主人公を英雄として召喚したら   作:ひとりのリク

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この章、本来は3話完結で、次のクラスの話に移る予定でした。
考えた設定を、できるだけ詰め込んで使わないモノが無いように…と、ギュッゥゥゥとした結果、次回分くらいの文字数を書けそうになりました。
あと1話、もしくは2話でバーサーカー編は終わります。
どうぞ、お楽しみください


世界の宝具

俺が時を止めた(ザ・ワールド)

 

瞬間、世界が呼吸を忘れる。

決して誰も知ることのない、未知の世界。誰も侵入することが出来ない、理不尽な時の中。

音が消え、動きが消え、生気が消える。

枯れ落ちる木の葉っぱも、空を飛ぶスズメの羽音も、法定速度を超え道路を爆走する大型バイクすらも。当然、世界を又にかけ飛ぶ光さえも、そして、歴史に名を刻み今も世に知られる英雄達でさえも。全てが平等の名の下に、時の停止を強いられる。

そこには神すらもいない。在るのは、只一人の英雄の世界。その英雄のみが頂点に立つ、平等な世界。

平等とは、全ての者が同じ高さに立ち、同じ環境下であることを呼ぶ。だがそこに、例外がある。必ず生まれなければならない例外があるのだ。

それは平等を敷く提案者であり、平等の定義を決めた決定者であり、平等という横線から外れる者を許さない管理人。平等を確立するには、唯一人の世界が必要なのだ。

 

それに男は選ばれた。世界でたった一つの″世界″の席に座ることを。

頂上はただ一人。時を止める者は、二人も必要ない。現に、バーサーカーの他に時を止める者は、消えたか、あるいは元々存在しない。

 

空条 承太郎だけが動き、干渉できる絶対領域(プライベート・ルーム)。承太郎以外の時を一時的に止めることができる。それしかできないシンプルな能力だ。一つだけの効果で、他の磨き上げられた修練、鍛錬、技を超越する。

それが空条 承太郎の宝具、俺が時を止めた(ザ・ワールド)

 

その宝具は、世界を相手にできる。

絶対であり、無敵の宝具。

 

規格外の宝具。

正に、空条 承太郎の宝具は規格外の枠にしか当てはまらないものだった。

当然のことだが、イリヤへの魔力消費の負担は計り知れないように思える。

承太郎は、自分の宝具を知った時、そのことが気になり、召喚された後、試運転ということで宝具となったザ・ワールドを解放することを決めた。

魔力消費が半端ではなく、イリヤの魔力が底を尽き抜け死に絶える程なら、承太郎は自害すると決めていた。彼自身、理解しているつもりだった。魔力供給のおかげで現界している身だ。バーサーカーというクラスで、狂化の影響を受けないようにして存在しているにも関わらず、自身の燃費は悪い。

自決するという選択肢を、大袈裟だと笑うことはない。寧ろ、その決断が有り得るということを理解しているバーサーカーを、讃えても良い。イリヤの魔力の底を突き抜ける、或いは魔力が殆ど消費されているということは、つまりバーサーカーを現界させている事すらも命に関わる案件になる。

だから、宝具の魔力消費次第では、イリヤを守ることができない。マスターを死なせることを、承太郎の信念が、その結果を許さなかった。だが、まさかの結果となった。

魔力消費は、承太郎が時を止めることに関しては限りなくゼロに近い。静止した時の中で動き回る分の魔力消費のみが、普段より増え負担が大きくなるものの、そこはイリヤスフィール。その程度は屁でもないと結論。

 

「もう少しはやく使ってたら、俺の背中にコイツの剣が入る事は……っ、無かったんだがな。流石、最優と謳われるだけのことはあるぜ。マジにやばかった、スター・プラチナが間に合わなかったかもしれねぇと思うと、ゾッとするな」

 

1秒経過。

承太郎は、背中に入り込みかけている剣から離れ、完璧に静止した英雄の姿を見る。学生服が血で染まっているが、後でどうにでもなる。イリヤに仕えるメイドに頼めば、抵抗するかもしれないが、最後は引き受けてくれるだろう。

雄々しい麗人の騎士は、今は闘気なく止まっている。

手に握る不可視に近い聖剣は、実は承太郎は視えている。はっきりくっきりではなく、大方の線だけだが、長さも形も分かる。朧ではあるが、ないよりマシだという感覚でバーサーカーは結論している。

 

保有スキル、幽波紋。

スタンド使いならば、猛者怯者関係なく保有する。対魔力を兼ね、ランクはB程度の効果もある。

スタンド使いは、スタンド使いにしか見ることができない。その特性が、聖杯戦争で形を変えてスキルとして付与された。

主な能力は、魔力を感じ取り視ること。魔力による″モノ″の変化、強化、隠蔽などを視透かすこと。加え、宝具の魔力消費を使用者の本人の″精神力″の強さ分軽減すること。

そしてもう一つ、これが最も難題な効果。ある程度の魔術回路を持つ者なら、例え魔術の世界を知らない一般人ですら、スタンドを視ることができる。できてしまう…!

何故か。それは、このスキルのデメリットでは決してない。

他でもない、空条 承太郎が無理矢理に追加した効果だった。

だが!決して!無駄だと嘲笑うことは許されない。

彼は犠牲にしたのだ。狂化を。

狂化を引き換えに手に入れた。本来の理性を。精神力を。

 

理性を失った野獣として召喚される直前、彼は聖杯に狂化を外せ、と言った。当然、無理だと返答される。

じゃあ、と言って代わりにスタンドは誰にでも視えるようにして構わない、と申し出る。それは余りにも大きなデメリットではないのか、と逆に心配の言葉を投げられた。

理性を失ってまで叶える望みはない、ならば俺の現界をキャンセルしろ。それに対し。それも無理だ、貴方の現界は決定した…分かった、それでいい。

 

交渉はそれで終わり。承太郎にしかデメリットが無いように見えるやり取り、本当に呆気なく、2.3度のキャッチボールで終わった。

答えは単純だ…狂化のバックアップは承太郎にとって、スタンドが見られる以上の、そう、癌のような不必要なものだったからだ。

 

「ムカつくが、賢い手だと言っておくか。イリヤを狙って、コソコソ遠くから″矢″を放ちやがるとはな!どうやら俺は、矢という武器に関して、悪縁があるらしい」

 

2秒経過。

血が滲む背中に目を向けるが、すぐに関心なさげに別の物を見る。

坂の上、イリヤから50mほど離れた空中に止まる鋼の矢。弾丸の如く直線を描くそれを、鋭く睨む。それこそが、宝具を解放した理由。己がマスターを狙う矢から守り、今夜は撤退を決める。承太郎は本心、アーチャーという陰湿な英雄を表へと引きずり出し、スター・プラチナを叩き込んでやりたい気持ちだ。だが問題は、セイバー。アーチャーを追う上で、すんなりと行かせて貰えるはずはない。2対1という関係が出来上がり、下手に討ち取られては笑い話にもならない。

何より、もう時間もなかった。舌打ちする。

イリヤの元へ戻ろう、そう思ったが思いとどまる。

正面で静止するセイバー、の握る武器、不可視の剣。魔力を纏い、剣周囲の大気は霧がかかったかのように、霞んでいる。

本来であれば、触れることもままならず、まして握り手に取るなんて行為をセイバーは許さない。

が、それはどうでもよかった。承太郎は、この時の中で″試したい″ことがあるのだ。それを出来る絶好のチャンスが、目の前にあるのだ。

それが何のリスクもなく実行出来るのなら、やらない手はない。どうあれ、失敗はしないのだ。

 

「その剣、貸してもらうぜセイバー。なに、少し強度を確かめさせてほしいだけだ。俺の宝具、まだ試してないことがあってな。静止した時の中で、果たしてその剣が…魔力で存在するソレが俺の拳で砕けるのか」

 

3秒経過。

セイバーの両手から、不可視の剣を抜き取ろうと手を伸ばす。

何故、セイバー本人を狙わないのか。女だからだ。承太郎の気まぐれではあるが、気が進まない。容赦してはいけないことを理解しているが、それでもやはり今は殺さないと決めている。

だから、剣を壊せばいい。少なくとも、俺が相手をしなくても誰かが殺すだろう。

もしそうなるとして、では果たして前提が合っているのか。

静止した時の中で、剣の魔力は果たして生きているのか。呼吸をしているのか。

 

「この剣が、聖剣や魔剣の類かは知らんが、一つ俺の拳と耐久勝負といこうか」

 

セイバーの手に触れる。鎧で覆われた、少女の両手は力強く、今にも動き出しそうな程に迫力があった。

スター・プラチナは万全の準備で待機している。

後は剣を抜き取り、空中へ置けば承太郎のやる事は終わる。

そして、次の瞬間には、流星の如き威力、目で捉えきれぬ程の拳が剣へと降り注ぎ、約0.5秒で終わらせる、″はずだった″。

 

「やめろ!!!」

 

「……っ!」

 

その音は、実態のない破壊力を持っていた。声という名の、ごく当たり前の矢が飛ぶ。それを承太郎の耳が、否応なしに聞き取る。

たったそれだけが、まるでプロボクサーに渾身のストレートをいい角度で顎に入れられたかの如く、承太郎の脳に混乱を与えた。

 

「………な、にぃ!?」

 

全身を駆け回る衝撃が、承太郎の意識に打撃を与える。

目に見えない、精神的ダメージが今確かに、承太郎の脳内に刻み込まれた瞬間だった。

 

4秒経過。

響く怒号。何かを守るための咆哮。

余りにも必死なその声は、世界で最も開けてはならない門の下をくぐった。

それは入門。あり得るはずのない入門!

静止した時の世界を、承太郎以外の誰かが、門の扉を押し破った瞬間だった。その誰かとは、セイバーのマスターである士郎に間違いない。

承太郎の全身が反応する。後ろへ飛び退くと、声の発生源を見る。

 

「こ、こいつ……!動きやがったのか、この世界の中で。あの時の俺のように、止まった時の中を動く事を意識した時の俺みたいに……!時が止まったこの世界へ乗り込んできたというのか…!?」

 

士郎という男の体勢は、変わっていた。電柱のようにただ立っていただけなのが一転、承太郎に鋭い視線を向け走り出そうとしていた。が、そこで時は止まったようで動きは見られない。決定的だった。承太郎の知らぬ間に、士郎という男は静止した時の中で、確かに息をした!足を動かした!声を上げた!

口から、血を垂らしていた。苦しそうな表情で、承太郎を睨んでいた。何故かは分からない。承太郎が、同じような境遇の最中では、血を吐いたりすることはなかったからだ。

 

「なんて野郎だ。一体、どうすれば静止した時の中を動ける。俺の宝具を知っていたとして、時が止まることを意識したとして!俺と同じ″タイプ″のスタンド使いじゃなきゃ、此処へは意識すら潜れないはずだ……こいつがスタンド使いかと言われれば、違う!こいつからは、俺と同じ臭いがしねぇ……だから、絶対の自信を持って断言する。こいつは、スタンド使いじゃない!……にも関わらず、何らかの方法で、俺と同じ土俵に入門しやがった……!!」

 

尽きぬ疑問が承太郎の拳を止めた。

気づけば、残り1秒。時を止めれる時間は、″今は″5秒が限界だ。

 

流石と言うべきか。それとも、興味という冒険心を知らないのかと言われるのか。承太郎のスイッチは、一瞬すらも長いくらいに意識の行き先が変わった。

彼の経験してきたこれまでの精神が、優先的にイリヤのことを考えるように仕向けているかのよう。その無意識に、承太郎は逆らうことをしなかった。

承太郎はやや姿勢を低くし、膝を曲げる。

鈍く重たい音。コンクリートの道路を蹴り、僅か0.1秒でイリヤの側へ駆けつける承太郎。蹴った跡として、小さなクレーターが出来上がった。

一旦、士郎という男から意識を変える。

この場を、今からどうするために行動するのかを考えなければならない。

側に立っても動かないマスター、イリヤ。その顔は、相当に切羽詰まったものだった。承太郎の事を心配しての表情だ。と、思っていたが、イリヤがそんな心配をするのかと、疑問を浮かべた。

 

「はぁ、後でダラダラと説教タイムだなこりゃ。こいつ、ガキのクセに説教だけは貫禄があって困るぜ」

 

やや高め、夜空を背景に承太郎は顔を上げる。

視線の先にあるのは、ドリルを連想させる鋼の矢。螺旋をイメージさせる人差し指程度の太さの線が入った矢は、恐らく宝具だと見てわかる。

溜息を吐き、アーチャーの所在を突き止められないことを少し残念に思う承太郎。

だが、いずれ会う。

彼の運命は、数奇な出会いに日々遭遇するように出来てしまっている。今回の聖杯戦争も、承太郎の運命が引き寄せた物だと、本人が思っている。そういう風に納得している。

 

矢を睨むと、ある事に承太郎は気づき、眉をひそめた。

 

「…どういうことだ。坂の下から見ただけじゃ分からなかったが、この矢、このまま時を動かしてもイリヤに擦りもしねえ!」

 

明らかな殺意を乗せ迫る矢と、坂の下を不安の表情で見るイリヤとの位置を見て、改めて確認した。そして出た結論は、矢はイリヤの10m程後ろを通り抜けるという、不思議な事実。

 

「アーチャーってのは、こんなド下手な奴もいるのか…?意味が分からねえ。アーチャーの野郎は、イリヤを射る気が全くないのか?イリヤの後ろには…………ん?」

 

イリヤの後ろには、見ただけでも中々の値がつくであろう一軒家が並び、それらへと繋がる無人の道路が続いているだけだ。

少なくとも、ここへ来た時はそうだった。

矢の向く先を見ても、そこには一軒家があり、道路があるだけの様に見える。

 

「理由は分からねえ。あぁ、アーチャーの思考回路を俺には全く理解出来ねえが、てめえの放たれた矢の″的″だけは理解出来た…!」

 

気に入らないと、笑う。

何が?と聞かれれば、さあな、と返事を返すだろう。

アーチャーの行動には、妙な正義の意思を感じた。ただ、それだけのことだ。

 

「訂正する。陰湿な真似と思っていたが、どうやら英雄としての信念はあるようだな、アーチャー」

 

ほんの0.1秒前の言葉を否定し、承太郎は正体を知らぬアーチャーの事を僅かだが、英雄として見た。紛れもない何かが、その矢から伝わってきたのだ。

彼は初めて、矢という武器に対して極々小さいながらも、感謝の意を込めた。

ここで、時止めが限界に達する。

 

「時は動き出す…」

 

無味で乾いたな世界は一変、濃ゆく潤いのある世界へと一転する。それは承太郎にしか分からない変化。だと、思いたい。

唸るセイバーの奮声。バーサーカーを捉えた筈の剣は、空気を切る。スパン、と斬れ味の良さがヒリヒリと伝わる音が耳に届く。

迫る弓矢。周囲の空気を突き刺しながら進行する様は、流星の如き輝きを放っていた。

叫ぶイリヤ。セイバーが空気を切り困惑の表情を浮かべるシーンを見て、「あ」と何かを悟る声を漏らす。

 

「そして!続けて使わせてもらうぜイリヤ。こう、間髪入れずに時を止めるのは初めてだからな。魔力消費はキツイかもしれんが……お前のことだ、これくらいどうってことないと言って済ましてくれるよな?」

 

イリヤの聴覚が、心から信頼するサーヴァントの声を受け取る。一瞬にも満たない過去の不安が、一瞬にして四散する。

同時に、情けないという自責の気持ちが、イリヤの心の底からジワリと溢れ出てくる。イリヤがバーサーカーの名を叫び求めた理由は、決して彼が追い詰められ敗北してしまうという、己の目的を果たすためのサーヴァントが消えるのを拒む為などではない。

 

違うの、バーサーカーが負けるなんて欠片も思ったことないよ。私がバーサーカーを呼んだ理由はね……

 

俺が時を止めた(ザ・ワールド)、今夜最後の時間停止だ!」

 

助けて、そう言いたかったんだよ。

言葉には出ない想い。言葉にするのは、少し恥ずかしい…。何より、今は信頼するサーヴァントを邪魔するような言葉を、ポンと投げるのはダメだと思い、舌に乗ったそれをのみこんだ。

時が止まる刹那、承太郎は、たまたまソレを脳内の何処かで聞き取った。イリヤの、なんて事の無い、相手を想う気持ちに承太郎の何かが受け取らずにはいられなかった。

 

「理由は何となく分かった。イリヤ、少しはガキらしい考えをするじゃないか」

 

イリヤの頭に、ポンと柔らかく、優しく手を置く。

表情は心配しているというより、もっと感情的な…何かに怯えているモノだと見て分かった。この距離にして、ようやく。

 

今宵二度目、瞬きすら間に入らない感覚で、再び世界の時は静止した。

 

 

To Be Continude...




スター・プラチナ
筋力:A 耐久:A 俊敏:A+ 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

前話の承太郎のステータスを変更しました。

そうそう、fateGOの絆経験値…アホか!孔明の絆が先日、やっと6になって喜んだのも束の間、次の必要経験値は40万だと…!?

やれやれだぜ。120個ある金林檎を食べるかと一瞬、迷っちまう程に目的地までの旅は気が遠くなるな…

え?石ですか?嫌ですよ!
アキレウスとガウェインが来るまで、ひたすら貯めているんですから………まだかな〜
あ、ジークくんが来ても回そうかなと思ってます。
面白い個性のサーヴァント重視です!男女関係なしにです、はい!

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