SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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何とか普段のペースを保ててる…かな?
本格的に就活が始まるまでは、このペースを保っていきたいです。









第40話 ボス部屋到達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナと一緒に、ラグーラビットの肉を使ったシチューを堪能したその次の日。その日は、アスナと組んで攻略をしに行くと約束した日だ。朝、ケイは目覚ましの音で目を覚まして時間を確認する。

 

 

「八時…。よし」

 

 

八時きっかりに目覚ましが鳴る様に設定したのだから、そうでなければ逆に困るのだが。

この時間だと、いつもの二度寝はできない。ケイは布団をどかせて体を起こし、大きく伸びをして深く息を吐く。

 

全身に酸素が行き渡るような、そんな感覚を味わいながらケイはベッドから足を下ろして床へ着ける。寝室から出て居間へと入ると、三日ほど前に買いだめしておいたサンドウィッチをストレージから取り出して朝食を摂る。

 

朝食を摂った後、ケイは二、三度顔に水をかけて微妙に残っていた眠気を取り、顔の水気を拭いてから、すっかり他プレイヤーにはお馴染みとなった浴衣へと着替えその上から羽織を羽織る、

 

朝食を済ませ、身支度も済ませた今の時刻は八時半。このホームから転移門まで大体に十分ほど。集合時間は九時。今出れば丁度いいくらいだろう。

 

扉を開けて外に出れば、昨日の夜にアスナを送って行った時とは違って、眩しい日差しがケイを照り付ける。一度、鬱陶しげに顔を歪ませて、掌で日差しを遮りながら空から光を送りつけてくる太陽を見上げる。

 

 

(これも、そこらに生えてる木も、全部システムなんだよな…)

 

 

長くいればいるほど、違和感がなくなると同時にそれらがシステムだという事が信じられなくなってくる。まるで、ここが現実なのではないかと、そんな錯覚にすら襲われる時もある。

 

だが、昨日アスナと話した通り、自分が現実に帰らなければいけない。こんな所で死にたくない。現実でやりたいことが、まだまだあるのだから。

 

そんな、らしくない感傷を振り切ってケイは転移門広場へと向かう。あんまりのんびりして、遅刻などしてみろ。…あ、今一瞬、体が震え上がりました。

 

 

(…ちょっと急ぐか)

 

 

心なしか、小走りで足を動かすケイだった。

 

二十分ほどで待ち合わせ場所に着くだろうと考えていたケイだったが、七十四層へ着いた時はまだ待ち合わせ十五分前だった。少し早めに出て、順調なら待ち合わせ十分前辺りに着くだろうと予想していたが。

 

さらに早く着いてしまった。さすがに、まだアスナの姿も見えない。ケイは辺りを見回して、空いてるベンチを見つけるとそこに腰を下ろしてアスナを待つことにした。

 

とはいえ、十五分も何もせずぼぉーっとして待つのも暇すぎる。ケイはウィンドウを開き、七十四層のマップを眺めたり、スキルの熟練度の確認をしながら時間を潰していた。

 

 

「ケイ?」

 

 

その時だった。待ち人であるアスナの声ではないが、馴染み深い声がケイにかけられる。

 

 

「何してんだ?こんなとこでぼけーっとして…。誰か待ってんのか?」

 

 

「ん…、まぁ、うん」

 

 

声を掛けてきたプレイヤーはケイの目の前に歩み寄りながら問いかけてきた。ケイはやや口籠りながらも、頷きながら答える。

 

 

「そっちは攻略か?キリト。…サチと二人きりで」

 

 

「そうだけど…。その何か含んだような言い方やめてくれよ。今日は他の皆が武器をメンテナンスに出してて、残った俺とサチがスキル上げがてら少しでも攻略進めようかなって思っただけだぞ」

 

 

ケイに声を掛けてきたのは、黒づくめの装備に身を包んだプレイヤ、キリトだった。その隣には、青みがかった黒髪と、青を基調とした装備に身にまとい、その背には長い槍を背負った少女、サチが立っていた。

 

ケイがからかい染みた言葉をかけたせいか、その頬は僅かに赤らんでいる。

 

 

「そ、それで、ケイは誰を待ってるの?」

 

 

「え?あ、えっと…」

 

 

キリトの次に問いかけてきたのは、まだ頬が赤らんだままのサチだった。

その問いに対し、ケイは答えようと口を開いて…そこで動きが止まってしまった。普通に、アスナを待っていると答えればいいのに。何故かそれを言うのが気恥ずかしく感じてしまい、言葉にすることができない。

 

 

「?」

 

 

「ケイ?」

 

 

ケイの反応を怪訝に思ったのだろう、キリトとサチが首を傾げている。それを見たケイは、蟀谷から汗を垂れるような感触を感じる。

 

いや、何で普通に答えられないの。アスナと一緒に攻略に出るって言えばいいじゃん。

でもさ、それを言ったらキリトがどんな顔するかわかんねぇんだよ。絶対ニヤァ、て感じで色々言ってくるぞ。恥ずかしくね?

 

ケイの内心で、謎の二人の人格(笑)による会議が行われる。会議というよりは、不毛で無様な言い争いというべきだろうが。

 

しかし、こうしている間にも時間が過ぎている事にも気が付かないほど、今のケイは混乱していた。

 

 

「ケイ君!珍しいね、君の方が早く…あれ?キリト君に、サチも」

 

 

「あ、アスナ…」

 

 

ふと転移門が起動する音が耳に届いて、少し経ってからだった。背後からケイを呼ぶ声が聞こえてきたのは。振り返って見ると、いつも攻略やボス戦で会う時に見ている、血盟騎士団のユニホームを着たアスナの姿があった。

 

 

「アスナ!久しぶりー!」

 

 

「うん!久しぶりね、サチ!」

 

 

アスナの姿を見た瞬間、サチが駆け寄っていく。そして、二人は両手を取り合って再会を喜び合っている。

 

 

「…なるほど?」

 

 

「…何だよ」

 

 

「べっつにぃ」

 

 

アスナが来る直前にケイが頭の中で想像していたキリトの笑顔。そのままの表情が、今目の前に存在していた。

 

 

「んだよ。言いたいことがあるなら言えばいいだろ」

 

 

「そ、そんなに怒んなよ…。ただ、さ」

 

 

こうなるから言いたくなかったんだと思うと同時に、心の底から沸々と苛立ちが煮え滾ってくる。目の前の黒づくめをどうしてやろうかと、そんな事を頭の中で考えていた。

 

だが、その苛立ちは直後にキリトが浮かべた、先程のような悪戯っぽいものではなく、安堵が混じった笑みを見ると驚くほどあっさりと霧散していった。

 

 

「何か、ようやくケイとアスナが元通りになった気がして」

 

 

「…何だよソレ」

 

 

変わらず笑顔のままで言うキリトを見て、ケイもまた笑みを零す。

 

別に、キリトが言うように元通りになったとか、まるで今まで仲違いしてたとかそんな事実はないのだが。それでも、こうしてペアを組んで攻略を出るのは、以前にパートナー同士で戦っていたあの時を思い出させる。

それを考えて、思わず笑みが零れてしまったのだ。

 

 

「そっか、今日は他の皆は来れないんだね。…なら、チャンスじゃない」

 

 

「え!?ち、チャンスって…」

 

 

「そうよ!この機会でキリト君を…」

 

 

「わ、わわわわ!アスナぁ!!」

 

 

「…」

 

 

「何話してるんだ?あの二人は…」

 

 

そんな少しシリアス気な話をケイとキリトがする中、アスナとサチはガールズトークに花を咲かせていた。その様子をケイは苦笑を浮かべながら眺め、キリトは話の意味を読み取れずに首を傾げる。

 

そんなキリトを視界の端でばっちり捉えていたケイは、迷わず容赦なく、キリトの尻に蹴りを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「ケイ!スイッチ!」

 

 

「おっけ」

 

 

前方でリザードマンロードと打ち合っていたキリトが、合図と共に後方へと下がる。それと同時に、後方で待機していたケイが、キリトとの戦闘でHPが消耗しているリザードマンロードに止めを刺すべく、キリトの前へと躍り出る。

 

刀上位三連撃スキル<水鏡>。柔らかい青のライトエフェクトを宿した刃が、キリトを追いかけようとするリザードマンロードの体を切り裂く。その体に赤い傷跡が見えたのは一瞬、直後にはリザードマンロードの体はポリゴン片と化し、四方へと散らばっていった。

 

 

「ねぇ、サチ」

 

 

「どうしたの?アスナ」

 

 

「私達って…、いらない子?」

 

 

「…言わないで」

 

 

リザードマンロードを倒し、互いを労いながら拳をぶつけ合うケイとキリトの後方ではアスナとサチが。二人の少女は、今ここに自分たちがいる理由が分からなくなっているようだが。

 

そんな事を露知らず、それぞれの得物を鞘へと収めたケイとキリトはホクホクと満足げな笑みを浮かべながら話していた。

 

 

「相変わらず、えぐいスピードだな」

 

 

「いや、俺よりも速ぇ奴がいるから…。キリトだって、片手剣でよくあんな威力出せるよな」

 

 

キリトの言葉に対し、ケイはちらっ、と横目で後ろでサチと喋っているアスナを見遣りながら答える。

 

 

「てか、アスナもサチも、戦えよ」

 

 

「「二人がさっさと倒してくから出番がないの」」

 

 

「「…」」

 

 

アスナがケイとの待ち合わせ場所に来てから、四人で攻略に行くという流れになるのはあまりに自然なものだった。四人でフィールドに出て、迷宮区へと入って…。ここまでの間、ポップしたモンスターは、全部ケイとキリトが倒してきた。アスナとサチの手を、全く借りることなく。

 

 

「元々、ケイ君と一緒に攻略するって約束してたのは私なのに…」

 

 

「キリトもだよ?私とコンビで行くって約束してたのに…」

 

 

「「二人で楽しく戦っちゃって」」

 

 

「「申し訳ありませんでした」」

 

 

何でここまで容赦なく不満をぶつけられるのかはわからないが、完全にアスナを、サチを放置していた事は否めない。特に反論することなく、ケイもキリトも即座に頭を下げて二人に謝った。

 

 

「…はぁ。ま、このメンバーで攻略行くって決めてから予想できてたからもういいけど」

 

 

ため息を吐き、苦笑を浮かべながら言うアスナと、同じように苦笑を浮かべて頷くサチ。

そんな女性陣の前に、男性陣は何も言い返すことはできずに頭を垂れるしかなかったのだった。

 

ここからは、朝に四人が集まる前に約束していた組み合わせで戦闘を行った。進む方向は同じだが、モンスターがポップすればケイとアスナか、キリトとサチのどちらかのペアが迎え撃つ。

 

特に危険な事故も起きず、ケイ達は迷宮区を突き進んでいた。

 

 

「ねぇ、これって…」

 

 

「あぁ…。間違いない」

 

 

暗い森のようなエリアが続いた迷宮区だったが、それが変わったのは少し前の事だった。

 

周りに茂っていた森が突然、まるで何かの境界線のごとく、エリアが変わった途端に消えうせた。その代わり、彼らの視界に映るのは円柱の立ち並んだ荘厳な回廊。

 

索敵スキルを使い、周囲を警戒しながら慎重に進んだケイ達の目に映ったのは、灰青色の巨大な二枚扉だった。

 

 

「ボス部屋の扉だ」

 

 

文様こそ毎回微妙に変わってはいるが、この重厚そうな扉は紛れもなく、ボス部屋を隔たる扉だろう。

 

 

「ど、どうする?少しだけ…、覗いてみる?」

 

 

ボス部屋を前にしてどうするべきか考える中、口を開いて呟いたのはサチだった。

どこかか細く聞こえるその声には、不安が色濃く滲んでいた。この場にいる四人とも、トップレベルの剣士であり、サチもその一人ではあるのだが…やはりこの場面は怖いと見える。

 

 

「ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出ない。ドアを開けるだけなら、多分大丈夫…じゃない…かな…?」

 

 

「き、キリト!どうしてそこで不安そうに言うの!?」

 

 

サチの呟きの後に口を開いたのはキリトだった。初め、キリトは自信を滲ませた声で言葉を進めていたのだが、段々と力が入った声が萎んでいく。最後には、顔を俯かせてしまったキリトに、サチが思わずといった感じでツッコミを入れていた。

 

 

「ともかく、扉を開けるなら転移アイテムを用意しておいた方がいいな」

 

 

何か、キリトとサチのやり取りを見ていたら先程まで感じていた緊張が和らいでしまった。それはアスナも同じようで、ケイと同じく苦笑を浮かべて、ケイの言葉通りに転移結晶をオブジェクト化させた。

 

キリトとサチも、アスナと同じように転移結晶を取り出し、その手に握る。

 

が、一人だけ。ケイだけは転移結晶を取り出さずにボス部屋の扉の前へと歩み寄った。

 

本格的なボス討伐戦の前には、必ず先遣隊がボスの偵察へと向かう。これまで、その偵察で犠牲者が出るという事態はなかったが、ここ最近になって危うく先遣隊のメンバーから犠牲者が出かかるという話が多く聞くようになってきた。

 

 

「…」

 

 

キリトもまた、ケイとは反対の左の扉に拳を当てる。

それを確認しながら、ケイは腰の鞘に差さる刀の柄に手をかける。

 

ボスを倒すつもりはない、が、少しでも攻撃パターンを引き出し、その情報を伝えることができれば先遣隊も楽に偵察を行うことができるだろう。

 

そう考えての、ケイのこの行動だ。

 

 

「いいな…開けるぞ」

 

 

キリトがケイ、後ろで待機するアスナとサチを見回して言った。ケイ達三人は同時に頷き、そしてケイとキリトが手に力を込めてゆっくりと扉を開ける。

 

一度力を込め、扉が動いた途端、後は勝手に扉は開いていった。次第に開くと思っていた扉は、やけにあっさりと完全に開き切ってしまい、思わずこちらも目を見開いてしまう。

 

扉の向こう、内部は完全な暗闇だった。どれだけ目を凝らしても、その先を見ることができない。しかし、内部を見ようと目を凝らし始めたそのすぐ後、突如床の両側から青い炎が灯った。そのすぐ後に少し奥でまた炎が、またすぐ後にまた、といった感じで炎は次々に灯っていき、入り口から中央までの炎の道が完成した。

 

最後に一際大きな火柱が上がると、一番奥の長方形の部屋全体が露わになった。

 

ケイ達は途端、僅かに身を震わせる。彼らの視界の奥、部屋の最奥部に、巨大な人型の影が見えたからだ。薄暗い視界に目が慣れてくると、その影の姿がはっきりと見えるようになってきた。

 

四メートルはあるだろうか、その巨大な体躯は盛り上がった筋肉に包まれている。肌は、周りの炎と同じような深い青。背後からはひらりと揺れる、長い尾。さらに視界を見上げれば、巨大な体躯に見合う大きな顔面。だが、その顔は人の物ではなく、山羊のそれ。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

青白く光る両眼がケイ達を捉えると、巨大な山羊のボスは凄まじい雄叫びを上げる。

ビリビリと震える空気に耐えながら、ボスの頭上に浮かぶHPバーとその名称を目にする。

 

 

(<The Gleameyes>…、輝く瞳)

 

 

日本語に訳せば随分とロマンチックな名前になるが、気の毒に。その正体は巨大な山羊です。

 

 

「っ!?」

 

 

そんな呑気な事を考える暇もなく、グリームアイズは右手に握った大剣を肩に担いで猛烈な勢いでこちらに駆けだしてきた。

 

それを見て、ケイは身構える。

幸い、ボス部屋の扉は開いたままだ。転移結晶なくとも、この場から離脱する事は出来る。

恐らく、このボスは右手に持ってる大剣を駆使した攻撃をしてくるはずだ。後、予想される攻撃は…。

 

 

「うわああああああああああああああああああ!!!」

 

 

「「きゃああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

「へ?」

 

 

考えながら、グリームアイズを見据えて刀を抜こうとした時だった。

ケイのすぐ傍から三つの叫び声が響き渡る。

 

さらにその直後、ケイは誰かに腕を掴まれ、そのまま元来た道へと連れ戻されていく。

 

 

「え、ちょっ。あ、アスナ?」

 

 

ケイの腕を引っ張っているのはアスナだった。さらに、アスナに並んでキリトとサチもまた、敏捷度をフルに使ってるのではと思えるスピードで駆け抜けていた。

 

 

「て、おい!離せ!自分で走るから!なぁ、アスナぁ!」

 

 

というか、おかしい。何がおかしいって、今、ケイの体はまるで漫画のように、地面と平行に体が横になっているのだ。空中で。

 

アスナが誇るスピードがあれば、可能かもしれないが…、だがそれを実現するには、敏捷度と同時に相当な筋力値が要求されるはずだ。アスナは敏捷型の剣士だ。筋力値は、キリトは勿論、ケイからも遠く及ばないはず。

 

それなのに────

 

 

(茅場さん…、このゲーム、大丈夫なんですか…?)

 

 

SAOにログインして初めて、とんでもない欠陥を見つけたケイは、思わず不安を感じ、そして内心で小さく呟くのだった。

 

その間にもアスナ達は、足を止める事はなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺は…、俺は…!お前が欲しい!感想ぉおおおおおおおおおおお!!!
二人のこの手g(ry

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