SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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お久しぶりです。本格的に時間が取れなくなってます…。

まあ言い訳はこのくらいにして、続きをどうぞ。


第71話 集う戦士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐ケ谷和人、桐ケ谷直葉。これが、キリトとリーファちゃんの現実での本名だよ」

 

 

リーファを追いかけて、キリトもログアウトした後に、何が起きているのか分からないケイにサチは言った。キリト────和人と、リーファ────直葉は兄妹なのだが、その事を知らずにこのゲームで出会い、そしてパーティーメンバーとしてここまでやって来たのだという。

 

だが分からない。兄妹であると判明して驚くのは解るが、先程のリーファの様子は明らかに狼狽していた。困惑、悲しみ、絶望、こんな感情が彼女の表情から伝わってきた。

 

 

(…まさか兄に対して?いや、そんな馬鹿な…)

 

 

決してあり得ない訳ではない…とは分かっていても、やはり同じように妹を持つケイとしては理解し難かった。そんな、兄に対して妹が恋慕の気持ちを持つなんて。しかし、そうでなければあの反応の理由の説明がつかない。

 

あのサチの反応と先程の話から、現実でサチが桐ケ谷兄妹と会い、話をした事があるのは容易に予想できる。そして、サチとキリトがどういう関係なのか…、ゲームの中でリーファが気付いていたかどうかは解らないが、現実での二人を見てそれについては察していたのだろう。

 

 

「ケイ…。あのね?和人と直葉ちゃんは、本当の兄妹って訳じゃないの」

 

 

「は?」

 

 

「色々と事情があるんだけど…、あの二人は本当は、いとこ同士っていうのが正しいの」

 

 

「…はぁ!?」

 

 

何かもう、色々とありすぎて、さすがのケイも全てを呑み込むのに時間を要した。

 

 

(つ、つまり?キリトとリーファは兄妹で?でもリーファはキリトの事が好きで…。だけどあの二人はいとこだから特におかしな事はないと?けどキリトはサチと付き合ってて…、あ?でもゲームの中でリーファがそれに気づいてたかどうかは解んないんだよな。現実ではともかく…。あー、何か頭がこんがらがってきた)

 

 

両腕を組んで、頭の中で整理をする。が、現実ではああでゲームの中ではこうでと事情が複雑すぎて、頭の中が混乱してくる。

 

 

「…リーファは、キリトの事が好きだったのかな」

 

 

「いや、まぁ…。そうだろーな。さっきの反応見てりゃ…」

 

 

「いや、そういう事じゃなくて…」

 

 

不意に口を開いたサチが言っている事が解らず、ケイは首を傾げる。

 

 

「現実のキリト…、和人に直葉ちゃんは恋をして…。そして、ゲームの中でリーファちゃんはキリトに恋をした。リーファちゃんにとっては…」

 

 

そこから先、サチは何も言う事は出来なかった。何故なら彼女は、大好きな和人もキリトも、どちらも…言い方は悪いが、奪ったに等しいのだから。

 

 

「…あんま気にすんなよ。サチは悪くないし…、誰も悪くない」

 

 

そう、誰も悪くないのだ。誰も、何も知らなくて…、何の意図もなく、ただリーファにとって不運が重なっただけ。…彼女にとっては酷な事だが、それだけなのだ。サチが責任を感じる事ではないし、もちろん、キリトやリーファもそうじゃない。

 

 

「大丈夫だって。兄妹喧嘩なんてしょっちゅうあるもんだからさ。そのたんびに仲直りして、また喧嘩して…。その繰り返しなんだよ」

 

 

「…どうしてわかるの?」

 

 

「わかるに決まってるだろ?俺だって現実に妹がいるんだから」

 

 

思いつめた表情を浮かべていたサチに言うと、目を丸くしながらえ?と驚きの声を漏らした。

 

 

「いるんだぜ?妹。他人の世話を焼きたがる自慢の妹がさ」

 

 

可愛くて、綺麗で、料理ができて、裁縫ができて、優しくて、知り合いからは大和撫子と呼ばれてて、でも家では全然そんなキャラじゃなくて。完璧に近い、自分には勿体ない妹だ。

 

 

「あっ、あと強い」

 

 

「つ、強い?」

 

 

「そう、めちゃくちゃ強い。いや、剣道やってんだけどさ、試合の映像見せてもらったらもう速いのなんの…」

 

 

あまり考えたくないが、もし司がSAOにログインしていたら、ヒースクリフなんか目じゃなかったのではないだろうか。アインクラッド最強と呼ばれていた自分なんかあっさり倒してしまいそうだ。

 

そう、自分が考えている事をサチに伝えると、サチは頬を引き攣らせて苦笑を浮かべながら、「へ、へぇ~…」とだけ口にする。…何かまずい事でも言っただろうか。

 

 

「ケイだって化け物染みてたのに…、それより強いって人じゃないんじゃ…」

 

 

「聞こえてるぞ。人とその妹を人外扱いするんじゃない」

 

 

誰か化け物だ、れっきとした人間だ。…司の方はちょっと疑わしく感じてるのは否定しないが。

 

 

(そういや、その化け物と互角に渡り合った子がいたっけ)

 

 

現実に戻ってきて少ししてからだ。母、恵子に見せてもらった、司が出場した全中の試合の映像。ほとんどの試合を一本で勝利してきた司を一人、時間いっぱいまで粘って判定まで持ち込んだ選手がいた。確か、ベスト8での試合…、名前は桐ケ谷…────

 

 

(…あれ?)

 

 

そこまで思い出した時、頭の中に引っかかるものがあった。

桐ケ谷────どこかで聞き覚えのある、というかつい先程聞いたばかりのものだ、

 

 

(桐ケ谷和人、桐ケ谷直葉…。いや、さすがにね?まさか…ね…)

 

 

もしそうだったら、何と狭い世間だ。思わず軽く戦慄するケイ。

 

 

「あのさ、サチ。キリトの妹…直葉、だっけ?その子さ…、剣道やってたりする?」

 

 

「え?うん、そう聞いてるけど…、よくわかったね」

 

 

何と、何と世間は狭いのか。ケイは天を仰ぐ。

 

 

「ど、どうしたの?ケイ」

 

 

「いや…。世間って狭いもんなんだなって思っただけだ…」

 

 

「?」

 

 

ケイの言葉の意味が解らないのだろう、サチが首を傾げて疑問符を浮かべている。

 

 

「サチさん!」

 

 

どういう意味なのか聞こうとしたのだろう、サチが口を開きかけた時だった。二人の背後から、サチを呼ぶ、高い少年の声が聞こえてきたのは。黄緑色の髪に、少し気弱そうな印象を受ける顔立ち。振り返って見えたのは、こちらに走り寄ってくるシルフの少年の姿だった。

 

 

「レコン君!?どうしてここに…、というより、大丈夫だったの!?」

 

 

「麻痺が解けたら、見張りのサラマンダー達を毒殺してやりました!モンスターをとれ印しては他人に擦り付けて、擦り付けて、擦り付けて…。ここまで来るのに一晩かかりましたよ」

 

 

「え、MPKじゃねぇか…」

 

 

何か、気弱そうな顔立ちとは裏腹にやる事がえげつない。ケイはこのレコンと呼ばれた少年に対する印象を入れ替える。

 

 

「…あなたは?それに、リーファちゃん…あのスプリガンの人もいませんね」

 

 

「あ…、えーっと…」

 

 

サチと対面していたレコンが、不意にケイの方へ視線を向けて問いかける。それから今度は辺りへ視線を見回して、再び問いを続けた。

 

どうやら、サチ、キリト、リーファと知り合いの様だ。恐らく、シルフ繋がりでリーファの友人なのだろう。サチとキリトとは、リーファと行動中に知り合った、といったところだろうか。

 

 

「えっと、こっちのインプの人はケイ。私とキリトと、違うMMOで遊んでた事があるの。で…、キリトとリーファは…」

 

 

まず、サチが手を向けながらレコンにケイの紹介をする。紹介されてから、ケイはレコンと会釈し合った。それから、キリトとリーファの事について説明しようとするサチだったが、言いづらそうに口を噤む。

 

さすがに言いづらいだろう。リーファとレコンがどのような関係なのかは知らないが、先程の事を二人の知らない所で口外する訳にはいかない。とはいえ、何も言わないというのも訝しがられるだろう。

 

どうするべきか迷い、堪らなくなったサチが視線をケイに向けて見遣った時だった。

 

先程、リーファが消えた場所から光が発せられ、収まったと思うとその場所にはリーファが立っている。

 

 

「サチさん…、ケイさん…。それに、レコン!?」

 

 

ログインしてきたリーファが目を開けると、ケイとサチを気まずそうに見て…そして、二人と一緒にいるレコンを見つけて目を丸くした。

 

 

「リーファちゃん!も~、捜したよ!」

 

 

リーファと目を合わせたレコンは、パッ、と表情を輝かせるとリーファのすぐ前へと駆け寄っていった。

 

…どうやら、レコンは三人を、というよりリーファを追ってここまで来たようだ。

 

 

「あんた、何でこんな所に…」

 

 

サチと同じ問いをリーファがすると、レコンは先程と同じ答えを、先程よりもどこかテンション高めに返した。やはり、あのテンションの変わり様、レコンはリーファに対して並々ならぬ想いを抱いていると見て間違い無いようだ。

 

 

「そういやリーファちゃん。あのスプリガンの人はどうしたの?サチさんはそこにいるけど」

 

 

「っ…」

 

 

そして今度はレコンが、先程サチに投げかけたものと同じ問いかけをリーファにする。

 

息を呑むリーファ。目を見合わせるケイとサチ。

 

何かフォローをした方がいいのか、しかし自分には何もできる事は…とケイが迷う仲、リーファが口を開いた。

 

 

「あたしね…、あの人に酷い事言っちゃった。好き…だったのに、傷つけちゃったの…。馬鹿だな、あたし…」

 

 

途中、気まずそうにちらりとサチに目をやりながら答えるリーファ。やはり、という念を抱きながらただ眺めるだけのケイ。リーファに視線を向けられた直後、ピクリと体を震わせたサチ。

 

そして────レコンは、いつの間にかリーファに詰め寄っていた。

 

 

「な、なに!?なんなの!?」

 

「リーファちゃん!」

 

 

限界まで背を後ろへ傾けるリーファ。そのリーファの両手を握り、顔を真っ赤にして、至近距離からリーファの顔を見つめるレコン。

 

 

「リーファちゃんは泣いちゃダメだ!いつも笑ってなきゃ…、リーファちゃんじゃないよ!」

 

 

励まそうとしているのだろう、懸命に言葉を絞り出しながらレコンは続ける。

 

 

「僕は…、そんなリーファちゃん…直葉ちゃんだから…。ぼ、僕がいつでも傍に居るから!現実でもここでも!」

 

 

(ん?)

 

 

何かおかしくなってきたような気がしないでもない。というより、いつの間にかレコンの公開告白が開始されている。

 

 

「ちょっ…、あん…っ!」

 

 

「僕、僕…、直葉ちゃんの事が好きだ!」

 

 

言い切った、かと思えば、レコンの顔がゆっくりと、さらにリーファの顔へと接近していく。どうやら、レコンは行ける所まで行こうとしているようだが…。

 

 

「あの、待っ…!」

 

 

リーファはさらに背を仰け反らせ逃れようとする。レコンは来たる甘い果実に期待を寄せているのか、目を瞑っているのだろう。そんなリーファの様子に気付かず、更に突出。

 

 

「待ってって言ってるでしょうが!!」

 

 

「「あ」」

 

 

思わず、ケイとサチは同時に声を漏らした。

 

遂に限界を迎えたリーファが、左拳をレコンの鳩尾に打ち込んだ。レコンは後方へと吹っ飛び、バウンドしながら転がっていく。リーファから十メートルほど離れた所、今ケイ達三人がいる場所へ繋がる階段の途中でようやく止まる。

 

 

「う、ぐ、うぅ…。ひどいよリーファちゃん…」

 

 

「どっちがよ!だ、大体あんた、こんな公衆の面前で…っ!」

 

 

何か先程の事で思い出したのか、突然顔を真っ赤にしたリーファは、未だ倒れてるレコンの背中に容赦なく蹴りを喰らわす。

 

 

「うげ!うげえ!り、リーファちゃん!やめて!…あ、でもこれいいかも」

 

 

リーファに謝りながら止めるように叫ぶレコン。途中、何やら不穏な言葉が聞こえた気がするが、気のせいという事にしておこう。

 

 

「うーん、おっかしぃな~…。あそこまで来たらあとはもう、僕に告白をする勇気があるかどうかだと思ってたのに…」

 

 

「…あんたって、ホント…」

 

 

項垂れるレコンに呆れるリーファ。ケイとサチも、そんな二人の様子に苦笑いが隠せなかった。

 

 

「…でも、ありがとねレコン。何か元気出た」

 

 

「え?…う、うん。ならいいの…かなぁ?」

 

 

不意に、呆れ顔だったリーファが、憑き物がとれたようなすっきりした表情でほほ笑む。そんなリーファにお礼を言われたレコンは、どこか戸惑いながら首を傾げた。

 

…レコンよ、良くはないぞ。

 

 

「たまにはあんたを見習ってみるわ。ここで待ってて。…あ、付いて来たら今度はこれじゃ済まさないからね!」

 

 

すると、リーファは背から翅を顕現させると、最後に右拳をしゅっと突き出してから空へと飛び上がっていった。

 

 

「あ、ちょっ!リーファちゃん!?」

 

 

慌ててレコンは追いかけようとするが、飛び立つ前、最後にリーファが言った言葉を思い出し、止まる。

 

 

「ま、ちょっと待っててやれよ。多分、すぐ戻ってくるから」

 

 

「…はぁ」

 

 

ここへ来たばかりのレコンには何が何だかわからないだろう。とはいえ、ここは少し我慢してほしい。破損した歯車を修正するか、はたまた壊し、また新たな歯車を作り上げるか。

 

 

 

 

 

 

兄妹が戻ってきたのは、リーファが飛び立ってから二十分ほど経った頃だった。

 

 

「えーっと…、どうなってるの?」

 

 

「世界樹を攻略するのよ。私とあんたと、この人達の五人で」

 

 

「へぇ~…。て、えぇええええええええええぇええええええええ!!!?」

 

 

世界樹の扉の前、そこには、胸を張るリーファとリーファの宣言に驚愕するレコンと。

 

 

「あ、そうだ。ユイ、もう出てきていいぞ」

 

 

「ぷはぁっ。もうパパ、呼び出すのが遅いです!私はパパに呼ばれないと出てこれないんですから!」

 

 

「「ゆ、ユイ(ちゃん)!!?」」

 

 

ユイを呼び出し、怒られるケイと、ユイの出現に驚愕するキリトとサチの姿があった。

 

この五人でこれから、世界樹攻略に乗り出すのだが────

 

 

「ユイ、さっきの戦闘で何か解った事はあるか?」

 

 

「はい。あのガーディアンモンスターは、ステータス的にはさほどの強さはありません。ですが、ゲートへの距離が近づくにつれ、湧出ペースが格段に上がっていきます。…正直に言って、異常です。あれでは、攻略不可能な難易度に設定されているとしか…」

 

 

話し合い、分かったのは世界樹攻略は、普通では不可能だという事。

 

そう、普通ならば。

 

 

「ですが、パパ、にいにとねえねのスキル熟練度も異常なのは同じです。瞬間的な突破力だけなら可能性があるかもしれません」

 

 

「短期決戦、か…」

 

 

ユイの言葉に、キリトは口元に手を当て、考え込む素振りを見せながら呟いた。

キリトだけでなく、サチ、リーファ。レコンもまた、この神妙な空気を感じ取り、話に聞き入っている。彼らの様子を一度見回してから、ケイは口を開いた。

 

 

「皆。すまないとは思ってる。でも…、俺に力を貸してほしい。本当は時間をかけて別ルートを探すべきなんだろうけど…」

 

 

短い空白の後、ケイはもう一度四人を見回しながら続けた。

 

 

「あまり、あの上で待ってる人を待たせたくないんだ」

 

 

この一言で、小さく表情を動かした者が二人いた。キリトとサチである。

 

キリトとサチは一歩、ケイに近づいてから口を開く。

 

 

「その気持ちは俺達も同じだよ、ケイ」

 

 

「うん。…早くアスナを、迎えに行ってあげよう?」

 

 

キリトとサチが微笑みながら言うと、今度はリーファがレコンの襟元を掴んで引っ張り名gら、同じように一歩前へ出て口を開いた。

 

 

「私達もお手伝いします!二年間、ただ見ているだけだったけど…、今度は私も!…あ、こいつも少しくらいは役に立つと思いますよ?」

 

 

「な、何でこんなに扱い雑なのさ!…いやでもこれはこれで」

 

 

力強く宣言したリーファと、どこか不安が残るレコン。いや、少しでも多く手を借りたいので、手伝ってくれるのならば心強いのだが。手段はともかく、一人でシルフ領からここまで来れるほどの実力を持っているのだから。

 

 

「…ありがとう」

 

 

下らない不安を感じるのはそこまでにし、気持ちを入れ替える。腰に差してある、<天叢雲剣>を僅かに抜き、陽の光を受けて輝く刀身を見遣ってから、刀を戻し、世界樹内部へ繋がる石扉と向き合う。

 

クエストを受ける会話を済ませ、出てきた確認ウィンドウのイエスボタンをタップする。健闘を祈るというセリフを聞き流しながら、ケイ達は翅を広げた。

 

 

「…行こう!」

 

 

ケイの言葉と同時に、異なる色の妖精達が、闇の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の投稿もかなり間が空くと思われます…。

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