主人公を英雄として召喚したら   作:ひとりのリク

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仕事のせいで軽く鬱気味になってしまいましたが、なんとか仕上げれました…!
今回は、のんびりとしたお話。


妖の総大将、英雄に出くわす2

夜風に招かれ、男は目的もなく歩いていた。足は赴くままに任せる。気持ち的には、夕暮れ時に近所を散歩しながら夕日を楽しむ気分。生前はよく、夜と昼の合間、夕暮れを見に外を出歩いていた。

誰も通らない小道。いや、人はその道を避けていたのかもしれない。そこを通ると気持ちが落ち着いた。

大勢の人々が行き交う、少し窮屈に思う通り。男が歩くと、不思議と道が開ける。

 

「はぁ。なんで呼ばれたんだろうな、俺は」

 

夜空に浮かぶ月を見上げ、答えの出ない疑問をぼやく。求めていない運命が彼の手を引き、この世界へと連れ出した。あの時、興味本位で手を取った自分も中々だ…

 

立ち止まり、辺りを見回す。気づけば山を降り、住宅が立ち並ぶ道を歩いていたようだ。学生服を着た高校生や、仕事帰りでくたびれきった顔のサラリーマンなど、談笑したり溜息を吐きながら我が家へと帰っていく。

 

「平和だな、こうして見ると。聖杯戦争なんて物騒な争いがあるとは、夢にも思わねえ」

 

昔もよく、こんな光景を見ていた。

苦難が待ち構え、それを必死で打ち砕く。

足掻いて、走って、立ち止まることをしなかった。立ち止まれば、大将としてあいつらを引き連れる事なんてできない。百鬼の先頭に立つ重みを、実感できない。

やがて平和が訪れた。

俺を呼ぶ声につられ、後ろを振り向く。その声一つ一つが、どうしようもなく魅力的。官能的な意味はなく、親しみがそこにある。彼らは、全て自分の力となってくれる仲間。共に人を想いやり、守ることを誓った。

記憶を辿る。今、この歳で呼ばれた意味を考える。

 

 

聖杯曰く、全盛期の姿、能力を持って現界するらしい。

そうか、とだけ呟いて彼は聖杯に、自信が呼ばれた理由をそこで問うことはしなかった。

「それで、俺のクラスはもちろんセイバーだよな?」

7つのクラスがあると知り、呼ばれた理由そっちのけで聞いた。

返事は、「アサシンだ」と色のない返答。感情が込められていない、マニュアルのセリフを機械で再生したような、こちらとして反応に困るものだった。アサシンと聞いて、酷く落ち込んだ。余裕でセイバーだと確信していたから。

「真名、良奴 リクオ。クラス、アサシン」

落胆するアサシンを前に、聖杯は続ける。

それだけを淡々といい終わり、後は知識を受け取らされ、俺は召喚に至る。曇り空が永遠と続く待機場所は一転、目を開けると……

 

 

「ん、思い返してみたけど意味があるかと言われれば、ないな」

 

一軒家の屋根に上り、座る。今の一時、この聖杯戦争を楽しむくらいしか、アサシン…真名、奴良 リクオは思いつかない。途中まででなく、最後まで本気で楽しむ。第二の生は、生前と変わらず在り続ける。聖杯にかける望みは、呼ばれた理由が分からない以上、持っているはずもない。いや、聖杯に頼み込む程の望みがないから、呼ばれた理由が分からないのだ。

 

「なあ、メディア。ほんとにどうして、俺なんかを呼び当てるんだあ、全く」

 

頬杖をつき、誰もいない背後に顔を向け、リクオは誰かに問う。

それは、妙な光景に違いない。リクオは、何処の誰かも知らない、立派な木造一軒家の屋根に座っている。では、リクオはメディアという住人に話しかけているのだろうか?

そんなはずはなかった。リクオはあくまでも、聖杯戦争に参加するサーヴァント。彼に限らず、″マスター″以外の人間とは接触をできるだけ避けようとするものだ。それは自身の隙を見せないためであり、正体を隠したいがため。

しかし、リクオに限っては、この2つは当てはまるかどうかは定かではない。

特に、深く考えていないのが現実。だが、常に気配は悟られない。

故に、彼の気配に住人が気づくはずもなく。では一体、彼は誰に話を投げたのか。

 

「本当よ。正直なところ、私にも理解できない事が起きてしまった、としか言えないわね。妖の大将さん」

 

リクオの背中に、ボンヤリと浮かび上がる人影。言葉を発したかと思うと、ソレは不満そうな態度を全面的に表へと出している。

彼は全く驚かず、さもその光景が普通かのように、月の光に照らされる影を見る。

 

「ん〜。あれだな、夜に召喚とかするからだろ……夜が触媒になっちまったんじゃねえのか?」

 

正体のない女性は、一つ小さなため息をこぼす。

 

「あのねえ。夜が触媒だなんて、そんな話聞いたことありません。夜が触媒だったなら、凡百のマスターの殆どは貴方を召喚するわよ」

 

それもそうだな、笑い気味に言い屋根に寝そべる。

夜空を見上げた時に見える月。静かに地球を見守る、夜の太陽。

もしかすると、あの月に誘われて俺は召喚されたのかもな。なんて考えて、意識をメディアと呼んだ女性へと戻す。

 

「なんだか妙に静かな気がするんだが、メディア?まさかとは思うが……」

 

メディアは不気味な笑いを溢す。少々古臭い笑いは、リクオの的外れな疑惑を否定しているものとは、気づいていない。

 

「あら、心外ね。そんな訳ないでしょ?その件に関しては、不服ですが諦めました」

 

その返事に、リクオは小さく笑みを見せた。

念を押した意味を含めたが、メディアの言葉を聞いて安心の息を漏らす。

 

「そうだよな、悪かった。少しくどかったな」

 

召喚され、マスターがサーヴァントだと知らされた時は、大して驚きはしなかった。むしろ、良い作戦だなと、感心した。世の中には、飛び抜けた行動力を持つ者が沢山いて、彼女はその中でも飛び抜けていたんだな、そう思った。

これを卑怯な奴だ、臆病め、そんな言葉を並べ刺激する必要もない。

 

「他のサーヴァントに対抗するためにと思ってやるはずだったのに。貴方の力なら、その必要はなさそうですもの」

 

だが、彼女が聖杯戦争に向け、どのような姿勢で取り組むのかを知った時、リクオの目にはメディアをマスターではなく、敵として映った。

その後は言うまでもない。

これまで通り、妖としての己を貫き、リクオは行動した。

苦労の甲斐もあり、メディアを説得することに成功した。

 

「改めて見ても、不思議だわ。いえ、丁度良いと褒めるべきかしら」

 

彼女の言葉をどう受け止めるか悩んでいると、

 

「不思議なスキルだって言ってるのよ。貴方は私を″纏う″だけで、魔力に関してはほぼ倍。それ以外も、ワンランク上になるなんて」

 

「俺も想像以上に強くなってて、今でも驚いてるさ。魔力ってのはすげえな。少し、お前の畏を刀に乗せて斬っただけでバーサーカーを殺っちまうんだからよ」

 

「デタラメな強さに間違いないわ。ですけど…」

 

つい先ほどの戦いを少し思い出す。

夜山に立つ枯れ果てた大量の林。人が歩き通れる道が何処かへ続いている。リクオは、たまたま立寄ったに過ぎなかった。

妖を誘っているように見えたのかもしれない。或いは、夜山を歩く巨人、バーサーカーの気配を直感で嗅ぎ取ったのか。散歩のつもりで入った森で、サーヴァントと出くわした。

 

「魔力消費が凄まじいのは、どうにかならないのかしら!?貴方が″鬼纏″を発動した瞬間、私の十分の一以上、魔力が無くなったわよ!」

 

そこでつい、やってしまったのだ。リクオは、バーサーカーを己の百鬼に加えようと説得するも、話が出来ない事を知ると…

らしくなく、大声を上げた魔女。

 

「それくらい、どうってことないだろ?細けえ事だ!」

 

「わ、悪かったって!そんな距離からお前の攻撃浴びたら、流石に″間に合わねえ″」

 

「あんまカッカしてっと、老けるぞ?」

 

「ほんとに殺すわよ?」

 

背中から締め付けられるような殺気を浴びる。本当に殺気を放つものだから、慌ててメディアをなだめる。彼女の沸点は、割と低いのだと知る。

メディアの荒ぶる感情を落ち着かせると、リクオは腰を上げた。

立つと、側を通り過ぎる風に紫色の羽織がふわりとなびく。魔女、メディアが身を包む装飾をイメージした羽織は、どこまでも怪しくリクオの背中を覆う。

 

「よぅし、今夜はあと一人、できれば二人に声を掛けてみるか」

 

 

 

 

坂道を下り、数分も経たない間にリクオは、これまで見てきた一般人とは違う何かを放つ存在を見つける。辺りに漂う微かな魔力が、彼らの存在を人の域を超えた者だと知らせる。

だが、微細な魔力を感じ取れるのはメディアのおかげかもしれない。

彼女を纏い行動していると、魔術師の魔力を手繰り寄せることも可能になった。リクオのみ、かつ″今″の状態なら、相手の中に籠る魔力は視ることもできなかっただろう。

 

「お〜、あれか。手前の高校生くらいの男女は、……なあメディア、どっちがマスターか分かるか?後ろの、黄色いカッパを着たサーヴァントの」

 

居たのは、計3人。先頭を歩く高校生くらいの男女と、控え目に後ろをついてくる黄色いカッパを着た人を超えた存在。

カッパの下から覗く甲冑。月光に反射し、控え目な光が鎧を見え隠れさせていた。何より隠しようのない、大人しい野獣の精神。

 

「あら、手を組むのが早いのね」

 

彼らのことを言っているのか、メディアは呟いた。

手を組む、という言葉に、

 

「ん?」

 

思わず疑問の音が出てしまう。

この状況で、手を組むと表現するのなら。つまり、

 

「アサシン、あそこの二人は、どちらもマスターよ。カッパを着た可哀想なサーヴァントのマスターは、坊やね。坊やの方は相当な未熟者、サーヴァントの霊体化すらさせてあげられないなんて」

 

そう。

あの二人は、聖杯戦争に参加したマスター。

リクオは、メディアのお陰で大雑把に遠くの魔力を手繰り寄せている。彼の召喚は正規のモノではないらしく、所々サーヴァントとしての機能を欠けていた。

 

「へぇ、なるほどな。俺らみたいに協力してるってことか」

 

「隣に立っているお嬢さんは、魔術師としては格段に上の方よ。警戒するなら、霊体化しているお嬢さんのサーヴァント」

 

そうかい、それだけを呟きリクオは步を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【次回抜粋】

 

「か………は………」

 

それは、死を意味する一太刀。

どうしようもない死を与える、至極最高の選択。聖杯戦争からの離脱には、ただこの一手で足りる。

………は何も言わず。少しだけ驚いたように目を開き、口元を結ぶ。

非常に酷ではあるが、だが決定事項。

たった今、聖杯戦争最初の敗退がここに刻まれる。




はい、ということで…
次回抜粋という形で、次回投稿予定のものを書きました。

本当は、リクオが士郎、凛、セイバーに絡みに行くシーンまで書きたかったのですが、気力が持ちませぬ…
どうか、次回をお待ちください!

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