への義理は既に十分に果たしてきたし、俺を殺した連中への恨みなどとうの昔に晴れている」

 

 復讐はそいつらの死を以って終えているからな、と言ってベルディアは続ける。

 

「俺が魔王軍に籍を置いていたのはウィズ……同僚のように人間に混じれる外見ではないのと強い奴と戦えたからだ」

 

 戦闘狂というやつだろうか。

 ノースティリスでもたまにいるのだ。

 確固たる目的も理由も無く、強いて言うなら己の為に強くなったあなたとは似て非なる思考の者達が。

 

「だから、もし俺を圧倒したお前が俺を強くしてくれるというのなら……俺はお前に降ろう」

 

 ベルディアはアンデッドとは思えないほどに澄んだ目をしていた。

 あなたはベルディアの身体をサンドバッグから解放する。

 

 解放された胴体は片手で生首を拾い、もう片方の手で握手を求めてきた。

 あなたはその黒い手を握り返して強くなれるかどうかはベルディア次第だと告げる。

 

「望むところだ。……俺はデュラハンのベルディア。これからよろしく頼むぞ、ご主人」

 

 あなたの死の宣告に、元魔王軍幹部のベルディアはどこまでも不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、後にベルディアはこう述懐している。

 

「ご主人に感謝はしている。一応。一応な」

「ただ正直、俺はあそこで死んでおけば良かったんじゃないかともたまに……時々……結構頻繁に思う」

「生きるのって辛いね。アンデッドでもマジで辛い」


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