このすば*Elona 作:hasebe
各所の公式アニメの動画でこのSSのネタのコメントをするのは勘弁してください。
コメントするくらい自作を好んでくれている事は作者としてとても嬉しく思っています。
ですがこのSSはあくまでも二次創作でオリ主モノです。
そういうのが嫌いな人も多くいるであろう場所でのその手のコメントは、動画やSSが荒れる温床にしかならないと自分は考えています。
ですのでどうかご理解とご自重の程お願いいたします。
誰かが、あなたの体を揺らしている。
「――」
霧がかかったかのようにおぼろげだったあなたの意識が、少しずつ鮮明になっていく。
「――――!」
バラバラだったパズルのピースが嵌るように、少しずつ、少しずつ。
「――――ちょっとアンタ邪魔だよ! さっさとどいてくれ!」
耳をつんざく怒鳴り声に意識が覚醒するのと同時、強く腕を引っ張られたあなたは無理矢理その場から動かされた。
ふらつきながらも倒れることは無かったのは、ひとえに運が良かったのだろう。
そんなあなたの横を、あなたに道を塞がれていた行商の馬車が通り過ぎていく。
どうやらあなたは町の入り口に立っていたようだ。
「どうしたんだ、門の前でぼけーっと突っ立って。轢かれてもしらんぜ?」
あなたの手を引いたと思わしき人間が、呆けた顔をするあなたに笑いかける。
衛兵と思わしき金属製の鎧に身を包んだ、厳つい顔をした壮年の男だ。
あなたは王都から収容所に至るまで老若男女問わず、ノースティリスで出会った全ての衛兵の顔と名前を記憶しているが、この男性は初めて見る。
少しでも経験のある衛兵であれば、確実に知っているという自負のあるあなたを知らない様子といい、新人なのかもしれない。
未だ血の足りていない頭で周囲を見渡せば、そこには、あなたの見覚えの無い町並みが広がっていた。
王都ほど栄えておらず、しかし農村ほど田舎でもない。
特徴が無いのが特徴の、どこにでもありそうな普通の町、とでも表現すればぴったり当て嵌まりそうだ。
道行く人々は普通の人類種が多いようだが、中には犬猫といった獣の耳が頭についている者、耳の長いエレアといった、あなたが初めて見る風貌のものも散見される。
ゴブリンや妖精、カオスシェイプのような、一目見てそれだと分かる種族は見当たらない。
はて、ここはどこなのだろう。
少なくともあなたの知るノースティリスに、このような場所は存在しない。
「ここか? 駆け出し冒険者の街、アクセルに決まってんだろ。寝ぼけてんのか?」
衛兵に尋ねてみれば、案の定というべきか、聞かされたのはあなたの知らない地名だった。
如何なる理由か、どうやらあなたは異国に飛ばされてしまったらしい。
「にしてもアンタのその格好。冒険者になりに来た……ってわけじゃねえわな。腕も相当立ちそうだし。王都の方から来た冒険者か?」
一目見て使い込まれていると分かる紺色の外套を纏い、頭から足までガチガチに武装を固め、150センチメートルほどの大剣を背負ったあなたの姿を見て駆け出し冒険者だと思う人間は中々いないだろう。
正直に話せば怪しまれると判断したあなたは、適当に話をでっちあげることにした。
■
自分は見聞を広めるために旅をしている他国の者で、この街には食料の補給のために立ち寄ったと告げると、衛兵は驚くほど簡単にあなたを解放した。
それどころか、ご丁寧にお勧めの宿や店まで教えてくれた。
オマケに冒険者ギルドへの加入を強く勧められた。
異国でも流れ者が手っ取り早く身分証明を手に入れるためには冒険者一択らしい。
面倒が無くて助かるといえば助かるのだが、街を守るべき衛兵として彼は問題無いのだろうか。
いや、アクセルは駆け出し冒険者の街だという。
相応に人の流れは活発だろうし、流れ者を少し怪しいからと、一々疑っていてはキリが無いのかもしれない。
一人納得したあなたが周囲を見渡せば、同業者と思わしき風貌の男女がそこかしこにいる。
確かに大半は駆け出し同然の力量しか持っていないと分かるが、不思議なことに中堅クラスと思わしき男たちもそれなりにいるようだ。
駆け出し冒険者の街と呼ばれているからには、この地域一帯には強い生物はいない、あるいは非常に少ないと思われる。
だというのに彼らはアクセルを拠点としているようだ。
この街には彼らを虜にするような秘密があるのかもしれない。
しかし見れば見るほど知らない場所だということばかりが分かっていく。
果たして自分はここに来るまで、どこで何をしていたのだったか。
目的も無く散策しながら記憶の糸を手繰り寄せること数分。
ポンと手を打つのと同時、あなたは自分が間違っていたと悟る。
恐らく、ここはあなたから見て異国どころか異世界だ。あるいは遠い過去か未来。
突拍子も無い話だが、一応根拠はある。
あなたに残っている最後の記憶。それは闇の中で淡く煌く幻想的な光の柱。
いつものように
そこから先の記憶が無いが、大方意識を失ったままこの地に飛ばされたのだろう。
無数に連なる並行世界に繋がっているという、ムーンゲートの先が知らない場所なのは当然だ。
どうしてこの程度のことを忘れていたのか。
街の名の如く駆け出し冒険者でもあるまいし、と内心で苦笑する。
分かってしまえばあまりにも単純だった。
そのまま適当にぶらついたあなたは、外に向かって歩を進める。
散策した限りでは面白そうな、あるいは見所のあるものは見当たらなかった。
活気があって良い所だとは思うが、それだけだ。
「なんだ、もう行くのか? 気を付けろよ」
門の前で、先ほど会話した衛兵に軽く会釈し、アクセルを後にする。
街から一歩踏み出し、そのまま数十メートルほど何処かに続いているであろう街道を歩き続け――――何も起きなかった。
あなたの前には仄暗い
振り向けばそこは駆け出し冒険者の街、アクセル。頭上には太陽。今日の天気は雲一つ無い快晴。
街から出ればもといた場所に戻れると予想していただけに、この結果はあなたに小さくない衝撃を与えた。
あなたの経験上、ムーンゲートは例外なく繋がった地の入り口に復路が用意されている。
しかし今現在、あなたがどこを見渡しても復路が存在しない。これは一体全体どうしたことか。
ムーンゲートの先の世界は帰還の魔法が封じられてしまう。
故に元の世界へ戻るには復路のムーンゲートを経由する必要がある。
あるいは死ねば戻れるのかもしれないが、あなたは試したことはないし、今のところ試す気も起きなかった。
ならばとあなたは異空間に物品を保管する四次元ポケットの魔法を詠唱する。
数秒の後、あなたの手には一本の杖が握られていた。
その名は願いの杖。
文字通り金、若さ、死と大抵の願いなら叶えてくれる女神との通信を可能にする万能の魔道具である。
本来非常に貴重な代物なのだが手持ちにはそれなりのストックがある。多少使い捨てても惜しくない程度には。
『はぁい、いつもご利用ありがとう。願いの女神よ』
杖を振れば聞いたことの無い音声が杖から流れてきた。
あなたの願いが届いたのだろうか。
困ったときの神頼みもたまにはやってみるものである。
『このメッセージを聞いているということは現在あなたは圏外、つまり私の力の届かない場所にいる可能性が非常に高いわ。悪いけど今回は自力で何とかして頂戴』
無常にも万能アイテムが音の出るゴミと化した瞬間である。
ガッデム、あなたは杖を地面に叩き付けた。
やはり神は信仰するものであって安易に縋るべきものではない。
本当の意味で困ったとき、最後に頼れるのは己の力だけだ。
半ばやけっぱちになりながら今度は帰還の魔法を行使する。
どうせ不発だろうとタカをくくっていたあなたの意思に反し、慣れ親しんだ魔力のうねりと空間の歪みを感じた。
魔法が問題なく発動した証拠である。
驚きながらも安心し佇むこと暫し。眩い光とともにあなたの姿が消え……次の瞬間、アクセルの町の入り口に立っていた。
「ん? まだ行ってなかったのか?」
なるほど、そうきたか。あなたは思わず頬を引き攣らせた。
距離にして数十メートルを一瞬で移動したがそんなことは何の慰めにもなりはしない。
上げて落とされた形になり落胆もひとしおである。
首を傾げる衛兵に気が変わったと告げ、あなたは再びアクセルの町に踏み込むのだった。
■
ネフィア用の完全武装を止めて街行き用の軽装に着替えたあなたは、広場のベンチに座ってひとり青空を眺める。
あれから思いつく幾つかの方法を試したが全て失敗に終わった。
どうやらあなたはこの世界に閉じ込められてしまったらしい。
神の御業か悪魔の悪戯か。それともただの事故なのかは不明だが現状自力での帰還は不可能なようだ。
今までに様々な冒険を重ねてきたあなただが、流石に帰還の当ても無い異世界に迷い込むという経験は初めてだった。
「もし、ベンチで黄昏ているそこのあなた」
声に反応して目線を戻すと、果たしてそこには水色の法衣を纏った男性が立っていた。
不思議なことに、あなた達の周囲20メートルほどから人気が消えている。どうやら神父はあなたに話しかけているようだ。
「ええあなたです。見たところ何かお困りがある様子。我らが女神アクア様を信仰するアクシズ教団に入信すれば悩みなんてあっという間に解決しますよ? 今なら洗剤と包丁を特別にサービスしましょう」
何を言われるかと思えば宗教勧誘だった。
折角のお誘いだがあなたは既に信仰する神を決めている。丁重にお断りすることにした。
「そうですか……残念ですが気が変わったらいつでもどうぞ」
特に気分を害した様子も無く、柔らかく微笑んで神父は去っていく。
とてつもなく既視感と親近感を覚える勧誘文句だったが、その加護は本物だろうと思える強い力を感じた。
あるいは一時でも女神アクアとやらを信仰すれば本当に元の居場所に戻れたのかもしれない。
だとしても、あなたは絶対に改宗だけはする気は無かったが。
《――――べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ、バカぁっ!!》
随分と懐かしい電波が届いた気がして、思わず笑みが零れる。
幻聴だろう。あなたが生涯に渡って信仰し続けると決めたかの女神があなたにああいった外向けの、ある意味では分かりやすい物言いをしなくなって久しい。
代わりに個性的な神々についての愚痴や己の神としての有り方に不安を零すことが多くなった。
気付けばあなたの心は積もった疲労と澱が洗い流されたようにスッキリしていた。
幻聴で持ち直すなど我ながら安いにも程があると自嘲しながら立ち上がり、晴れ心地でベンチを後にする。
何故か周囲の人間が同情するような視線をあなたに送っているが、気分転換の切っ掛けをくれた神父に軽く礼を言っておこう。
「神罰を食らえオラァッ!!」
神父の行方を目で追うと、他所の教区と思わしき教会の壁に小便をかけた挙句窓に向けて投石まで始めた。神罰不可避の狼藉である。
案の定衛兵が飛んでいくが神父は脱兎の如く逃げ出してしまった。
過激派な同門の異教徒への振る舞いに似ていてやはり親近感が湧くが、周囲があなたへ向ける同情的な視線の理由は理解した。
■
この地での身分証明を得るため、あなたは冒険者ギルドなる場所へ歩を進める。
元の世界に戻ったとき、女神とペット達に土産話の一つでも作れるだろうか、などと能天気なことを考えながら。
確かにあなたの現状は芳しいものとは言えない。
あなたはいまや右も左も分からず寄る辺もない。
あなたの頼りになるペット達もいない。
あなたは神の電波も届かない遠い異邦の地にただ独り。
なるほど、大事件だ。
だがそれだけだ。
あなたは寄る辺が無くても苦楽を共にした装備の数々を筆頭に食料、薬、世界最高の女神の抱き枕、サンドバッグ、
あなたはペットがいなくても十分に戦えるし、体はまるで生まれ変わったかのように軽く清々しい。
それにかつてのあなたは、着の身着のままで嵐の海に放り出されるという、およそ今とは比較にならない過酷な経験をしている。
ムーンゲートの効果で異世界の言葉は理解できるし文字も読める。
それにこの町はかなり平和な場所らしい。
街中だろうが容赦なく核や終末の嵐が巻き起こったり、人体に潜んだ高レベルエイリアンが繁殖し町を埋め尽くすなどという素敵事件が割と頻繁に起きる元の世界とは大違いだ。
気がかりがあるとすれば自宅であなたを待つペット達だが、あなたが年単位の長期間連絡を絶つことは今までにも何度かあった。今回も問題は無いだろう。多少寂しい思いをさせるくらいか。
税金を滞納した罪で国中に指名手配されるのは避けられないだろうが、そんなのはいつものことだ。襲ってくる衛兵は皆殺しにしてしまえばいい。
今のあなたは、いわば二度目の駆け出し冒険者である。
遠い世界の異邦人であるあなたを知る者はどこにもいない。
類稀な機会を与えてくれたムーンゲートに感謝しつつ、暫くはこの平和な世界を堪能することにした。
《elona》
フリーゲーム。
操作の仕方が分からずにゴミ箱にぶち込むまでがテンプレ。
《ノースティリス》
ティリスという大陸の北側にあるのでノースティリス。
南はサウスティリス。
《エレア》
エルフっぽい種族。
魔法が得意。
《カオスシェイプ》
成長と共に身体の部位が増える異形種。
頭が13個とかになったりする。
《ネフィア》
不思議のダンジョン的なアレ。
定期的に地面から生えたり消えたりする。
《終末》
ドラゴンとか巨人が大量にのりこめー^^してくる。
街中だろうと普通に発生する。
《ラグナロク》《核爆弾》《サンドバッグ》
冒険者のおもちゃ。