乃木若葉はモテモテである   作:もちまん

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Cシャドウ……一体何者なんだ?
今回も長いです。積極的な白鳥さんに注目!


郡千景は能力者である (蕎麦騒動編)

それは、ある夏の日のことである……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:B1F倉庫

 

 

白鳥「なぁ若葉ぁ……スケベしようやぁ///」

 

若葉「……?」

 

 

 

ここは丸亀城内の地下倉庫。

勇者たちの生活に必要な物資の他、先日白鳥らが持参した大量の蕎麦粉が収められている。

 

時は正午。

若葉と白鳥は、この薄暗い倉庫の中、ふたりきりで床の上に寝転がっていた……

 

 

 

白鳥「若葉ぁ///聞いとる?スケベしよ、スケベ」

 

若葉「(スケベってなんだ……?)」

 

 

 

若葉は発情中の白鳥に抱きつかれながら、耳元でスケベを提案される。

戸惑い視線を逸らす若葉に、どんどん距離を詰める白鳥。

そもそもなぜ、2人はこのような場所で横になっているのか?

それは、数秒前の出来事と白鳥本人にあった。

若葉は様子を聞き出す。

 

 

 

若葉「歌野、様子が変だぞ?(いつもだけど)」

 

白鳥「そんなことナッシングや」

 

若葉「歌野……諏訪出身でその言葉遣いはどうかと思うぞ。みんなもたまに口調がぶれるが、あれはあくまでネタとしてやっているからであって……」

 

白鳥「っ!嫌や!」

 

若葉「!?」

 

白鳥「いつもいつも、周りのことばっかり気にして……今度私の前で他の女の話したら、このスイカでその頭カチ割っちゃる!若葉は、私のことだけルッキングしてればええんや!今やから言うけど、通信のとき蕎麦をバカにされたこと、私ホンマに傷ついとんねんで!若葉には責任取ってもらって、これから毎日私の作った蕎麦料理食べてもらうから///」

 

若葉「むむっ……何事にも報いを……か……」

 

白鳥「若葉ぁ///ええやろ?なぁ……」

 

若葉「は、離してくれ……」

 

 

 

ガタッ(扉を開ける音)

 

 

 

球子「……何やってんの?」

 

若葉「球子、助けてくれ(懇願)」

 

 

 

若葉は事情を説明する。

 

事は数分前……昼食の蕎麦を作るために蕎麦粉を倉庫まで取りに向かった若葉と白鳥。

しかし、その袋を運ぶ途中で白鳥が足を躓かせてしまい2人揃って転倒。

怪我はなかったものの、その拍子で袋が破れ蕎麦粉が散乱。

周囲は粉まみれとなり、それから白鳥の様子がおかしいという……

 

 

 

球子「にゃるほど……それで2人とも粉まみれで倒れているのか」

 

若葉「ああ」

 

球子「とりあえず、立てるか?手貸すぞ」

 

 

 

ぐっ

 

 

球子は若葉の両手を握り、起こそうとするが……

 

 

 

球子「重っ……すまん、体重50キロ以下幼児体型のタマが2人を同時に持ち上げるのは……」

 

 

 

若葉の身体に白鳥が抱きついているため、球子のみの力では引き上げることができない。

白鳥に起き上がる意思がない以上、事は意外と深刻なのである……

 

 

 

若葉「歌野、離れてくれないか?」

 

白鳥「な、なんでや若葉」

 

若葉「立ちたいんだが……」

 

白鳥「……あかん!あかんよ若葉ぁ!私はもっと若葉とこうしていたいんや……もっともっと若葉と……温め合っていたい。愛を誓いあった仲やんか……だからあと半日くらい一緒に……ええやろ?若葉ぁ///」

 

若葉「歌野ぉ……人の話をー……」

 

杏「新しいプレイかと思いましたよ(今来た)」

 

球子「あんず、お前ホントどこにでもいるな」

 

杏「百合と聞けばどこへでも。それはタマっち先輩も同じでは?」

 

球子「ちげーし、巻き込まれてるだけだし。タマは2人が遅いから様子見に来ただけだし」

 

杏「そんなこと言っちゃって……」

 

球子「それより、どうすっかな……この状況……」

 

 

 

いつも以上に若葉に密着する白鳥。

まるで蛇のように、自分の身体を対象に絡ませている。

この光景……密着というよりは拘束に近い。

 

さすがの若葉も、身体が動けないほど密着されては立つことも移動することも困難。

成す術がない(耳が性感帯である若葉は、組み手がそれほど得意ではないのだ)。

加えてこの暑さ。いくら涼しい倉庫の中とはいえ、今は夏真っ只中。興奮により高まった白鳥の体温は、確実に若葉にも伝わっており、蒸し暑さと疲労により互いの体力は徐々に奪われていた。

 

 

 

若葉「このままでは2人とも共倒れになってしまう……白鳥さんは熱があるようだし、私も満足に動けん」

 

球子「(熱なのか?)」

 

白鳥「ううん、動かんといて。私から離れたらあかんで……いつまでも一緒やで……若葉ぁ///」

 

若葉「歌野、苦しい……」

 

 

 

白鳥の拘束と、蕎麦粉によるグリップ強化のコンビネーションは、若葉の想像以上にそれを解くことを困難にしていた。汗と蕎麦粉と密着……このプレイが続くことになれば、時を待たずとも2人があられもない姿になることは必至。杏だけは、密かにそれを期待していた……

 

 

 

杏「……ごくり」

 

藤森「今北産業」

 

杏「み、水都さん!?ビックリした……もう、急に現れないでくださいよ~」

 

球子「お前が言うな!」

 

杏「それにしても、どうしてここに?」

 

藤森「いえ、なんだか胸騒ぎがして……ところで、この状況は?」

 

若葉「私が説明しよう」

 

 

 

………………

 

 

 

藤森「なるほど……状況はだいたいわかりました。大丈夫ですよ。うたのんがこうなったこと、以前にもありますから」

 

若葉「そうなのか?」

 

藤森「うたのんは、蕎麦粉を吸うと酔っ払っちゃうんです。まるで質の悪い酔っ払っいみたいに……」

 

杏「へぇ……(創作意欲)」

 

若葉「待て待て、その情報は初めて聞いたぞ」

 

藤森「話してませんからね」

 

若葉「そうか……(納得)」

 

球子「以前にもあったのかよ……そんときはどうやって治ったんだ?」

 

藤森「順を追って話しますと……最初は昔、調理実習で蕎麦粉から手打ち蕎麦を作ろうとしたときですね。2回目はうたのんがふざけて鼻から蕎麦を食べたとき、3回目が今です」

 

球子「うん……2回目は敢えて聞かないよ」

 

藤森「それで過去2回とも、今みたいな状況になりました。そのときもうたのん、今の若葉さんみたいに私にくっついて……あのときは大変でした」

 

杏「百合のかほりがしますね……!そこんとこ、詳しく聞かせてもらっても!?」

 

球子「あんずはもういいよ!」

 

杏「ぐすん……最近、タマっち先輩私に厳しい……」

 

球子「……んああ、わかったわかった!ごめんなあんず、タマも言いすぎた」

 

杏「うわあい!先輩大好き!ふふっ」

 

球子「(これだ……この笑顔……ズルいよなぁ……)」

 

 

 

この作品ではやや暴走気味の杏であるが、それでも厳しくなり切れない球子。

それもすべて杏の可愛さ故、結局は許してしまうという甘さ……球子は最近、胃薬を買った。

 

 

 

若葉「……話を聞く限り、歌野がこうなった原因は蕎麦で間違いないようだな」

 

球子「蕎麦アレルギー……的なものか」

 

杏「あれ?でも歌野さん、ここでは普通に蕎麦を食べていたような……」

 

藤森「鼻から摂取しなければ問題ないので」

 

杏「すごいですね」

 

球子「面白すぎるだろ。神樹生える」

 

若葉「治す方法はあるのか?」

 

藤森「特にこれといった治療法はないんですが……時間が経てば勝手に治ります。今までもそうだったので……ですから、今はテキトーに相手しててください」

 

若葉「テキトーに?」

 

藤森「テキトーに。うたのんが寝るまで」

 

若葉「ありがとうふじもん」

 

藤森「(私は本名じゃないんだ……)」

 

球子「んでも、2人をこの蒸し暑い中放っておくわけにいかないしな……あんずに水都、起こすの手伝ってくれ」

 

 

 

若葉(と付属した白鳥)は3人の手を借り、ようやく立ち上がる。

それでもなお、白鳥は若葉から離れようとせず、若葉の腕をがっちりと組む。

 

 

 

若葉「よいしょ……ありがとう」

 

球子「立っても歌野は離れないんだな……」

 

白鳥「当然や……私と若葉はふたりでひとつ。離れることができない運命なんや……もう離さないよ」

 

球子「愛が重い!」

 

若葉「倒れてからずっとこんな感じだ」

 

杏「メモメモっと……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F食堂

 

 

一方その頃、友奈とひなたは……―――

 

 

 

友奈「若葉ちゃんたち、遅いよね」

 

ひなた「ええ……様子を見に行った球子さんたちも戻って来ませんし……」

 

友奈「ふたりババ抜きも飽きたよね……お腹空いたなぁ……」

 

ひなた「……じゃあ、私が考えた遊びでもしませんか?」

 

友奈「?トランプで?」

 

ひなた「ええ……これは私が考えた、究極のカードゲーム……!なんです!」

 

友奈「『究極のカードゲーム』……!?」

 

 

 

ざわ……

 

 

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LOCATION:1F廊下

 

 

球子と杏、藤森は若葉(+白鳥)を連れて移動を開始していた。

 

 

 

球子「さて、これからどこに向かうか……今の状況、誰かに見られるのは避けたい……」

 

杏「そうですね……密着『わかうた』なんて、ひなたさんが見たらきっと発狂ものです」

 

球子「だよなー……って、あんずにしてはまともな発言だな」

 

杏「NTRは趣味じゃないので……2人を隠すのに最適な場所……どこかな……」

 

球子「できれば涼しいとこな」

 

藤森「……キョロキョロ」

 

杏「水都さん?」

 

藤森「いえ……何でもないんですが……」

 

球子「……?」

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

 

球子「ん?アナウンス?なんでこんな中途半端な時間に……」

 

杏「敵襲?あ、でもそれだとしたらスマホに直接連絡があるはず……」

 

 

 

ザ……ザー……

 

『えー、私乃木若葉は、今回の件で白鳥歌野に対して責任を取り、病めるときも健やかなるときも、これを愛し、この命ある限り、彼女と共に生きていくことを誓います!』

 

 

 

杏、藤森「!?」

 

球子「……ハァ?」

 

 

 

『……これでいいのか?』

 

『オフコォース!アイムハピィ!嬉しいよ!サンキュー若葉ぁ///

イエ―――――――――――――――――――――――――イ!!!!!!!!!!!!』

 

 

ブツン……ザザー……

 

 

 

藤森「……はうっ!」

 

杏「どっ、どうしました水都さん!」

 

藤森「私……わかりました」

 

杏「な……何を?」

 

球子「……はっ!そういや若葉は!?」

 

杏「あっ……あれ?2人は!?」

 

藤森「あああ!『2人(若葉と白鳥)とはぐれる』……こんな神託が今頃来るなんて……!」

 

杏「なんで今まで気づかなかったんでしょう……!」

 

球子「まっ、不味い!もしこの放送を、ひなたが聞いていたら……!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F食堂

 

 

ひなた「」

 

友奈「気絶してる……キエエも言わずに……」

 

 

 

※遅かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F廊下

 

 

球子「まずは2人を探すぞっ!放送室にいるはずだ」

 

杏「はい!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:2F放送室

 

 

校内放送からおよそ3分……球子らは、現場に辿り着く。

ダッシュで放送室のドアを開ける。しかし、そこに2人の姿はない。

 

 

 

球子「くっ……もぬけの殻か……」

 

杏「……警部!この椅子、まだ温かいです!きっとそう遠くない場所にいると思われます!」

 

球子「たしかに、椅子が汗で湿っている……だが若葉たちがどっちに行ったのかわからん。この部屋からの道は、廊下3手に分かれる……タマたちは正面から来たから、残る道は右か左のどちらかか……」

 

杏「任せてください!私の鼻は『百合の匂い』がわかります!そう、『わかうた』の匂いは……クンクン……クンクン……あっちです!あっちの方角に、微かな匂いが流れてます!ついでに百合の波動も感じます!行きましょう!」

 

球子「流石だ、あんず巡査!水都捜査官、着いてきタマえ!」

 

藤森「球子さんたち、結構この状況楽しんでますね?」

 

杏「(……あれ、でもこの方向って……)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F食堂

 

 

杏が匂いの先に違和感を得たちょうどその頃……

若葉と白鳥は、ひなた、友奈と共に食堂にいた……!

杏の悪い予感的中。

 

 

 

白鳥「はい若葉、あーん///あーんやで///」

 

若葉「あーん……モグモグ……」

 

白鳥「美味しい?私のとろろぶっかけ蕎麦は……」

 

若葉「ああ。旨い。蕎麦の味も、いいものだな。とろろも麺と絡んで相性がいい」

 

白鳥「そ、そう?///良かった///」

 

若葉「……もしかしたら、歌野が作る蕎麦だから美味しいのかもしれないな」

 

白鳥「わっ///若葉ったら///もう、褒めても何も出えへんで///」

 

若葉「いや、そんなことはないぞ。食堂で普通に出される蕎麦と歌野が私たちに振る舞ってくれる蕎麦……同じ蕎麦粉を使っているはずなのに、私を含め、みんなが歌野たちが作る方が美味しいと言う。これはもう……―――」

 

白鳥「(『歌野の愛が込められているからに違いない』……なんて。きゃっ☆)」

 

若葉「歌野の打ち方が優れているに違いない」

 

白鳥「……は?」

 

若葉「え?」

 

白鳥「うー……若葉ぁ……!ひどいで……!」

 

若葉「え?は?……何が?」

 

白鳥「せやけど!たしかに打ち方上手いけども!もっと言い方とかあるやん……!?」

 

若葉「す、すまん……」

 

白鳥「わかればええんや///……さぁ若葉、次は信州みそ天丼やで」

 

若葉「歌野、そろそろ苦しいんだが……(お腹が)」

 

白鳥「はい、あーん」

 

若葉「むぐっ……」

 

 

 

白鳥の悪酔いは未だ覚めておらず、悪化の一途を辿っている。

さらには自身が作った料理を強制的に若葉に振る舞うという暴挙。

 

対する若葉は、白鳥に一切抵抗する素振りを見せない。

しかし、それも当然のこと。どこから調達したのか、白鳥の手には巨大なスイカが……

 

 

 

白鳥「ふふ、浮気は許さへんよ……そのときはこのスイカでその頭赤色に染めちゃるから……!」

 

若葉「ううっ……モグモグ……」

 

 

 

白鳥歌野の、野菜による恐るべき恐怖政治……!

諏訪出身ルー語関西弁束縛系ヤンデレ鬼嫁(悪い意味で)の誕生である。

後の藤森談によると、『これはまだ序の口』らしいが……

 

また、その様子を近くで見ているひなたと友奈はというと……

 

 

 

ひなた「ぶつぶつぶつぶつ……」

 

友奈「はわわわわ……ひなちゃん……」

 

 

 

バンッ(ドアを開ける音)

 

 

 

球子「球子警察のモンだ!タマは土居警部!」

 

杏「同じく、伊予島巡査!」

 

藤森「あっ、うたのん!」

 

球子「ちょっ、ええー!?そこは『藤森捜査官!』って言うノリじゃ……」

 

藤森「ちょっと確認してきますね~」

 

杏「(この人強いなぁ……)」

 

 

 

球子に杏、藤森が食堂に辿り着く。

早速若葉らを発見した3人。藤森は少し離れた場所から若葉に声をかける。

 

 

 

藤森「若葉さーん、大丈夫ですか?何かひどいこととかされてません?」

 

若葉「うむ……見ての通りだ。結構苦しい……」

 

藤森「良かった……段階的にはまだCクラスですね。若葉さんなら問題なさそうです」

 

若葉「し……Cだと!?おい、それはどの程度なんだ!?」

 

藤森「若葉さん、がんば!」

 

若葉「ふじもーん!」

 

藤森「さて……ひなたさんは……―――」

 

 

 

食堂の隅の席に座っているひなた。

顔を俯かせながら、何かをぶつぶつと呟いている。その表情は髪の毛で見えない。

やはり先ほどの放送のショックが大きかったのだろうか?

その隣に座る友奈は、涙を流しながら彼女の肩をさすっている。

 

 

 

友奈「ううっ……ひなちゃん……戻ってきて……さすさす」

 

ひなた「観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減……―――」

 

藤森「ひなたさん……!?あらら……」

 

球子「……やべえな……」

 

杏「愛する人を奪われた精神的ダメージによる悟りを求める心……泣けます」

 

球子「いやいや、これふざけてる場合じゃないぞ。マイナー『わかうた』と比べ、『わかひな』は言うまでもなく公式カップリング……それが消えるなんてダメだ!あってはならんのだよ!」

 

杏「す、すみません……私も『わかひな』大好きです。てかなんのキャラですか?」

 

球子「そ、そこはほっときタマえ。それより、このままだと本気でひなたが浄土へ行ってしまう……くっ、早く歌野を止めないといけないのに……!今この中でまともに動けるのはタマくらいか……」

 

杏「いやいやいや!私も動けますよ!?」

 

友奈「タマちゃん!私もできることがあれば協力するよ!」

 

球子「あ、ありがとうあんず、友奈……」

 

藤森「私も手伝います。いよいよとなったらこのハリセン使ってください」

 

球子「……え?なんで?」

 

藤森「叩いて気絶!眠らせるんです」

 

球子「実力行使にもほどがあるだろ……ダメダメ、この小説でそんな暴力表現はNG!」

 

 

 

………………

 

 

 

球子に杏、藤森、友奈らはひなたの席に集合し、対策案を練ることにした。

4人は若葉たちと一定の距離を取っているため、常に監視できる位置にいる。

しかし、2人がこれ以上移動しないとは限らない上、若葉が対応できるレベルにも限度がある。

若葉の胃袋とひなたの精神を散華させないためにも、早急な解決が求められる……

 

 

 

球子「さて、具体的にどうするか。スイカがあるから迂闊に近づけないんだよな……」

 

杏「水都さん。確認ですが、白鳥さんの酔い……あれは眠ったら元に戻るんですよね?」

 

藤森「はい、それは間違いないです」

 

杏「タマっち先輩、睡眠薬とかどうでしょう?」

 

球子「どうやって飲ませるんだ?」

 

杏「……では、携帯型麻酔銃」

 

球子「コ○ンじゃねーか!」

 

友奈「み、みんな……もう十周目に入ったよ……」

 

ひなた「……是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得……―――」

 

球子「そろそろ冗談抜きでひなたが危ない……ぐっ、でも何かいい案を考えつくにも般若心経が邪魔してっ……!ううっ……泣きたいのはこっちだってのに……」

 

???「お困りのようね……」

 

球子「お、お前は……!」

 

千景「みんな大好き……TKGちゃんの登場よ……ズズズズー(ジュースを飲む音)」

 

 

 

ババァーン!(ドアを開ける音)

千景、満を持しての登場。

 

 

 

千景「話は影で聞かせてもらったわ……(ちかげだけに)」

 

友奈「ぐんちゃん、それは?」

 

千景「キウイジュースよ……お肌にいいの。ズズズズー」

 

友奈「ふーん……」

 

球子「で、千景は一体何しに来たんだ……」

 

千景「バリバリ!ボリボリ!……ゴクン」

 

球子「(ス、スゲー!ジュースの氷を一瞬で噛み砕いちまった……!)」←別に大した事ではない。

 

千景「白鳥さんを元に戻す方法がわかったかもしれないわ……」

 

球子「なぬ、本当か?」

 

千景「ええ……今、白鳥さんは蕎麦粉のエネルギーで酔っているのよね?ならばその逆のエネルギー……うどん粉を与えれば、蕎麦粉のエネルギーは相殺されて……元に戻るはず……」

 

球子「な、なるほどぅ……」

 

友奈「で、でも近づいたらすぐにバレるんじゃ……」

 

千景「ふふ……安心して高嶋さん。そんなときのための私の能力よ……」

 

友奈「能力?」

 

千景「……戻って来たわね……」

 

友奈「え?」

 

球子「……な、なんだあれ?ポルターガイストか?」

 

 

 

球子が指さした方向……

その先にはなんと、茶色い米俵のような物体がフワフワと、ひとりでに空中をさ迷っている。

しかもその巨大な物体は、音も立てず、ゆっくりこちらへと近づいて来る。

正体不明の存在に少々身構える球子らであったが、よく見るとその底には……

 

 

 

EX01「うどん粉を持って来たわ」

 

球子「なっ、なんだこの生き物!?」

 

藤森「うわっ」

 

友奈「ちっちゃいぐんちゃん!?顔がそっくり……」

 

杏「よ、妖精さんみたいですね……」

 

 

 

妖精ではない。千景の分身体である。

それは、まるで千景本人がSD化されたような容姿。

テニスボールほどの大きさをしており、背中に生えた羽をパタつかせ、空を飛んでいる。

 

 

 

友奈「えっ……しかもたくさんいるよ!ミニぐんちゃんが6人も!」

 

 

 

しかも、その数6体。

6体が運んでいる謎の物体……その中身はうどん粉(10キロ)。

全員でバンザイの姿勢を取り、両手でその大きな紙袋を空中で支えている。

 

 

 

球子「千景まさかお前……このために切り札(七人御先)を?」

 

千景「ふっ……まさか。違うわ。これは単純に私の能力……この子たちは、言うなら私の分身……妖精のような存在よ。いつでもどこでも、私が思うままに生み出せる……!」

 

友奈「すっ、すごい……!」

 

球子「普通にすごい」

 

千景「高嶋さん、もっと褒めて」

 

杏「千景さんだけ住んでる世界違いません?」

 

千景「ツッコんだら負けよ……さあ戻りなさい。私の分身たちよ……EX01~06」

 

 

 

千景の分身たちは宿主の命令を受け、千景の身体に溶け込むように自ら吸い込まれる。

これまで存在感と生気の薄かった千景の顔が薄紅に染まる。

 

千景の分身能力により生みだされた彼女(?)たちは通称『EX』と呼ばれる個体である。

それぞれ01~06の番号から成り、それぞれが意志を持ち、宿主の命令に従う。

この能力は千景の切り札(七人御先)からヒントを得ており、そのため6体以外の数で分身はできない。生み出される数は必ず6体となる(しかし各個体のエネルギー量は調整可能)。

 

ちなみに、このときの報告役は『EX01(イーエックスゼロワン)』と呼ばれる、他と比べ比較的真面目な性格の個体である。6体ともその姿形、大きさ等はまったく同じであるが、個体により多少の性格の違いが見られる。それぞれが何番であるかは、蛍のようなお尻に番号が書かれているため、スカートをめくればすぐに判断がつく。

 

 

 

球子「聞いても意味ないと思うけど……なんでそんな名前なんだ?」

 

千景「そのままの意味よ?extraから取ったの。真似しないでね……(威圧)」

 

球子「いやしたくてもできねーし」

 

友奈「エクストラ!」

 

千景「ウェクストラ」

 

 

 

千景はネイティブの発音が得意である。

 

 

 

友奈「ェクストゥーラ!」

 

千景「ウェクストラ」

 

友奈「ウズベキスタン?」

 

千景「……ノン」

 

友奈「アイハヴァー、イングリッシュ!」

 

千景「……イエス(キリストではない)」

 

友奈「たのしー!」

 

千景「(可愛い……)」

 

 

 

………………

 

 

 

千景「あとは私に任せて。白鳥さんにうどん粉ぶっかけてくるわ……」

 

球子「頼んだぞ!」

 

千景「もうひと仕事よ。出なさい、私の分身たち……うっ……?」

 

友奈「ぐ、ぐんちゃん!?どうしたの?急にふらついて……」

 

千景「さ、さっきの分身に体力を使ったから、ちょっと疲れただけ……」

 

友奈「大丈夫?バナナジュース飲む?」

 

千景「頂くわ。ズズズズー」

 

友奈「分身って、やっぱり疲れるの?」

 

千景「ぷはっ……ええ……EXたちは、言うなら私の身体の一部……だから、あの子たちが疲れているなら、当然私も疲れる……そもそも、この能力自体を発動するにも体力を消耗するし……10キロのうどん粉を運んだとなると、その負荷は大きい……」

 

 

 

千景の能力は、切り札のように戦闘力が7倍になるというものではない。

分身体は千景の身体から生成されるため、それぞれのエネルギーを均等に割り当てた場合、各個体のエネルギー(体力、筋力、存在感など)は、単純計算で宿主本人の1/7。当然、本人のエネルギーも分割される。今回の場合、千景は自身の力を半分残し、残り半分を分身に使用した。

 

つまり、先ほど千景は本来の半分の力でうどん粉を運んで来たことと同義。

現在、千景はそれによる疲労により、再び分身を出せない状況。

バナナジュースで体力の回復を図る。

 

 

 

友奈「だからキウイジュース飲んでたんだねー」

 

球子「そんなに疲れるなら、最初から分身しなけりゃ良かったんじゃ……」

 

千景「……馬鹿言わないで。私がうどん粉を直接取りに行ったら、その間高嶋さんと話せないじゃない……!」

 

球子「うーん、その点は尊敬できる」

 

杏「一緒に取りに行けば良かったのでは?」

 

千景「あっ……」

 

球子「……なんかもう色々めんどくさいから、タマが行ってくる!速攻だ!」

 

杏「頑張ってぶっかけてください!」

 

 

 

………………

 

 

 

球子「喰らえ歌野ぉぁああああああっー!!!」

 

白鳥「っ!?なんや!?」

 

 

 

どっばぁ……!

 

 

 

白鳥「……ケホッ、ケホッ。ホワイ?私は一体何を……」

 

球子「ふぅ……」

 

若葉「た、助かった……のか?」

 

 

 

歌野、まさかの完治。

遠くで見守っていた杏たちは……

 

 

 

杏「やっ……やった……!(粉まみれだけど)」

 

藤森「まさかうどん粉で治るなんて……(粉まみれだけど)」

 

友奈「すごい!治ってる!ぐんちゃんの言う通りだったね!(粉まみれだけど)」

 

千景「治ったぜ……(クレ○ジー・ダイヤモンド風に)」

 

友奈「ひなちゃん、ひなちゃん!もう安心だよ!」

 

ひなた「ふぇ……?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F教室

 

 

球子決死の行動からおよそ30分。

若葉と白鳥、そして球子は粉まみれとなった服を着替え、一同は教室へ。

とりあえず反省会という流れになった。

 

 

 

若葉「ふぅ……今回は割かし不幸な事故だったが……倉庫の後も球子が率先して頑張ってくれたんだってな。ありがとう、球子」

 

球子「いいっていいって。タマたちも最初は冗談半分で追いかけてたから」

 

若葉「だが、ひなたが危険な状態に陥ったときは、解決案を誰よりも必死になって考えてくれたと聞く。そこは本当に感謝している。ありがとうな……」

 

球子「うはっ、なんかこっぱずかしいぜ……」

 

若葉「それに球子の行動には、ひなたも感謝していry

 

杏「若葉さん!いけませんそれ以上は!」

 

若葉「なっ、何がだ……?」

 

杏「(はぁ……天然タラシはこれだから……)」

 

球子「(あんず?)」

 

 

 

………………

 

 

 

若葉「それに、うどん粉を持って来てくれた千景にも感謝している」

 

千景「ち、違うわ……私はただ、上里さんを助けたいと思っただけ……」

 

ひなた「えっ///」

 

千景「あ……いや……///」

 

 

 

ふと目線が合う2人。

その隙を、彼女は見逃さない。

 

 

 

杏「『ひなちか』!ひなちか……いいですね!」

 

千景「そっ///そういう意味じゃないわ……!あ、あのまま放っといたら高嶋さんまで危ないかも……だから何とかしないとって……そう思っただけよ……」

 

杏「ふーん……ニヤニヤ」

 

千景「何よ……それに、私は『ひなちか』なんて需要ないと思うけど……」

 

ひなた「ち、千景さん。そんな言い方って……ひどい……」

 

千景「ああっ、いや、そういう意味じゃなくて……」

 

杏「泣かしたー!」

 

千景「あうっ……その……ご、ごめんなさい……」

 

ひなた「……では千景さん。反省しているなら、今度私に耳掃除させてくださいね☆」

 

千景「(……はっ!騙された……)」

 

杏「女の子が2人いれば成立する……それが『百合』なんですよ」

 

 

 

わいわい……がやがや……

 

 

 

白鳥「マジワッツハップンド……どうしたのかしら」

 

藤森「うたのんのせいだよ」

 

白鳥「リアリィ?オンリー私?」

 

藤森「イエス、イエス、オフコース」

 

ひなた「それにしても、さっきの放送を若葉ちゃんに言わせたのは歌野さん……あなたらしいですねぇ……」

 

白鳥「え?何のことですか?(記憶が曖昧)」

 

ひなた「お話があります」

 

白鳥「なんかよく知らないけど……ヘルプミー!みーちゃん!」

 

藤森「あ、私じゃがいもの収穫あるから」

 

 

 

女子トイレに連れて行かれる白鳥を見捨て、藤森逃亡。

『アミノ酸スコア1000』……それは白鳥がトイレットペーパーに記した最後のダイイングメッセージとなり、白鳥には食堂と倉庫の床の掃除、そして一週間の料理当番が言い渡された。

 

 

 

球子「(さって……タマはもう疲れたから部屋に戻るとするかな……)」

 

 

 

ぼやぁー……

 

……ん?あれ?なんだ?

視界が……揺らいで……一体、タマは……

意識が、遠のいて……あっ……

 

 

 

ドサッ

 

 

 

「タマっち先輩!」

 

 

 

………………

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:1F保健室

 

 

球子「(……パチクリ。ん……ここは……)」

 

 

 

白い天井……ということはここは、病院?……いや、保健室か。

あれ?タマは今まで何を……なんで保健室で寝てんだ?

うーん……あとちょっとで思い出せそう……

 

 

 

「たっ、タマっち先輩!良かった……」

 

 

 

天井のシミを数えながら記憶を巡らせていると、聞き慣れた声がした。

声の方へ顔を向けると、そこには涙を浮かべ立ち上がる杏の姿があった。

 

 

 

球子「あんず……泣いてどうしたんだよ」

 

杏「いえっ……タマっち先輩が目を覚ましたのが嬉しくて、つい……」

 

球子「大袈裟だな、あんずは……それよか、タマは一体……」

 

杏「寝てたんですよ。今は夜中の8時です」

 

球子「寝てた?たしか今日は歌野が暴れて、だからうどん粉ぶっかけて、若葉に褒められて……それから……ええと。なんだっけ……」

 

杏「すべてを話すと長くなりますが、タマっち先輩はあの後、疲労と貧血で倒れてしまって……倒れたタマっち先輩をみんなでここまで運んで、今に至るというわけです」

 

球子「(あんまり長くねーな……)そうだったのか……タマが貧血とは……たしかに、今日はバタバタしすぎて昼ご飯食べられなかったしなぁ……」

 

杏「食欲ありますか?もし空いてるなら、今日の夕飯持ってきますが……」

 

球子「おお、持って来てくれるのか!?」

 

杏「病人なんだから当たり前!戻るまで大人しく寝ててね」

 

 

 

………………

 

 

 

杏「はい、あーん」

 

球子「モグモグ……あんず。もうひとりで食べられるぞ?」

 

杏「そうですか?じゃあもう一口だけ……」

 

球子「……なんか前にもあったよな、こんな光景……」

 

杏「以前の戦闘で腕脱臼したときですね。はい、お箸」

 

球子「ん」

 

 

 

杏から箸を受け取る。

 

今夜のメニューは白飯に味噌汁、コロッケに漬物か……一品足りない気がする。

……はっ!まさか、タマが病人だから敢えて数を減らしているのか!?許せないナリ!

あー……ていうかこの小説ツッコミ役少なすぎ!そろそろ誰か、タマと交代してくれ……

 

 

 

チーン!

 

 

 

球子「……チーン?何の音?」

 

杏「ちょっと待っててください」

 

 

 

保健室の別室へと消えた杏。

1分もしない内に戻って来た杏は、誇らしさと嬉しさが混じった顔をしていた。

 

 

 

杏「できましたぁ……!」

 

球子「え?その皿の上にあるの……骨付き鳥じゃん……!」

 

杏「あまり食欲ないようなら出さないつもりだったんですけど……タマっち先輩は、これ食べた方が早く元気になりそうだから!今日の夕飯のおかずを温めて持って来たんです」

 

球子「今夜の夕飯は豪華だったんだな!美味そう」

 

杏「私もさっき食べました。結構いい鳥みたいです」

 

球子「と、ところでシェフ?これは『おや』?それとも『ひな』?」

 

杏「両方が、半分ずつです……!」

 

球子「うひょーっ!きたぜ!いっただきまーす!」

 

杏「あっ!」

 

 

 

球子は骨付き鳥の『ひな』を二、三口頬張り、さらにご飯を一気にかき込んだ。

しかし、その勢いで喉を詰まらせてしまう。苦しむ球子に、杏は慌てて背中をさする。

 

 

 

球子「んんっ!?うぐ……」

 

杏「も、もう。はいお水。ゆっくり噛んで食べなきゃ……」

 

球子「ごく……むぐ……ふぅ。いやー今のは危なかった……美味しいけども」

 

杏「タマっち先輩はいつも無茶しすぎるんです。今日のことにしても、食事や戦闘のことに関してもそう……誰よりも頑張って……私より身体小さいのに……」

 

球子「ちっちゃいは余計だろ!……あんず?」

 

杏「本当に……わかってる?」

 

球子「あ、あんず?」

 

 

 

怒っているのか、不安がっているのか、わからない。そんな微妙な表情を見せる。

彼女の急な雰囲気の変わりように戸惑いを見せる球子をよそに、杏は言葉を続ける。

 

 

 

杏「わかってないよ……タマっち先輩は、ひとりで突っ走りすぎ……!今日だって急に倒れたこと、私ホントに心配したんだから……!貧血だって言われても、私は心配で……不安で……何も手につかなくて……だからこうして、目が覚めるまで待ってたんだよ……」

 

球子「……すまん……心配かけて悪かった」

 

杏「ううん、突っ走るのが悪いとか、そういう意味じゃなくて……現に今日の蕎麦騒動は、タマっち先輩のおかげで解決したようなものだったし……でも私や友奈さんが協力するって言わなかったら、タマっち先輩ひとりで何とかするつもりだったでしょ?」

 

球子「う、うん……」

 

杏「……私が言いたいのは、あんまりひとりで無茶しないでってこと。私が困ったときにタマっち先輩が助けてくれるように、私もタマっち先輩が困ったときに助けてあげられる存在になりたい」

 

球子「あんず……」

 

杏「だから、もっと頼りにしてもいいじゃないですか。私たちを」

 

球子「してるよ……頼りに」

 

杏「え?」

 

球子「バーテックスと戦うときはさ、あんずの後方支援はもちろん、他のみんなもタマが後ろの敵に気づかないときとかは、身を出して守ってくれる。だからタマも、安心して背中を任せられるんだが……戦いと、そういうのではちょっと……違うというか……」

 

杏「何が違うんですか?」

 

球子「何がって……」

 

 

 

キョトンと首を傾げる杏。

無表情なところが、また小動物的で癒されるな。

……って、そうじゃなくて。

 

 

 

球子「……なんつーか、あれなの!タマ、そういうの口に出すのは恥ずかしい年頃なの!」

 

杏「年頃って……一応私も同い年……」

 

球子「んああ!!!これ以上は疲れるからなし!はい終了!」

 

杏「えー?何ですかそれ……」

 

 

 

さらに追求しようとする杏を無理矢理制す。

杏が次の自分の言葉を待っていると判断した球子は、軽く深呼吸をして自分を落ち着かせる。

 

 

 

球子「んまぁ、話を戻すと……あれだ。うん。反省するよ……そうだよな。口に出さなきゃわからないことも、あるよな……はは、なんだか昔の若葉みたいだ」

 

 

 

特に痒いわけでもない後頭部を掻きながら、照れくさそうに話す球子。

ただ、目だけは真っ直ぐ彼女を見つめていた。

 

 

 

杏「本当に、反省してる……?」

 

球子「……ああ。もしタマが、ひとりではとても解決できないような問題……そんな難問にぶち当ったそんときは、なるべく誰かに相談して……力を貸してもらうようにするよ。約束する」

 

杏「ふふ、ならもっと食べて元気にならなきゃだね♪」

 

球子「そうだな……って。おい、あんずー?どこ行くんだ?」

 

 

 

何も言わず、急に保健室を後にする杏。

数分後、何やらハイテンションな声と共に再び保健室のドアが開いた。

杏が、白鳥を連れて来たのである。

 

 

 

白鳥「イエーイ!球子さん、元気してる?」

 

球子「あっ、今回のめんどくさい事件の張本人!生きとったんかワレ!」

 

白鳥「もっちろーん!見舞いついでに、ハイコレ!」

 

球子「サラダ……!?」

 

白鳥「イエス!バスケットフル、自慢の緑黄色野菜よー!」

 

 

 

白鳥が持って来たもの……それは直径1メートルの皿に入った巨大サラダ。

諏訪厳選の新鮮な野菜を盛りつけ、シーザーサラダ風にしたものである。

そのボリュームは圧倒的……重量は、軽く2キロを超える。

 

あー、これ絶対タマが食べるやつじゃん。

 

 

 

杏「タマっち先輩、野菜を食べて大きくなりましょう!」

 

球子「あ、あんず……話が見えないんだが……」

 

白鳥「杏さんから聞いたわ。球子さんの行動力は、私の若葉にも引けを取らない……でもその反面、思うように身体が動かず、今回のように貧血になって倒れてしまうと……」

 

球子「いやそれは単に、今日タマタマ昼食を食べるの忘れてたからで……」

 

杏「そこで!野菜を食べて体力をつけようって話です!暑い夏だからこそ!」

 

球子「ひえっ……この量をタマひとりで……!?」

 

白鳥「基本的に野菜は、茹でた方が嵩も減るし効率良くエネルギーを摂取できるんだけど……この暑い中だとサラダが適切かなーっと思って、シーザーサラダにしてみました!」

 

杏「白鳥さんに協力して頂いて良かったです……これも仲間の力」

 

球子「まぁ、食べるけど……ピーマンがそのまま乗ってるんだが?」

 

白鳥「ノープロブレム!ピーマンは生でも食べられるから」

 

球子「マジかよ……」

 

白鳥「さあさあ!球子さん!」

 

杏「野菜モリモリ食べやさい!」

 

球子「たっ、タマに任せタマえ!ってな!(トホホ、食えるのか?この量……)」

 

 

 

自分ひとりで無理をしたことを反省し、また忘れないと誓った球子。

それに気づかせてくれたのは他でもない、親友である伊予島杏の存在であった。

 

だがその決意は、新たな仲間が登場する布石ともなっていた……!

そのことを、球子たちはまだ知る由もない……

 

 

 

続く




千景回に見せかけたあんタマ回、いかがでしたか。
次回は『ゆゆゆい』よりあの勇者が登場する……かも?

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