主人公を英雄として召喚したら   作:ひとりのリク

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今回からアサシン編となります。
ですが、アサシン編から読んでもストーリーが分からないということはありません。
この前は、バーサーカー編がありますが、全くの別物です。
では、どうぞ一時ですが楽しんでいってください!


妖の英雄、参戦す
妖の英雄、英雄に出くわす1


夜の静けさ極まる、アインツベルンの森の末端。草木を揺るがす雄叫びが森を駆け、恐怖と絶望がその森を支配していた。

ずどん、鈍く重い破壊音が響く。音の発生源は、一人の戦士。

まるで大木の太さや頑丈さを視野にも入れていない、圧倒的な破壊力。一般人が理由も知らず立ち入れば、たちまちに混乱し、失神する未来は見て取れる。感じ取れてしまう。地肌で恐怖の気配を味わってしまえば、後はひたすら沈むのみ。底のない、畏れの闇沼へ。

 

「どうしたの、バーサーカー!なんで攻撃が当たってないのよ………」

 

小柄で特徴的な白髪の少女は、細々とか弱い声で呟く。

紅瞳は恐怖に揺れ、信じられないものを受け入れまいと拒む。涙は堪える。だが、変わりに声が弱々しい。

彼女は沼へとはまりかけていた。敵のサーヴァントに抱いてはいけない、僅かな″畏れ″が支配する世界に、足先が浸かる。畏れの海面に波紋が広がる。

 

「■■■■■➖➖!!!」

 

 

咆哮には苛立ちが込められ、目の前のサーヴァントに斧剣を振りかざす。

速い。まるで鞭を振り回すが如く。己の背丈はあろう武器は、2mを超え、太くゴツゴツとしたフォルムはしかし、その重さを感じさせない。

夜山に立つ戦士、理性と引き換えに強大な力を得たクラス、バーサーカーは荒々しく、しかし洗練された動きで武器を振りかざす。

瞬きをする毎に木が倒れ、地面に穴が空く。倒れる木が呻き声を上げ、えぐられる大地は悲鳴を上げる。バーサーカーの斧剣が大地を叩けば、地面は揺れる。当たらずとも、空気を割くだけで突風が発生した。これは正しく天災。大男は、″敵″を殺すために一山を削り取る勢いで、その怪力を発揮していた。

そして、動く天災の如きバーサーカーに狙われた敵。″影″がその合間を縫って移動している。ぬらりくらりと、まるで他人の家に堂々と上がりこむ妖怪のよう。決して逃げている訳でなく、自分はあたかも″攻撃されていない″と言わんばかり。

縦に切っても影、横に薙ぎ払っても影。切っても潰してもキリがなく、まるで金太郎飴のよう。

 

「…」

 

楽しげに男は笑う。

 

全力で遊ぶ子供のように。男は楽しんでいた。

 

一太刀、バーサーカーの背中に刀傷が入る。血は吹き出さない。変わりに、傷口から魔力が漏れ出していた。微量ながらも、この漏れは痛い。これが数十とバーサーカーに入れば、かなりの魔力を削り取られてしまう。

呻くバーサーカーの背後の岩の上に、気配が立つ。バーサーカーの攻撃が止むと、そのサーヴァントは現れた。

和服に身を包み、真っ直ぐ後ろへ伸びた月の光が似合う黒と白の髪が交じるサーヴァント。手には、刀。1m程の、山の香りが漂う木の鞘に入れた刀。

だが、ただの刀ではない。何かしらの呪いか、魔術回路の類いを乱す能力が備わった、厄介な代物だということはわかった。どういう伝承があるかはまだわからないが、宝具の類だろう。

 

「ひ〜っ!おっかねえ、まるで土蜘蛛だなお前!」

 

男は笑みながら言う。それは、欲しかったオモチャをプレゼントされ喜ぶ子供のよう。

 

イリヤの目には、バーサーカーを前に無邪気に遊んでいるようにしか見えない。バーサーカーが奮い振るう剛撃の数々は、あの男には無意味。斬った!と思ったら、夜に紛れて消えてしまう。この状況を打破する糸口を探さなければ、いかに暴走するバーサーカーといえど、″限界″がやってくる。

 

「■■■■■■■➖➖➖➖!!!」

 

狂戦士の振りかざす斧剣が、そこにいるであろうサーヴァントを狙い降ろされる。普通ならここで、斧剣を受けるなり躱すなり行動を取るはずで、ましてバーサーカーの攻撃を防御無しに受けきるなど不可能。

 

影のようなサーヴァントは、避けも、受けもしない。先ほどと変わらず、ただ立っているだけ。先ほどと変わらず、ただ笑っていた。

なぜそこまで楽しんでいる?

 

「そろそろ落ち着いたらどうだい、バーサーカー?そこの嬢ちゃんと少し話をさせてくれないか」

 

男はバーサーカーを見上げ、自分に振り下ろされる斧剣はまるで見ていなかった。

バーサーカーもイリヤも、その声を無視する。元々、バーサーカーに止まる、という理性は残っているかも分からないが。

バーサーカーの攻撃が、男に到達する。バーサーカーの攻撃が、サーヴァントの頭に落ちた。刀で受けることも、技術で流すこともしない。何故なら、

 

「やべえな。幾らなんでも、その破壊力は無茶苦茶じゃないか?」

 

サーヴァントには、当たっていない。掠りも、紙一重でもない。大幅にバーサーカーとの位置を取っているからだ。

いつの間に…?

それを、何故気づけないのか?

分からない、としか答えは出ない。決めつけるのはよくない。ここで結論を出すのは、あまりにも早すぎると判断しているが、それでも掴めないことは事実。

だからイリヤは、目の前のサーヴァントがバーサーカーの攻撃を受ける瞬間を観察することに専念する。これまでもそれに専念していたが、魔力の形跡すら追えないでいる。

 

空気に波紋が広がった、気がした。

その波紋は広がり、消えていく。気づくと、謎のサーヴァントも消えていた。煙のような、黒い影が漂うだけ。

 

かと思えば一転、バーサーカーの背後にそれは現れる。僅かな波紋が空中に広がり、同時に刀が振り下ろされた。

 

「何度でも生き返るなら、まだチャンスはあるってことだよな。バーサーカー、気に入ったぜ!お前、俺の百鬼に加わらねえか!?」

 

バーサーカーの当たらない攻撃を眺めらながら、手に持つ刀を肩に乗せるサーヴァントが言う。

その声に反応し、それが本人から出された声だと判断したバーサーカーは、次は無駄なジャンプなどせず、突貫する勢いでサーヴァントを攻撃する。

目で追うことは難しい。が、

 

「ん〜、会話できないのは演技とかじゃねえのか、やっぱり。仕方ねえ、今回は諦めるか。元々、勧誘目的だったし。一回だけ″殺し″ちまって悪かったな!」

 

その男には届かなかった。

やはり影。バーサーカーが突貫し首を狙った一撃は、砂のように霧散した。

今日、何度目かも分からないバーサーカーの咆哮。

 

「またな!」

 

バーサーカーの雄叫びを追い風に、アサシンのサーヴァントは持ち前の逃げ足で夜の森へ姿を消した。

1秒もすれば、静寂が訪れた。

影を纏ったサーヴァントは、もういない。隠れている可能性もあるが、それはない。あのサーヴァントがこの場にいた時の、妙な空気は夜の風に流されているからだ。

 

「クラスはアサシン以外あり得ないわね。あの気配遮断スキル、ランク高すぎじゃない……?」

 

 

 

 

10分に満たない戦闘は終わった。

 

森を荒地へと変えたバーサーカーは、袖を掴めぬ彼の後を追おうとしたが、マスターであるイリヤスフィールがなんとか抑制させた。イリヤの直感が言うのだ。とても悔しいが、ここは我慢しろと。

その直感に、賛成する。

歯を食いしばり、今の散々たる現状を受け入れる。

 

自信にヒビが入る。

 

「殺された……まだ、聖杯戦争は始まったばかりなのに、″一回″もバーサーカーが殺されたの……?」

 

負けるはずがない。だが、バーサーカーは殺された。

確信していた勝ちへの道の所々に、小さくヒビが入ってしまった。

だが、殺されたはずのバーサーカーは健在。全身に刀傷はあるものの、溢れる闘志に疲れは見えない。

何故、健在しているのだろう。そんな疑問を投げる者はいない。

 

「………」

 

「帰りましょ、バーサーカー。今夜はお兄ちゃんに会いにいくのはやめよ。まずは休みなさい」

 

湧き上がる屈辱の水。

これまでの苦悩に比べれば軽いものの、過去を思い出すより現在の記憶の方が強く反映されるのは言うまでもない。

 

自信に満ちた心にヒビが入る。

ガラスの隅に小さなヒビが入った。

 

 

少し、整理をしたい。そうしないと、城に帰った途端に寝てしまいそうだから。さっきの記憶がかすれでもすれば、糸口を逃すかもしれない。

まず、あのサーヴァント。クラスは何だろうか?

刀を持っていた。だが、気配を見つけにくかった。

ここから見るに、アサシンの可能性が濃ゆい。そうでなければ、説明がつかない点がある。セイバーというクラスもあるが、それはない。

アサシンには、気配遮断というクラススキルがある。ランクによって効果は変わるが、攻撃に転じることがなければサーヴァントといえど、気配を感じ取ることは難しい。

…が、ある程度まで近づかれれば、流石に気付く。どれくらいだろうか、少なくとも。迫られるサーヴァントの射程距離に触れるか否の時点で、存在を感知できるはず。

この見立ては、外れではないと思う。サーヴァントでも、アサシンが触れることができてしまう距離まで接近を許す程、呑気屋はそういない。

はずだが……バーサーカーは、それを許した。いや、本人ではない。マスターであるイリヤの頭に手を置き、よう!と気安く挨拶される距離になるまで気づきもしなかった。もしかしたら、声を出さなければ側で歩いていても、あの男の存在を感知すらできなかったのではないか…?

影を斬る感じだ。光を掴もうとして掴めない感じ。掴んだ手の中には、何もない。

イリヤの自信が傷ついた原因の半分は、これだった。

残り半分は、、。

バーサーカーの死。

バーサーカーは一度、アサシン(仮)に殺された。

簡単に言うが、それは異常だ。

バーサーカーは、特別な宝具を持っている。聖杯戦争にて、その命を12回まで散らそうとも、脱落しない。12回までは、死んでも復活する宝具。この効果を知るだけで感じ取れる、バーサーカーのケタ違いの強さ。1度死ぬと、復活するためには凄腕魔術師が一生をかけて積み上げた魔力分を必要とする能力を、既に消費してピンピンしているイリヤもケタ違いの化け物だが。

そこは問題ではない。

これほどの宝具を持つバーサーカーが殺された、それが大問題なのだ。世界広しとはいえ、複数回の死を迎える英雄は数いない。

簡単に伝えると、バーサーカーはとてつもなく強い。イリヤがマスターであれば、彼は聖杯戦争を戦い抜く歴戦の戦士の中で5本の指に入る実力だ。そのバーサーカーが、殺された。それも、わずか1分で。

バーサーカーを仕留めた、アサシン(仮)の攻撃は如何なるものか。

………不明。

正確には、聞き取れなかった。ワザとだろうか。

宝具であることは、間違いないと思っている。しかし、宝具の解放時、周囲にノイズのようなものが発生したのだ。音が掻き消えるような、嫌なものだった。

もう一つ、不明な点がある。

アサシン(仮)が宝具(仮)を解放した時、ノイズに混じって、もう一騎のサーヴァント反応を感じた。

何故か?どうして?

言える事は一つ。

アサシン(仮)には、一人の協力者がいる。

経緯は考えても分からない。

だが、いる。確かに、あの宝具は…勘だが、アサシンだけのものではない。

 

 

ヒビが入る。

そこから、僅かな闘争心が溢れた。

 

「絶対に、あいつはバーサーカーが殺すんだから………!」

 

誰よりも、敗北を嫌う。無様や、ムカつくといった感情は二の次。

イリヤは、敗北の後に待つ結果を知っている。その後、何があるかを考えて、結果としてつまらないと結論を出す。

勝つことは絶対だが、急ぐものでもない。道中を楽しんでいこうと考えていた矢先、アサシン(仮)に出会った。そして、一太刀浴びた。

負けず嫌いなイリヤの精神に火がついた。ただ、それだけのことだ。

 

まずは、あの掴みようのない存在を明かさなければならない。

あの男は言った。土蜘蛛、それに百鬼と。調べよう。

バーサーカーが一度屠られたのは、空気に溶け込むような存在に惑わされたからだ。あの時、もっと気を引き締めていれば…

まさか、最初から″宝具″らしき物を解放するとは、予想にすらしていなかった。

 

森の奥へ足を向けるイリヤ。彼女の少し後ろを、静かについて行くバーサーカー。彼女達の聖杯戦争は、敗北から始まった。

 

 

 

 

 

 

一人のサーヴァントによって、正規のルートは大きく逸脱する。




クラス:アサシン

筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:C

クラススキル
騎乗(妖):C
気配遮断:-


保有スキル
鏡花水月:A+
-:-
-:-

たまたま呼ばれた、妖の総大将。
召喚されてしまったので、取り敢えず全力で遊ぶことにしたらしい。人間に危害を加える畜生以外に、本気で戦いを挑む気は今はない。

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