SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第37話 失踪とその結末

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケイがリズベットに武器を預けて三日が経った。そう、今日がリズベットとの約束した、武器を返してもらう日である。

武器を預けてからの三日間、ケイは<天叢雲剣>を手に入れるまで使っていた<村正>を装備してマッピング、レベル上げを行っていた。

 

別に<村正>で迷宮区を進んでも良かったのだが、やはり万全の態勢で攻略には臨みたい。

そういう事で、ケイは武器が戻ってくるまではおとなしくしていた。勿論、一人でクエストに行ったりなどしていない。

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 

現在の時刻、十時。ホームの中で、アインクラッド内の新聞<Weekly Argo>を読みながら寛いでいたケイが、新聞紙をテーブルに置いて立ち上がった。

今から外に出てリズベット武具店へ<天叢雲剣>を受け取りに行くのだ。

 

外へ出て、<アルゲート>の転移門を使って<リンダース>へと転移。アスナに案内されながら進んだ道を思い出しながら歩いていくと、先日に見た水車付きのプレイヤーホームが見えてくる。

間違いなく、アスナと一緒に行ったリズベット武具店だ。ケイはちゃんとここへ来れたことに安堵の息を吐きながら入口へと向かう。

 

 

「ん?」

 

 

ドアノブを掴もうと手を伸ばした時、ケイは扉にかかっていた看板を見る。その看板には、【CLOSED】と書かれていた。

 

 

「あれ…。おかしいな」

 

 

ケイはウィンドウを開いて現在の時刻を確認する。時刻、十時半。まだお昼時でもない、明らかに店を閉めるには早すぎる時間だ。

 

 

「どっか出かけてんのかね」

 

 

頭を掻きながら呟く。何かリズベットに急な用事が入ったりしたのだろうか。

もしそうだとしたら…、メンテナンスはまだ時間がかかるかもしれない。

 

 

(仕方ない。今日は…いや、夕方にもう一回来るか)

 

 

今日は武器を受け取るのを諦めて…と考えてから、やっぱりもう一度ここに来ようと考えを改める。

さすがに鍛冶屋を営んでいるプレイヤーだ。そう簡単に約束を違えるとは思いたくないし、リズベットがそんな人だとは思わない。とりあえず今日はレベル、熟練度上げをする事にして、帰ってきたらまたここに来てリズベットが帰って来たかどうか確かめる事にする。

 

 

「ケイ君…?」

 

 

ケイが振り返ってリズベット武具店を後にしようとしたその時、正面から名前を呼ばれる。

 

 

「アスナ?何だ、お前もリズベットに用事あるのか」

 

 

「え…。あ、うん…」

 

 

「…?」

 

 

アスナの様子がおかしい。最近になって雰囲気が柔らかくなり、明るくなったアスナなのだが…今日は何か落ち込んでいるというか、気分が沈んでいるように見える。

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

「…ケイ君。お店にリズ、いた?」

 

 

「ん?いんや、いなかったけど」

 

 

何かあったのか、ケイが問いかけると、アスナはリズベットが店にいたのか問い返してきた。ケイはその問いに首を横に振って答えると、アスナの表情が不安気に歪む。

 

 

「どうしたんだよ」

 

 

「…リズ、昨日から連絡が取れないの。連絡不能になってて…」

 

 

「なっ…」

 

 

連絡不能

その言葉はまさにそのままの意味で、対象にメッセージが送れないことを意味するもの。

メッセージはフレンドリストに登録されているプレイヤーにしか送れないのだが、連絡不能の場合はそのプレイヤーの名前がグレーで描かれている。

 

連絡不能に陥る原因は二つしかない。まず一つは、その対象がダンジョン内にいる場合。勿論、迷宮区も例外ではない。そしてもう一つは…、相手のプレイヤーが、死んでいる場合。

 

 

「アスナ…、まさか」

 

 

「ううん。さっき、黒鉄宮で確認してきた。リズは生きてる」

 

 

「…そうか」

 

 

アスナの言葉にほっ、と息を吐くケイ。知り合ったばかりとはいえ、仲良くなれそうな人が死ぬのはさすがに心が痛む。

それに何より、アスナがどう思うか。あのやり取りを見る限り、相当親しい友人同士だというのがよくわかった。

 

だからこそ、そうではないと知った時、ケイは大きく安堵の息を漏らした。

 

 

「とはいえ、リズベットがどこにいるかわからないじゃな…。探すにしても…。せめて、どの層にいるのかだけでもわかりゃ…」

 

 

現在の最前線は六十三層だ。つまり、リズベットがどの層にいるかもわからない以上、第一層のダンジョンにだっている可能性はある。それを考えると、これからリズベットを探すとなると気が遠くなってしまいそうだ。

 

 

「…あれ、メッセージだ」

 

 

「あ、私も…」

 

 

まず、メッセージの着信音が流れたのはケイ。その直後、ほとんど同時といっていいタイミングで同じ音が流れたアスナ。二人はウィンドウを開き、着信欄を開いて届いたメッセージを開く。

 

ケイが見たメッセージは、サチからのものだった。そして、そこに書かれていた内容は────

 

 

「「キリト(君)が行方不明(だぁ)!?…え?」」

 

 

同時に口を開き、全く同じ内容の言葉を叫んだケイとアスナは、丸くなった目を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

第二十二層主街区<コラル>。そこにある<月夜の黒猫団>のギルドホームへとケイとアスナはやって来ていた。

リズベットに続いてキリトの失踪。ここに来る前に黒鉄宮でリズベットの名前とキリトの名前も確認し、生きていることを確認した。

 

リズベットの事も気になるが、キリトの事も見過ごすことはできない。それに、キリトを想うサチの様子も気になるため、<月夜の黒猫団>のギルドホームへ赴くことにしたのだ。

 

 

「あ…!アスナ!ケイ!」

 

 

彼らのギルドホームがあるのは、主街区の中でも中心部の方。道歩く人の視線を受けながら扉をノックすると、中から扉が開く。二人を出迎えたのは、メッセージを送ったサチだった。サチはケイとアスナの姿を見ると、表情を僅かに綻ばせて中へと入れてくれる。

 

 

「ケイタ達は?」

 

 

「あ、皆はキリトを探しに行ってる。…じっとしてられないって言って」

 

 

「…そうか」

 

 

ホームの居間へと案内されたケイとアスナだったが、サチ以外のメンバーの姿が見られない。ケイがその事について問いかけると、サチはキリトの探索へ出かけたと答えた。

 

 

「…それで、サチ。キリト君が行方不明って…、いつから?」

 

 

「その…。昨日からキリトと連絡が取れなくなって…。それに、フレンドリストを見たら連絡不能になってて…」

 

 

「…」

 

 

何か、どこかで聞いた話だ。それも今日、つい先程に。

 

 

「キリトは一人で出かけたのか?」

 

 

「うん…。あの、腕のいい鍛冶師を紹介してくれって頼まれて…。それで紹介したら、早速昨日に出かけていって…」

 

 

「…」

 

 

これまたどこかで聞いた事がある話だ。それもつい先日に。

 

 

「…ね、ねぇサチ。もしかして、紹介した鍛冶師って…」

 

 

「え、うん。リズだよ?」

 

 

「「…」」

 

 

サチの答えを聞いた瞬間、ケイとアスナの中で答えが出た。

 

 

「あのね、サチ…。そのリズもね、連絡不能の状態になってるの」

 

 

「え」

 

 

ケイとアスナが目を見合わせ、頷き合った後にアスナが一歩前に出てサチに言った。

そのアスナの言葉を聞いた直後の、サチの口から漏れた呆けた声がやけに部屋の中で響き渡った。

 

 

 

 

結論から言えば、キリトとリズベットは無事だった。

あれからケイ達はキリトの探索に出ていたケイタ達を呼び戻し、三人の中で出した推理を説明して、キリトとリズベットと連絡が取れるようになるまで待つことにした。

 

フレンドリストに書かれた二人の名前の文字の色が戻ったのは、その日の夕方の事だった。

ケイとアスナ、サチがすぐに四十八層へ転移し、リズベット武具店へと到着した時には空は夕焼けの色に、真っ赤に染まっていた。

 

リズベット武具店の前に着くと、朝頃に来た時にはCLOSEDと書かれた看板が今はOPENEDと書かれた看板へと変わっており、中に店主がいる事を示していた。

三人が中に入ると、そこにはリズベットに打ってもらったであろう純白の剣を試し振りしているキリトとその姿を見つめるリズベットの姿が。

 

すぐさまサチはキリトへと詰め寄り心配をかけた事への説教を始め、ケイとアスナはその光景を苦笑を浮かべて一瞥してからリズベットに話を聞くことにした。

 

リズベットが言うには、キリトと一緒に金属素材を探しにダンジョンへと潜っていたらしい。だが、そこでトラブルに遭い、ダンジョンの中で寝泊まりする事になってしまったのだという。

 

 

「ごめん!アスナも…、ケイも、心配してくれたんだよね…?」

 

 

「もう!…でも、リズが無事で良かった」

 

 

「右に同じく」

 

 

リズベットとキリトが失踪してからの二日間について説明を終えると、リズベットはケイとアスナに向かって勢いよく頭を下げて謝罪してきた。

 

そんなリズベットに対し、アスナは当初頬を膨らませていたが、すぐに笑みを浮かべてリズベットが無事に帰ってきたことによる安堵の言葉を口にする。

ケイは、そのアスナ言葉に同意してリズベットの帰還を喜ぶ意を示す。

 

 

「ねぇリズ。私にも何か言う事ないかな…?」

 

 

「さ、サチにも勿論申し訳なく思ってます…。本当にごめんなさいでした!」

 

 

どこか日本語がおかしい気もするが…、キリトへの説教は短めで終わったのか、サチが仁王立ちの体勢でリズベットを睨んでいた。リズベットはすぐさま体をサチへと向け、先程ケイとアスナにしたように見事なお辞儀を披露しながらサチへ謝罪する。

 

 

「…でも、リズが無事で良かった。キリトも…、凄く、心配したんだからね…?」

 

 

「あぁ…、ごめん、サチ」

 

 

「っ…?」

 

 

「?」

 

 

リズベットの謝罪を受けたサチが、怒りの矛先を収める。そしてリズベットが帰ってきたことへの安堵の言葉を口にするサチだったが、やはり思い人が無事に帰ってきたことの安堵には敵わないのか、両手を背の後ろで組んでキリトと向き合って言葉をかける。

キリトも、リズベットと同じようにサチへ心配をかけた事への謝罪をする。

 

その光景は、キリトとサチのどこか煮え切らない関係を知っているケイとアスナにとっては心温まる光景だったが…、リズベットにとってはそうではなかったらしい。

ケイは、キリトとサチが向かい合い、笑みを向け合ってる姿を見たリズベットの表情が歪むところを目にする。

 

 

(まさか…な。いやでもキリトなら…)

 

 

「ねぇリズ。キリト、失礼なことしなかった?この人、いつも何かしでかすから」

 

 

「そ、そりゃどういう意味だよ…」

 

 

「っ!」

 

 

(あ)

 

 

本人には全く自覚はないだろ。リズベットの内心に気付いてすらいないのだから。だが、サチがリズベットに追い打ちをかけてしまったのは事実。

 

この二日間で何があったのかは知らないが、間違いない。

 

 

(ホント、何したんだよキリト…。シリカの時といい、お前はいつからフラグメイカーになった!)

 

 

明らかに混乱しているリズベットが、顔を俯かせる、

 

 

「…何かって、こいつ、店一番の剣をへし折ってくれたわよ!」

 

 

「えっ…、ちょっと!キリト!?」

 

 

「ち、違う!いや、違くないけど…それについてはもう…!」

 

 

リズベットの口から飛び出たカミングアウトにサチが冷や汗を流す。キリトはサチに問い詰められてあたふたしている。

そして、その光景を見て表情を曇らせるリズベット。

 

 

「…あ、いっけない!あたし、仕入れの約束がったんだ!ちょっと下まで行ってくるね!」

 

 

「え?お店は…」

 

 

「外出中の看板出してくるから大丈夫!すぐ戻ってくるから、待ってて!」

 

 

一瞬目を伏せてから、リズベットが口を開いた。リズベットはウィンドウを開いて何か操作してから、店の裏口から出ていってしまう。

 

 

「どうしたんだろ、リズ…」

 

 

「…」

 

 

何となくリズベットの行動に不自然さを感じているらしいサチ。そして、サチの隣ではキリトがリズベットが出ていった裏口の扉をじっ、と見つめていた。

 

 

「キリト、追いかけたらどうだ?」

 

 

「え…」

 

 

ずっと視線を裏口の扉にぶつけていたキリトにケイが声を掛ける。キリトは目を丸くしながらケイの方へと振り返り、少しの間ケイと視線をぶつけ合う。

 

 

「…あぁ。ちょっと行ってくる」

 

 

「え?キリト?」

 

 

何となく、だが。自分たちがここに来る前にキリトとリズベットの間で何かがあったというのはわかった。それが何なのかまではわからないが…、けど、キリトがリズベットに何かを伝えたがっているのは目に見えてわかった。

 

だからケイは送り出す。今、頭の上に疑問符を浮かべているサチには悪いが…、ここはキリトとリズベットのために背中を押させてもらう。

 

 

「はぁ…。キリト君は…」

 

 

「あれ、アスナも気付いてたのか?」

 

 

「当たり前でしょ?…サチといいリズといい、罪作りよね」

 

 

「アスナ。…その二人にもう一人、追加がいる」

 

 

「え」

 

 

「ね、ねぇ。ケイ、アスナ。何の話してるの?あの…」

 

 

どうやらアスナも、キリトとリズベットの間で何かがあったことを悟っていたらしい。

ケイは溜め息を吐くアスナと会話を繰り広げる。そして一人置いてかれるサチ。

 

サチが仲間外れみたいになっているが、これは他人の口から言う訳にはいかない。サチには可哀想だが、こればかりは口にできない。

 

 

「むぅ…」

 

 

「ごめんね、サチ。けど…、リズのためにも私たちが勝手に言う訳にはいかないの」

 

 

「…わかった」

 

 

まだ納得がいっていない顔をしていたが、サチは追及の矛を収める。

さらにその五分後には、キリトとリズベットが店へと戻ってきた。

 

キリトの顔には笑みが浮かんでおり、リズベットの表情はどこか吹っ切れたものだった。

 

 

「…ねぇリズ、キリトに…その…、くっつきすぎじゃないかな?」

 

 

「え?そう?そうでもないわよね、キリト?」

 

 

「え…、あ…、えっと…?」

 

 

「「…」」

 

 

本当にリズベットは色々と吹っ切れたらしい。

そのせいで、新たな修羅場が生まれたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話の本筋にケイが関わらない以上、話が短くなってしまう…。
と、とりあえずリズ編の話はこれでお終いです。

アインクラッドの話もこれで折り返し地点といった所でしょうか。
次回からもよろしくお願いします。

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