主人公を英雄として召喚したら   作:ひとりのリク

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閲覧して頂きありがとうございます。
アサシン編最後の投稿、そしてこのシリーズの一時休止となります。

アサシンのステータス諸々の投稿はありますが、それだけです。簡素な終わりとなってしまう事をお詫び申し上げます。
これからしばらくは、セイバー編をどうするかを考える事にしました。セイバー編のお知らせも後日、したいと考えているのでよければ、また来てください!


アサシン

彼が召喚されるには、これ以上の好条件が無いくらい晴れた夜。

一人の畏れ高きサーヴァントが、月下の門に現界した。

 

「サーヴァント、アサシンだ。俺の大将を名乗るからには、人の道は外れてくれるなよ、マスター?」

 

真後ろに長く伸びる髪は、白く、風に吹かれると微かに揺れる。腰に差した刀は、鞘に収めているにも関わらず周囲の魔力を″霧散″させているよう。

友好的で、僅かに慎重な姿勢。アサシンは、門の柱に背を預けると、煙管を取り出す。ちらりと大将と呼んだ者を見ながら、反応を待っているようだ。

大将と呼ばれた女性は、その呼称が気に入らないとばかりに口元を歪める。それだけならば、幾分我慢しよう。だが、呼び名の後の言葉で面倒な性格だというのを理解した。

正義面でここに座られるのは、まだ構わないが。

 

「私も貴方と同じサーヴァントよ、アサシン。私のクラスはキャスターで、アサシンのマスターでもある。自己紹介はこれくらいでいいかしらね」

 

異様な不気味さが滲み出るキャスター。この聖杯戦争で彼女程、異端な″参加者″は中々いない。

召喚される身でありながら、サーヴァントを召喚し使役する立場を確立した時点でそれは理解できるだろう。

 

「サーヴァントにしては、魔力の消費が殆どないのね」

「あぁ、そうみてえだな。詳しくは分からないが、今の姿、夜の″俺″が現界しても魔力消費は殆どしねえよ」

「そんなに便利な能力があるなんて信じがたいけど、貴方のステータスを見れば納得するしかなさそう……ふふ」

 

聖杯戦争を勝ち残る渇望が、他の者の比ではない。

 

「無駄口はこの辺にします。薄々気づいてはいるようですが」

 

とキャスターは言い、アサシンが寄りかかる門を指差す。ローブの下から少しだけ見える口元は、笑っていた。

 

「貴方のやるべき仕事は一つです。この門から侵入してくる敵を、全て排除しなさい。それだけが、現界する意義だから」

 

指差された門を見上げ、キャスターの言葉を頭の中で再生するアサシン。

 

「ふっ、はっはっはっ!滅茶苦茶な注文をするじゃねえか。それだけの為に、俺を呼んだのかい、キャスターさん」

「えぇ、そうよ。正義を気取った暗殺者さん。気持ち良さそうに寄りかかるその門、ソレを越えようとする怪しい者がいれば斬りなさい。あぁ、もちろん限度はあるわ。色々と指定するのは面倒だから、夜に通ろうとする者だけでいい。幸い、ここの坊主達は夜に出入りすることは滅多にないわ」

「おいおい、本当にソレだけの為に呼んだのか……令呪、ね。コレは参った」

「やっと理解したようね。そうよ、アサシン。その門は言わば、貴方のもう一人のマスター。敵と判断、または私がそう感じたら斬り伏せる。それが役目であり、現界する為に縛られている理由よ」

「ん〜、そうか。………本当にこの門から離れられねえ。すげえな、俺ですら抜け出せないのか」

 

参ったと態度で示すと、片目を閉じてキャスターの目を見る。ソレは、キャスターの何かを″み″る為に向けていた。この目は、キャスターが嫌うものだとは、知ってか知らずか。

 

「俺をここに縛り付けて、だ。キャスター、どうやってこの聖杯戦争を戦い抜くんだよ」

「いいでしょう。先ずは、この柳洞寺を神殿にして、私の拠点とします。それには時間と魔力が膨大に必要なの。だから、唯一、柳洞寺への入り口である門をアサシンに守らせるのよ?と言っても、今の私は魔力が足りないのよね。だから、手始めに」

「?」

「街中の人間から魔力を掻き集める。そこからよ、貴方に神殿だの話しても理解できないでしょう?私がする用意を伝えた上で、アサシンが門を守る役割を教えてあげた。理由なんて、これで足りるでしょ?」

 

アサシンは門から見える夜の街を見つめて、キャスターの魔力源となるであろうソレを理解した。同時に。アサシンの心に火が灯る。

彼を知っているならば。灯るだけでは足りない。

 

「キャスター、いや、マスター。ソレはよぉ、″本当″に必要な事か?あんたの願いはまだ聞いていないから、教えてくれ。ソレは、他人の命を削らなきゃ叶わないのか?」

「その口ぶりだと、聖杯は貴方が勝ち取ってやる、っていう風に聞こえなくもないんですけどね。けど、門に括り付けられた暗殺者に、そんな自由は許さないわ」

 

キャスターは、アサシンの心を多少理解した。アサシンは、クラスに似合わない程の正義感を持つ英雄らしい。サーヴァントとして現界した以上、その心が偽善であれ愚者のソレであれ。マスターに従う事は覆らない。令呪有る限り、正義感を持っているであろうアサシンをキャスターは、好き勝手扱えるのだから。

 

「いや、その通りだ!まあ、気紛れに遊んで過ごしたいのが本音だけどな。だからよ。俺が此処で突っ立ってるのは、勿体ねえんだぜ!」

「…!」

 

寒気が身体を駆け抜ける。今から起こる事を、なんとなく理解してしまったからなのだろうか。いや、アサシン単騎ではキャスターには勝てない。その自信をキャスターは持っている。

なのに。押し寄せる不安が心に積もる。ついさっき、令呪があるからアサシンに対して優越の位置にいると確信したのに。揺らいでいる。

 

「俺の真名を教える。三代目奴良組総大将、奴良 リクオ。この度は、アサシンというクラスに該当し現界した、族に言う妖の類で名を轟かせた、ぬらりひょんの孫だ」

 

ぬらりひょん…!

知識だけはある。ぬらりひょんと言えば、日本では誰もが一度は名を聞いた事のある、姑息な妖怪だ。

 

「なっ!?」

 

だが、何故だ。三代目…?孫?

点ばかりが増え、線で繋がらない。そんな情報は、聖杯から与えられていない。逡巡、深く考える事はやめた方が良いと判断する。あくまで冷静に、召喚早々に問題を起こそうとするアサシンを止めるべきだろう。

 

「何故、今かって?キャスター、てめえがやろうとする事が間違いだと教える為だよ。護りてえもんがあるなら、尚更だ」

「アサシン、そんな言葉は私に必要ありません。貴方は私に黙って従えばいいというのに、過干渉に移ると主張するのなら仕方ありません」

 

これからする事。それは、キャスターにとって……必要なのだ。

 

「フフ、道具よ。人はね、自分の欲望の為には何者だって犠牲に出来るのよ。生憎と私は、そういう生涯だったの。

まずは宝具の使用を………!」

 

目の前に刀が添えられた。確かな殺気を纏ったそれは、アサシンから向けられたモノではないとすぐに気づく。

キャスターは身の危険を感じると共に、アサシンの宝具が新たに″開示″された事に驚いた。

 

何故…

新しく宝具が追加されたのだ…!?

 

 

 

「その口、これ以上リクオ様を侮辱するのならこの黒田坊、慈悲なく二度と開かないようにしてやろう」

 

口先に向けられる無数の刃。藁傘の下から睨む視線。

 

「いいや、人間を道具のように見る観点から美点は一つも生まれねえ。これはな、互いが信頼し合ってなけりゃ成せない″召喚″なんだ」

 

アサシン、リクオは笑う。懐かしいモノを見て喜ぶ老人のようだ。

喉が唸る。キャスターはリクオを忌々しく睨む。

遅かった、これがこの男の宝具…

闇より出でる大群。異形のモノの発生。

 

「百鬼夜行、奴良組!リクオ様に誘われ只今現界致しました!」

 

『百鬼夜行』

マスターに己の真名を明かす事で、自動的に発動する召喚宝具。視野に捉えきれない程の妖が召喚される。

召喚された妖の魔力消費は、夜に限定すれば無いに等しい。日中、召喚された妖は「単独行動D」を得る。

発動者は、「カリスマB」を得る。

 

ステータス情報から得た情報。

リクオを召喚した時は開示されなかった宝具。真名を伝えられた瞬間にステータスに追加され、キャスターは対応に一手間に合わなかった。

 

しかし、目の前に向けられた刃が、キャスターに届く前に。キャスターは詠唱を唱えた。

 

「なにっ!?」

「邪魔よ、死になさい」

 

詠唱を終え、黒田坊を退かすなど朝飯前だ。

あまりの速さについて行けず、黒田坊はキャスターが放つ魔弾を直で受けた。無数の刃が砕け散り、辺りに霧散する。

 

「黒ぉーーーー!」

「まじかよ、黒田坊が吹っ飛ばされた!」

 

ワラワラと集まる小物妖怪。

そんな奴らには目もくれず、キャスターは令呪の刻まれた右手を胸の前に上げる。召喚された妖怪のサーヴァント達は、キャスターが右手を上げても動かない。これから何をするのかも分からないのだろう。この場の鎮静化を確信する。

 

「令呪を持って命じます。アサシンは、『百鬼夜行』の指揮権をマスターである私に譲渡しなさい」

 

言い終えると同時に、リクオの身体がほのかに赤く光を帯びる。

これは令呪が発動した証拠だ。

赤い光に包まれるリクオは全身を見回すと、キャスターに顔を向けた。

 

「いや、無理だぞソレ。俺が望まない限り、必要ない以上互いを傷つけ合うなんてしてたまるか!つか、そーゆう宝具だからな!」

 

周囲の妖が不気味に笑う。その意味は、すぐに理解した。

 

「なんですって………!」

 

効かない。

今の命令は、この男には通じない…!

 

「女狐。リクオ様に命令を下すなど、貴様の寿命を持ってしても早い!」

「くっ……」

 

首が無く、頭が浮遊する妖に拘束される。

 

「次はない。この弦は、貴様が魔術を行使しようとした瞬間、その身体を全て解体するから気をつけろ」

 

屈辱を通り越して、消失する。

召喚されたサーヴァント如きに、無力化されてしまった出来事に身体が痙攣してしまいそうだった。

 

「さて、てめえら聖杯戦争へ向けて準備に取り掛かりぞ!!先ずはこの門を吹っ飛ばしてくれ。対敵用の門に作り直す!ついでに俺も開放される!」

 

「任せてくださいリクオ様〜!この俺が粉々に砕いてやりますよ!」

「いいぞぉ〜、やれ怪力バカ!」

「脳ミソ筋肉そんな門さっさと壊しちまえ!」

 

 

 

 

 

 

 

【閉夜】

 

「キャスター、これは俺の絆だ。無理して着いてきてくれた、総大将の証そのもの。人と関わる事を受け入れた闇、まぁ、今のあんたと真反対の考えを持った奴らだな。

これからどう転ぶかは分からねえ。けどよ、少なくともキャスター、外道に成る行動で願いを求める必要はないんじゃねえの?アンタの望むモノに、ソレはあっちゃならねえぜ!?」

 

砕ける柳桐寺の入り口。

妖の総大将を縛るモノは無い。そして、我が身を守る余裕すら、瞬く間に奪われてしまった。

最早、抵抗するだけ無駄だろう。アサシンの隠し球に気付けなかったのが敗因。後悔すら無駄だ。私が死ぬ覚悟で挑めば、この場を切り抜けられるかもしれない。しかし、そう上手くいくのにはどれ程の運と実力が必要だろう。

 

「………今は、黙っておきます。返す答えは、もう少し考えてからにします。早急な返事なんて、安っぽくて軽いもの」

 

現実的ではないと、抵抗する意地を捨てる。

奴良 リクオを上手く利用すればいい。

門から離れるリクオを睨みながら、キャスターは生き残る道を考え始めた。




最後の最後ではありますが、私の作品を読んで頂き誠に感謝しています。
セイバー編、いつになるかは分かりません。ですが、もし「ひとりのリク」の作品を見かけたら、立ち寄ってみてください!

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