6月、ジメジメとした空気が大学全体に流れ、またゴールデンウィーク明けからだんだんと講義にいない生徒が増えてくる頃。
私一色いろはは今日の講義を終え、散歩同好会の部室の中にいた。
「ねえ、先輩。あれから結局外に出てませんけど外に出る予定は「無い。」ですよねぇー。」
「ねえ、先輩。最近葉山先輩の姿を見ないんですけどどこいったんですか?」
「んあ?葉山なら今日は来るんじゃねーか。あいつ学友との掛け持ちだからな、忙しいんだよ。」
「へえー。先輩、なんで私達は活動があるわけでもないのに今部室にいるんですかね?」
「そりゃ今ここで2人で桃〇やってるからじゃねーか?と言うか俺はここが家みたいなもんだし、いつもいるぞ。」
「先輩、この〇鉄もう3週目ですけど飽きません?さ〇ま名人相手にならないんですけど・・・。」
「ばっかお前、たまにさく〇より閻魔の方が強いのはいつもの事だろ!それにそんな事言うと、ほらボンビー変化すんぞ。」
「大丈夫ですよ、どうせミニボンビーですし。」
同好会長である比企谷先輩とこんな他愛ない会話をしていると
バァン
「はろー!比企谷くん!!お姉さん研究やっと終わったからかまって欲しいなーなんて思ったり、いやあのね嫌ならいいのよ嫌なら、ただもし暇してるんだったらでいいんだけど、ってなんだ一色ちゃんもいたんだー。チッ」
ここの初代会長、雪ノ下陽乃先輩が恋する乙女全開で部屋に入って来た。と言うか何ですか最後の舌打ち!
「あ、陽乃さんちわっす。すいません、俺今桃鉄で忙しいんで。後にしてもらえます?」
「な、比企谷くんひどくない?私桃鉄以下!?」
「あ、陽乃先輩どーもー。舌打ちは聞こえなかった事にしてあげますから黙っててくれません?うるさくて集中出来ないんですよねー。って、ああ!ハリケーンになった!!嘘でしょ!?なんでこのタイミングで!!」
「あきらかに一色ちゃんの方がうるさいよね!?それに私先輩だからね?あと私このツッコミポジション非常に嫌なんだけど!?」
「そうだぞ一色。」
「さすが比企谷くん話がわかる!!ほら、会長としてちゃんと注意して、私先輩!」
「どんなにハリケーンボンビーが嫌だからって大声あげるのは良くない。隣の部室に迷惑だからな。それと、飛ばされた店は全部俺が買い取ってやるから。」
「そっち!?と言うか2人ともさっきから一切こっち見ないよね!?そんなに桃鉄楽しい?私の存在より大事?それはちょっと凹むと言うか自信無くすと言うか・・・。」
「まあ、先輩近くにいますからくっつけちゃいましょうかね。ハリケーン後々厄介ですし。」
「ふっ、甘いな一色、次の目的地は夕張つまり北海道。俺はここで北へ!カード を使う!さらばだ一色!!」
「あのー、やっぱり私は無視?無視なの?」
陽乃先輩が何か言ってる気がするけれども今はそれより
「何やってんですか先輩、北海道今移動中で北に無いですよ?」
「なんだとおおおおお!?!?ついいつもの癖で・・・、秋田まで飛んだよ?これ勝ち目無いよね?まあ、ハリケーンの脅威は去ったからセーフだな。」
「ねえ、ねえってば・・・、ぐすっ、すん。もういいよ・・・。」
陽乃先輩が完全にいじけてしまった・・・。
先輩が慌てて陽乃先輩の所へ向かう。
「陽乃さん、冗談ですから、ねー。大丈夫大丈夫無視しないしない。」
うわ、ヘタクソだ・・・。
必死になだめてますけど普段人と関わらないからだろうな、あきらかに戸惑っているし慣れてない。
のに、
「うっ、ほんと?もう、しない?約束だよ?」
えええ・・・。陽乃先輩チョロすぎですよ・・・。
まあ、好きな人に言われたらああなるのわかりますけど・・・。
好きな人・・・。恋心・・・。
葉山先輩を追っかけてこの大学、サークルに来たはずなのに、このサークルに入ってから、比企谷八幡という人に出会ってから葉山先輩への気持ちがわからなくなってしまった。
確かに、憧れではあったんだと思う。けどそれは遠くの存在だったからであって、今こうしてとても近い存在になった時深い気持ちがなんにも出てこなかった・・・。
それは絶対に先輩という存在が私の中に追加されたからだと思う。
もし、恋心が一緒にいて楽しいという事ならば間違いなくそれは先輩だと思う。
けどそれが恋心なのかどうか、私にはわからないでいる。
それに、先輩には陽乃先輩がいるから。
あの2人は美男美女で本当にお似合いだから。
私がこの恋心を自覚する事は許されないから。
ここまま消えてしまうまで耐えればいいんだから・・・。
「おい、一色!お前のターンだぞ?」
考え事は周りを見えなくするのは本当みたいで、気がついたら先輩はゲームの方に戻ってきていた。
「あ、すいませんぼーっとしてて、ってええ!?」
慌てて先輩の方を見ると先輩の膝の上に陽乃先輩がいた。
「あー、気にすんな。機嫌悪い時はこれが1番効くんだ。ったくめんどくさい。」
「比企谷くん?聞こえてるからね?ばっちり目の前で聞いてるからね?お姉さんまた傷つくよ?」
陽乃先輩は文句たらたらだけれど、させてもらえる事は嬉しいのか満面の笑みだ。恋する乙女、いいなぁ。
違う違う。何とも思ってない、何とも思ってないから・・・。
ガチャ
「やあ、って陽乃さんまたいじけたの・・・。ここの部室いる時の陽乃さんは普段と違い過ぎて困るよ。」
「おう、葉山。学友はクビになったか?」
「君は俺が学友から帰ってくる度同じ事を聞くね・・・。そんなにクビになって欲しいかい?」
「ああ、出来れば学校をクビになってくれるとありがたいとも感じてる。」
「ははっ、本当にクビになっていいのかい?明日からこのサークル無くなるけど?」
「えー、それは困るよー。私が作ったサークルなんだから私が院出るまでは有ってもらわなくちゃ!」
「だそうだよ?比企谷。」
「チッ、さすが学友さんだこった。で、そろそろ活動しろとか言われてきたんだろ?」
「お、よくわかったね。流石に活動しなさ過ぎだって会長に釘を刺されたよ。」
「んじゃ仕方ねえ、一色。どこ行きたい?」
「うぇ!?私ですか?」
「ああ、ちょっと遅れたけど新勧だ。お前の行きたいところ行くぞ。」
「えーっとじゃあ・・・。」
私は今このサークルの皆で過ごす瞬間が楽しいのだ。私の自分勝手で壊す事は許されない。
だから私はこの恋心を自覚する事を許さない。